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尾形
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モテすぎた男/尾形
「彼女ができました。」
その言葉に、私は地の底まで突き落とされた気分になった。
会社に何しに来ているって?
もちろん仕事だよ。
でもね、今は本当にそれどころじゃないんだ。
「夢主~いい加減泣き止みなよ。」
「うううぅ~……」
そう同僚が私の背中をさすってくれるけれど、私の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
事の発端は、月曜日の朝礼だった。
この会社では毎朝朝礼を行っている。
連絡事項などを共有した後、持ち回りで朝礼の進行をやっている人が何か一言近況報告や社員のやる気を煽るようなことを言って朝礼を終わることが慣例だった。
その日の司会進行が「尾形」という年上の人で、精力的に仕事をしているようには見えないのにしっかりと結果を出すタイプの人で、私がひそかに憧れている人だった。
尾形さんはクールで素っ気ない人だったが、見た目の良さからか女性からの人気が厚かった。
私以外にもファンは大勢いたため、今朝の朝礼の〆に尾形さんが心のこもっていない抑揚のない声で「彼女ができました。では今日も一日頑張りましょう。」と言った瞬間に何人もの体調不良者が出てしまったほどだ。
早退した人すらいるくらいだった。
私もその瞬間は足元がぐらついたような感覚を覚えて、呆然としてしまった。
なんとか仕事をある程度こなしていたのだが、時折辛くなって涙がこみあげてくる。
たまらずに給湯室に逃げ込んだところで、見かねた同僚に優しくされて涙が止まらなくなってしまった。
同僚は呆れた様子で私に問いかける。
「尾形さんってそんなにカッコイイ?」
「がっ、がっごい゛い゛ぃ~……ううぅぅ。」
しゃくりあげながら濁声でぐすぐす泣いていると、同僚は困ったように唸る。
「ううーん、正直、この会社の中で見るとカッコイイんだろうけど、ほかにもカッコイイ人はいると思うよ?」
「ぅぅぅやだぁ……尾形さんがいいぃぃ。」
号泣する私にティッシュを差し出しながら、同僚は少しわざとらしく今思い付いたかのように言った。
「そうだ!今週末は合コンしようよ!夢主、尾形さんばかりじゃなくてたまには違う人も見てみない?気晴らしになるかもよ。ね?そうしよ。尾形さん以上にカッコイイ彼氏作っちゃおう!」
半ば強引に決められてしまった。
同僚は、そうと決まれば~なんて誰かに連絡をとっているのかスマホをいじっている。
同僚なりの気遣いでもあるのだろうと色々文句はあったが飲み込んだ。
その週は本当にブルーで、私の他にも何人もの女性社員が死んだような目で仕事をしていた。
職場から著しく活気が失われたことで若干引いている他の社員たちもいたが、当の尾形さんは職場の空気など微塵も気にしていない様子で相変わらず涼しい顔をしていて、うん、格好良かった。
そして迎えた週末。
合コンは5対5らしい。
女子側は適当に数合わせを呼んだから~なんて現在彼氏募集中の同僚はご機嫌だ。
同僚と待ち合わせて一緒に指定されたお店に入ると、予約されていたテーブルに案内された。
そこには男性陣がもうすでに座っていた。
「……エッ!?」
私は思わず声をあげて固まってしまった。
私の後ろを歩いていた同僚は何が起きたのか初めはわからなかったようだ。
突然硬直した私の後ろから同僚がひょこっと顔を出したかと思えば、「なんで!?」と叫んだ。
男性陣の中に、尾形さんがいる。
尾形さん以外の4人はそれぞれ会話をしているようだったが、一番奥の席にいる尾形さんだけは暇そうに頬杖をついていた。
「ちょ、ちょっと待って……!?」
同僚が動揺している中、私は同僚の腕を引っ張って一旦店の外へ。
お店の人が迷惑そうにしていたけれど、構っている余裕がない。
店の外に出た瞬間に、私は同僚に叫んだ。
「なんで尾形さんがいるのよ!?」
「私は誘ってないわよ!男側の幹事に人数と店の指定しかしてないもの!幹事だって私の大学の友人だし、仕事の関係者じゃないのよ!?」
同僚もパニックになったまま、まくしたてる。
その様子から察するに、本当に尾形さんを誘ったわけではないようだ。
どうしようかと二人で考えるも、答えが出ない。
諦めて店に戻るが、同僚に奥へと追いやられて尾形さんの向かいに強制的に座らされた。
他の数合わせの女性陣も来て合コンが始まるが、生きた心地がしない。
彼女いるのに合コンに来てるの?いや、そもそもどういう繋がりでここに?
そんな疑問を抱きつつ何を話しているのかわからないまま私の自己紹介が終わってしまった。
私に続いた尾形さんもいつも通りやる気のない様子で当たり障りのない自己紹介をしていたが、最後に一言付け加えた。
「今日の狙いは目の前のこいつです。他の女は俺に話しかけんなよ。夢主、俺は今日お前を落とすからな。」
一瞬で私以外の4人の女性を敵にまわし、男性陣の中からも「は?」と声があがった。
私は驚きのあまり持っていた箸を落とし硬直する。
今、なんて?と考えるも、何度思い返しても聞き間違いではなくハッキリと聞こえていた。
動揺しだらだらと汗をかいて硬直している私。
同僚もドン引きしながら私と尾形さんの顔を交互に見るだけで、誰も手助けをしてくれなかった。
その場は男性側の幹事が次!となんとか別の人に話題を回して流された。
尾形さんは誰が話そうがじっとりとこちらを見つめていて、私は生きた心地がしなかった。
同僚は不思議そうに私と尾形さんを時折見ていたが、薄情なことにすぐに別の人にターゲットを定めたのか私たちに視線を向けることもなくなった。
途中でそれぞれご歓談を、となったところで尾形さんが話しかけてくる。
「おい夢主。」
「ひっ、なんでしょう。」
ビクッと肩を震わせて姿勢を正す。
尾形さんはそんな私を見ても表情ひとつ変えなかった。
「好みのタイプは?」
「は……?え、やさしい、人です、かね……。」
「そうか。」
意味が分からなすぎてたどたどしく答えると、尾形さんはフッと笑って前髪を後ろへ撫でつける。
ああ、よく仕事中もやっているこの仕草にドキドキしていたなぁ、なんて混乱しすぎたせいか逆に変に冷静になった。
「お、尾形さん……なんで合コンに来てるんですか。」
掠れる声でやっとの思いで問いかける。
尾形さんはお酒を飲みながら「は?」と当たり前のことを聞く私を頭がおかしいのかと言わんばかりに見てきた。
「彼女が欲しい以外にあんのか?」
「いえ……。」
彼女ができた!って言ってたじゃん!そう口から出そうになったが、勇気が足りなかった。
尾形さんは私から目を離さず笑う。
「夢主は?俺のことをどう思う?どんな彼氏がいいんだ?俺は何か足りないか?」
矢継ぎ早に質問攻めに遭う。
仕事もできて、顔も良くて、優しいかどうかはわからないけどクールでカッコイイ。
足りないとことか知らないしわからない、あったとしても言い出せるわけないじゃない。
もうずっと片想いしていたのに。
でも、急展開すぎて色々と追い付いていない私は言葉も出ない。
ただ首を振ることしかできなかった。
まるで狩りをする肉食獣並みの視線をじっと向けられ続けて、冷や汗が止まらない。
この人、周りがいなかったら今にでも私に噛みついていそうだ。
「俺はお前を彼女にしたいと思っている。いいだろ?」
矢継ぎ早に様々な質問され続けて感覚が鈍っていた。
つい反射的にこくん、と頷くと、その瞬間言質を取ったと言わんばかりに尾形さんが私の手をガッと乱暴に掴み、そのままガタッと大きな音をたてて立ち上がった。
「幹事。カップル成立した。帰る。」
尾形さんは私の分も合わせた2人分のお金をテーブルに投げつけると、そのまま私を立たせ、表に出るぞと言い出した。
さすがに同僚や他のメンバーも何事かと驚いているが、尾形さんはお構いがない。
食事も途中であったが、訳も分からず尾形さんに促されて店を出てきてしまった。
店の外に出ると私はやっと喉につっかえていたものを叫んだ。
「彼女ができました!って言ったじゃないですか!」
「は?」
尾形さんは少し驚いたように目を丸くした。
わかっていないようだったので、言葉を付け足す。
「月曜日の、朝!朝礼で!尾形さんが彼女ができましたって!」
やっと息が吸えたような気がする。
走ってもいないのに、ゼイゼイと肩で息をしてしまった。
尾形さんはそんな私をしばらく無表情で見つめていたが、ようやく理解したようでああ!と声をあげた。
「あれ、言わされた。」
「え?」
尾形さんは私の手を取ると、歩き出した。
どこへ向かっているのかは分からなかったが、私もとりあえず歩く。
「……朝礼前に月島課長に呼び出されて、『会社の女性陣が浮かれて仕事しないからお前、彼女できたって言え』だとよ。」
「ええっ!?じゃあ尾形さんフリーだったんですか!?」
「じゃなきゃ合コンなんか行かん。あとそもそも今日のも、お前が出るっていうから来ただけだ。」
その言葉に思わず立ち止まる。
尾形さんもつられて止まった。
「それってどういう……。」
尾形さんは、「あー……。」と少し言いづらそうに首の後ろあたりを掻いた。
「……前から狙ってたんだよ。」
悪いか?と余計な言葉をつけてまで、尾形さんはこちらにNOと言わせる気はないらしい。
私は驚きと嬉しさと色々な感情がごちゃ混ぜになって、泣きそうになってしまった。
そんな私を、尾形さんは抱き寄せた。
尾形さんの力が強かったのか、はたまた私が油断しきっていたのか簡単によろめいて、急に尾形さんの腕の中に捕まってしまって、やっと落ち着いてきたというのにまたもや私は混乱する。
「あ、あ、あの……。」
「そういうわけだから、夢主は今日から俺のな。よろしく。」
「~~っ、は、い。」
返事をするので精一杯で顔から火が出そうなほど赤面した。
そんな私を見て尾形さんはククッと喉で笑うと、私を抱えたまま手近なホテルに強制的にインしていった。
~月曜日~
また月曜日がきた。
あの後は結局週末の間ずーっと尾形さんと一緒に居て、すっかり甘やかされてしまった。
深くは言えないけど、えっと、その、想像以上でした……。
と、とにかく!
ずっと片想いしていた尾形さんと付き合えて私は夢心地だった。
少女漫画の王子様みたいな優しさとはちょっと違うけど、不器用なりに私を愛してくれているのを知った。
同僚が私に何か聞きたそうにしていたが、すぐに朝礼が始まった。
今日の司会進行も尾形さんだった。
今週は、もう先週のような衝撃的なことはないだろう。なんてのんびりと話を聞いていると、尾形さんと目が合った。
まだ付き合いたてだし週末のこともあったしちょっと照れてしまって、顔を赤らめながらはにかむと、尾形さんがニタリと嫌に含みを込めて笑った。
え?っと思った瞬間には、もう彼は口を開いていた。
「報告ですが、俺に本当の彼女ができました。他の連中は夢主に手を出したら許さんからな。よろしく。」
会社が騒然となりました☆
おわり。
【あとがき:ガツガツ来る尾形(レア☆☆☆)】
「彼女ができました。」
その言葉に、私は地の底まで突き落とされた気分になった。
会社に何しに来ているって?
もちろん仕事だよ。
でもね、今は本当にそれどころじゃないんだ。
「夢主~いい加減泣き止みなよ。」
「うううぅ~……」
そう同僚が私の背中をさすってくれるけれど、私の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
事の発端は、月曜日の朝礼だった。
この会社では毎朝朝礼を行っている。
連絡事項などを共有した後、持ち回りで朝礼の進行をやっている人が何か一言近況報告や社員のやる気を煽るようなことを言って朝礼を終わることが慣例だった。
その日の司会進行が「尾形」という年上の人で、精力的に仕事をしているようには見えないのにしっかりと結果を出すタイプの人で、私がひそかに憧れている人だった。
尾形さんはクールで素っ気ない人だったが、見た目の良さからか女性からの人気が厚かった。
私以外にもファンは大勢いたため、今朝の朝礼の〆に尾形さんが心のこもっていない抑揚のない声で「彼女ができました。では今日も一日頑張りましょう。」と言った瞬間に何人もの体調不良者が出てしまったほどだ。
早退した人すらいるくらいだった。
私もその瞬間は足元がぐらついたような感覚を覚えて、呆然としてしまった。
なんとか仕事をある程度こなしていたのだが、時折辛くなって涙がこみあげてくる。
たまらずに給湯室に逃げ込んだところで、見かねた同僚に優しくされて涙が止まらなくなってしまった。
同僚は呆れた様子で私に問いかける。
「尾形さんってそんなにカッコイイ?」
「がっ、がっごい゛い゛ぃ~……ううぅぅ。」
しゃくりあげながら濁声でぐすぐす泣いていると、同僚は困ったように唸る。
「ううーん、正直、この会社の中で見るとカッコイイんだろうけど、ほかにもカッコイイ人はいると思うよ?」
「ぅぅぅやだぁ……尾形さんがいいぃぃ。」
号泣する私にティッシュを差し出しながら、同僚は少しわざとらしく今思い付いたかのように言った。
「そうだ!今週末は合コンしようよ!夢主、尾形さんばかりじゃなくてたまには違う人も見てみない?気晴らしになるかもよ。ね?そうしよ。尾形さん以上にカッコイイ彼氏作っちゃおう!」
半ば強引に決められてしまった。
同僚は、そうと決まれば~なんて誰かに連絡をとっているのかスマホをいじっている。
同僚なりの気遣いでもあるのだろうと色々文句はあったが飲み込んだ。
その週は本当にブルーで、私の他にも何人もの女性社員が死んだような目で仕事をしていた。
職場から著しく活気が失われたことで若干引いている他の社員たちもいたが、当の尾形さんは職場の空気など微塵も気にしていない様子で相変わらず涼しい顔をしていて、うん、格好良かった。
そして迎えた週末。
合コンは5対5らしい。
女子側は適当に数合わせを呼んだから~なんて現在彼氏募集中の同僚はご機嫌だ。
同僚と待ち合わせて一緒に指定されたお店に入ると、予約されていたテーブルに案内された。
そこには男性陣がもうすでに座っていた。
「……エッ!?」
私は思わず声をあげて固まってしまった。
私の後ろを歩いていた同僚は何が起きたのか初めはわからなかったようだ。
突然硬直した私の後ろから同僚がひょこっと顔を出したかと思えば、「なんで!?」と叫んだ。
男性陣の中に、尾形さんがいる。
尾形さん以外の4人はそれぞれ会話をしているようだったが、一番奥の席にいる尾形さんだけは暇そうに頬杖をついていた。
「ちょ、ちょっと待って……!?」
同僚が動揺している中、私は同僚の腕を引っ張って一旦店の外へ。
お店の人が迷惑そうにしていたけれど、構っている余裕がない。
店の外に出た瞬間に、私は同僚に叫んだ。
「なんで尾形さんがいるのよ!?」
「私は誘ってないわよ!男側の幹事に人数と店の指定しかしてないもの!幹事だって私の大学の友人だし、仕事の関係者じゃないのよ!?」
同僚もパニックになったまま、まくしたてる。
その様子から察するに、本当に尾形さんを誘ったわけではないようだ。
どうしようかと二人で考えるも、答えが出ない。
諦めて店に戻るが、同僚に奥へと追いやられて尾形さんの向かいに強制的に座らされた。
他の数合わせの女性陣も来て合コンが始まるが、生きた心地がしない。
彼女いるのに合コンに来てるの?いや、そもそもどういう繋がりでここに?
そんな疑問を抱きつつ何を話しているのかわからないまま私の自己紹介が終わってしまった。
私に続いた尾形さんもいつも通りやる気のない様子で当たり障りのない自己紹介をしていたが、最後に一言付け加えた。
「今日の狙いは目の前のこいつです。他の女は俺に話しかけんなよ。夢主、俺は今日お前を落とすからな。」
一瞬で私以外の4人の女性を敵にまわし、男性陣の中からも「は?」と声があがった。
私は驚きのあまり持っていた箸を落とし硬直する。
今、なんて?と考えるも、何度思い返しても聞き間違いではなくハッキリと聞こえていた。
動揺しだらだらと汗をかいて硬直している私。
同僚もドン引きしながら私と尾形さんの顔を交互に見るだけで、誰も手助けをしてくれなかった。
その場は男性側の幹事が次!となんとか別の人に話題を回して流された。
尾形さんは誰が話そうがじっとりとこちらを見つめていて、私は生きた心地がしなかった。
同僚は不思議そうに私と尾形さんを時折見ていたが、薄情なことにすぐに別の人にターゲットを定めたのか私たちに視線を向けることもなくなった。
途中でそれぞれご歓談を、となったところで尾形さんが話しかけてくる。
「おい夢主。」
「ひっ、なんでしょう。」
ビクッと肩を震わせて姿勢を正す。
尾形さんはそんな私を見ても表情ひとつ変えなかった。
「好みのタイプは?」
「は……?え、やさしい、人です、かね……。」
「そうか。」
意味が分からなすぎてたどたどしく答えると、尾形さんはフッと笑って前髪を後ろへ撫でつける。
ああ、よく仕事中もやっているこの仕草にドキドキしていたなぁ、なんて混乱しすぎたせいか逆に変に冷静になった。
「お、尾形さん……なんで合コンに来てるんですか。」
掠れる声でやっとの思いで問いかける。
尾形さんはお酒を飲みながら「は?」と当たり前のことを聞く私を頭がおかしいのかと言わんばかりに見てきた。
「彼女が欲しい以外にあんのか?」
「いえ……。」
彼女ができた!って言ってたじゃん!そう口から出そうになったが、勇気が足りなかった。
尾形さんは私から目を離さず笑う。
「夢主は?俺のことをどう思う?どんな彼氏がいいんだ?俺は何か足りないか?」
矢継ぎ早に質問攻めに遭う。
仕事もできて、顔も良くて、優しいかどうかはわからないけどクールでカッコイイ。
足りないとことか知らないしわからない、あったとしても言い出せるわけないじゃない。
もうずっと片想いしていたのに。
でも、急展開すぎて色々と追い付いていない私は言葉も出ない。
ただ首を振ることしかできなかった。
まるで狩りをする肉食獣並みの視線をじっと向けられ続けて、冷や汗が止まらない。
この人、周りがいなかったら今にでも私に噛みついていそうだ。
「俺はお前を彼女にしたいと思っている。いいだろ?」
矢継ぎ早に様々な質問され続けて感覚が鈍っていた。
つい反射的にこくん、と頷くと、その瞬間言質を取ったと言わんばかりに尾形さんが私の手をガッと乱暴に掴み、そのままガタッと大きな音をたてて立ち上がった。
「幹事。カップル成立した。帰る。」
尾形さんは私の分も合わせた2人分のお金をテーブルに投げつけると、そのまま私を立たせ、表に出るぞと言い出した。
さすがに同僚や他のメンバーも何事かと驚いているが、尾形さんはお構いがない。
食事も途中であったが、訳も分からず尾形さんに促されて店を出てきてしまった。
店の外に出ると私はやっと喉につっかえていたものを叫んだ。
「彼女ができました!って言ったじゃないですか!」
「は?」
尾形さんは少し驚いたように目を丸くした。
わかっていないようだったので、言葉を付け足す。
「月曜日の、朝!朝礼で!尾形さんが彼女ができましたって!」
やっと息が吸えたような気がする。
走ってもいないのに、ゼイゼイと肩で息をしてしまった。
尾形さんはそんな私をしばらく無表情で見つめていたが、ようやく理解したようでああ!と声をあげた。
「あれ、言わされた。」
「え?」
尾形さんは私の手を取ると、歩き出した。
どこへ向かっているのかは分からなかったが、私もとりあえず歩く。
「……朝礼前に月島課長に呼び出されて、『会社の女性陣が浮かれて仕事しないからお前、彼女できたって言え』だとよ。」
「ええっ!?じゃあ尾形さんフリーだったんですか!?」
「じゃなきゃ合コンなんか行かん。あとそもそも今日のも、お前が出るっていうから来ただけだ。」
その言葉に思わず立ち止まる。
尾形さんもつられて止まった。
「それってどういう……。」
尾形さんは、「あー……。」と少し言いづらそうに首の後ろあたりを掻いた。
「……前から狙ってたんだよ。」
悪いか?と余計な言葉をつけてまで、尾形さんはこちらにNOと言わせる気はないらしい。
私は驚きと嬉しさと色々な感情がごちゃ混ぜになって、泣きそうになってしまった。
そんな私を、尾形さんは抱き寄せた。
尾形さんの力が強かったのか、はたまた私が油断しきっていたのか簡単によろめいて、急に尾形さんの腕の中に捕まってしまって、やっと落ち着いてきたというのにまたもや私は混乱する。
「あ、あ、あの……。」
「そういうわけだから、夢主は今日から俺のな。よろしく。」
「~~っ、は、い。」
返事をするので精一杯で顔から火が出そうなほど赤面した。
そんな私を見て尾形さんはククッと喉で笑うと、私を抱えたまま手近なホテルに強制的にインしていった。
~月曜日~
また月曜日がきた。
あの後は結局週末の間ずーっと尾形さんと一緒に居て、すっかり甘やかされてしまった。
深くは言えないけど、えっと、その、想像以上でした……。
と、とにかく!
ずっと片想いしていた尾形さんと付き合えて私は夢心地だった。
少女漫画の王子様みたいな優しさとはちょっと違うけど、不器用なりに私を愛してくれているのを知った。
同僚が私に何か聞きたそうにしていたが、すぐに朝礼が始まった。
今日の司会進行も尾形さんだった。
今週は、もう先週のような衝撃的なことはないだろう。なんてのんびりと話を聞いていると、尾形さんと目が合った。
まだ付き合いたてだし週末のこともあったしちょっと照れてしまって、顔を赤らめながらはにかむと、尾形さんがニタリと嫌に含みを込めて笑った。
え?っと思った瞬間には、もう彼は口を開いていた。
「報告ですが、俺に本当の彼女ができました。他の連中は夢主に手を出したら許さんからな。よろしく。」
会社が騒然となりました☆
おわり。
【あとがき:ガツガツ来る尾形(レア☆☆☆)】