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尾形
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パワハラ/尾形
「やる気あんのか。」
上司に叱られてしまった夢主。
彼女は普通の会社員だが、上司の尾形百之助とはとことん相性が悪いようで、こうやってネチネチと仕事に関して嫌味を言われている。
「す、すみません……今後は気を付けます。」
今日もいつものように怒られている夢主。
内容は大したことがないが夢主は萎縮した様子で謝罪した。
しかし尾形の嫌味は止まらない。
「そう言って直ってねえことたくさんあるだろうが。そもそも俺の仕事を止めてるってわかってんのか?あ?」
そう凄まれては夢主は何も言い返せない。
今にも泣きだしそうな表情をしたまま夢主は尾形を見ることすらできなくなっていた。
その顔を見た尾形は「泣いてる暇があったらさっさと仕事に戻れ」とシッシッと夢主を手で追い返してしまった。
こんなやりとりをした尾形だったが、意外なことに尾形の中で夢主は高評価だった。
なぜなら今までの後輩たちは大概尾形の物言いに反発して辞めて行ってしまったり、逆に尾形より上の人間に言いつけてきたりとトラブルにしかならなかった。
しかし夢主は何度も泣かされているというのに、めげずに色んな仕事にチャレンジしては尾形に報告をしてきていた。
なかなかガッツのある女だと内心では認めていたのだった。
そもそも尾形自身、仕事はできるが他人の気持ちを思いやることが苦手だ。
むしろ自分がストイックに仕事をしている分、他人にもそれを無意識に要求してしまっていた。
ある日、一定の期間以上いる社員を対象に講習会への参加が命じられ尾形は参加することになった。
先輩社員としてのリーダーシップの発揮の仕方やチームのまとめ方、中にはパワハラやセクハラについての講習まであった。
初めは興味もなくパラパラと資料をめくっていたが、とあるページで尾形は雷に打たれたような衝撃を受けた。
「パワハラ」の項には自分が夢主に何度も投げかけてきた言葉が例文として多数載っていたのだ。
自分が夢主にパワハラをしていた……?
そう気が付いた途端にダラダラと変な汗が浮かんできた。
夢主以外の人間はさっさと自分から距離を置いていったので、何とも思わなかった。
上に言いつけられてトラブルになったときだって、お偉いさんには「今の子は打たれ弱いからね」などとこちらが同情されるほどだったのに。
でもまぎれもなく自分が夢主にやってきたことはパワハラだった。
パワハラの内容についてだけ講習をしっかりと聞いた尾形は、とにかく今後は夢主に優しくすると心に決めた。
尾形はその講習を受けた翌日から、さっそくパワハラを辞めて優しくしようと行動した。
「おはようございます。」
夢主がいつものように出社する。
尾形はいつもならまともに返事をしない。
「上司よりも遅い出勤とは良いご身分だな」と朝イチで嫌味を言ったことを思い出して、胃が痛んだ。
「……お、おはよう。」
にたぁと慣れない笑顔で返事を返すと、夢主は明らかに動揺した様子で目を見開いた。
「おは、ようございます……。」
なんと返して良いのかわからなかったのだろう夢主は、ぎこちなくもう一度同じ言葉を繰り返して逃げるようにそそくさと自分のデスクへ行った。
そんな夢主の反応の良し悪しが尾形には分からなかった。
それどころかまずは好調な出だしだと自己評価していた。
「すみません、尾形さん。この案件のことなんですけど……。」
仕事中、尾形は夢主に話しかけられた。
いつもなら面倒臭そうに対応するところだが、尾形は内心で「きたっ」と意気込んでいた。
「どうしたのかな……?」
ひきつった笑顔で振り向くと、夢主は「ヒッ」と短い悲鳴を上げた。
しかしすぐに誤魔化すように咳ばらいをすると、気を取り直して尾形に資料を見せて質問する。
「ああ、それは……」
尾形は仕事の内容となると頭が切り替わったのか真面目に対応した。
過去の資料を教えたり自分のメモ書きなどを加えて夢主にアドバイスをすると、夢主は少しほっとした様子で頷いてメモを取っていた。
一通り教え終わったところで、はたと気が付いた尾形は改めてぎこちない笑顔を作った。
「ひぇ、あ、ありがとうございましたぁ。」
夢主はビクッと驚いた様子を見せるとそのままデスクへと慌てて戻って行ってしまった。
今日一日、夢主と顔を合わせるたびにぎこちない笑顔を浮かべ、言い慣れない言葉で口をヒクヒクとさせながら接した尾形。
口調こそ優しかったが、その不自然さがなんとも言えない不気味さを放っていたことに尾形本人は気がついていなかった。
終業時間になって一人、また一人と社内から人が消えていく。
夢主は今日中にやるべきことは終わっていたが、尾形が残業しているので何か手伝うつもりで声をかけた。
「尾形さん、何かやることありますか?」
いつもの尾形なら「俺に取り入ろうたって無駄だぜ?」なんて軽口を叩いていたが、今日は心を入れ替えた初日。
一日頑張ってきたのだから無駄にしないようにと心がけていた。
「助かる。あ、ありがとう、夢主、さん……。」
所々嚙みながら言い慣れない言葉を言って、更に名前にさん付けまでされて夢主は目を丸くする。
ついに我慢の限界といった様子で夢主は眉間に皺を寄せて、怪訝そうに問いかけてきた。
「あ、あの、今日……どうしたんですか?」
「どうしたって?」
尾形は努めて冷静に聞き返す。
いつもなら「要領を得ない質問はやめろ」などと辛辣に言い返すところだった。
夢主は言いづらそうに答える。
「……今日の尾形さん、変です。私にさん付けなんてしたことないですし。怖い顔で笑ってくるの、なんなんですか。」
「いやあ、俺もそろそろ態度を改めないとと思ってな。」
胡散臭い笑顔を浮かべて見せたが、夢主はむす、とどこか不満そうに返す。
「私は、いつもの尾形さんが良いです。酷いこと言うけど、ちゃんと面倒見てくれて、ダメなことは叱ってくれる。そういう尾形さんが上司だから私は仕事頑張れてるのに。」
その言葉を聞いた途端に尾形は限界を迎えた。
今までのぎこちない笑顔が消え去り、目を丸くして心底驚いた。
「お前……俺のことそんな風に思っていたのか。」
夢主は言いたいことを言ってすっきりしたのか、素直にコクンと頷いた。
尾形は小さくため息をつくと、前髪を撫で上げた。
「分かった。明日から厳しくしてやるから、今日はさっさと帰れ。」
夢主はほっとした様子で笑うと、はい!と元気よく返事して帰り支度を始めた。
退勤するときに夢主は挨拶ついでに尾形に小さい声で付け加えた。
「私以外にやったらパワハラなので、私だけにしてくださいね。」
尾形は呆気にとられてしまった。
得意の嫌みの一つも言い返せず、ただただ退勤していく夢主の後ろ姿を呆然と見送った。
おわり。
【あとがき:結局相手との関係性と好感度によるんだよなぁ……。】
「やる気あんのか。」
上司に叱られてしまった夢主。
彼女は普通の会社員だが、上司の尾形百之助とはとことん相性が悪いようで、こうやってネチネチと仕事に関して嫌味を言われている。
「す、すみません……今後は気を付けます。」
今日もいつものように怒られている夢主。
内容は大したことがないが夢主は萎縮した様子で謝罪した。
しかし尾形の嫌味は止まらない。
「そう言って直ってねえことたくさんあるだろうが。そもそも俺の仕事を止めてるってわかってんのか?あ?」
そう凄まれては夢主は何も言い返せない。
今にも泣きだしそうな表情をしたまま夢主は尾形を見ることすらできなくなっていた。
その顔を見た尾形は「泣いてる暇があったらさっさと仕事に戻れ」とシッシッと夢主を手で追い返してしまった。
こんなやりとりをした尾形だったが、意外なことに尾形の中で夢主は高評価だった。
なぜなら今までの後輩たちは大概尾形の物言いに反発して辞めて行ってしまったり、逆に尾形より上の人間に言いつけてきたりとトラブルにしかならなかった。
しかし夢主は何度も泣かされているというのに、めげずに色んな仕事にチャレンジしては尾形に報告をしてきていた。
なかなかガッツのある女だと内心では認めていたのだった。
そもそも尾形自身、仕事はできるが他人の気持ちを思いやることが苦手だ。
むしろ自分がストイックに仕事をしている分、他人にもそれを無意識に要求してしまっていた。
ある日、一定の期間以上いる社員を対象に講習会への参加が命じられ尾形は参加することになった。
先輩社員としてのリーダーシップの発揮の仕方やチームのまとめ方、中にはパワハラやセクハラについての講習まであった。
初めは興味もなくパラパラと資料をめくっていたが、とあるページで尾形は雷に打たれたような衝撃を受けた。
「パワハラ」の項には自分が夢主に何度も投げかけてきた言葉が例文として多数載っていたのだ。
自分が夢主にパワハラをしていた……?
そう気が付いた途端にダラダラと変な汗が浮かんできた。
夢主以外の人間はさっさと自分から距離を置いていったので、何とも思わなかった。
上に言いつけられてトラブルになったときだって、お偉いさんには「今の子は打たれ弱いからね」などとこちらが同情されるほどだったのに。
でもまぎれもなく自分が夢主にやってきたことはパワハラだった。
パワハラの内容についてだけ講習をしっかりと聞いた尾形は、とにかく今後は夢主に優しくすると心に決めた。
尾形はその講習を受けた翌日から、さっそくパワハラを辞めて優しくしようと行動した。
「おはようございます。」
夢主がいつものように出社する。
尾形はいつもならまともに返事をしない。
「上司よりも遅い出勤とは良いご身分だな」と朝イチで嫌味を言ったことを思い出して、胃が痛んだ。
「……お、おはよう。」
にたぁと慣れない笑顔で返事を返すと、夢主は明らかに動揺した様子で目を見開いた。
「おは、ようございます……。」
なんと返して良いのかわからなかったのだろう夢主は、ぎこちなくもう一度同じ言葉を繰り返して逃げるようにそそくさと自分のデスクへ行った。
そんな夢主の反応の良し悪しが尾形には分からなかった。
それどころかまずは好調な出だしだと自己評価していた。
「すみません、尾形さん。この案件のことなんですけど……。」
仕事中、尾形は夢主に話しかけられた。
いつもなら面倒臭そうに対応するところだが、尾形は内心で「きたっ」と意気込んでいた。
「どうしたのかな……?」
ひきつった笑顔で振り向くと、夢主は「ヒッ」と短い悲鳴を上げた。
しかしすぐに誤魔化すように咳ばらいをすると、気を取り直して尾形に資料を見せて質問する。
「ああ、それは……」
尾形は仕事の内容となると頭が切り替わったのか真面目に対応した。
過去の資料を教えたり自分のメモ書きなどを加えて夢主にアドバイスをすると、夢主は少しほっとした様子で頷いてメモを取っていた。
一通り教え終わったところで、はたと気が付いた尾形は改めてぎこちない笑顔を作った。
「ひぇ、あ、ありがとうございましたぁ。」
夢主はビクッと驚いた様子を見せるとそのままデスクへと慌てて戻って行ってしまった。
今日一日、夢主と顔を合わせるたびにぎこちない笑顔を浮かべ、言い慣れない言葉で口をヒクヒクとさせながら接した尾形。
口調こそ優しかったが、その不自然さがなんとも言えない不気味さを放っていたことに尾形本人は気がついていなかった。
終業時間になって一人、また一人と社内から人が消えていく。
夢主は今日中にやるべきことは終わっていたが、尾形が残業しているので何か手伝うつもりで声をかけた。
「尾形さん、何かやることありますか?」
いつもの尾形なら「俺に取り入ろうたって無駄だぜ?」なんて軽口を叩いていたが、今日は心を入れ替えた初日。
一日頑張ってきたのだから無駄にしないようにと心がけていた。
「助かる。あ、ありがとう、夢主、さん……。」
所々嚙みながら言い慣れない言葉を言って、更に名前にさん付けまでされて夢主は目を丸くする。
ついに我慢の限界といった様子で夢主は眉間に皺を寄せて、怪訝そうに問いかけてきた。
「あ、あの、今日……どうしたんですか?」
「どうしたって?」
尾形は努めて冷静に聞き返す。
いつもなら「要領を得ない質問はやめろ」などと辛辣に言い返すところだった。
夢主は言いづらそうに答える。
「……今日の尾形さん、変です。私にさん付けなんてしたことないですし。怖い顔で笑ってくるの、なんなんですか。」
「いやあ、俺もそろそろ態度を改めないとと思ってな。」
胡散臭い笑顔を浮かべて見せたが、夢主はむす、とどこか不満そうに返す。
「私は、いつもの尾形さんが良いです。酷いこと言うけど、ちゃんと面倒見てくれて、ダメなことは叱ってくれる。そういう尾形さんが上司だから私は仕事頑張れてるのに。」
その言葉を聞いた途端に尾形は限界を迎えた。
今までのぎこちない笑顔が消え去り、目を丸くして心底驚いた。
「お前……俺のことそんな風に思っていたのか。」
夢主は言いたいことを言ってすっきりしたのか、素直にコクンと頷いた。
尾形は小さくため息をつくと、前髪を撫で上げた。
「分かった。明日から厳しくしてやるから、今日はさっさと帰れ。」
夢主はほっとした様子で笑うと、はい!と元気よく返事して帰り支度を始めた。
退勤するときに夢主は挨拶ついでに尾形に小さい声で付け加えた。
「私以外にやったらパワハラなので、私だけにしてくださいね。」
尾形は呆気にとられてしまった。
得意の嫌みの一つも言い返せず、ただただ退勤していく夢主の後ろ姿を呆然と見送った。
おわり。
【あとがき:結局相手との関係性と好感度によるんだよなぁ……。】