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第九話 ヒロイン着替える
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第九話 ヒロイン着換える
人質になる事件から数日後、私は鶴見中尉の部屋に呼ばれた。
うう、またお叱りとかあるかな……いや、前も怒られてはいないし、今回は何なら人質になったけど悪いことはしてないはず。
びくびくしながらノックすると、扉の向こうから「どうぞ」と鶴見中尉の声。
声色からして怒ってはいないだろうと判断して、勇気を出して入った。
「失礼します。」
「やあ夢主くん、首のけがは大丈夫かい?」
鶴見中尉は私をソファに誘導する。
いつものことだがその立ち振る舞いにクラッと来ない女はいないと思う。
「はい、浅い傷でしたから、すぐに塞がりました。」
「月島軍曹が一度手当したのに夢主くんが傷口をいじくって、また傷が開いたと言っていたよ。」
「そ、それは……誤解です。」
フフフ、と鶴見中尉は楽しげに笑う。
良かった、怒っているわけではなさそうだ。
ほっとしていると鶴見中尉は私に見せたいものがある、と言って奥の部屋に消えていった。
そして戻ってきた鶴見中尉の手にあったのは、衣服のようだ。
色や素材から判断するに、軍服のように見える。
「これは……?」
不思議そうに首を傾げていると鶴見中尉は私に軍服を手渡す。
そしてにこやかな顔のままこう言った。
「これからはこれを着て働きなさい。」
「えぇっ、でもこれ、軍服では……?」
驚いていると、鶴見中尉は語り掛けるように優しい口調で言った。
「もうこの間のように夢主くんが危ない目に遭うのは御免だからね。もちろん傍にいてあげられるときは全力で守ってあげよう。でも、万一のときのために……これからはこれを着て、月島軍曹や鯉登少佐に武術剣術の稽古を受けてもらおうと思う。ああ、銃もあるから……やはり天才的な軍神の子孫、尾形上等兵はどうだろうか。」
「それでは皆様の仕事の邪魔になってしまいます。」
慌てて答えると鶴見中尉は私の手をとる。
「もちろん毎日とはいかないと思う。でも時間を作らせるからぜひやってくれ。もちろん今やっている女中としての仕事はその日は少し早めに終わらせて良いからね。」
その眼差しは真剣だった。
狼狽えたけれど、チャンスだ。
本当は戦闘になっても足手まといになりたくなかった。これなら尾形さんの役に立てる。
打算的なことはさておき、鶴見中尉のお気持ちがとても嬉しかった。
鶴見中尉が重ねられた手を、きゅっと握り返す。
「鶴見中尉……ありがとうございます。私、精進致します。」
「うんうん、では指導にあたる者には私から言っておくからね。ああ、あと靴とか帽子とか小物はこっちの袋にあるからね。」
軍服を受け取って私は自分の部屋に戻る。
真新しい服を広げて私は愕然とした。
「なにこれショートパンツじゃん!!!」
久々に独り言を言ってしまった。
しかもかなり大きな声で。
しかし考えても見てほしい。普段見慣れた軍服とは違う、ショートパンツだぞ。この時代に先取りしすぎではないのか!?
一旦冷静になって袖の腕章を見てみると一本線なので、階級はたしか一番下の2等兵だ。
肩章も27と入っている。鶴見中尉の率いる隊のものだ。
紺絨の上着は私の体格に合うようにほかの兵士のものよりは小さめに作られているようだが、やや着丈が長くなる。袖も少し長めである。
中に着るワイシャツすら少し大きめかも、といった具合だ。
そして問題のショートパンツ。
素材こそ、上着と同じものであるが、何より問題は丈!!
上着の丈が長めである分、余計にショートパンツが短く感じる。
正面から見たらショートパンツが上着の裾から僅かに見える程度だ。
女で正式な兵じゃないから何しても良いと思っているのかしら?
ちょっと待ってよ。
このクッソ寒い北海道で太もも晒して生きろってこと!?
確かに北海道のJKは生足でも生きていけるみたいな話聞いたことあるけど、社会人の私にはもうそんな万能な身体はない。
困惑しながらあちこち漁って普通のズボンを探していると、服の間から今で言うレックカバーみたいな白いものが落ちてきた。
これはゲートルだな?
でも男の人のやつより長い気がする。
悶々としながら他にも異変はないかと恐る恐る紙袋をまさぐると奥からアンクルブーツが出てくる。
いやこれ、アンクルじゃないな。
よく見たらニーハイブーツだ。
ショートパンツと言い、やっぱり先取りしすぎではないか?
ショートパンツでは寒いと考えてブーツで帳尻合わせてくれたのだろうか。
なんて無駄な気遣い。
他にも軍帽や手袋、尾形さんの羽織っているフード付きのポンチョみたいなやつ(外套というらしい)も入っていた。
とりあえず一通り着てみる。
うん、やはり生足晒してる部分(絶対領域っていうんだっけ?)以外は問題はなかった。
なんとかして鶴見中尉に普通のズボンをいただかなくては。
軍服をまとったまま再度鶴見中尉のもとを訪ねると、鶴見中尉は似合うじゃないか!とべた褒めだった。
いや、そうじゃなくて……と遮る暇もなく、相当褒め殺されて何も言えなくなって戻ってきてしまった。
結局手柄はなく、トボトボと部屋に帰る途中。
バサバサッと音がしたので振り返ると、書類を落とした月島さんに遭遇した。
「大丈夫ですか月島さん!」
慌てて月島さんの足元の書類を集める。
彼もハッとした様子で少し遅れて書類を拾い始めた。
しかし動揺しているのか、手元が震えている。
「あの……夢主さん、その恰好……。」
「鶴見中尉に今日いただいたものなんです。お見苦しいものをお見せしてしまってすみません。」
「……よくお似合いです。」
「えっ?あ、ありがとうございます。」
んもう、月島さんはいつだって褒めてくれるなあ。……ん?
「ロシア語……?」
月島さんが落とした本や書類の中に、ロシア語のものが多く、目に留まった。
ぴく、と月島さんの手が止まる。
「夢主さん、ロシア語がわかるんですか?」
「いえ、実は少し勉強しかけて、挫折しました。また勉強したいのですがね……一人では難しくて……お恥ずかしい。」
なんとも情けない話をしてしまった。
気まずそうに笑ってごまかしていると、月島さんは書類を綺麗に整えながら少し考え込んでいた。
「ロシア語……よければお教えします。」
「えっ、いいんですか?」
「はい、夢主さんにはお世話になってますから……。」
「そんな……私の方こそご迷惑をおかけしてばかりで……。」
有難いことにロシア語の先生ができた。
そのあとは月島さんの仕事をお手伝いしながら雑談していた。
月島さんは私に稽古をつけることも知っていたようで、手厳しくお願いしますと頭を下げると、月島さんは本気でお教えしますと答えてくれた。
よし、早く強くなって、役に立つぞ。
でもなんだか、鶴見中尉を裏切ることが大前提なので、心の奥で罪悪感が湧き上がり申し訳なくなった。
途中で鯉登さんが戻ってきて、私の姿を見るなり「キエエ!」と叫んでどこかへ逃げて行った。
なんだったのだろう、と月島さんに目配せするが、月島さんはため息をつくだけだった。
【あとがき:寒すぎるのでショートパンツの下にタイツをはくことにした。】
人質になる事件から数日後、私は鶴見中尉の部屋に呼ばれた。
うう、またお叱りとかあるかな……いや、前も怒られてはいないし、今回は何なら人質になったけど悪いことはしてないはず。
びくびくしながらノックすると、扉の向こうから「どうぞ」と鶴見中尉の声。
声色からして怒ってはいないだろうと判断して、勇気を出して入った。
「失礼します。」
「やあ夢主くん、首のけがは大丈夫かい?」
鶴見中尉は私をソファに誘導する。
いつものことだがその立ち振る舞いにクラッと来ない女はいないと思う。
「はい、浅い傷でしたから、すぐに塞がりました。」
「月島軍曹が一度手当したのに夢主くんが傷口をいじくって、また傷が開いたと言っていたよ。」
「そ、それは……誤解です。」
フフフ、と鶴見中尉は楽しげに笑う。
良かった、怒っているわけではなさそうだ。
ほっとしていると鶴見中尉は私に見せたいものがある、と言って奥の部屋に消えていった。
そして戻ってきた鶴見中尉の手にあったのは、衣服のようだ。
色や素材から判断するに、軍服のように見える。
「これは……?」
不思議そうに首を傾げていると鶴見中尉は私に軍服を手渡す。
そしてにこやかな顔のままこう言った。
「これからはこれを着て働きなさい。」
「えぇっ、でもこれ、軍服では……?」
驚いていると、鶴見中尉は語り掛けるように優しい口調で言った。
「もうこの間のように夢主くんが危ない目に遭うのは御免だからね。もちろん傍にいてあげられるときは全力で守ってあげよう。でも、万一のときのために……これからはこれを着て、月島軍曹や鯉登少佐に武術剣術の稽古を受けてもらおうと思う。ああ、銃もあるから……やはり天才的な軍神の子孫、尾形上等兵はどうだろうか。」
「それでは皆様の仕事の邪魔になってしまいます。」
慌てて答えると鶴見中尉は私の手をとる。
「もちろん毎日とはいかないと思う。でも時間を作らせるからぜひやってくれ。もちろん今やっている女中としての仕事はその日は少し早めに終わらせて良いからね。」
その眼差しは真剣だった。
狼狽えたけれど、チャンスだ。
本当は戦闘になっても足手まといになりたくなかった。これなら尾形さんの役に立てる。
打算的なことはさておき、鶴見中尉のお気持ちがとても嬉しかった。
鶴見中尉が重ねられた手を、きゅっと握り返す。
「鶴見中尉……ありがとうございます。私、精進致します。」
「うんうん、では指導にあたる者には私から言っておくからね。ああ、あと靴とか帽子とか小物はこっちの袋にあるからね。」
軍服を受け取って私は自分の部屋に戻る。
真新しい服を広げて私は愕然とした。
「なにこれショートパンツじゃん!!!」
久々に独り言を言ってしまった。
しかもかなり大きな声で。
しかし考えても見てほしい。普段見慣れた軍服とは違う、ショートパンツだぞ。この時代に先取りしすぎではないのか!?
一旦冷静になって袖の腕章を見てみると一本線なので、階級はたしか一番下の2等兵だ。
肩章も27と入っている。鶴見中尉の率いる隊のものだ。
紺絨の上着は私の体格に合うようにほかの兵士のものよりは小さめに作られているようだが、やや着丈が長くなる。袖も少し長めである。
中に着るワイシャツすら少し大きめかも、といった具合だ。
そして問題のショートパンツ。
素材こそ、上着と同じものであるが、何より問題は丈!!
上着の丈が長めである分、余計にショートパンツが短く感じる。
正面から見たらショートパンツが上着の裾から僅かに見える程度だ。
女で正式な兵じゃないから何しても良いと思っているのかしら?
ちょっと待ってよ。
このクッソ寒い北海道で太もも晒して生きろってこと!?
確かに北海道のJKは生足でも生きていけるみたいな話聞いたことあるけど、社会人の私にはもうそんな万能な身体はない。
困惑しながらあちこち漁って普通のズボンを探していると、服の間から今で言うレックカバーみたいな白いものが落ちてきた。
これはゲートルだな?
でも男の人のやつより長い気がする。
悶々としながら他にも異変はないかと恐る恐る紙袋をまさぐると奥からアンクルブーツが出てくる。
いやこれ、アンクルじゃないな。
よく見たらニーハイブーツだ。
ショートパンツと言い、やっぱり先取りしすぎではないか?
ショートパンツでは寒いと考えてブーツで帳尻合わせてくれたのだろうか。
なんて無駄な気遣い。
他にも軍帽や手袋、尾形さんの羽織っているフード付きのポンチョみたいなやつ(外套というらしい)も入っていた。
とりあえず一通り着てみる。
うん、やはり生足晒してる部分(絶対領域っていうんだっけ?)以外は問題はなかった。
なんとかして鶴見中尉に普通のズボンをいただかなくては。
軍服をまとったまま再度鶴見中尉のもとを訪ねると、鶴見中尉は似合うじゃないか!とべた褒めだった。
いや、そうじゃなくて……と遮る暇もなく、相当褒め殺されて何も言えなくなって戻ってきてしまった。
結局手柄はなく、トボトボと部屋に帰る途中。
バサバサッと音がしたので振り返ると、書類を落とした月島さんに遭遇した。
「大丈夫ですか月島さん!」
慌てて月島さんの足元の書類を集める。
彼もハッとした様子で少し遅れて書類を拾い始めた。
しかし動揺しているのか、手元が震えている。
「あの……夢主さん、その恰好……。」
「鶴見中尉に今日いただいたものなんです。お見苦しいものをお見せしてしまってすみません。」
「……よくお似合いです。」
「えっ?あ、ありがとうございます。」
んもう、月島さんはいつだって褒めてくれるなあ。……ん?
「ロシア語……?」
月島さんが落とした本や書類の中に、ロシア語のものが多く、目に留まった。
ぴく、と月島さんの手が止まる。
「夢主さん、ロシア語がわかるんですか?」
「いえ、実は少し勉強しかけて、挫折しました。また勉強したいのですがね……一人では難しくて……お恥ずかしい。」
なんとも情けない話をしてしまった。
気まずそうに笑ってごまかしていると、月島さんは書類を綺麗に整えながら少し考え込んでいた。
「ロシア語……よければお教えします。」
「えっ、いいんですか?」
「はい、夢主さんにはお世話になってますから……。」
「そんな……私の方こそご迷惑をおかけしてばかりで……。」
有難いことにロシア語の先生ができた。
そのあとは月島さんの仕事をお手伝いしながら雑談していた。
月島さんは私に稽古をつけることも知っていたようで、手厳しくお願いしますと頭を下げると、月島さんは本気でお教えしますと答えてくれた。
よし、早く強くなって、役に立つぞ。
でもなんだか、鶴見中尉を裏切ることが大前提なので、心の奥で罪悪感が湧き上がり申し訳なくなった。
途中で鯉登さんが戻ってきて、私の姿を見るなり「キエエ!」と叫んでどこかへ逃げて行った。
なんだったのだろう、と月島さんに目配せするが、月島さんはため息をつくだけだった。
【あとがき:寒すぎるのでショートパンツの下にタイツをはくことにした。】