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尾形
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通勤/記憶あり転生尾形
春の麗らかな陽気に包まれた朝。
新生活が始まる人も多いのだろう、私が通勤に使ういつものバス停には、見慣れない人たちでいっぱいだった。
リクルートスーツに身を包んだ新社会人。
真新しい制服を着て、期待や不安の入り混じった顔をする学生さん。
見たことのある顔だが進級したのだろうか、以前よりも少し制服を着崩した少年。
そんな彼らとは真逆のいつも通りの私。
社会人生活も長くなっているし周りが華やかなだけに、なんだか私の残りの人生が消化試合のような気がしてしまう。
もう少し刺激のある生活がしたいが、勇気もなければ自信もない。
ふと視線を上げるとバス停で待つ行列の先頭には見慣れない、とても目を引く男性がいた。
背が高くて体格が良い。
スーツを着ていても筋肉質なのが分かる。
髪をオールバックにしていて、顎髭を生やしている。
顎には不思議な傷があった。
横顔だけしか見えないけれど、とても整った顔立ちをしている。
目が死んでいるような気がするけれど、全体的に見てとてもカッコイイ男性だった。
とはいえ、それだけで一目惚れをするほど私も乙女ではなくて、良いものを見ちゃったなぁ~くらいにしか思っていなかった。
実際、バスに乗ったらぎゅうぎゅうでそれどころではなく、新生活の始まるこの時期特有の慌ただしさに飲まれてしまった。
駅前に止まったバスを降りると、また駅が混雑していてうんざりする。
なんとかホームにたどり着き、列車が止まる位置で待つ。
イヤホンを耳につけてスマホを弄りいつものように暇な時間を潰すため音楽を聴きながらSNSやネットサーフィンに勤しんでいると、ふと、香水のような爽やかな香りが鼻をくすぐって、私は辺りをさりげなく見渡す。
気のせいだろうか、それか新生活で浮足立つ人の中に香水がキツい人がいたのかもしれないと納得してまたスマホに視線を戻した。
電車が来て、満員電車というほどではないがそこそこ込み合う車内に乗り込む。
まただ。
ホームで感じた香水の香りに私はまた顔を上げる。
電車の窓に映った反射を利用してあたりの乗客をさりげなく視線で追う。
そして先ほど私がバス停で凝視していた男性がすぐ後ろにいることに気付く。
しかも、気まずいことに男性と目がしっかりと合った。
バッと咄嗟に視線を外した。
何故だか分からないが、私が悪いことをしている気分になった。
そして少し間をあけてからチラッと視線を窓にやると、男性は先ほどと変わらず窓越しに私を見ていたようでバッチリと目が合う。
視線を外し、もう一度見てみるとやっぱり目が合う。
それを何回か繰り返しているうちに、私は怖くなってしまって俯いてしまった。
真後ろにいる男性はどういうつもりなのだろうか。
動揺のあまり、イヤホンをしているのに音が全く頭に入ってこない。
男性は電車が揺れに合わせて私に一歩近づく。
混雑しているとはいえ、他人同士にしては近い距離。
そっと寄り添うように身体がくっついている。
どんなにカッコよくてもこの行動には恐怖だった。
こんなイケメン相手に痴漢だと言っても、信じてもらえないだろう。
それよりも私の方が挙動不審だし最初に彼をじっと見ていたんだし、訴えられそうだ。
幸か不幸か男性はそれ以上何もしてこない。
ただただ至近距離でいるだけだ。
そこで先ほどの香水の香りが男性から漂っていることに気付く。
脳内はパニック状態なのに、心のどこかでどこか冷静に「ああ……こんなに近くにいたのか。」と悠長に答え合わせをしている私。
目が合うのが怖いので、窓越しに移った男性の口元くらいまで見える分だけ視線を上げた。
すると、男性が少し屈んで私の耳元で口を動かした。
私が意味が分からず小さく首を傾げると、男性は何度もやってくれる。
今度はゆっくりと一文字ずつ。
み・つ・け・た
「ひっ」
思わず小さく声が出てしまう。
慌てて咳ばらいをして誤魔化す。
男性はというと、私の驚く様子を見て、ニヤリと笑っていた。
あまりのホラー展開にビビっていると、そこで電車が会社の最寄り駅についた。
今だ!と逃げるように電車から降り、ホームを少し歩いたところでほっと一息つくと肩を掴まれて悲鳴があがる。
「ひゃあ!」
「夢主、俺だ。」
男性が肩を掴んで振り向かせる。
なんで私の名前を知っているの。
恐怖で固まってしまう私。
男性はというと、カッコイイ顔をしているのに、随分と焦ったような不安そうな表情をしている。
「だ、誰ですか……人違いです……。」
私が泣き出しそうな顔をしてそう言うと、彼は驚いた様子で一瞬目を見開いたが、そのあと能面のような顔をして黙ってしまった。
「あの……?」
「夢主、俺を忘れたのか、俺はずっと忘れてなかったのに……。」
頭を抱えた男性だが、落胆した声色とは逆に肩をしっかりと掴んで逃がしてくれそうにはない。
「離して……!」
私が藻掻くとようやく手を離してくれた男性。
私はそのまま彼から逃げ出した。
朝からある意味刺激的な出来事があり、会社に着いた頃にはゲッソリとしていた私。
同僚が心配して声をかけてくれる。
「夢主大丈夫?顔色悪いよ。」
「うん大丈夫、朝知らない人に人違いで声かけられて……ちょっと怖かっただけ。」
「へー?そんなことあるんだね。」
同僚はしっかりしてよ、と笑った後に続ける。
「今日から新しい上司来るんだし。」
「え?そうだっけ?」
「知らなかったの?本部から偉い人が来るんだよ。それで、うちの課にも一人エリートが配属されるんだってさ。」
カッコイイ人だといいねーなんて呑気に笑う同僚。
パソコンを立ち上げて仕事の準備をしていると、オフィスに偉い人が入ってきて全員立ち上がる。
そして私は絶句した。
偉い人の後ろから入ってきたエリート、それがまさに朝の男性だった。
男性は尾形というらしい。
当たりさわりのない、簡潔だがやる気があり頼もしそうな挨拶をしたあと、ニッコリと爽やかに微笑みかける。
オフィスの女性陣が何人か落とされたのを感じた。
同僚もその一人のようで「かっこいいね」なんて顔を赤らめて呟いてくる。
しかし私はそれどころではない。心臓がバクバクしている。
朝の電車にいるときと同様に私が彼から目を外せずにいると、彼は口パクでこう言った。
に・が・さ・ん
おわり
【あとがき:尾形って愛が重そう(誉め言葉)】
春の麗らかな陽気に包まれた朝。
新生活が始まる人も多いのだろう、私が通勤に使ういつものバス停には、見慣れない人たちでいっぱいだった。
リクルートスーツに身を包んだ新社会人。
真新しい制服を着て、期待や不安の入り混じった顔をする学生さん。
見たことのある顔だが進級したのだろうか、以前よりも少し制服を着崩した少年。
そんな彼らとは真逆のいつも通りの私。
社会人生活も長くなっているし周りが華やかなだけに、なんだか私の残りの人生が消化試合のような気がしてしまう。
もう少し刺激のある生活がしたいが、勇気もなければ自信もない。
ふと視線を上げるとバス停で待つ行列の先頭には見慣れない、とても目を引く男性がいた。
背が高くて体格が良い。
スーツを着ていても筋肉質なのが分かる。
髪をオールバックにしていて、顎髭を生やしている。
顎には不思議な傷があった。
横顔だけしか見えないけれど、とても整った顔立ちをしている。
目が死んでいるような気がするけれど、全体的に見てとてもカッコイイ男性だった。
とはいえ、それだけで一目惚れをするほど私も乙女ではなくて、良いものを見ちゃったなぁ~くらいにしか思っていなかった。
実際、バスに乗ったらぎゅうぎゅうでそれどころではなく、新生活の始まるこの時期特有の慌ただしさに飲まれてしまった。
駅前に止まったバスを降りると、また駅が混雑していてうんざりする。
なんとかホームにたどり着き、列車が止まる位置で待つ。
イヤホンを耳につけてスマホを弄りいつものように暇な時間を潰すため音楽を聴きながらSNSやネットサーフィンに勤しんでいると、ふと、香水のような爽やかな香りが鼻をくすぐって、私は辺りをさりげなく見渡す。
気のせいだろうか、それか新生活で浮足立つ人の中に香水がキツい人がいたのかもしれないと納得してまたスマホに視線を戻した。
電車が来て、満員電車というほどではないがそこそこ込み合う車内に乗り込む。
まただ。
ホームで感じた香水の香りに私はまた顔を上げる。
電車の窓に映った反射を利用してあたりの乗客をさりげなく視線で追う。
そして先ほど私がバス停で凝視していた男性がすぐ後ろにいることに気付く。
しかも、気まずいことに男性と目がしっかりと合った。
バッと咄嗟に視線を外した。
何故だか分からないが、私が悪いことをしている気分になった。
そして少し間をあけてからチラッと視線を窓にやると、男性は先ほどと変わらず窓越しに私を見ていたようでバッチリと目が合う。
視線を外し、もう一度見てみるとやっぱり目が合う。
それを何回か繰り返しているうちに、私は怖くなってしまって俯いてしまった。
真後ろにいる男性はどういうつもりなのだろうか。
動揺のあまり、イヤホンをしているのに音が全く頭に入ってこない。
男性は電車が揺れに合わせて私に一歩近づく。
混雑しているとはいえ、他人同士にしては近い距離。
そっと寄り添うように身体がくっついている。
どんなにカッコよくてもこの行動には恐怖だった。
こんなイケメン相手に痴漢だと言っても、信じてもらえないだろう。
それよりも私の方が挙動不審だし最初に彼をじっと見ていたんだし、訴えられそうだ。
幸か不幸か男性はそれ以上何もしてこない。
ただただ至近距離でいるだけだ。
そこで先ほどの香水の香りが男性から漂っていることに気付く。
脳内はパニック状態なのに、心のどこかでどこか冷静に「ああ……こんなに近くにいたのか。」と悠長に答え合わせをしている私。
目が合うのが怖いので、窓越しに移った男性の口元くらいまで見える分だけ視線を上げた。
すると、男性が少し屈んで私の耳元で口を動かした。
私が意味が分からず小さく首を傾げると、男性は何度もやってくれる。
今度はゆっくりと一文字ずつ。
み・つ・け・た
「ひっ」
思わず小さく声が出てしまう。
慌てて咳ばらいをして誤魔化す。
男性はというと、私の驚く様子を見て、ニヤリと笑っていた。
あまりのホラー展開にビビっていると、そこで電車が会社の最寄り駅についた。
今だ!と逃げるように電車から降り、ホームを少し歩いたところでほっと一息つくと肩を掴まれて悲鳴があがる。
「ひゃあ!」
「夢主、俺だ。」
男性が肩を掴んで振り向かせる。
なんで私の名前を知っているの。
恐怖で固まってしまう私。
男性はというと、カッコイイ顔をしているのに、随分と焦ったような不安そうな表情をしている。
「だ、誰ですか……人違いです……。」
私が泣き出しそうな顔をしてそう言うと、彼は驚いた様子で一瞬目を見開いたが、そのあと能面のような顔をして黙ってしまった。
「あの……?」
「夢主、俺を忘れたのか、俺はずっと忘れてなかったのに……。」
頭を抱えた男性だが、落胆した声色とは逆に肩をしっかりと掴んで逃がしてくれそうにはない。
「離して……!」
私が藻掻くとようやく手を離してくれた男性。
私はそのまま彼から逃げ出した。
朝からある意味刺激的な出来事があり、会社に着いた頃にはゲッソリとしていた私。
同僚が心配して声をかけてくれる。
「夢主大丈夫?顔色悪いよ。」
「うん大丈夫、朝知らない人に人違いで声かけられて……ちょっと怖かっただけ。」
「へー?そんなことあるんだね。」
同僚はしっかりしてよ、と笑った後に続ける。
「今日から新しい上司来るんだし。」
「え?そうだっけ?」
「知らなかったの?本部から偉い人が来るんだよ。それで、うちの課にも一人エリートが配属されるんだってさ。」
カッコイイ人だといいねーなんて呑気に笑う同僚。
パソコンを立ち上げて仕事の準備をしていると、オフィスに偉い人が入ってきて全員立ち上がる。
そして私は絶句した。
偉い人の後ろから入ってきたエリート、それがまさに朝の男性だった。
男性は尾形というらしい。
当たりさわりのない、簡潔だがやる気があり頼もしそうな挨拶をしたあと、ニッコリと爽やかに微笑みかける。
オフィスの女性陣が何人か落とされたのを感じた。
同僚もその一人のようで「かっこいいね」なんて顔を赤らめて呟いてくる。
しかし私はそれどころではない。心臓がバクバクしている。
朝の電車にいるときと同様に私が彼から目を外せずにいると、彼は口パクでこう言った。
に・が・さ・ん
おわり
【あとがき:尾形って愛が重そう(誉め言葉)】