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出会い/宇佐美
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出会い/宇佐美
ある日、任務で出かけている鶴見中尉のお部屋の掃除をしていると、バタバタバタと大きな足音が近づいてきた。
それと一緒にハアハアと興奮したような息遣いも近づいてきている。
こんなに音が聞こえるなんて、掃除のために扉を開けていたからだろうか。
変態が出没したのかと思って私は持っていたホウキを身構えた。
足音は中尉の部屋の近くでキュッと止まって、そのあと深呼吸が聞こえてきた。
まだ音の主の姿は見えない。
ドキドキしながら待ち構えていると、軍服が見えてきた。
一瞬、尾形さんかと思った。軍服が上等兵のものだったからだ。
「は?」
その足音の主は、私を見ると声をあげた。
両頬に左右対称のホクロがある。
目は大きく、唇の真ん中がややとがった印象だ。
恐る恐る声をかけてみた。
「あ、あの……何か御用でしょうか。」
「鶴見中尉に女がいるー!?」
そう叫ばれて、私はビクッと肩を震わせた。
声の大きさもそうだが、それよりも彼の剣幕が恐ろしかった。
彼はまるで今にも殴りかかろうとしている拳を抑えるように、ブルブルと震わせている。
私は恐怖で声が裏返りながら、一生懸命言い訳をする。
「ち、違います。女中として雇われていまして……。」
「はあ!?そんなわけないじゃん!」
なんだかこの感覚、尾形さんに拾われた時を思い出すな。
あの時も撃たれるかと思った。
「ほ、本当なんです……。私、記憶喪失でして、尾形さんに森で拾われて、そのあと中尉が雇ってくださって……。」
私が尾形さんの話をするとその男性はただでさえ大きい丸い目を見開いた。
「百之助ェ?本当だろうな、あとで裏取りするからな。」
「ど、どうぞ……。」
尾形さんとはお知り合いなのだろうか。
上等兵同士、交流があるのかもしれない。
尾形さんは自分の友人関係なんかまったく教えてくださらないから、私が知らないことも無理はない。
ホウキを握りしめたまま硬直する私を、ジロジロと見ながら一周したその男性は、フン、と鼻息を吐いた。
「まあいいけど。鶴見中尉の一番は僕だからな。」
そう言われて私はコクコクと頷くことしかできなかった。
私が素直に頷くと満足したのか、彼はニッコリと笑った。
「わかればいいんだ。僕は宇佐美。キミは?」
「わ、私は夢主と申します。住み込みの女中として働いています。よろしくお願い致します。」
切り替えの早さに驚いてしまったが、ホウキを置いて両手を揃えて佇まいを直し、深くお辞儀をした。
「ふぅん、鶴見中尉のことだからきっと何か狙いがあるんだろうね。」
そう呟いた宇佐美さんは、私の顔をじっと見つめていた。
気まずかったので私はにっこりと営業スマイルを浮かべて話題を変えた。
「……えっと、宇佐美さんは任務帰りでしょうか。鶴見中尉は只今出張中ですので、お帰りは早くても明日になるかと思いますよ。」
「そっかぁ残念。」
宇佐美さんは元来は素直な性格のようだ。
でも攻撃的な面も持っていることを忘れないようにしないと。
そこで宇佐美さんが良いことを思いついたと言わんばかりにぽん、と両手を打った。
「ね、仕事終わったらちょっと話さない?僕が任務でいない間の中尉のこと教えてよ。」
「え?ええ、大したお話はできませんが……かまいませんよ。あの、掃除がありますので半刻ほどいただけますか?」
お誘いうれしいものの、仕事がまだ残っている。
恐る恐るといった様子で聞いてみると、快諾してくださった。
「いいよ、僕も任務で使った荷物の整理があるからさ。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、終わったら食堂で待っててね。」
「はい。」
そんなやりとりをして、私は掃除に戻った。
急いで掃除を終えて食堂へ向かった。
宇佐美さんはまだのようだ。
お茶の用意をしていると、尾形さんがやってきた。
「あら、尾形さん。」
尾形さんは面倒臭そうにため息をついていた。
「……宇佐美に呼ばれた。」
「そうですか。先ほど、私もお会いしたんですよ。」
尾形さんは何も答えず座った。
私も尾形さんの分の湯呑を追加してお茶の用意を続ける。
少しして宇佐美さんがやってきた。
「お待たせ。」
「呼んどいてそれか。いい身分だな。」
颯爽と嫌味を放つ尾形さんに少し笑ってしまった。
尾形さんは誰に対しても辛辣な態度を取りがちだが、宇佐美さんには多少気心が知れているのだろうか、軽快な口調だった。
「まあね。」
尾形さんの目の前に座った宇佐美さん。
嫌味の受け流しに慣れている。
「お疲れ様でした。お茶をどうぞ。あとこれ、昨日おやつにおせんべい作ってみたんです。他の皆さんには内緒ですよ。」
私が二人の前にお茶とお茶菓子を出して、何の気なしに尾形さんの隣に腰を下ろす。
すると宇佐美さんがカッと目を見開いた。
「なに!?付き合ってんの!?」
「「は?」」
私と尾形さんの声が重なった。
そんなわけないじゃない。だって尾形さんは私にも嫌味しか言わないし、私たち会話もなければまともな信頼関係も築けてないのに。
「まさか。ありえないですよ。ねえ?」
私が否定して尾形さんの方を見やると、あからさまに不機嫌そうな顔をした尾形さんに睨まれた。
むぅ、そんな顔をするほどイヤなのね。
「ほら、尾形さんこんな顔になっちゃってるじゃないですか。宇佐美さんったら、変なこと言わないでください。」
ふぅん、と宇佐美さんは私たちを見ていたものの、彼は何が楽しかったのかケラケラと笑っておせんべいに手を伸ばす。
「そうなの?なんかごめんね。」
そう謝ったものの、バリバリとおせんべいを食べているその様子からは謝罪の気持ちが読み取れない。
それどころか、宇佐美さんは少しだけ身を乗り出して私を意味深に見つめた。
「じゃあさ、僕と付き合う?百之助よりはずっと優しくするよ?」
冗談。
第一印象であんな狂気を見せられて付き合えるわけがない。
目の前に地雷が転がっているのに走り出すようなものだ。
「いえいえ、私にはお仕事がありますから……。」
「そう?」
なんとか宇佐美さんを逆なでしないように穏便に断った。
心なしか尾形さんからも殺気のようなものを感じていたが、私が丁重に断ると少しだけ殺気が引っ込んだように感じた。
そのあとの宇佐美さんは私から中尉の話を聞く名目だったのに、楽しそうに鶴見中尉の凄さ・良さを延々と語っていた。
尾形さんは相槌も打たずに無言でおせんべいにかじりつき、時折じっとこちらを見つめていた。
おわり。
【あとがき:本編ではあんまり絡みなかったもんね。面識作ってあげました。】
ある日、任務で出かけている鶴見中尉のお部屋の掃除をしていると、バタバタバタと大きな足音が近づいてきた。
それと一緒にハアハアと興奮したような息遣いも近づいてきている。
こんなに音が聞こえるなんて、掃除のために扉を開けていたからだろうか。
変態が出没したのかと思って私は持っていたホウキを身構えた。
足音は中尉の部屋の近くでキュッと止まって、そのあと深呼吸が聞こえてきた。
まだ音の主の姿は見えない。
ドキドキしながら待ち構えていると、軍服が見えてきた。
一瞬、尾形さんかと思った。軍服が上等兵のものだったからだ。
「は?」
その足音の主は、私を見ると声をあげた。
両頬に左右対称のホクロがある。
目は大きく、唇の真ん中がややとがった印象だ。
恐る恐る声をかけてみた。
「あ、あの……何か御用でしょうか。」
「鶴見中尉に女がいるー!?」
そう叫ばれて、私はビクッと肩を震わせた。
声の大きさもそうだが、それよりも彼の剣幕が恐ろしかった。
彼はまるで今にも殴りかかろうとしている拳を抑えるように、ブルブルと震わせている。
私は恐怖で声が裏返りながら、一生懸命言い訳をする。
「ち、違います。女中として雇われていまして……。」
「はあ!?そんなわけないじゃん!」
なんだかこの感覚、尾形さんに拾われた時を思い出すな。
あの時も撃たれるかと思った。
「ほ、本当なんです……。私、記憶喪失でして、尾形さんに森で拾われて、そのあと中尉が雇ってくださって……。」
私が尾形さんの話をするとその男性はただでさえ大きい丸い目を見開いた。
「百之助ェ?本当だろうな、あとで裏取りするからな。」
「ど、どうぞ……。」
尾形さんとはお知り合いなのだろうか。
上等兵同士、交流があるのかもしれない。
尾形さんは自分の友人関係なんかまったく教えてくださらないから、私が知らないことも無理はない。
ホウキを握りしめたまま硬直する私を、ジロジロと見ながら一周したその男性は、フン、と鼻息を吐いた。
「まあいいけど。鶴見中尉の一番は僕だからな。」
そう言われて私はコクコクと頷くことしかできなかった。
私が素直に頷くと満足したのか、彼はニッコリと笑った。
「わかればいいんだ。僕は宇佐美。キミは?」
「わ、私は夢主と申します。住み込みの女中として働いています。よろしくお願い致します。」
切り替えの早さに驚いてしまったが、ホウキを置いて両手を揃えて佇まいを直し、深くお辞儀をした。
「ふぅん、鶴見中尉のことだからきっと何か狙いがあるんだろうね。」
そう呟いた宇佐美さんは、私の顔をじっと見つめていた。
気まずかったので私はにっこりと営業スマイルを浮かべて話題を変えた。
「……えっと、宇佐美さんは任務帰りでしょうか。鶴見中尉は只今出張中ですので、お帰りは早くても明日になるかと思いますよ。」
「そっかぁ残念。」
宇佐美さんは元来は素直な性格のようだ。
でも攻撃的な面も持っていることを忘れないようにしないと。
そこで宇佐美さんが良いことを思いついたと言わんばかりにぽん、と両手を打った。
「ね、仕事終わったらちょっと話さない?僕が任務でいない間の中尉のこと教えてよ。」
「え?ええ、大したお話はできませんが……かまいませんよ。あの、掃除がありますので半刻ほどいただけますか?」
お誘いうれしいものの、仕事がまだ残っている。
恐る恐るといった様子で聞いてみると、快諾してくださった。
「いいよ、僕も任務で使った荷物の整理があるからさ。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、終わったら食堂で待っててね。」
「はい。」
そんなやりとりをして、私は掃除に戻った。
急いで掃除を終えて食堂へ向かった。
宇佐美さんはまだのようだ。
お茶の用意をしていると、尾形さんがやってきた。
「あら、尾形さん。」
尾形さんは面倒臭そうにため息をついていた。
「……宇佐美に呼ばれた。」
「そうですか。先ほど、私もお会いしたんですよ。」
尾形さんは何も答えず座った。
私も尾形さんの分の湯呑を追加してお茶の用意を続ける。
少しして宇佐美さんがやってきた。
「お待たせ。」
「呼んどいてそれか。いい身分だな。」
颯爽と嫌味を放つ尾形さんに少し笑ってしまった。
尾形さんは誰に対しても辛辣な態度を取りがちだが、宇佐美さんには多少気心が知れているのだろうか、軽快な口調だった。
「まあね。」
尾形さんの目の前に座った宇佐美さん。
嫌味の受け流しに慣れている。
「お疲れ様でした。お茶をどうぞ。あとこれ、昨日おやつにおせんべい作ってみたんです。他の皆さんには内緒ですよ。」
私が二人の前にお茶とお茶菓子を出して、何の気なしに尾形さんの隣に腰を下ろす。
すると宇佐美さんがカッと目を見開いた。
「なに!?付き合ってんの!?」
「「は?」」
私と尾形さんの声が重なった。
そんなわけないじゃない。だって尾形さんは私にも嫌味しか言わないし、私たち会話もなければまともな信頼関係も築けてないのに。
「まさか。ありえないですよ。ねえ?」
私が否定して尾形さんの方を見やると、あからさまに不機嫌そうな顔をした尾形さんに睨まれた。
むぅ、そんな顔をするほどイヤなのね。
「ほら、尾形さんこんな顔になっちゃってるじゃないですか。宇佐美さんったら、変なこと言わないでください。」
ふぅん、と宇佐美さんは私たちを見ていたものの、彼は何が楽しかったのかケラケラと笑っておせんべいに手を伸ばす。
「そうなの?なんかごめんね。」
そう謝ったものの、バリバリとおせんべいを食べているその様子からは謝罪の気持ちが読み取れない。
それどころか、宇佐美さんは少しだけ身を乗り出して私を意味深に見つめた。
「じゃあさ、僕と付き合う?百之助よりはずっと優しくするよ?」
冗談。
第一印象であんな狂気を見せられて付き合えるわけがない。
目の前に地雷が転がっているのに走り出すようなものだ。
「いえいえ、私にはお仕事がありますから……。」
「そう?」
なんとか宇佐美さんを逆なでしないように穏便に断った。
心なしか尾形さんからも殺気のようなものを感じていたが、私が丁重に断ると少しだけ殺気が引っ込んだように感じた。
そのあとの宇佐美さんは私から中尉の話を聞く名目だったのに、楽しそうに鶴見中尉の凄さ・良さを延々と語っていた。
尾形さんは相槌も打たずに無言でおせんべいにかじりつき、時折じっとこちらを見つめていた。
おわり。
【あとがき:本編ではあんまり絡みなかったもんね。面識作ってあげました。】