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尾形
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鈍感/尾形
とある会社に、夢主という女性社員がいた。
彼女は入社して2年目のまだ若い社員であったが、仕事への意欲も高く持ち前の明るさと社交性で周囲から可愛がられていた。
彼女の配属されている部署は約10人ほどいるが皆夢主より年上で、更に今年は新入社員がこの部署に配属されることはなく、夢主が一番後輩という立場であった。
1年目こそ教育係の尾形百之助という男性社員の元で働いていたが、2年目からは任される案件によって担当する上司が変わることになる。
しかし夢主は2年目になってもどこか話しやすさを感じているのか尾形に声をかけることが多かった。
当の尾形はというと、本来おしゃべりな方ではなくむしろとっつきにくさを感じる人の方が多い性格である。
普段から群れるタイプではない尾形は初対面でも愛想を振りまくことはほとんどなく、それどころか仲良くなってからは嫌味を言ってくることさえある。
部署内のメンバーは皆慣れ切っているが、他部署の人間は尾形と関わるのを嫌がる人間もいるくらいのものだった。
今日もそんな尾形に対してグイグイ話しかけている夢主。
「尾形さーん!これわかんないっす!」
尾形のデスクに駆け寄り、くだけた口調で話しかけた夢主。
最初はきちんと敬語を使っていたのだが、1年かけて徐々にくだけた敬語に自然と移行していた。
尾形自身もあまり礼儀作法にうるさい方ではないので、取引先やお偉いさんに失礼がない限りは特に忠告もしない。
「なんでわかんねぇんだよ。」
尾形は夢主が持ってきた資料を受け取り、パラパラと簡単に目を通した後に嫌味を発する。
「教えてもらってないですもーん。」
尾形の嫌味にも全く動じない夢主。
それどころか、子供のように唇を尖らせてみせた。
「ったく、今どきの若いもんは指示待ち人間しかいねえのか。」
尾形が口ではブツブツと言いつつも、資料にふせんを貼ったりPCを操作して関連する資料をひょいひょいと夢主のフォルダに移動させていく。
夢主はそんな尾形の様子を見つめて、嬉しそうにニコニコと微笑んだ。
「尾形さんは優しいですね。頼りになる上司がいて嬉しいなぁ。」
ご機嫌な様子で笑う夢主に、尾形は資料から目を離さずハッと鼻で笑い飛ばした。
「ははあ、なんだそんなに俺のことが好きなのか?俺の女にでもしてやろうか?」
そう言い放ったあと尾形が返事を待つと、妙な間が開いた。
いつもなら夢主のレスポンスは早くテンポ良く返ってくるので不思議に思い、視線を上げるとそこには顔を真っ赤にして固まる夢主がいた。
「は?」
尾形は突然の夢主の急変ぶりに驚いて間抜けな声をあげた。
夢主は顔を耳まで赤くして、明らかに動揺した様子で落ち着きなく視線を彷徨わせた。
「えっぁ、いや、あの、……す、すみません戻りますー!」
頭が爆発するのではないかと心配になるほど赤面した夢主は、尾形の手から強引に資料を奪い取るとそのまま自分のデスクを通過してフロアから飛び出して行ってしまった。
「……。」
尾形が呆然とその姿を見送って硬直していると、静まり返っていた周囲がざわざわとし始めた。
尾形と同期の宇佐美が最初に口を開いた。
「お前、まじ?」
その言葉に続くように隣のデスクの杉元が言う。
「あれは尾形が悪い。」
近くにいた鯉登と月島も険しい表情をして頷いた。
「鈍感にもほどがあるだろう。」
「ありえないな。」
「……!?……!?」
周囲からの非難を受けて混乱した様子の尾形。
どうやら尾形には全く自覚がなかったが、周囲は夢主が尾形を頼りにしつつも好意を持っていることにとっくに気が付いていたようだ。
社内恋愛が禁止されているわけでもないため、温かく見守っているつもりだった周囲も、さすがに尾形の鈍感さに引いた様子だった。
その日はことあるごとに尾形は周囲から「鈍感」「最低男」「仕事馬鹿」「コミュ障」などと馬鹿にされて過ごした。
少ししてデスクに戻ってきた夢主は、気まずさからだろうか明らかにしょんぼりとした様子で仕事をして、ほとんど誰とも話さずに過ごしていた。
終業時間になっても夢主は帰る素振りを見せなかった。
尾形はいつもほとんど残業をせずにさっさと自分のタスクをこなして帰るタイプである。
このままの状態は良くないと尾形でもわかる。
本当は謝りたいが、夢主になんと声をかけたら良いのかわからなかった。
帰り際に夢主に話しかけたかったが、さすがの尾形も周囲の視線が痛くてとても接触することができない。
結局尾形は夢主の方を見ることなく、いつも通りに退勤して行った。
夢主は尾形がいなくなった後、ぐすん、と小さく鼻をすすった。
それを聞いて周囲が慰めに入る。
杉元が真っ先に夢主に声をかけた。
「夢主ちゃん元気出して。」
宇佐美もぽん、と夢主の肩を撫でる。
「百之助なんてやめちゃいなよ。」
鯉登がここぞとばかりに前に出た。
「そうだそうだ。合コンでもするか?金は出すぞ。」
それを聞いた月島が慌てて口を出す。
「やめてください。いつも女性を独り占めして貴方一人勝ちするじゃないですか。」
夢主は落ち込んだ様子のまま口を開いた。
「すみません。お騒がせしてしまって……。明日からは真面目に仕事します。」
ぎゅ、と唇を噛んで悲しそうな表情をする夢主。
これまで隠し続けていた気持ちが露呈してしまった気まずさから落ち込んでいたが、尾形のあのリアクションから脈がないことも同時に分かったと夢主は続ける。
それを聞いた周囲はなんとも言えない微妙な表情で夢主を励ました。
「もう少しお仕事終わらせてから帰りますね。心配してくださりありがとうございます。」
夢主は今日ペースダウンしてしまった分、少しだけ残業をしてから帰ると伝える。
皆慰めの言葉をかけながらそれぞれ退勤していった。
普段よりも長く残業して、すっかり外は暗くなっていた。
夢主が仕事の区切りをつけて外に出たところで、会社の脇の花壇に尾形が座り込んでいるのを見つけた。
尾形は夢主に気が付くとゆっくりと立ち上がる。
尾形はスーツの上にコートを羽織っているものの、夜風は冷えるのか耳や鼻が赤くなりかけていた。
驚いて夢主が声をかけた。
「尾形さん……!?どうしたんですか!?」
夢主はとっくに退勤したはずの尾形がいることに驚いてしまって気まずさを一瞬忘れていた。
しかし尾形は違うようで、気まずそうに「あぁ」と小さく返事しただけだった。
「……その、俺が悪かった。」
しばらく言いづらそうに視線を落としていた尾形が、ぽつりと呟いた。
尾形が謝罪を口にする場面などこれまで見たことがなかった。
驚いた様子の夢主に、尾形は続ける。
「ちゃんと俺から言いたいと思って待ってた。」
「いえ、あの、私こそすみませんでした。」
夢主はガバッと頭を下げて謝罪した。
自分の変なリアクションのせいで、迷惑をかけてしまったと後悔していることを告げる。
尾形はそんな夢主を見下ろしたまま、眉間に皺を寄せている。
「違う……謝りに来ただけじゃねえ。」
そう尾形が呟くと、夢主は思わず「えっ?」と声を上げてしまった。
顔を上げて尾形を見ると、眉間の皺を緩めた尾形が何かを決心したかのように唇をぎゅっと結んだ。
そして真っ直ぐに夢主を見つめて言った。
「俺はお前のことが好きだ。それを言いたくて待ってた。」
尾形の言葉に夢主が目を見開く。
夢主が残業している間、ずっと尾形は考え込んでいた。
てっきり一方的に夢主が自分に懐いているだけだと思っていたが、自分でも気が付かないうちに夢主のことが好きになっていたとやっと結論が出たのだ。
言いたいことを言った尾形は夢主の返事を待たずに、くるりと夢主に背を向けて歩き出した。
「え!ちょっと……!」
夢主は少し遅れて小走りに尾形を追いかける。
そして飛びつくように尾形の腕をガシッと力強く掴んだ。
「付き合ってくれるってことですか!?」
尾形は何も答えない。
夢主が顔を上げると表情こそ見えないが、尾形の耳が先ほどとは違う意味で赤く染まっていることに気が付いた。
それを見た瞬間に夢主はパァァッと表情を明るくする。
「やったー!」
そう言って尾形に後ろから抱き着くと、尾形は顔を赤くしたまま「やめろ」と呟いた。
しかし言葉とは裏腹に尾形が夢主を振り払う様子はなかった。
翌朝、尾形が出社すると周囲がニヤニヤした様子で尾形を見てきた。
また昨日のことで嫌味でも言ってくるのかと思ったが、そうではないらしい。
たとえ馬鹿にされているとしても、尾形としては夢主と付き合えたことで精神的に余裕ができたため、彼らの視線に気づかないフリをして席へついた。
宇佐美が呟いた。
「百之助のくせに。」
いつもなら食って掛かるところだったが、今日の尾形は気分が良いのでスルーした。
杉元が続く。
「夢主ちゃんが可哀想。」
言いたいやつには言わせておけば良い。これもスルー。
鯉登と月島が続いた。
「なんでこんなやつと。」
「いいじゃないですか、想いが通じて。」
さすがにこの言葉はスルーできなかった。
尾形がガバッと顔を上げて、どういう意味かと問い詰めようとしたその瞬間、扉が開いた。
「おはよ~ございま~す♪」
元気良く出社した夢主が入ってきた。
皆口々におはようと返事したが、夢主は皆にぺこぺことお礼を言っている。
会話を聞くに、夢主は尾形と付き合えたことを皆に祝福されているようだった。
尾形が口をあんぐりと開けていると、夢主が尾形の視線に気が付いた。
にこ、と微笑んで夢主はスマホをひらひらと振った。
「皆にチャットで報告したんですぅ。」
「は!?」
尾形が焦ったようなリアクションをすると、周囲はニヤニヤと笑い出した。
夢主は悪びれる様子もなく言い放つ。
「いいじゃないですか。何事も報連相が大事ですよ!」
その言葉を聞いた瞬間、顔を赤くした尾形がブチ切れた。
この赤面は怒りからだろうか、羞恥からだろうか、尾形自身もわかっていなかった。
「この……馬鹿女!守秘義務ってもんがあるだろうがぁ!」
おしまい。
【あとがき:スーツ尾形いいですよね。】
とある会社に、夢主という女性社員がいた。
彼女は入社して2年目のまだ若い社員であったが、仕事への意欲も高く持ち前の明るさと社交性で周囲から可愛がられていた。
彼女の配属されている部署は約10人ほどいるが皆夢主より年上で、更に今年は新入社員がこの部署に配属されることはなく、夢主が一番後輩という立場であった。
1年目こそ教育係の尾形百之助という男性社員の元で働いていたが、2年目からは任される案件によって担当する上司が変わることになる。
しかし夢主は2年目になってもどこか話しやすさを感じているのか尾形に声をかけることが多かった。
当の尾形はというと、本来おしゃべりな方ではなくむしろとっつきにくさを感じる人の方が多い性格である。
普段から群れるタイプではない尾形は初対面でも愛想を振りまくことはほとんどなく、それどころか仲良くなってからは嫌味を言ってくることさえある。
部署内のメンバーは皆慣れ切っているが、他部署の人間は尾形と関わるのを嫌がる人間もいるくらいのものだった。
今日もそんな尾形に対してグイグイ話しかけている夢主。
「尾形さーん!これわかんないっす!」
尾形のデスクに駆け寄り、くだけた口調で話しかけた夢主。
最初はきちんと敬語を使っていたのだが、1年かけて徐々にくだけた敬語に自然と移行していた。
尾形自身もあまり礼儀作法にうるさい方ではないので、取引先やお偉いさんに失礼がない限りは特に忠告もしない。
「なんでわかんねぇんだよ。」
尾形は夢主が持ってきた資料を受け取り、パラパラと簡単に目を通した後に嫌味を発する。
「教えてもらってないですもーん。」
尾形の嫌味にも全く動じない夢主。
それどころか、子供のように唇を尖らせてみせた。
「ったく、今どきの若いもんは指示待ち人間しかいねえのか。」
尾形が口ではブツブツと言いつつも、資料にふせんを貼ったりPCを操作して関連する資料をひょいひょいと夢主のフォルダに移動させていく。
夢主はそんな尾形の様子を見つめて、嬉しそうにニコニコと微笑んだ。
「尾形さんは優しいですね。頼りになる上司がいて嬉しいなぁ。」
ご機嫌な様子で笑う夢主に、尾形は資料から目を離さずハッと鼻で笑い飛ばした。
「ははあ、なんだそんなに俺のことが好きなのか?俺の女にでもしてやろうか?」
そう言い放ったあと尾形が返事を待つと、妙な間が開いた。
いつもなら夢主のレスポンスは早くテンポ良く返ってくるので不思議に思い、視線を上げるとそこには顔を真っ赤にして固まる夢主がいた。
「は?」
尾形は突然の夢主の急変ぶりに驚いて間抜けな声をあげた。
夢主は顔を耳まで赤くして、明らかに動揺した様子で落ち着きなく視線を彷徨わせた。
「えっぁ、いや、あの、……す、すみません戻りますー!」
頭が爆発するのではないかと心配になるほど赤面した夢主は、尾形の手から強引に資料を奪い取るとそのまま自分のデスクを通過してフロアから飛び出して行ってしまった。
「……。」
尾形が呆然とその姿を見送って硬直していると、静まり返っていた周囲がざわざわとし始めた。
尾形と同期の宇佐美が最初に口を開いた。
「お前、まじ?」
その言葉に続くように隣のデスクの杉元が言う。
「あれは尾形が悪い。」
近くにいた鯉登と月島も険しい表情をして頷いた。
「鈍感にもほどがあるだろう。」
「ありえないな。」
「……!?……!?」
周囲からの非難を受けて混乱した様子の尾形。
どうやら尾形には全く自覚がなかったが、周囲は夢主が尾形を頼りにしつつも好意を持っていることにとっくに気が付いていたようだ。
社内恋愛が禁止されているわけでもないため、温かく見守っているつもりだった周囲も、さすがに尾形の鈍感さに引いた様子だった。
その日はことあるごとに尾形は周囲から「鈍感」「最低男」「仕事馬鹿」「コミュ障」などと馬鹿にされて過ごした。
少ししてデスクに戻ってきた夢主は、気まずさからだろうか明らかにしょんぼりとした様子で仕事をして、ほとんど誰とも話さずに過ごしていた。
終業時間になっても夢主は帰る素振りを見せなかった。
尾形はいつもほとんど残業をせずにさっさと自分のタスクをこなして帰るタイプである。
このままの状態は良くないと尾形でもわかる。
本当は謝りたいが、夢主になんと声をかけたら良いのかわからなかった。
帰り際に夢主に話しかけたかったが、さすがの尾形も周囲の視線が痛くてとても接触することができない。
結局尾形は夢主の方を見ることなく、いつも通りに退勤して行った。
夢主は尾形がいなくなった後、ぐすん、と小さく鼻をすすった。
それを聞いて周囲が慰めに入る。
杉元が真っ先に夢主に声をかけた。
「夢主ちゃん元気出して。」
宇佐美もぽん、と夢主の肩を撫でる。
「百之助なんてやめちゃいなよ。」
鯉登がここぞとばかりに前に出た。
「そうだそうだ。合コンでもするか?金は出すぞ。」
それを聞いた月島が慌てて口を出す。
「やめてください。いつも女性を独り占めして貴方一人勝ちするじゃないですか。」
夢主は落ち込んだ様子のまま口を開いた。
「すみません。お騒がせしてしまって……。明日からは真面目に仕事します。」
ぎゅ、と唇を噛んで悲しそうな表情をする夢主。
これまで隠し続けていた気持ちが露呈してしまった気まずさから落ち込んでいたが、尾形のあのリアクションから脈がないことも同時に分かったと夢主は続ける。
それを聞いた周囲はなんとも言えない微妙な表情で夢主を励ました。
「もう少しお仕事終わらせてから帰りますね。心配してくださりありがとうございます。」
夢主は今日ペースダウンしてしまった分、少しだけ残業をしてから帰ると伝える。
皆慰めの言葉をかけながらそれぞれ退勤していった。
普段よりも長く残業して、すっかり外は暗くなっていた。
夢主が仕事の区切りをつけて外に出たところで、会社の脇の花壇に尾形が座り込んでいるのを見つけた。
尾形は夢主に気が付くとゆっくりと立ち上がる。
尾形はスーツの上にコートを羽織っているものの、夜風は冷えるのか耳や鼻が赤くなりかけていた。
驚いて夢主が声をかけた。
「尾形さん……!?どうしたんですか!?」
夢主はとっくに退勤したはずの尾形がいることに驚いてしまって気まずさを一瞬忘れていた。
しかし尾形は違うようで、気まずそうに「あぁ」と小さく返事しただけだった。
「……その、俺が悪かった。」
しばらく言いづらそうに視線を落としていた尾形が、ぽつりと呟いた。
尾形が謝罪を口にする場面などこれまで見たことがなかった。
驚いた様子の夢主に、尾形は続ける。
「ちゃんと俺から言いたいと思って待ってた。」
「いえ、あの、私こそすみませんでした。」
夢主はガバッと頭を下げて謝罪した。
自分の変なリアクションのせいで、迷惑をかけてしまったと後悔していることを告げる。
尾形はそんな夢主を見下ろしたまま、眉間に皺を寄せている。
「違う……謝りに来ただけじゃねえ。」
そう尾形が呟くと、夢主は思わず「えっ?」と声を上げてしまった。
顔を上げて尾形を見ると、眉間の皺を緩めた尾形が何かを決心したかのように唇をぎゅっと結んだ。
そして真っ直ぐに夢主を見つめて言った。
「俺はお前のことが好きだ。それを言いたくて待ってた。」
尾形の言葉に夢主が目を見開く。
夢主が残業している間、ずっと尾形は考え込んでいた。
てっきり一方的に夢主が自分に懐いているだけだと思っていたが、自分でも気が付かないうちに夢主のことが好きになっていたとやっと結論が出たのだ。
言いたいことを言った尾形は夢主の返事を待たずに、くるりと夢主に背を向けて歩き出した。
「え!ちょっと……!」
夢主は少し遅れて小走りに尾形を追いかける。
そして飛びつくように尾形の腕をガシッと力強く掴んだ。
「付き合ってくれるってことですか!?」
尾形は何も答えない。
夢主が顔を上げると表情こそ見えないが、尾形の耳が先ほどとは違う意味で赤く染まっていることに気が付いた。
それを見た瞬間に夢主はパァァッと表情を明るくする。
「やったー!」
そう言って尾形に後ろから抱き着くと、尾形は顔を赤くしたまま「やめろ」と呟いた。
しかし言葉とは裏腹に尾形が夢主を振り払う様子はなかった。
翌朝、尾形が出社すると周囲がニヤニヤした様子で尾形を見てきた。
また昨日のことで嫌味でも言ってくるのかと思ったが、そうではないらしい。
たとえ馬鹿にされているとしても、尾形としては夢主と付き合えたことで精神的に余裕ができたため、彼らの視線に気づかないフリをして席へついた。
宇佐美が呟いた。
「百之助のくせに。」
いつもなら食って掛かるところだったが、今日の尾形は気分が良いのでスルーした。
杉元が続く。
「夢主ちゃんが可哀想。」
言いたいやつには言わせておけば良い。これもスルー。
鯉登と月島が続いた。
「なんでこんなやつと。」
「いいじゃないですか、想いが通じて。」
さすがにこの言葉はスルーできなかった。
尾形がガバッと顔を上げて、どういう意味かと問い詰めようとしたその瞬間、扉が開いた。
「おはよ~ございま~す♪」
元気良く出社した夢主が入ってきた。
皆口々におはようと返事したが、夢主は皆にぺこぺことお礼を言っている。
会話を聞くに、夢主は尾形と付き合えたことを皆に祝福されているようだった。
尾形が口をあんぐりと開けていると、夢主が尾形の視線に気が付いた。
にこ、と微笑んで夢主はスマホをひらひらと振った。
「皆にチャットで報告したんですぅ。」
「は!?」
尾形が焦ったようなリアクションをすると、周囲はニヤニヤと笑い出した。
夢主は悪びれる様子もなく言い放つ。
「いいじゃないですか。何事も報連相が大事ですよ!」
その言葉を聞いた瞬間、顔を赤くした尾形がブチ切れた。
この赤面は怒りからだろうか、羞恥からだろうか、尾形自身もわかっていなかった。
「この……馬鹿女!守秘義務ってもんがあるだろうがぁ!」
おしまい。
【あとがき:スーツ尾形いいですよね。】