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義眼/尾形
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義眼/尾形
「尾形さん、今日は射撃の練習はお休みしてください。」
私がまだ薄暗い時間に外に出て行こうとする尾形さんを呼び止めると、尾形さんは不服そうな表情を浮かべた。
「なんだよ。」
そう短く返されると、なんだか思春期真っ只中の男子を相手にしているような気分になる。
「目、調子良くなってきましたよね?」
普段尾形さんの包帯を取り替えている私は、術後の回復の状態を知っている。
私が右側から包帯で隠れた尾形さんの右目をのぞき込むようにすると、尾形さんの死角に入ったのか向き直られてしまった。
本能的に死角に入られると警戒してしまうのだろう。
でも私はあえていつも尾形さんの右側に立つ。
なるべく役に立ちたいとの考えからだったが、最悪弾除けにでも使ってもらえれば本望だった。
「何が言いたい。」
苛立ちすら感じる言い方に、逆に笑ってしまった。
無視することもできるのに律儀に会話に付き合ってくれるのだから、最初の頃よりは大分懐かれていると判断しても自惚れにならないだろう。
「入れ目、作りに行きませんか?」
入れ目とは「義眼」のことである。
尾形さんは眉間に皺を寄せた。
見た目を気にしている場合じゃない、とでも言いたいのだろう。
察しのついた私は先回りして続けた。
「分かってますよ。でも無駄じゃないと思います。今後ずっと目元に布を巻くつもりですか?ケガ人は嫌でも目立つものです。狙撃手が目立ってしまっては行動に支障が出ますよね?」
私がそう告げると、尾形さんは一旦私から目線を外した。
左目がどこか遠くの方を見るような様子を見せてから、またこちらに戻って私の姿を捉える。
その様子を私はじっと見つめていた。
「わかった。でもそんな金などないだろう。」
尾形さんが納得してくれたので、心の中でガッツポーズをした。
つい得意げになって懐から小包を取り出す。
そこにはこの時代の通貨があった。
「どこから盗んだ。」
間髪入れずにそう問われて、私はついムキになって返す。
「そんなわけないでしょ!第七師団にいた頃のお給金と、ここに来てから色々家事をしたり情報を得る度に土方さんからお小遣いをもらって貯金してました。これだけあれば、たぶん入れ目を作れると思います。」
そう告げると尾形さんは少しだけ怪訝そうな表情をした。
「……自分で使え。」
「だから!私は自分の意思で、尾形さんの入れ目を作るって決めたんです!」
尾形さんに限って察しが悪いわけがない。
絶対に遠慮しているんだと分かっていたので、私は語気を強めて言い切った。
私の強情な態度を見て諦めたのか、尾形さんは小さく頷いた。
そんなこんなで私たちは街へと向かう。
明治時代に義眼があるなんて私は知らなかったが、土方さんが腕の良い先生を紹介してくださった。
この時代では硝子を使用した義眼が流通しているようだ。
驚いたことにドイツ製の手作り義眼が輸入されているという。
傷の状態を見て問題ないとのことで、今日は瞳の色やサイズなどを計測し、数日でできると言われた。
手付金を払って、残りは義眼を合わせてみてからとなった。
拠点となっている屋敷へ戻る道中、尾形さんが口を開いた。
「何か欲しいものはあるか?」
「え?」
尾形さんの言葉にきょとん、としてしまう。
話の流れなど何もなかったし、尾形さんはいつも急に言い出す。
私が戸惑っていると尾形さんが顔を逸らした。
尾形さんの死角を守るように右側にいた私は、ちょっと顔を逸らされると彼の表情のすべてが見えなくなってしまう。
表情から推理しようと思っていたのに、いよいよ何が言いたいかわからなくなってしまった。
「……俺の右目の分、何かやる。」
そう呟かれて私は驚いてしまって、咄嗟に尾形さんの顔に手を伸ばした。
ビクッとあからさまに警戒した様子の尾形さんが身じろいだが、尾形さんの額に手を当てる。
「熱は……ないですね。」
私がそう呟くと、尾形さんは明らかにイラッとした表情を浮かべた。
尾形さんの額に当てた手を掴まれ、ぐい、と引き寄せられる。
必死に踏ん張ったが力では敵わず彼の腕の中へ。
「いい度胸だ。」
低く耳元で囁かれ、私は思わず身を固くする。
屋敷も近いというのになんとまあ大胆なことをするのだろうか。
そうは言っても私はこれまで尾形さんに散々抱き枕にされているので、今や土方さんたちはこれくらいでは驚かないかもしれないが。
尾形さんは私の軍服の襟元を片手で乱暴に乱し、首を露わにした。
そして私の耳からそのまま首元へと口を移動させ、いつかの時のようにまた首元に吸い付いた。
数秒間強く吸い上げられて、首元に痛みが走った。
「いッ、たい、んですけど……?」
抗議の声を上げると、尾形さんはははあ、と笑いながら私を解放した。
今の私はきっと赤面していることだろう。
でも恥ずかしいだけじゃなくて、嬉しくも思っているのだから重症だ。
「欲しいもん、考えとけよ。」
そう伝えて尾形さんは先に屋敷へと戻って行った。
欲しいもんなんか、ない。
一緒にいてくれればそれだけでいいのに。
そんなこと言えるわけもなく。
私は顔の熱が引くのを待ってから、襟元を正して屋敷へと戻って行った。
おわり。
【あとがき:尾形に貢ぐ夢主が書きたかった。あとキスマって数日で消えちゃうからここらで追加。】
「尾形さん、今日は射撃の練習はお休みしてください。」
私がまだ薄暗い時間に外に出て行こうとする尾形さんを呼び止めると、尾形さんは不服そうな表情を浮かべた。
「なんだよ。」
そう短く返されると、なんだか思春期真っ只中の男子を相手にしているような気分になる。
「目、調子良くなってきましたよね?」
普段尾形さんの包帯を取り替えている私は、術後の回復の状態を知っている。
私が右側から包帯で隠れた尾形さんの右目をのぞき込むようにすると、尾形さんの死角に入ったのか向き直られてしまった。
本能的に死角に入られると警戒してしまうのだろう。
でも私はあえていつも尾形さんの右側に立つ。
なるべく役に立ちたいとの考えからだったが、最悪弾除けにでも使ってもらえれば本望だった。
「何が言いたい。」
苛立ちすら感じる言い方に、逆に笑ってしまった。
無視することもできるのに律儀に会話に付き合ってくれるのだから、最初の頃よりは大分懐かれていると判断しても自惚れにならないだろう。
「入れ目、作りに行きませんか?」
入れ目とは「義眼」のことである。
尾形さんは眉間に皺を寄せた。
見た目を気にしている場合じゃない、とでも言いたいのだろう。
察しのついた私は先回りして続けた。
「分かってますよ。でも無駄じゃないと思います。今後ずっと目元に布を巻くつもりですか?ケガ人は嫌でも目立つものです。狙撃手が目立ってしまっては行動に支障が出ますよね?」
私がそう告げると、尾形さんは一旦私から目線を外した。
左目がどこか遠くの方を見るような様子を見せてから、またこちらに戻って私の姿を捉える。
その様子を私はじっと見つめていた。
「わかった。でもそんな金などないだろう。」
尾形さんが納得してくれたので、心の中でガッツポーズをした。
つい得意げになって懐から小包を取り出す。
そこにはこの時代の通貨があった。
「どこから盗んだ。」
間髪入れずにそう問われて、私はついムキになって返す。
「そんなわけないでしょ!第七師団にいた頃のお給金と、ここに来てから色々家事をしたり情報を得る度に土方さんからお小遣いをもらって貯金してました。これだけあれば、たぶん入れ目を作れると思います。」
そう告げると尾形さんは少しだけ怪訝そうな表情をした。
「……自分で使え。」
「だから!私は自分の意思で、尾形さんの入れ目を作るって決めたんです!」
尾形さんに限って察しが悪いわけがない。
絶対に遠慮しているんだと分かっていたので、私は語気を強めて言い切った。
私の強情な態度を見て諦めたのか、尾形さんは小さく頷いた。
そんなこんなで私たちは街へと向かう。
明治時代に義眼があるなんて私は知らなかったが、土方さんが腕の良い先生を紹介してくださった。
この時代では硝子を使用した義眼が流通しているようだ。
驚いたことにドイツ製の手作り義眼が輸入されているという。
傷の状態を見て問題ないとのことで、今日は瞳の色やサイズなどを計測し、数日でできると言われた。
手付金を払って、残りは義眼を合わせてみてからとなった。
拠点となっている屋敷へ戻る道中、尾形さんが口を開いた。
「何か欲しいものはあるか?」
「え?」
尾形さんの言葉にきょとん、としてしまう。
話の流れなど何もなかったし、尾形さんはいつも急に言い出す。
私が戸惑っていると尾形さんが顔を逸らした。
尾形さんの死角を守るように右側にいた私は、ちょっと顔を逸らされると彼の表情のすべてが見えなくなってしまう。
表情から推理しようと思っていたのに、いよいよ何が言いたいかわからなくなってしまった。
「……俺の右目の分、何かやる。」
そう呟かれて私は驚いてしまって、咄嗟に尾形さんの顔に手を伸ばした。
ビクッとあからさまに警戒した様子の尾形さんが身じろいだが、尾形さんの額に手を当てる。
「熱は……ないですね。」
私がそう呟くと、尾形さんは明らかにイラッとした表情を浮かべた。
尾形さんの額に当てた手を掴まれ、ぐい、と引き寄せられる。
必死に踏ん張ったが力では敵わず彼の腕の中へ。
「いい度胸だ。」
低く耳元で囁かれ、私は思わず身を固くする。
屋敷も近いというのになんとまあ大胆なことをするのだろうか。
そうは言っても私はこれまで尾形さんに散々抱き枕にされているので、今や土方さんたちはこれくらいでは驚かないかもしれないが。
尾形さんは私の軍服の襟元を片手で乱暴に乱し、首を露わにした。
そして私の耳からそのまま首元へと口を移動させ、いつかの時のようにまた首元に吸い付いた。
数秒間強く吸い上げられて、首元に痛みが走った。
「いッ、たい、んですけど……?」
抗議の声を上げると、尾形さんはははあ、と笑いながら私を解放した。
今の私はきっと赤面していることだろう。
でも恥ずかしいだけじゃなくて、嬉しくも思っているのだから重症だ。
「欲しいもん、考えとけよ。」
そう伝えて尾形さんは先に屋敷へと戻って行った。
欲しいもんなんか、ない。
一緒にいてくれればそれだけでいいのに。
そんなこと言えるわけもなく。
私は顔の熱が引くのを待ってから、襟元を正して屋敷へと戻って行った。
おわり。
【あとがき:尾形に貢ぐ夢主が書きたかった。あとキスマって数日で消えちゃうからここらで追加。】