空欄の場合は夢主になります。
杉元
お名前をどうぞ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
吸血鬼/杉元
時は2×××年。
地球では人類が食物連鎖の頂点に立ち、長年支配してきた。
しかしここ数十年で急激に生存競争の上位に挙がってきた種族がいる。
それが「吸血鬼」であった。
彼らはおとぎ話のように日光に弱い・にんにくが嫌いなどということはなく、ただただその名の通り人間の血を吸って生きる種族であった。
大きく人間と違うのは吸血に関する部分だけで、そのほかは何ら人間と変わりはなかった。
見た目も吸血時にだけ出現する鋭い牙だけが外観でわかる差異であった。
はじめこそ吸血鬼たちによる大量の吸血被害で死者が出てパニックになった。
中世の魔女狩りのような疑心暗鬼も起きて、あちらこちらで吸血鬼だと言われる冤罪やトラブルが起きて問題となったが、ここにきてようやく混乱が沈静化したところであった。
吸血鬼はそれぞれの個体と相性が良い特定の人間の血を飲むことで生きながらえることができる。
相性があるらしくつまりは無差別に吸っても栄養にならないため無意味な行為らしい。
相手が死んでしまってはまた相性の合う他の人間を探す必要があるため、吸血鬼側がその相手の人間を殺さない程度の量の吸血を覚えたり、人間が科学的に作り出した血液に限りなく近い物質の飲み物(あまり美味しくないらしい)なども登場したことが沈静化の要因だった。
混乱が落ち着いたことでより顕著な問題として浮き彫りになったのは、今度は差別の問題であった。
死の恐怖を味わった一部の人類は吸血鬼に対する差別が強く、吸血鬼の隔離や拘束を訴える団体が立ち上がった。
逆に無害な吸血鬼たちが不当に虐げられることに対する反抗団体なども立ち上がったところだった。
ドラキュラ・ハラスメントというワードも新しく登場し、「ドラハラ」などと言って時折ニュースで取り上げられていた。
そんな中、一般人のほとんどはあれこれ思想はあれどこれまでと変わらず生活を続けている。
今回のお話は、そんな世界の日常のお話。
とあるオフィスの裏手のスペースにあるベンチで、一人のOLがお弁当箱を広げてランチをしていた。
女性の名は夢主といい、「人間」の「正社員」として働いている。
この会社では積極的に吸血鬼の採用も勧めて居るため、多くの吸血鬼たちが人間に混じって働いている。
社員同士のトラブルや他社とのトラブルを避けるために基本的には社員同士では吸血鬼か人間かは分からないようにしている。
ただし、吸血鬼個人の判断でオープンにすることも許されている自由な社風の会社ではあった。
夢主の近くに、一人の男性が近寄ってきて声をかけた。
「夢主さん、良かったら、その、お昼一緒にいいかな……。」
男性の名は杉元という。
杉元は吸血鬼であるが、一部の吸血鬼仲間を除いてほとんどの人間には吸血鬼であることを隠していた。
杉元の顔には特徴的な傷があるが、これは昔吸血鬼差別が過激化していた時期に人間によってやられた傷だったため、長いこと人間不信に陥っていた。
成人する頃にはほとんど克服していたが、不要なトラブルを避けるための自衛策として公表しないことを選んだのだった。
話しかけられた夢主はパッと顔を上げ、相手が同僚の杉元であることに気付くとニッコリと笑った。
「もちろんですよ、どうぞどうぞ。」
ベンチの端につめた夢主の隣に、杉元は腰掛ける。
少し緊張した面持ちの杉元は夢主に好意を抱いていた。
吸血鬼という種族は元々人間から派生したこともあり、吸血鬼同士はもちろん、相手が人間であっても交配可能であった。
そのため世界的にも吸血鬼は基本的には人間と何ら変わらない法律の中で生きている。
当人たちが許容さえすれば吸血鬼と人間は恋愛や結婚も自由なのだ。
吸血鬼は人間の血から得る栄養素しか生命活動に必要としない。
だが人間と同じ食事をとり同じように消化することはできる。
吸収していてもその栄養素は吸血鬼にとって身体に必須ではないだけである。
そのため積極的に人間の食事をとる必要はないが、杉元のように公にしていない吸血鬼たちはカモフラージュとして人間と同じ回数人間と同じ内容の食事をしている。
もちろん陰で血液成分の飲み物で必須栄養素を摂取する必要があるのだが。
ガサガサとコンビニで買ってきたカモフラージュのための食事のパンを取り出す杉元。
夢主はそんな杉元に、気さくに話しかけた。
「お仕事お疲れ様です。昨日は大変でしたね。」
夢主は同期である杉元がいつも頑張っていることを知っているため、時折差し入れや声をかけて仕事のフォローをしていた。
もちろん夢主は杉元が吸血鬼であることを知らないため、その際には人間用のお菓子や飲み物を差し入れていた。
摂取しても全く栄養にならないはずの人間用の食物が、何故か夢主から貰ったものだと少し元気になる気がすることにいつしか杉元は気がづいた。
それをきっかけに杉元が夢主を意識し始めて今に至る。
「う、うん、ありがとう。夢主さんがフォローしてくれたおかげ……。」
普段は明るくシャキッとした杉元だが、夢主が相手だと緊張して上手く話せないようだった。
しかし夢主はそんな杉元にも優しく接するのだった。
そのままお昼の時間を過ごしていたが、杉元は今日こそ夢主に自分が吸血鬼であるということを告白したいと考えていた。
「あの、さ。」
「はい。」
お弁当を食べ終えた夢主はお弁当箱をしまいながら、杉元へと視線を移す。
杉元はもごもごと話しにくそうにしながら、やっとのことで言葉を振り絞った。
「きゅ、吸血鬼、って、夢主さんは、どう思う……?」
その言葉にきょとん、とした顔をした夢主。
会社の社風もありそこそこオープンにはなっているが、それでも周囲の目を気にして公にしない人はいる。
そういった吸血鬼側の事情も考慮して、プライベートなこととして宗教の話のように世間話ではタブーとされつつある話題であった。
夢主は杉元が吸血鬼だとは全く考えていないようで、変な話題だな……と密かに眉間に皺を寄せた。
「うーん……そうですね。できることなら、共存したいと考えています。私だってご飯を食べなくては死んでしまいます。吸われても健康に問題のない範囲であって、他人に迷惑をかけずお互いの了承が得られているのなら、それで良いのではないでしょうか。」
夢主の答えを聞いてほっとした様子の杉元。
普段の夢主の様子から過激な差別主義者だとは考えていなかったが、万一のことを考えてずっと気にしていたのだ。
夢主は答えた後に続けざまに質問を投げかけた。
「杉元さんは?杉元さんがもし吸血鬼だったら、どうしたいですか?」
「エッ、ど、どど、どうしよ……?」
急な質問に驚いてしどろもどろになった杉元は、困ったように視線を彷徨わせた。
まさか吸血鬼であるとバレているのか!?と内心ではパニック状態だった。
夢主が答えを待っている間に、昼休み終了を知らせる5分前の予鈴が会社から鳴り響いた。
夢主はぱっと顔を明るくさせると、「この答えはまた今度で」と微笑んで仕事場に戻って行った。
残された杉元は告白ができなかったことで頭を抱えた。
昼休みを終えて杉元がデスクに戻ると、隣にいた「尾形」という男性が杉元を肘で小突いた。
「杉元ォ、まーだあの女に正体明かしてねえのかよ。」
杉元がずーん、とあからさまに落ち込んでいるのを見た尾形は面白がっているようだった。
尾形も杉元と同じ吸血鬼であるが、誰にも隠している様子はなく普通にデスクで人間の血液パック(同居している人間の異母兄弟の血液のようだ)をズズッとすするようなタイプであった。
基本的には尾形の栄養素となるその血液を主体に摂取しているが、尾形は誰の血液でも問題なく摂取できる。
つまり、尾形は夢主だろうが見知らぬ人間であろうが誰の血液であっても生きていける特殊な体質だった。
「だってぇ、俺、夢主さんに嫌われたら、生きていけない……。」
めそ、と机に突っ伏し泣き言を言う杉元。
尾形はそんな杉元を見てハッと笑い飛ばした。
そしてその自分の特殊な体質を利用して、杉元を脅す。
「次に夢主が一人でいたら、俺がもらうぞ?俺は基本的に誰の血でも美味しく飲めるんだからなァ?」
ニタァと笑いながら前髪を撫で上げた尾形。
その言葉に杉元はガバッと顔を上げて叫んだ。
「それは嫌だ!!」
それから本当に尾形は夢主が一人でいるたびに話しかけていた。
話しかける内容はありふれた世間話そのものであったが、夢主は誰とでも仲良く話せるタイプのため、吸血鬼の尾形が相手であっても普段となんら変わらずニコニコと微笑んで、時には楽しそうに笑い声をあげることさえあった。
「脅し」と先述したが、尾形は半分本気なようだった。
そんな光景を見かけると杉元は血相を変えて真っ先に尾形と夢主のもとにすっ飛んでくる。
そして駆けつけてすぐ、二人の間に体をねじ込むのだった。
尾形はからかい半分であるため、その時の杉元の必死な形相を見ては、隠すこともなくニヤニヤと不敵に笑っていた。
ある日、いつものように夢主がベンチでご飯を食べていると、杉元がユラリと声もかけずに近寄ってきた。
「杉元さん?」
夢主が心配そうに声をかけるも、杉元はここ数日の尾形との攻防(?)で神経をすり減らし消耗しているのかゲッソリとした様子で何も言わず夢主の隣に座った。
「どうされたんですか?最近変ですよ。」
夢主が心配そうに杉元を見つめると、杉元はもはや隠すこともできずに目に涙をためて語り出した。
自分が吸血鬼であること・夢主が好きなこと・傷つけるのが怖いこと・尾形に言われたことなどをぽつぽつと語った。
夢主はそれを遮ることなく、相槌だけを打って静かに聞いた。
そして一通り喋り終えた杉元が、「勝手なことばかりごめん……迷惑だよね。」と呟いたとき、夢主は杉元の手をとった。
思わずビクッと身を強張らせた杉元だったが、夢主は手を握ったまま離さなかった。
「話してくれて、ありがとうございます。」
まずはそう言った夢主。
杉元がうるっとした眼差しを向ける。
夢主は杉元の手をあたためるように両手で包むと、目線を合わせてゆっくりと伝える。
「私は優しい杉元さんが相手なら、血を吸われるのも怖くないです。二人で一緒に生きましょう。」
優しい声色でそう言って微笑んだ夢主に、たまらずブワッと大粒の涙があふれた杉元。
うぐ、と何度かしゃくりあげてから、夢主の手を握り返した。
おわり。
【あとがき】
尾形「まったく、なんなんだ。あいつらは(イライライラ)」
勇作「兄様!元気ないですね!勇作の血、あげます!」
尾形「ヴェッ…(お腹いっぱい之助)」
時は2×××年。
地球では人類が食物連鎖の頂点に立ち、長年支配してきた。
しかしここ数十年で急激に生存競争の上位に挙がってきた種族がいる。
それが「吸血鬼」であった。
彼らはおとぎ話のように日光に弱い・にんにくが嫌いなどということはなく、ただただその名の通り人間の血を吸って生きる種族であった。
大きく人間と違うのは吸血に関する部分だけで、そのほかは何ら人間と変わりはなかった。
見た目も吸血時にだけ出現する鋭い牙だけが外観でわかる差異であった。
はじめこそ吸血鬼たちによる大量の吸血被害で死者が出てパニックになった。
中世の魔女狩りのような疑心暗鬼も起きて、あちらこちらで吸血鬼だと言われる冤罪やトラブルが起きて問題となったが、ここにきてようやく混乱が沈静化したところであった。
吸血鬼はそれぞれの個体と相性が良い特定の人間の血を飲むことで生きながらえることができる。
相性があるらしくつまりは無差別に吸っても栄養にならないため無意味な行為らしい。
相手が死んでしまってはまた相性の合う他の人間を探す必要があるため、吸血鬼側がその相手の人間を殺さない程度の量の吸血を覚えたり、人間が科学的に作り出した血液に限りなく近い物質の飲み物(あまり美味しくないらしい)なども登場したことが沈静化の要因だった。
混乱が落ち着いたことでより顕著な問題として浮き彫りになったのは、今度は差別の問題であった。
死の恐怖を味わった一部の人類は吸血鬼に対する差別が強く、吸血鬼の隔離や拘束を訴える団体が立ち上がった。
逆に無害な吸血鬼たちが不当に虐げられることに対する反抗団体なども立ち上がったところだった。
ドラキュラ・ハラスメントというワードも新しく登場し、「ドラハラ」などと言って時折ニュースで取り上げられていた。
そんな中、一般人のほとんどはあれこれ思想はあれどこれまでと変わらず生活を続けている。
今回のお話は、そんな世界の日常のお話。
とあるオフィスの裏手のスペースにあるベンチで、一人のOLがお弁当箱を広げてランチをしていた。
女性の名は夢主といい、「人間」の「正社員」として働いている。
この会社では積極的に吸血鬼の採用も勧めて居るため、多くの吸血鬼たちが人間に混じって働いている。
社員同士のトラブルや他社とのトラブルを避けるために基本的には社員同士では吸血鬼か人間かは分からないようにしている。
ただし、吸血鬼個人の判断でオープンにすることも許されている自由な社風の会社ではあった。
夢主の近くに、一人の男性が近寄ってきて声をかけた。
「夢主さん、良かったら、その、お昼一緒にいいかな……。」
男性の名は杉元という。
杉元は吸血鬼であるが、一部の吸血鬼仲間を除いてほとんどの人間には吸血鬼であることを隠していた。
杉元の顔には特徴的な傷があるが、これは昔吸血鬼差別が過激化していた時期に人間によってやられた傷だったため、長いこと人間不信に陥っていた。
成人する頃にはほとんど克服していたが、不要なトラブルを避けるための自衛策として公表しないことを選んだのだった。
話しかけられた夢主はパッと顔を上げ、相手が同僚の杉元であることに気付くとニッコリと笑った。
「もちろんですよ、どうぞどうぞ。」
ベンチの端につめた夢主の隣に、杉元は腰掛ける。
少し緊張した面持ちの杉元は夢主に好意を抱いていた。
吸血鬼という種族は元々人間から派生したこともあり、吸血鬼同士はもちろん、相手が人間であっても交配可能であった。
そのため世界的にも吸血鬼は基本的には人間と何ら変わらない法律の中で生きている。
当人たちが許容さえすれば吸血鬼と人間は恋愛や結婚も自由なのだ。
吸血鬼は人間の血から得る栄養素しか生命活動に必要としない。
だが人間と同じ食事をとり同じように消化することはできる。
吸収していてもその栄養素は吸血鬼にとって身体に必須ではないだけである。
そのため積極的に人間の食事をとる必要はないが、杉元のように公にしていない吸血鬼たちはカモフラージュとして人間と同じ回数人間と同じ内容の食事をしている。
もちろん陰で血液成分の飲み物で必須栄養素を摂取する必要があるのだが。
ガサガサとコンビニで買ってきたカモフラージュのための食事のパンを取り出す杉元。
夢主はそんな杉元に、気さくに話しかけた。
「お仕事お疲れ様です。昨日は大変でしたね。」
夢主は同期である杉元がいつも頑張っていることを知っているため、時折差し入れや声をかけて仕事のフォローをしていた。
もちろん夢主は杉元が吸血鬼であることを知らないため、その際には人間用のお菓子や飲み物を差し入れていた。
摂取しても全く栄養にならないはずの人間用の食物が、何故か夢主から貰ったものだと少し元気になる気がすることにいつしか杉元は気がづいた。
それをきっかけに杉元が夢主を意識し始めて今に至る。
「う、うん、ありがとう。夢主さんがフォローしてくれたおかげ……。」
普段は明るくシャキッとした杉元だが、夢主が相手だと緊張して上手く話せないようだった。
しかし夢主はそんな杉元にも優しく接するのだった。
そのままお昼の時間を過ごしていたが、杉元は今日こそ夢主に自分が吸血鬼であるということを告白したいと考えていた。
「あの、さ。」
「はい。」
お弁当を食べ終えた夢主はお弁当箱をしまいながら、杉元へと視線を移す。
杉元はもごもごと話しにくそうにしながら、やっとのことで言葉を振り絞った。
「きゅ、吸血鬼、って、夢主さんは、どう思う……?」
その言葉にきょとん、とした顔をした夢主。
会社の社風もありそこそこオープンにはなっているが、それでも周囲の目を気にして公にしない人はいる。
そういった吸血鬼側の事情も考慮して、プライベートなこととして宗教の話のように世間話ではタブーとされつつある話題であった。
夢主は杉元が吸血鬼だとは全く考えていないようで、変な話題だな……と密かに眉間に皺を寄せた。
「うーん……そうですね。できることなら、共存したいと考えています。私だってご飯を食べなくては死んでしまいます。吸われても健康に問題のない範囲であって、他人に迷惑をかけずお互いの了承が得られているのなら、それで良いのではないでしょうか。」
夢主の答えを聞いてほっとした様子の杉元。
普段の夢主の様子から過激な差別主義者だとは考えていなかったが、万一のことを考えてずっと気にしていたのだ。
夢主は答えた後に続けざまに質問を投げかけた。
「杉元さんは?杉元さんがもし吸血鬼だったら、どうしたいですか?」
「エッ、ど、どど、どうしよ……?」
急な質問に驚いてしどろもどろになった杉元は、困ったように視線を彷徨わせた。
まさか吸血鬼であるとバレているのか!?と内心ではパニック状態だった。
夢主が答えを待っている間に、昼休み終了を知らせる5分前の予鈴が会社から鳴り響いた。
夢主はぱっと顔を明るくさせると、「この答えはまた今度で」と微笑んで仕事場に戻って行った。
残された杉元は告白ができなかったことで頭を抱えた。
昼休みを終えて杉元がデスクに戻ると、隣にいた「尾形」という男性が杉元を肘で小突いた。
「杉元ォ、まーだあの女に正体明かしてねえのかよ。」
杉元がずーん、とあからさまに落ち込んでいるのを見た尾形は面白がっているようだった。
尾形も杉元と同じ吸血鬼であるが、誰にも隠している様子はなく普通にデスクで人間の血液パック(同居している人間の異母兄弟の血液のようだ)をズズッとすするようなタイプであった。
基本的には尾形の栄養素となるその血液を主体に摂取しているが、尾形は誰の血液でも問題なく摂取できる。
つまり、尾形は夢主だろうが見知らぬ人間であろうが誰の血液であっても生きていける特殊な体質だった。
「だってぇ、俺、夢主さんに嫌われたら、生きていけない……。」
めそ、と机に突っ伏し泣き言を言う杉元。
尾形はそんな杉元を見てハッと笑い飛ばした。
そしてその自分の特殊な体質を利用して、杉元を脅す。
「次に夢主が一人でいたら、俺がもらうぞ?俺は基本的に誰の血でも美味しく飲めるんだからなァ?」
ニタァと笑いながら前髪を撫で上げた尾形。
その言葉に杉元はガバッと顔を上げて叫んだ。
「それは嫌だ!!」
それから本当に尾形は夢主が一人でいるたびに話しかけていた。
話しかける内容はありふれた世間話そのものであったが、夢主は誰とでも仲良く話せるタイプのため、吸血鬼の尾形が相手であっても普段となんら変わらずニコニコと微笑んで、時には楽しそうに笑い声をあげることさえあった。
「脅し」と先述したが、尾形は半分本気なようだった。
そんな光景を見かけると杉元は血相を変えて真っ先に尾形と夢主のもとにすっ飛んでくる。
そして駆けつけてすぐ、二人の間に体をねじ込むのだった。
尾形はからかい半分であるため、その時の杉元の必死な形相を見ては、隠すこともなくニヤニヤと不敵に笑っていた。
ある日、いつものように夢主がベンチでご飯を食べていると、杉元がユラリと声もかけずに近寄ってきた。
「杉元さん?」
夢主が心配そうに声をかけるも、杉元はここ数日の尾形との攻防(?)で神経をすり減らし消耗しているのかゲッソリとした様子で何も言わず夢主の隣に座った。
「どうされたんですか?最近変ですよ。」
夢主が心配そうに杉元を見つめると、杉元はもはや隠すこともできずに目に涙をためて語り出した。
自分が吸血鬼であること・夢主が好きなこと・傷つけるのが怖いこと・尾形に言われたことなどをぽつぽつと語った。
夢主はそれを遮ることなく、相槌だけを打って静かに聞いた。
そして一通り喋り終えた杉元が、「勝手なことばかりごめん……迷惑だよね。」と呟いたとき、夢主は杉元の手をとった。
思わずビクッと身を強張らせた杉元だったが、夢主は手を握ったまま離さなかった。
「話してくれて、ありがとうございます。」
まずはそう言った夢主。
杉元がうるっとした眼差しを向ける。
夢主は杉元の手をあたためるように両手で包むと、目線を合わせてゆっくりと伝える。
「私は優しい杉元さんが相手なら、血を吸われるのも怖くないです。二人で一緒に生きましょう。」
優しい声色でそう言って微笑んだ夢主に、たまらずブワッと大粒の涙があふれた杉元。
うぐ、と何度かしゃくりあげてから、夢主の手を握り返した。
おわり。
【あとがき】
尾形「まったく、なんなんだ。あいつらは(イライライラ)」
勇作「兄様!元気ないですね!勇作の血、あげます!」
尾形「ヴェッ…(お腹いっぱい之助)」