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風邪っ引き/尾形
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風邪っ引き
どうも夢主だよ。
私は普通のOLだったはずなのですが、今は大日本帝国陸軍の第七師団歩兵第27聯隊にいます。
もちろん兵士ではなく、女中という形で雇われていますが、そのこと自体がかなり例外的なことだと思います。
現代日本とのギャップが埋まらず苦戦しています。
人前ではなるべく外来語を使わずに、また軍人さんの中で働くわけですから、女性らしく慎ましく丁寧な言い回しをしなければ失礼に当たるだろうと考え、この時代の暮らしを勉強しながら生活をしています。
「ふぅ~やれやれ。三種の神器はまだかしらねぇ。」
今日も今日とて重労働の家事。
疲れは残っているし、心なしかいつもより身体が重い。でも休んでいる場合ではない。
やることは大量にあるのだ。
「さてと。」
手作業でのお洗濯を終え、次はお掃除をしなくてはと休む間もなく立ち上がろうとしたとき、私は突然めまいを覚える。
地面が揺れたような感覚に思わず座り込んでしまった。
足元ではお洗濯に使っていた桶を倒してしまったのか、バシャッと水がこぼれる音がした。
ただの立ち眩みだろうと思っていたのだが、ぐわんぐわんと地面が回るような感覚がする。
「やば……。」
そう呟きながら近くにあった壁に手をついてうずくまっていると、誰かが私に駆け寄ってきた。
「夢主?おい。どうした。」
顔は見ていないが、声の主は尾形さんだと確信した。
私が座り込む様子をどこから見ていたのか、尾形さんが私の肩に触れた。
やや焦ったような声を聞いて、「珍しいな」と感じる余裕が私にはなぜかあった。
尾形さんはいつも顔を合わせれば文句や嫌味しか言わないのに。
どうせならその焦った顔を見てやろう、と思って視線を上げたが、尾形さんの表情を見る前に私は意識を失った。
目を覚ますと私は医務室のベッドにいた。
「?」
あれどうしてたんだっけ、と思って視線だけであたりの状況を伺う。
頭がガンガンするしぼーっとして、なんだか顔や身体が熱い。
これは風邪を引いてしまったな……と直感で理解した。
この時代の流行り病ではないことを祈る。
その前に抗生物質とかワクチンって手に入るのだろうか。
どのみち自力で治すしかないのかも……とくらくらする頭で考えた。
とりあえず誰かいないかと声を出そうとしたけれど、掠れて全然声にならなかった。
「うぅ……。」
小さく唸っていると、医務室の扉が開いた。
そちらへ視線をやると鶴見中尉が入ってきていた。後ろには月島さんが控えている。
「意識はあるようだな……夢主くん、体調はどうかね?」
こちらをのぞき込む鶴見中尉。
熱で視界が潤む中、必死に「申し訳ありません」と小さな声で繰り返した。
中尉は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにフッと笑うと優しく私の頭を撫でた。
「仕事のことなら気にするな。元気になるまで、ゆっくり休んでくれたまえ。」
頭を撫でられたことで安心してしまった私はほっと息を吐いて眠ってしまった。
夢主が眠ったのを確認してから、鶴見は「月島軍曹」と呼びかけた。
月島が短く返事をすると鶴見は「あとで医者を呼ぶように。」と短く言って部屋を後にした。
残された月島は、夢主の顔を少し見つめた後、すぐに鶴見の後を追った。
再度気が付くと外が暗くなっていた。
「もう夜になってしまったのか」と私はまだ熱っぽい頭を押さえて起き上がろうとする。
熱で身体に力が入らなくて、踏ん張って起き上がろうとしていると、誰かが手を貸してくれて「ありがとうございます」と無意識にその手を借りていた。
そこで他者の存在にハッと気が付いてそちらを見た。
「なんだ。」
そこには突然驚いたリアクションをした私に不服そうな顔をしている尾形さんがいた。
「な、んで……。」
掠れた声で呟く私を起き上がらせながら、尾形さんが「俺がお前を見つけたんだぞ」と得意げになって言う。
「ご、ご迷惑をおかけしてすみません。ありがとうございます。」
声が出にくいためところどころ変な発音になってしまったが、頭を下げて謝罪とお礼をする。
尾形さんは私に水差しから湯呑へ注いだ水を差し出した。
震える手で湯呑を受け取ると、ごくごくと飲み干す。久しぶりに水を飲んだ気がする。
尾形さんは私のベッドの隣に腰かけていた。
私もまだくらくらするので再度ベッドに横になることにした。
自分では布団を上まで持ち上げる力もなくて、結局尾形さんが布団をかけてくれた。
「すみません。」
小さな声で言いながら視線を上げると、尾形さんはやや嬉しそうにこちらを見下ろしていた。
「な、なにか……?」
尾形さんがご機嫌なだけで、なんだか嫌な予感がする。
心臓はバクバクだし、頭がガンガンするのもそのせいだろうか。
尾形さんはこちらに顔を寄せると、息が吹きかかるほど近い距離で囁いた。
「なぁ、この時代に未来人に効く薬があると思うか?夢主、お前、ここで死ぬ可能性もあるぞ。」
なんでこの人は弱った病人に追い打ちをかけるような非道なことができるんだ。
いつもなら多少は言い返すところだけれど、ショックを受けてしまった。
私が黙り込むと、意外そうな顔で尾形さんは観察していた。
自分の顎鬚を撫でるように顎に手を置き、静かにじっとこちらを見つめている。
私の出方を待っているのかもしれない。
しかし。
「ふふ。」
なんだか自然と笑みがこぼれた。
私は普段から尾形さんが第七師団の中で目立たないようにしていることは知っている。
つまり、わざわざ嫌味を言うためだけに私の傍に来るメリットがない。
きっと素直じゃないだけで私を心配して傍に来てくれたのだろうと考えてしまい、力なく笑った。
そんな私に尾形さんは気でも触れたか、と言わんばかりに不信感を持った眼差しを向けている。
熱で浮かれた脳みその私は、気付けば普段なら絶対にしないようなことを口にしていた。
「じゃあ、その後は尾形さんが未来の私に会いに来てくださいね。絶対ですよ。」
力が入らないこともあったが、心なしかうっとりとした声になってしまった。
尾形さんはしばらく呆然とした様子で黙り込んでいた。
「……未来人のくせに。」
ぼそ、と文句を言った尾形さん。
その表情は見えなかったが、きっと呆れた顔をしているのだろう。
尾形さんの手が優しく私の頬に触れる。
その手がひんやりと冷たくて気持ちがよかったので、私はすり寄るように頬を寄せて、尾形さんの手を握ったまま眠ってしまった。
おわり。
【あとがき:その状態を誰かに見つかればいいと思う。】
どうも夢主だよ。
私は普通のOLだったはずなのですが、今は大日本帝国陸軍の第七師団歩兵第27聯隊にいます。
もちろん兵士ではなく、女中という形で雇われていますが、そのこと自体がかなり例外的なことだと思います。
現代日本とのギャップが埋まらず苦戦しています。
人前ではなるべく外来語を使わずに、また軍人さんの中で働くわけですから、女性らしく慎ましく丁寧な言い回しをしなければ失礼に当たるだろうと考え、この時代の暮らしを勉強しながら生活をしています。
「ふぅ~やれやれ。三種の神器はまだかしらねぇ。」
今日も今日とて重労働の家事。
疲れは残っているし、心なしかいつもより身体が重い。でも休んでいる場合ではない。
やることは大量にあるのだ。
「さてと。」
手作業でのお洗濯を終え、次はお掃除をしなくてはと休む間もなく立ち上がろうとしたとき、私は突然めまいを覚える。
地面が揺れたような感覚に思わず座り込んでしまった。
足元ではお洗濯に使っていた桶を倒してしまったのか、バシャッと水がこぼれる音がした。
ただの立ち眩みだろうと思っていたのだが、ぐわんぐわんと地面が回るような感覚がする。
「やば……。」
そう呟きながら近くにあった壁に手をついてうずくまっていると、誰かが私に駆け寄ってきた。
「夢主?おい。どうした。」
顔は見ていないが、声の主は尾形さんだと確信した。
私が座り込む様子をどこから見ていたのか、尾形さんが私の肩に触れた。
やや焦ったような声を聞いて、「珍しいな」と感じる余裕が私にはなぜかあった。
尾形さんはいつも顔を合わせれば文句や嫌味しか言わないのに。
どうせならその焦った顔を見てやろう、と思って視線を上げたが、尾形さんの表情を見る前に私は意識を失った。
目を覚ますと私は医務室のベッドにいた。
「?」
あれどうしてたんだっけ、と思って視線だけであたりの状況を伺う。
頭がガンガンするしぼーっとして、なんだか顔や身体が熱い。
これは風邪を引いてしまったな……と直感で理解した。
この時代の流行り病ではないことを祈る。
その前に抗生物質とかワクチンって手に入るのだろうか。
どのみち自力で治すしかないのかも……とくらくらする頭で考えた。
とりあえず誰かいないかと声を出そうとしたけれど、掠れて全然声にならなかった。
「うぅ……。」
小さく唸っていると、医務室の扉が開いた。
そちらへ視線をやると鶴見中尉が入ってきていた。後ろには月島さんが控えている。
「意識はあるようだな……夢主くん、体調はどうかね?」
こちらをのぞき込む鶴見中尉。
熱で視界が潤む中、必死に「申し訳ありません」と小さな声で繰り返した。
中尉は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにフッと笑うと優しく私の頭を撫でた。
「仕事のことなら気にするな。元気になるまで、ゆっくり休んでくれたまえ。」
頭を撫でられたことで安心してしまった私はほっと息を吐いて眠ってしまった。
夢主が眠ったのを確認してから、鶴見は「月島軍曹」と呼びかけた。
月島が短く返事をすると鶴見は「あとで医者を呼ぶように。」と短く言って部屋を後にした。
残された月島は、夢主の顔を少し見つめた後、すぐに鶴見の後を追った。
再度気が付くと外が暗くなっていた。
「もう夜になってしまったのか」と私はまだ熱っぽい頭を押さえて起き上がろうとする。
熱で身体に力が入らなくて、踏ん張って起き上がろうとしていると、誰かが手を貸してくれて「ありがとうございます」と無意識にその手を借りていた。
そこで他者の存在にハッと気が付いてそちらを見た。
「なんだ。」
そこには突然驚いたリアクションをした私に不服そうな顔をしている尾形さんがいた。
「な、んで……。」
掠れた声で呟く私を起き上がらせながら、尾形さんが「俺がお前を見つけたんだぞ」と得意げになって言う。
「ご、ご迷惑をおかけしてすみません。ありがとうございます。」
声が出にくいためところどころ変な発音になってしまったが、頭を下げて謝罪とお礼をする。
尾形さんは私に水差しから湯呑へ注いだ水を差し出した。
震える手で湯呑を受け取ると、ごくごくと飲み干す。久しぶりに水を飲んだ気がする。
尾形さんは私のベッドの隣に腰かけていた。
私もまだくらくらするので再度ベッドに横になることにした。
自分では布団を上まで持ち上げる力もなくて、結局尾形さんが布団をかけてくれた。
「すみません。」
小さな声で言いながら視線を上げると、尾形さんはやや嬉しそうにこちらを見下ろしていた。
「な、なにか……?」
尾形さんがご機嫌なだけで、なんだか嫌な予感がする。
心臓はバクバクだし、頭がガンガンするのもそのせいだろうか。
尾形さんはこちらに顔を寄せると、息が吹きかかるほど近い距離で囁いた。
「なぁ、この時代に未来人に効く薬があると思うか?夢主、お前、ここで死ぬ可能性もあるぞ。」
なんでこの人は弱った病人に追い打ちをかけるような非道なことができるんだ。
いつもなら多少は言い返すところだけれど、ショックを受けてしまった。
私が黙り込むと、意外そうな顔で尾形さんは観察していた。
自分の顎鬚を撫でるように顎に手を置き、静かにじっとこちらを見つめている。
私の出方を待っているのかもしれない。
しかし。
「ふふ。」
なんだか自然と笑みがこぼれた。
私は普段から尾形さんが第七師団の中で目立たないようにしていることは知っている。
つまり、わざわざ嫌味を言うためだけに私の傍に来るメリットがない。
きっと素直じゃないだけで私を心配して傍に来てくれたのだろうと考えてしまい、力なく笑った。
そんな私に尾形さんは気でも触れたか、と言わんばかりに不信感を持った眼差しを向けている。
熱で浮かれた脳みその私は、気付けば普段なら絶対にしないようなことを口にしていた。
「じゃあ、その後は尾形さんが未来の私に会いに来てくださいね。絶対ですよ。」
力が入らないこともあったが、心なしかうっとりとした声になってしまった。
尾形さんはしばらく呆然とした様子で黙り込んでいた。
「……未来人のくせに。」
ぼそ、と文句を言った尾形さん。
その表情は見えなかったが、きっと呆れた顔をしているのだろう。
尾形さんの手が優しく私の頬に触れる。
その手がひんやりと冷たくて気持ちがよかったので、私はすり寄るように頬を寄せて、尾形さんの手を握ったまま眠ってしまった。
おわり。
【あとがき:その状態を誰かに見つかればいいと思う。】
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