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尾形
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恋愛下手/尾形
とあるところに、夢主という今年大学に入学したばかりの女性がいた。
彼女の初恋は中学生の頃であった。
自分より1つ年上の先輩である「尾形百之助」に一目惚れしたところから始まった。
活発で素直で愛嬌のある彼女は、恋愛でもその長所を活かして猛烈にアタックをしかけていた。
しかし、彼女が恋をした男はクールで素っ気なく気まぐれな性格であった。
中学生という難しい時期であることも影響していたようだが、それを差し置いても周囲が引くほど夢主に対する尾形の態度は冷たいものだった。
その温度差のせいで夢主はまるで過激なストーカーのようになってしまっていた。
同じ高校に進学した先でも尾形につきまとっていた夢主。
バレンタインやクリスマスなどのイベントはもちろん日常でも強烈なアピールをしたにも関わらず、尾形は強く拒絶こそしないものの、恋愛はなかなか実ることはないまま尾形が卒業してしまった。
それでも夢主はめげることなく、彼が進学した大学へと追いかけて行ったのだった。
「尾形せんぱぁい!また同じ学校ですね!」
入学式直後、新入生を歓迎すべく多くの部活動がビラ配りをしたり部活見学へと誘導している中、新入生の群れから飛び出してきた夢主はバレーボール部の集団の中でぼんやりとしていた尾形に飛びつかんばかりの勢いで駆け寄ってきた。
そんな夢主を尾形は鬱陶しそうに見る。
「またおまえか。」
「私尾形先輩とまた一緒にいたくて一生懸命受験勉強がんばったんですよ!好きです!結婚してください!」
「……。」
積極的に新入生から話しかけられているというのに、まったく嬉しそうではない様子の尾形。
それを見て近くにいた尾形と同学年の男子たちが割って入る。
彼らはバレーボール部とは別の部活のユニフォームを着ていたが、尾形とは大学からの付き合いのようで、顔に傷があるがパリッとした男前で有名な杉元と女癖の悪さとギャンブル狂いで有名の白石という2人組だった。
「ちょっと~尾形のくせになんでこんな可愛い子と話してんだよ!?」
「ねえ今好きって……結婚って言った!?俺は付き合ったら一途だよ!?だめ!?」
尾形と夢主の間に割って入った2人はそれぞれが尾形と夢主に話しかける。
尾形は面倒臭そうに杉元に舌打ちをしていて無視を決め込んだが、夢主は持ち前の社交性と愛想の良さで律儀に答えていた。
「うん、私尾形先輩じゃないとだめなんです。ごめんない。」
その言葉を聞いてヒュ~と周囲に囃し立てられて、尾形は更に不快そうに眉間に皺を寄せて勧誘を放棄して帰ってしまった。
夢主は尾形のあとを追いかけようとしたが、杉元と白石が夢主を呼び止めた。
「ねえねえ、良かったらちょっと尾形とのこと教えてよ。」
「でも尾形さんを追わないと……。」
「学食おごるからさ!ねっ!」
「ええ、でも……。」
渋る夢主に、杉元がニヤニヤと笑いながら自分のスマホをチラリと見せた。
「俺、去年の尾形の入学式の写真あるよ!」
「ほ、本当ですか!ぜひ!」
杉元と白石が躍起になるのも無理はなかった。
大学で知り合った尾形は男性同士でもとっつきにくいタイプで、プライベートなことはほとんど話さない上に人付き合いは悪かった。
そんな尾形が可愛らしい女性に追いかけられているとなると気になって仕方がないようだった。
学食に移動して、お昼ご飯を3人で食べる。
流れで杉元と白石と連絡先の交換をして、尾形と離れていた1年分の写真を手に入れた夢主。
他の新入生は部活動の体験やら新しい友達と親睦を深めている中、尾形の写真を眺めてややにやけ顔の夢主はこれまでの恋愛を語った。
長編小説のように中学校から続く一途な恋愛エピソードを1時間以上も聞かされたところで、杉元と白石は涙を抑えきれなくなっていた。
「夢主ちゃんん……そんなに一途に……。」
「なんでこんないい子が尾形を……。」
テーブルにつっぷしてよよよ……と涙を流す2人に、夢主はちょっと困ったように笑った。
「でも、最近ちょっと……疲れてきちゃって。こんだけ追っても振り向いてもらえないってことは、私に魅力がないってことですから。そろそろ諦めた方が良いかなって思うんです。大学まではなんとか追えたけど、社会人になったらそうもいかなくなるだろうし。尾形先輩にはそのうち謝罪とお礼を言って、終わりにしたいなって。これ以上嫌われる前に。」
しょんぼりとした顔をした夢主は、杉元たちに向かって「いただいた写真は大事にしますね。」と微笑んで、お礼を言って立ち去って行った。
それからの夢主は、普通の女子大生らしく友人を作り勉学に励み、バイトやサークルも始めた。
これまでとは違いどの集まりにおいても尾形とは関係がなく、稀に大学内で尾形と会ったとしても軽く会釈をする程度の付き合いになった。
夢主は元来、尾形を追いかけるという1点を除くと、非常に親しみやすい女性だった。
そのためいつも周囲にはいろんな友達がいて、杉元や白石をきっかけに年上の先輩や教授たちとも仲良くやっていけていた。
そんな日々に尾形はイライラしていた。
中学校2年からずっと、ことあるごとに夢主が尾形を追いかけてきていた。
尾形が何をしていても、どんな態度をとっても夢主はめげることなくずっとアタックしてきていた。
いつしか「好きです」「結婚して」だの告白どころかプロポーズのようなものを連呼されていても、耳が慣れてしまっていたのか聞き流せるくらいにはそんな状況に麻痺していた。
入学式で真っ直ぐに尾形のもとに来た夢主を見て、これから卒業するまでもまた付きまとわれると尾形は確信していた。
しかし、入学式以降、夢主は全くと言っていいほど尾形にか関わらなくなった。
はじめはそれで良かったと自分を納得させていた。
友人や家族に恵まれた夢主が、自分のような出自(不倫相手の子供であること)の男と居て幸せになれるわけがない。
ただ今回は事情が違う。
夢主が物凄くモテ始めたのだ。
否、夢主は昔から尾形のひいき目ではなくとも人気のある女性だった。
今までは夢主が尾形を追いかけ続けるという異常な行動が周囲にも知れ渡っていたことで、無意識だが牽制されていたのかもしれない。
それが無くなった今、急にフリーな状態の彼女を見て、周りの男たちからチャンスと言わんばかりのアプローチが止まらない様子を目の当たりにしていた尾形は、ひっそりとストレスをため込んでいた。
夢主と何らかの連絡手段があるのだろう、杉元と白石からは「尾形がいい加減振り向くべきだ」と度々説得を受けているが、今更どうやって関われば良いのか分からないでいた。
ある日、夢主はいつものように友達グループと一緒に大学構内を歩いていた。
たまたま前の授業で使った教室に忘れ物をしたことに気付いた夢主が、友達を先に行かせて別れたところで、尾形は夢主を呼び止めた。
「夢主。」
そう確かに呼びかけた。
しかし夢主はピタッと一瞬立ち止まったものの、聞こえなかったかのように歩き出した。
「おい。」
尾形は夢主の腕を掴んだ。
そこで夢主が身を強張らせたのを感じる。
一瞬息を飲んでいたようだったが、一息深呼吸をした夢主は振りむいた。
「……尾形先輩。お久しぶりです。」
以前とは少し違う、悲し気な笑みだった。
「なんで俺を避ける。」
そう尾形が問いかけると、夢主は頭を下げた。
「尾形先輩の迷惑を考えずに今まで付きまとってごめんなさい。」
少し震えた声で言った夢主は、泣き出しそうな笑顔を浮かべていた。
尾形は驚いて何も言えなかった。
しばしの沈黙。
一応尾形と話している最中だというのに、周囲を行きかう人たちが夢主に声をかけてくる。
それらは「また遊ぼう」「この間はありがとう」など簡単な社交辞令じみた挨拶程度のものであったが、夢主がそれらに対して目の前で無理矢理作られた笑顔で答えているのを見て、尾形はたまらなくなった。
「ふざけんな。」
そう言って、尾形は夢主の手を引いて歩き出した。
「え、尾形先輩……っ?」
急な行動に驚きつつ、引っ張られるままに小走りでついていく夢主。
そんな夢主たちを周囲はなんだなんだと不思議そうに見ていた。
連れてこられたのはほとんど使われていない資料室となっている小さい部屋だった。
やっと手を離されて夢主は困惑気味に尾形に問う。
「どうしちゃったんですか、尾形先輩。」
尾形は先に入って部屋の電気をつける。
夢主は警戒しているのか、出入り口の扉の近くから動かない。
「お前は大学でも俺を追うものだと思ってた。」
「え……。」
その言葉に驚きを隠せない夢主。
混乱した様子で夢主は問う。
「でも、嫌だったんですよね?」
「……俺はお前のことを拒絶したつもりはない。」
「ええ?」
尾形からの予想外の言葉に夢主は思わず声をあげる。
相変わらずの仏頂面であったが、尾形はじっと夢主を見つめる。
夢主は理解が追い付かず固まってしまった。
そして、しばし二人で無言の見つめ合いが続いた。
その無言の空気を破ったのは、尾形だった。
はー…とため息をつくと、前髪を撫で上げた。
そして夢主に近づくと、突然肩を掴んでそのまま抱き寄せた。
「わぁっ……ちょ、何っ……!」
動揺した夢主はとっさに藻掻くが、尾形がそのまま夢主の後頭部と背中を包むように優しく抱きしめると、夢主は思わず静かになった。
そのまま夢主の耳元に口を寄せて尾形がゆっくりと囁くように呟く。
「俺は、お前を他の奴にやるつもりはない。今まで通り傍にいろ。」
夢主の目が大きく開かれ、すぐにぽろぽろと涙がこぼれだした。
その言葉は中学からずっと想い続けた夢主の気持ちが報われた瞬間だった。
尾形にしがみついて、しばらく夢主は泣き続けた。
その間尾形は優しく夢主の頭を撫でていた。
それから大学では夢主と尾形の交際で話題は持ち切りとなった。
夢主の人気は相変わらずであったが、晴れて恋人になった尾形のことを大好きだと堂々と公言していることでむやみにアタックする男は激減した。
友人たちも夢主の過去を知って一途さに最初こそ驚いていたが祝福ムード一択だったという。
普段は一見すると夢主の方が尾形に対する熱量が多いように思えるが、実のところ尾形の方が夢主に執着しているということは男性陣の中では周知の事実となっていた。
「あ、杉元さーん白石さーん!」
夢主がるんるんで声をかける。
杉元たちが振り返ると、夢主が尾形の手を引いて歩いているところだった。
「おぉ~聞いたよ夢主ちゃん、尾形と付き合えたんだね。」
「尾形チャンも、さっさと素直になれば良かったんだよ。」
すぐ横に尾形がいるというのに、二人は堂々と夢主の恋愛について祝福する。
チラッと、杉元が尾形に視線をやって言い放つ。
「でも、もし尾形が夢主ちゃんを裏切るようなことがあれば、俺らも頑張っちゃうかもね。」
「俺も俺も!立候補するぅ!」
杉元が挑発的に言い放ちそれに白石が便乗すると、尾形はあからさまに不機嫌そうな表情をした。
しかしすぐに表情を切り替えニタリと憎たらしい笑顔を浮かべて言い放つ。
「お前らにはこの女は手に負えんだろうなぁ。」
「クッ、これがリア充の余裕……。」「俺たちには耐えがたいぜ……杉元、合コン行こう。」などと口々に言って2人は去っていった。
尾形がシッシッと手で追い払っていた。
夢主は少し困ったように笑って二人を見送った。
「私は、尾形先輩以外は眼中にないんですけどねぇ……。」
夢主がそう呟くと尾形が得意げにフンと鼻を鳴らした。
「二度と手放さねえからな。」
「キャーッかっこいい、もっと!」
「……。」
夢主がもだえる姿を、尾形はやや呆れた様子で見守っていた。
おわり
【あとがき:王道だけど、いつもは好き好き言われる側の方が実は愛が思いやつ、好きです。】
とあるところに、夢主という今年大学に入学したばかりの女性がいた。
彼女の初恋は中学生の頃であった。
自分より1つ年上の先輩である「尾形百之助」に一目惚れしたところから始まった。
活発で素直で愛嬌のある彼女は、恋愛でもその長所を活かして猛烈にアタックをしかけていた。
しかし、彼女が恋をした男はクールで素っ気なく気まぐれな性格であった。
中学生という難しい時期であることも影響していたようだが、それを差し置いても周囲が引くほど夢主に対する尾形の態度は冷たいものだった。
その温度差のせいで夢主はまるで過激なストーカーのようになってしまっていた。
同じ高校に進学した先でも尾形につきまとっていた夢主。
バレンタインやクリスマスなどのイベントはもちろん日常でも強烈なアピールをしたにも関わらず、尾形は強く拒絶こそしないものの、恋愛はなかなか実ることはないまま尾形が卒業してしまった。
それでも夢主はめげることなく、彼が進学した大学へと追いかけて行ったのだった。
「尾形せんぱぁい!また同じ学校ですね!」
入学式直後、新入生を歓迎すべく多くの部活動がビラ配りをしたり部活見学へと誘導している中、新入生の群れから飛び出してきた夢主はバレーボール部の集団の中でぼんやりとしていた尾形に飛びつかんばかりの勢いで駆け寄ってきた。
そんな夢主を尾形は鬱陶しそうに見る。
「またおまえか。」
「私尾形先輩とまた一緒にいたくて一生懸命受験勉強がんばったんですよ!好きです!結婚してください!」
「……。」
積極的に新入生から話しかけられているというのに、まったく嬉しそうではない様子の尾形。
それを見て近くにいた尾形と同学年の男子たちが割って入る。
彼らはバレーボール部とは別の部活のユニフォームを着ていたが、尾形とは大学からの付き合いのようで、顔に傷があるがパリッとした男前で有名な杉元と女癖の悪さとギャンブル狂いで有名の白石という2人組だった。
「ちょっと~尾形のくせになんでこんな可愛い子と話してんだよ!?」
「ねえ今好きって……結婚って言った!?俺は付き合ったら一途だよ!?だめ!?」
尾形と夢主の間に割って入った2人はそれぞれが尾形と夢主に話しかける。
尾形は面倒臭そうに杉元に舌打ちをしていて無視を決め込んだが、夢主は持ち前の社交性と愛想の良さで律儀に答えていた。
「うん、私尾形先輩じゃないとだめなんです。ごめんない。」
その言葉を聞いてヒュ~と周囲に囃し立てられて、尾形は更に不快そうに眉間に皺を寄せて勧誘を放棄して帰ってしまった。
夢主は尾形のあとを追いかけようとしたが、杉元と白石が夢主を呼び止めた。
「ねえねえ、良かったらちょっと尾形とのこと教えてよ。」
「でも尾形さんを追わないと……。」
「学食おごるからさ!ねっ!」
「ええ、でも……。」
渋る夢主に、杉元がニヤニヤと笑いながら自分のスマホをチラリと見せた。
「俺、去年の尾形の入学式の写真あるよ!」
「ほ、本当ですか!ぜひ!」
杉元と白石が躍起になるのも無理はなかった。
大学で知り合った尾形は男性同士でもとっつきにくいタイプで、プライベートなことはほとんど話さない上に人付き合いは悪かった。
そんな尾形が可愛らしい女性に追いかけられているとなると気になって仕方がないようだった。
学食に移動して、お昼ご飯を3人で食べる。
流れで杉元と白石と連絡先の交換をして、尾形と離れていた1年分の写真を手に入れた夢主。
他の新入生は部活動の体験やら新しい友達と親睦を深めている中、尾形の写真を眺めてややにやけ顔の夢主はこれまでの恋愛を語った。
長編小説のように中学校から続く一途な恋愛エピソードを1時間以上も聞かされたところで、杉元と白石は涙を抑えきれなくなっていた。
「夢主ちゃんん……そんなに一途に……。」
「なんでこんないい子が尾形を……。」
テーブルにつっぷしてよよよ……と涙を流す2人に、夢主はちょっと困ったように笑った。
「でも、最近ちょっと……疲れてきちゃって。こんだけ追っても振り向いてもらえないってことは、私に魅力がないってことですから。そろそろ諦めた方が良いかなって思うんです。大学まではなんとか追えたけど、社会人になったらそうもいかなくなるだろうし。尾形先輩にはそのうち謝罪とお礼を言って、終わりにしたいなって。これ以上嫌われる前に。」
しょんぼりとした顔をした夢主は、杉元たちに向かって「いただいた写真は大事にしますね。」と微笑んで、お礼を言って立ち去って行った。
それからの夢主は、普通の女子大生らしく友人を作り勉学に励み、バイトやサークルも始めた。
これまでとは違いどの集まりにおいても尾形とは関係がなく、稀に大学内で尾形と会ったとしても軽く会釈をする程度の付き合いになった。
夢主は元来、尾形を追いかけるという1点を除くと、非常に親しみやすい女性だった。
そのためいつも周囲にはいろんな友達がいて、杉元や白石をきっかけに年上の先輩や教授たちとも仲良くやっていけていた。
そんな日々に尾形はイライラしていた。
中学校2年からずっと、ことあるごとに夢主が尾形を追いかけてきていた。
尾形が何をしていても、どんな態度をとっても夢主はめげることなくずっとアタックしてきていた。
いつしか「好きです」「結婚して」だの告白どころかプロポーズのようなものを連呼されていても、耳が慣れてしまっていたのか聞き流せるくらいにはそんな状況に麻痺していた。
入学式で真っ直ぐに尾形のもとに来た夢主を見て、これから卒業するまでもまた付きまとわれると尾形は確信していた。
しかし、入学式以降、夢主は全くと言っていいほど尾形にか関わらなくなった。
はじめはそれで良かったと自分を納得させていた。
友人や家族に恵まれた夢主が、自分のような出自(不倫相手の子供であること)の男と居て幸せになれるわけがない。
ただ今回は事情が違う。
夢主が物凄くモテ始めたのだ。
否、夢主は昔から尾形のひいき目ではなくとも人気のある女性だった。
今までは夢主が尾形を追いかけ続けるという異常な行動が周囲にも知れ渡っていたことで、無意識だが牽制されていたのかもしれない。
それが無くなった今、急にフリーな状態の彼女を見て、周りの男たちからチャンスと言わんばかりのアプローチが止まらない様子を目の当たりにしていた尾形は、ひっそりとストレスをため込んでいた。
夢主と何らかの連絡手段があるのだろう、杉元と白石からは「尾形がいい加減振り向くべきだ」と度々説得を受けているが、今更どうやって関われば良いのか分からないでいた。
ある日、夢主はいつものように友達グループと一緒に大学構内を歩いていた。
たまたま前の授業で使った教室に忘れ物をしたことに気付いた夢主が、友達を先に行かせて別れたところで、尾形は夢主を呼び止めた。
「夢主。」
そう確かに呼びかけた。
しかし夢主はピタッと一瞬立ち止まったものの、聞こえなかったかのように歩き出した。
「おい。」
尾形は夢主の腕を掴んだ。
そこで夢主が身を強張らせたのを感じる。
一瞬息を飲んでいたようだったが、一息深呼吸をした夢主は振りむいた。
「……尾形先輩。お久しぶりです。」
以前とは少し違う、悲し気な笑みだった。
「なんで俺を避ける。」
そう尾形が問いかけると、夢主は頭を下げた。
「尾形先輩の迷惑を考えずに今まで付きまとってごめんなさい。」
少し震えた声で言った夢主は、泣き出しそうな笑顔を浮かべていた。
尾形は驚いて何も言えなかった。
しばしの沈黙。
一応尾形と話している最中だというのに、周囲を行きかう人たちが夢主に声をかけてくる。
それらは「また遊ぼう」「この間はありがとう」など簡単な社交辞令じみた挨拶程度のものであったが、夢主がそれらに対して目の前で無理矢理作られた笑顔で答えているのを見て、尾形はたまらなくなった。
「ふざけんな。」
そう言って、尾形は夢主の手を引いて歩き出した。
「え、尾形先輩……っ?」
急な行動に驚きつつ、引っ張られるままに小走りでついていく夢主。
そんな夢主たちを周囲はなんだなんだと不思議そうに見ていた。
連れてこられたのはほとんど使われていない資料室となっている小さい部屋だった。
やっと手を離されて夢主は困惑気味に尾形に問う。
「どうしちゃったんですか、尾形先輩。」
尾形は先に入って部屋の電気をつける。
夢主は警戒しているのか、出入り口の扉の近くから動かない。
「お前は大学でも俺を追うものだと思ってた。」
「え……。」
その言葉に驚きを隠せない夢主。
混乱した様子で夢主は問う。
「でも、嫌だったんですよね?」
「……俺はお前のことを拒絶したつもりはない。」
「ええ?」
尾形からの予想外の言葉に夢主は思わず声をあげる。
相変わらずの仏頂面であったが、尾形はじっと夢主を見つめる。
夢主は理解が追い付かず固まってしまった。
そして、しばし二人で無言の見つめ合いが続いた。
その無言の空気を破ったのは、尾形だった。
はー…とため息をつくと、前髪を撫で上げた。
そして夢主に近づくと、突然肩を掴んでそのまま抱き寄せた。
「わぁっ……ちょ、何っ……!」
動揺した夢主はとっさに藻掻くが、尾形がそのまま夢主の後頭部と背中を包むように優しく抱きしめると、夢主は思わず静かになった。
そのまま夢主の耳元に口を寄せて尾形がゆっくりと囁くように呟く。
「俺は、お前を他の奴にやるつもりはない。今まで通り傍にいろ。」
夢主の目が大きく開かれ、すぐにぽろぽろと涙がこぼれだした。
その言葉は中学からずっと想い続けた夢主の気持ちが報われた瞬間だった。
尾形にしがみついて、しばらく夢主は泣き続けた。
その間尾形は優しく夢主の頭を撫でていた。
それから大学では夢主と尾形の交際で話題は持ち切りとなった。
夢主の人気は相変わらずであったが、晴れて恋人になった尾形のことを大好きだと堂々と公言していることでむやみにアタックする男は激減した。
友人たちも夢主の過去を知って一途さに最初こそ驚いていたが祝福ムード一択だったという。
普段は一見すると夢主の方が尾形に対する熱量が多いように思えるが、実のところ尾形の方が夢主に執着しているということは男性陣の中では周知の事実となっていた。
「あ、杉元さーん白石さーん!」
夢主がるんるんで声をかける。
杉元たちが振り返ると、夢主が尾形の手を引いて歩いているところだった。
「おぉ~聞いたよ夢主ちゃん、尾形と付き合えたんだね。」
「尾形チャンも、さっさと素直になれば良かったんだよ。」
すぐ横に尾形がいるというのに、二人は堂々と夢主の恋愛について祝福する。
チラッと、杉元が尾形に視線をやって言い放つ。
「でも、もし尾形が夢主ちゃんを裏切るようなことがあれば、俺らも頑張っちゃうかもね。」
「俺も俺も!立候補するぅ!」
杉元が挑発的に言い放ちそれに白石が便乗すると、尾形はあからさまに不機嫌そうな表情をした。
しかしすぐに表情を切り替えニタリと憎たらしい笑顔を浮かべて言い放つ。
「お前らにはこの女は手に負えんだろうなぁ。」
「クッ、これがリア充の余裕……。」「俺たちには耐えがたいぜ……杉元、合コン行こう。」などと口々に言って2人は去っていった。
尾形がシッシッと手で追い払っていた。
夢主は少し困ったように笑って二人を見送った。
「私は、尾形先輩以外は眼中にないんですけどねぇ……。」
夢主がそう呟くと尾形が得意げにフンと鼻を鳴らした。
「二度と手放さねえからな。」
「キャーッかっこいい、もっと!」
「……。」
夢主がもだえる姿を、尾形はやや呆れた様子で見守っていた。
おわり
【あとがき:王道だけど、いつもは好き好き言われる側の方が実は愛が思いやつ、好きです。】