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尾形
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モテ女と無口な男/尾形
いきなりだが、私を一言でいうと「モテる女」。
名前は夢主、歳は24、仕事は広告系。
私がモテる理由は多分顔。
両親は2人とも美男美女だし、身長も高くスラっとしている。
目鼻立ちもスッキリしていて目を惹くタイプだった。
私も例にもれずちゃんと両親の遺伝子を受け継ぎ、愛嬌のある顔立ちから男女問わず人気なんだと思う。
学校はそこそこなところに通っていたけれど、地元でも東京に出てからも常に誰かに好意を寄せられていたし、恋人も絶えなかった。
もちろんそれに比例して変なやつに付きまとわれたり勘違いされるようなこともあったけれど、両親が小金持ちだったこともあってお金や人脈を使って社会的・法的にこらしめてもらって、特に不自由なく生きてきた。
まあ、自分でも自覚はあるんだけどそんな生き方をしていたら多少プライドも高くなるわよね。
もちろんモテるからといって同時に何人もと付き合うなんてことはしないし、簡単に体を許すようなこともしない。
常識はごく一般の女の子たちの価値観と特別離れているとは思わない。
問題はモテるのはいいんだけど、誰といてもそこまで満たされたことはないこと。
もともとの性格なのかなぁ……どんなに熱烈なアプローチを受けてもありきたりなお世辞やリアクションしかできなかった。
ドラマや映画にあるような、心臓を締め付けられて心の底から揺るがされるような気持ちも感じたことがなくて、ちょっと物足りなかったのだ。
そんな私の気持ちを感じ取るのか、意外と相手から別れを告げられることの方が多い。
多分、付き合ってみたら予想と違ったとか、追っているときが楽しかったとかそんなもんでしょ。
プライドの高さも相まって、長年来るもの拒まず去る者追わず状態であった。
そんな私はここ最近、付き合っていた彼氏にフラれたばかり。
常にキープがいるわけではないので、そろそろ新しい出会いでもしたいな…なんて考えて、そういった集まり事が得意な会社の同僚に近々合コンとかないかと聞いてみた。
「えっ夢主くるの?」
予想に反して、同僚はちょっと困った顔をした。
「なんでよ、私だって独り身なんだし合コンくらい出たいの。」
むす、としながら答えると同僚は小さくため息をついた。
「……いいけど、男の人みんな取られちゃうんだもんなぁ。」
「そんなことしないって!したこともないって!」
悪女のような言い方をするものだから、少しムキになってしまった。
しかし同僚はそんな私をみて、フフッと笑う。
「冗談だよ、夢主が一人としか付き合ってないの知ってるもん。じゃあセッティングしとくね。」
私をからかっていた同僚だったが、会社のケータイが鳴ったのを見るとひらりと手を振って去っていった。
そんなこんなで同僚にセッティングしてもらった合コン当日。
いつも通り男受けの良い清楚でありつつ少しセクシーさも出るような服装を意識して、私は指定されたお店へ向かった。
同僚からの事前情報によると、4対4で男性陣のほとんどは別の営業部の取引先の取引先…みたいなちょっとお仕事関係の人たちのようだった。
同僚曰く、「業界が被るとちょっと話しにくいけど、直接的な接点がないならかえって仕事の話とかしやすいかなって。」と気を遣ってくれたようだった。
同僚は幹事なので先に到着していて、私をみつけると嬉しそうに手を振った。
「夢主~!」
「お待たせ。今日はありがとう。」
席に通されると続々と今日のメンバーが集まってきた。
女性陣の中には他部署の顔見知りとかもいてなかなか普段は話せない顔が集まって、ちょっと嬉しかった。
いよいよ合コンがはじまるが、まずは幹事から簡単な自己紹介を促される。
料理をいただきながらお互いの話をしていくことになった。
私も他の女性陣同様にいつも通り特にひねったことも言わずにサラリと自己紹介を終わらせた。
男性陣の自己紹介を聞いているときに、一人だけすっごく気になる人がいた。
いや、見た目がタイプとかそういうんじゃないと思うんだけど、気を惹くというか本当になんでかわからないんだけど目で追ってしまう人がいた。
その人は明らかに「人数合わせで呼ばれました。」みたいなテンションで、自己紹介も名前と年齢と会社名だけしか口にせず、なんなら名刺交換でももうちょっとにこやかに話すだろうテンプレートな挨拶を淡々と告げて、あとはひたすら黙々と料理を食べていた。
それがカッコつけているわけではなく自然体であることがまた異質な感じに思えた。
私は何故だかずっとその人と話したくて仕方がなかったのだが、合コンという性質上そのうち男性陣に囲まれるのを覚悟していた。
案の定全員の自己紹介が終わったあといろんな男性が代わる代わる私に質問を浴びせてくるのをロボットのように淡々とあしらう。
明らかに男性たちが詰まったところで、同僚に半ば強制的にお手洗いへ連れていかれた。
「ちょっと!どういうつもりなの。いつもならもうちょっと愛想良いじゃない。」
トイレの入り口で同僚に怒られる。
私のあまりに投げやりな態度に、姉御肌の同僚は黙っていられなかったらしい。
でも私も焦れていた。
「だって!私が話しかけられないじゃない。」
「は?誰に?」
同僚は私の受け答えが予想外だったのか毒気を抜かれたかのような表情で聞き返す。
つい勢いで答えたせいでいきなり誰狙いか同僚に暴露してしまって、急に恥ずかしくなる。
「そ、その……あの、端っこの人、気になっちゃって。」
「ははぁーん、尾形さんね。はいはい、わかった席替えしてあげるから。」
同僚はニタニタと笑うと、私の腕を引っ張ってテーブルへ戻った。
同僚の手により半ば強制的に席替えが行われると、男性陣もさすがに私の脈のなさに気付いたようで他の3人と話すようになった。
私は尾形さんの隣に座り、今までになかった自分の気持ちにちょっと動揺しながらも話しかけた。
「えっと、……尾形さん。」
お酒を飲んでいた尾形さんはチラ、とこちらを見た。
しかし返事はしない。
「あの、えっと、……ご趣味はなんですか?」
いつもなら質問攻めに遭っている私だが、こうして自分から動くのは初めてだった。
尾形さんはつまみに手を伸ばしながら「ない」と短く答えた。
うわー!これ以上話が進まない!
こんな事態は初めてで、本当に困ってしまってそのあとは私は何も話せなかった。
でも、尾形さんは特に気にも留めずに飲み食いだけをしていて、私もちびちびとお酒を飲んだり食事をつまんで残りの時間を過ごした。
他の人たちが盛り上がったり笑い合っているのを少し離れた位置から眺める。
なんだか映画を見ているような気分になった。
全然会話もできていないのに、不思議と静かで落ち着いた空間に感じた。
そろそろお開きとなりそうな頃。
どうやら他の人たちはカップル成立したり連絡先交換などを終えているようだった。
私は初めこそ気まずい思いをしてしまったがそれが嫌ではなくて、しかも驚くことにその後はむしろ居心地が良かった。
自分の気持ちが理解できず不思議な気持ちに浸っていると、横からズイッとスマホが差し出された。
「え?」
顔を上げると尾形さんが私に連絡先を見せている。
「ん。」
スマホをぐいっと押し付けてくる尾形さん。
ずっと会話もなかったのに、と思いながらも慌てて連絡先交換をすると尾形さんは幹事の男性にお金を押し付けて帰ってしまった。
帰り際同僚には「夢主珍しく合コンで撃沈してたじゃーん」とからかわれてしまったが、正直落ち込んではいなかった。
だってその無言の空間は嫌じゃなかったし、連絡先も交換できたし。
その夜「今日はありがとうございました。良かったらまた食事にでも行きませんか?」とメッセージを送ってみたものの、既読になるだけで返事はなかった。
脈がないのかなぁ、とモヤモヤしたが、尾形さんらしいような気もする。
その後も何事もなく日々を過ごしていたが、私が最近独り身であることを知った数人の男性にお付き合いを申し込まれても、私は首を横に振り続けた。
基本的に来るもの拒まずだったけれど、なんだか尾形さんの顔や姿がことあるごとに思い浮かぶ。
あんまり考えていると変な気持ちになって、他のことが手に付かない。
困ったなぁと悩みぬいて同僚に相談するも、連絡したら?で終わってしまった。
初回で返事なかった人に追撃はだめだって私だってわかるわよ。
あの合コンで尾形さんを見つけたときはあんなにドキドキしたのに、急に世界から色が無くなったかのような気分だった。
しかし数日後、急に「今日の夜は暇か」と尾形さんから短いメッセージが届いた。
驚きすぎてスマホを落としそうになったが、脊髄反射のように「暇です!」とだけ送った。
追い打ちをかけたい気持ちになったが、ぐっとこらえていると尾形さんから簡潔に時間と店の指定があった。
お互いの会社から中間地点くらいにあるBarで隠れ家的な、落ち着いたお店のようだった。
その日は絶対に残業しないように本気で仕事を終わらせて、いつもより念入りに化粧直しをして向かった。
会えると分かった途端、世界が色づいたような気がした。
Barに入ると尾形さんが先についていた。
「お待たせしました、えっと、今日はお誘いいただき……」
「そういうのはいい。」
途中で遮られてしまったが、これがまた嫌ではない。
まさか自分はとんでもないマゾ気質だったのか!?と混乱しつつ、尾形さんの隣に座ってお酒を注文する。
この間と同じように尾形さんはしっとりとお酒を飲んでいる。
特に世間話をするわけでもなくただ同じ空間を過ごす。
私はそんな尾形さんの一挙手一投足すべてが気になって仕方がない。
長い間会話がなく、ただひたすらに時間が過ぎていく。
思わず魅入るようにじいっと見つめてしまっていたのだろう、尾形さんと視線が合った。
ハッとしたが目が逸らせない。
顔がカーッと赤くなるのを感じる。
「……見過ぎだ。」
尾形さんがフッと笑って呟いたのを見たとき、叫び出しそうになるのをこらえるのが大変だった。
きっとたまらないってこういうのを言うんだ!
今まで映画や小説の中であった恋愛をすると胸が苦しくて、頭の中がいっぱいで、みたいなあの表現はこれだったのか!と納得がいった。
さすがに真っ赤な顔をしたまま目を逸らせない私を心配したのか、尾形さんは「お前、大丈夫か」なんて言いながら手を伸ばす。
尾形さんの手が私の頬に触れた瞬間、たまらなくなってつい言葉が口からこぼれおちた。
「あ、……っ好きです。」
「は?」
触れていた手が固まり、まるで猫のように目を丸くした尾形さんが素っ頓狂な声を上げる。
でももう止まることができなかった。
「好きなんです。どうしよう、私尾形さんが好きで、変になっちゃったみたい。」
困惑しつつも、正直に気持ちを答える。
尾形さんは固まったままこちらを見ていたが、気持ちを吐き出した私はスッキリしていた。
「はぁ、これが恋愛かぁ……うん、すごい気持ちだぁ。」
一人で満足げに呟くと、尾形さんが私の頬に置いていた手をそのまま動かして私の顎を片手で掴んだ。
それはさっきのような優しいやつじゃなくて、力はほとんど入っていなかったがむぎゅっと頬っぺたを潰すように掴まれた。
「むぉ…なんれすふぁ?(なんですか?)」
口がタコのようになっていて上手く話せない。
尾形さんは真顔だった。
「返事はいらないのか。」
その手に少し力がこもる。
激痛ではないけど鈍い痛み、ちょっとつねられたくらい?
「いふぅ!(いるぅ!)」
そう答えると尾形さんはパッと手を離す。
自由になったほっぺたを両手で摩っていると、尾形さんが「俺は構わん。」とだけ短く呟いた。
「え!付き合ってくれるんですか!」
嬉しくなってつい前のめりに尾形さんにずいっと近づくと、今度はデコピンされた。
尾形さんは呆れたように追加で注文したグラスを傾けている。
晴れて恋人になったというのに相変わらず尾形さんは物静かで、ただグラスの中の氷だけがカランと音を立てた。
おわり。
【あとがき:一目惚れ・遅れてきた初恋・追いかけたい女…みたいなテーマ。】
いきなりだが、私を一言でいうと「モテる女」。
名前は夢主、歳は24、仕事は広告系。
私がモテる理由は多分顔。
両親は2人とも美男美女だし、身長も高くスラっとしている。
目鼻立ちもスッキリしていて目を惹くタイプだった。
私も例にもれずちゃんと両親の遺伝子を受け継ぎ、愛嬌のある顔立ちから男女問わず人気なんだと思う。
学校はそこそこなところに通っていたけれど、地元でも東京に出てからも常に誰かに好意を寄せられていたし、恋人も絶えなかった。
もちろんそれに比例して変なやつに付きまとわれたり勘違いされるようなこともあったけれど、両親が小金持ちだったこともあってお金や人脈を使って社会的・法的にこらしめてもらって、特に不自由なく生きてきた。
まあ、自分でも自覚はあるんだけどそんな生き方をしていたら多少プライドも高くなるわよね。
もちろんモテるからといって同時に何人もと付き合うなんてことはしないし、簡単に体を許すようなこともしない。
常識はごく一般の女の子たちの価値観と特別離れているとは思わない。
問題はモテるのはいいんだけど、誰といてもそこまで満たされたことはないこと。
もともとの性格なのかなぁ……どんなに熱烈なアプローチを受けてもありきたりなお世辞やリアクションしかできなかった。
ドラマや映画にあるような、心臓を締め付けられて心の底から揺るがされるような気持ちも感じたことがなくて、ちょっと物足りなかったのだ。
そんな私の気持ちを感じ取るのか、意外と相手から別れを告げられることの方が多い。
多分、付き合ってみたら予想と違ったとか、追っているときが楽しかったとかそんなもんでしょ。
プライドの高さも相まって、長年来るもの拒まず去る者追わず状態であった。
そんな私はここ最近、付き合っていた彼氏にフラれたばかり。
常にキープがいるわけではないので、そろそろ新しい出会いでもしたいな…なんて考えて、そういった集まり事が得意な会社の同僚に近々合コンとかないかと聞いてみた。
「えっ夢主くるの?」
予想に反して、同僚はちょっと困った顔をした。
「なんでよ、私だって独り身なんだし合コンくらい出たいの。」
むす、としながら答えると同僚は小さくため息をついた。
「……いいけど、男の人みんな取られちゃうんだもんなぁ。」
「そんなことしないって!したこともないって!」
悪女のような言い方をするものだから、少しムキになってしまった。
しかし同僚はそんな私をみて、フフッと笑う。
「冗談だよ、夢主が一人としか付き合ってないの知ってるもん。じゃあセッティングしとくね。」
私をからかっていた同僚だったが、会社のケータイが鳴ったのを見るとひらりと手を振って去っていった。
そんなこんなで同僚にセッティングしてもらった合コン当日。
いつも通り男受けの良い清楚でありつつ少しセクシーさも出るような服装を意識して、私は指定されたお店へ向かった。
同僚からの事前情報によると、4対4で男性陣のほとんどは別の営業部の取引先の取引先…みたいなちょっとお仕事関係の人たちのようだった。
同僚曰く、「業界が被るとちょっと話しにくいけど、直接的な接点がないならかえって仕事の話とかしやすいかなって。」と気を遣ってくれたようだった。
同僚は幹事なので先に到着していて、私をみつけると嬉しそうに手を振った。
「夢主~!」
「お待たせ。今日はありがとう。」
席に通されると続々と今日のメンバーが集まってきた。
女性陣の中には他部署の顔見知りとかもいてなかなか普段は話せない顔が集まって、ちょっと嬉しかった。
いよいよ合コンがはじまるが、まずは幹事から簡単な自己紹介を促される。
料理をいただきながらお互いの話をしていくことになった。
私も他の女性陣同様にいつも通り特にひねったことも言わずにサラリと自己紹介を終わらせた。
男性陣の自己紹介を聞いているときに、一人だけすっごく気になる人がいた。
いや、見た目がタイプとかそういうんじゃないと思うんだけど、気を惹くというか本当になんでかわからないんだけど目で追ってしまう人がいた。
その人は明らかに「人数合わせで呼ばれました。」みたいなテンションで、自己紹介も名前と年齢と会社名だけしか口にせず、なんなら名刺交換でももうちょっとにこやかに話すだろうテンプレートな挨拶を淡々と告げて、あとはひたすら黙々と料理を食べていた。
それがカッコつけているわけではなく自然体であることがまた異質な感じに思えた。
私は何故だかずっとその人と話したくて仕方がなかったのだが、合コンという性質上そのうち男性陣に囲まれるのを覚悟していた。
案の定全員の自己紹介が終わったあといろんな男性が代わる代わる私に質問を浴びせてくるのをロボットのように淡々とあしらう。
明らかに男性たちが詰まったところで、同僚に半ば強制的にお手洗いへ連れていかれた。
「ちょっと!どういうつもりなの。いつもならもうちょっと愛想良いじゃない。」
トイレの入り口で同僚に怒られる。
私のあまりに投げやりな態度に、姉御肌の同僚は黙っていられなかったらしい。
でも私も焦れていた。
「だって!私が話しかけられないじゃない。」
「は?誰に?」
同僚は私の受け答えが予想外だったのか毒気を抜かれたかのような表情で聞き返す。
つい勢いで答えたせいでいきなり誰狙いか同僚に暴露してしまって、急に恥ずかしくなる。
「そ、その……あの、端っこの人、気になっちゃって。」
「ははぁーん、尾形さんね。はいはい、わかった席替えしてあげるから。」
同僚はニタニタと笑うと、私の腕を引っ張ってテーブルへ戻った。
同僚の手により半ば強制的に席替えが行われると、男性陣もさすがに私の脈のなさに気付いたようで他の3人と話すようになった。
私は尾形さんの隣に座り、今までになかった自分の気持ちにちょっと動揺しながらも話しかけた。
「えっと、……尾形さん。」
お酒を飲んでいた尾形さんはチラ、とこちらを見た。
しかし返事はしない。
「あの、えっと、……ご趣味はなんですか?」
いつもなら質問攻めに遭っている私だが、こうして自分から動くのは初めてだった。
尾形さんはつまみに手を伸ばしながら「ない」と短く答えた。
うわー!これ以上話が進まない!
こんな事態は初めてで、本当に困ってしまってそのあとは私は何も話せなかった。
でも、尾形さんは特に気にも留めずに飲み食いだけをしていて、私もちびちびとお酒を飲んだり食事をつまんで残りの時間を過ごした。
他の人たちが盛り上がったり笑い合っているのを少し離れた位置から眺める。
なんだか映画を見ているような気分になった。
全然会話もできていないのに、不思議と静かで落ち着いた空間に感じた。
そろそろお開きとなりそうな頃。
どうやら他の人たちはカップル成立したり連絡先交換などを終えているようだった。
私は初めこそ気まずい思いをしてしまったがそれが嫌ではなくて、しかも驚くことにその後はむしろ居心地が良かった。
自分の気持ちが理解できず不思議な気持ちに浸っていると、横からズイッとスマホが差し出された。
「え?」
顔を上げると尾形さんが私に連絡先を見せている。
「ん。」
スマホをぐいっと押し付けてくる尾形さん。
ずっと会話もなかったのに、と思いながらも慌てて連絡先交換をすると尾形さんは幹事の男性にお金を押し付けて帰ってしまった。
帰り際同僚には「夢主珍しく合コンで撃沈してたじゃーん」とからかわれてしまったが、正直落ち込んではいなかった。
だってその無言の空間は嫌じゃなかったし、連絡先も交換できたし。
その夜「今日はありがとうございました。良かったらまた食事にでも行きませんか?」とメッセージを送ってみたものの、既読になるだけで返事はなかった。
脈がないのかなぁ、とモヤモヤしたが、尾形さんらしいような気もする。
その後も何事もなく日々を過ごしていたが、私が最近独り身であることを知った数人の男性にお付き合いを申し込まれても、私は首を横に振り続けた。
基本的に来るもの拒まずだったけれど、なんだか尾形さんの顔や姿がことあるごとに思い浮かぶ。
あんまり考えていると変な気持ちになって、他のことが手に付かない。
困ったなぁと悩みぬいて同僚に相談するも、連絡したら?で終わってしまった。
初回で返事なかった人に追撃はだめだって私だってわかるわよ。
あの合コンで尾形さんを見つけたときはあんなにドキドキしたのに、急に世界から色が無くなったかのような気分だった。
しかし数日後、急に「今日の夜は暇か」と尾形さんから短いメッセージが届いた。
驚きすぎてスマホを落としそうになったが、脊髄反射のように「暇です!」とだけ送った。
追い打ちをかけたい気持ちになったが、ぐっとこらえていると尾形さんから簡潔に時間と店の指定があった。
お互いの会社から中間地点くらいにあるBarで隠れ家的な、落ち着いたお店のようだった。
その日は絶対に残業しないように本気で仕事を終わらせて、いつもより念入りに化粧直しをして向かった。
会えると分かった途端、世界が色づいたような気がした。
Barに入ると尾形さんが先についていた。
「お待たせしました、えっと、今日はお誘いいただき……」
「そういうのはいい。」
途中で遮られてしまったが、これがまた嫌ではない。
まさか自分はとんでもないマゾ気質だったのか!?と混乱しつつ、尾形さんの隣に座ってお酒を注文する。
この間と同じように尾形さんはしっとりとお酒を飲んでいる。
特に世間話をするわけでもなくただ同じ空間を過ごす。
私はそんな尾形さんの一挙手一投足すべてが気になって仕方がない。
長い間会話がなく、ただひたすらに時間が過ぎていく。
思わず魅入るようにじいっと見つめてしまっていたのだろう、尾形さんと視線が合った。
ハッとしたが目が逸らせない。
顔がカーッと赤くなるのを感じる。
「……見過ぎだ。」
尾形さんがフッと笑って呟いたのを見たとき、叫び出しそうになるのをこらえるのが大変だった。
きっとたまらないってこういうのを言うんだ!
今まで映画や小説の中であった恋愛をすると胸が苦しくて、頭の中がいっぱいで、みたいなあの表現はこれだったのか!と納得がいった。
さすがに真っ赤な顔をしたまま目を逸らせない私を心配したのか、尾形さんは「お前、大丈夫か」なんて言いながら手を伸ばす。
尾形さんの手が私の頬に触れた瞬間、たまらなくなってつい言葉が口からこぼれおちた。
「あ、……っ好きです。」
「は?」
触れていた手が固まり、まるで猫のように目を丸くした尾形さんが素っ頓狂な声を上げる。
でももう止まることができなかった。
「好きなんです。どうしよう、私尾形さんが好きで、変になっちゃったみたい。」
困惑しつつも、正直に気持ちを答える。
尾形さんは固まったままこちらを見ていたが、気持ちを吐き出した私はスッキリしていた。
「はぁ、これが恋愛かぁ……うん、すごい気持ちだぁ。」
一人で満足げに呟くと、尾形さんが私の頬に置いていた手をそのまま動かして私の顎を片手で掴んだ。
それはさっきのような優しいやつじゃなくて、力はほとんど入っていなかったがむぎゅっと頬っぺたを潰すように掴まれた。
「むぉ…なんれすふぁ?(なんですか?)」
口がタコのようになっていて上手く話せない。
尾形さんは真顔だった。
「返事はいらないのか。」
その手に少し力がこもる。
激痛ではないけど鈍い痛み、ちょっとつねられたくらい?
「いふぅ!(いるぅ!)」
そう答えると尾形さんはパッと手を離す。
自由になったほっぺたを両手で摩っていると、尾形さんが「俺は構わん。」とだけ短く呟いた。
「え!付き合ってくれるんですか!」
嬉しくなってつい前のめりに尾形さんにずいっと近づくと、今度はデコピンされた。
尾形さんは呆れたように追加で注文したグラスを傾けている。
晴れて恋人になったというのに相変わらず尾形さんは物静かで、ただグラスの中の氷だけがカランと音を立てた。
おわり。
【あとがき:一目惚れ・遅れてきた初恋・追いかけたい女…みたいなテーマ。】