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第七話 アイヌ
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第七話 アイヌ
ある日、いつものように鶴見中尉から借りた本を読んでいたときのこと。
いつも鶴見中尉は読み途中の本にはしおりを挟んでいるようだったのだが、この本は違った。
あちらこちらに線が引いてあったり、紙が挟んである。
これが軍の試験勉強に使うような本だったのだろうか?と表紙を見るも、この第七師団がある「北海道とアイヌ」。
内容は生まれも育ちも北海道の主人公による大冒険を描いたもので、旅の道中はややトレジャーハント気味な一攫千金!トラブルに巻き込まれつつも最終的には人情物語!のようなありがちな小説だった。
今更陸軍の情報将校がこのようなおとぎ話にご執心なわけがないと不思議に思った。
しかし、読み進めていくうちに少し嫌な予感がしてきた。
この小説に出てくる主人公が小耳に挟んだアイヌの隠し金について、本では金は金塊としてまとまっているが金の出所は不明でそもそも言い伝えの中の都市伝説のようなものであり、今はもうどこにもないということで終わっていた。
だがもし実在していて、出所もわかっている、としたら?
挟まれた紙に書かれた内容見ると、×や〇がついていて、その文章が合っているか間違っているか実際に確かめていってるのではないか?と思った。
ああ、そういえば以前に鶴見中尉とお茶をしに街へ行ったときだった。
妙な刺青をした男がいたと近くに座っていた客とお店の人が話していて、それを鶴見中尉はじとりとした目で見ていた。
それどころか額当てからドロリとした液体が漏れ出して、鶴見中尉はハンカチで押さえながら「興奮したりすると出る」とおっしゃっていた。
刺青は結局鶴見中尉が気になっていたやつとは別だったようで、帰る頃には鶴見中尉はもう鋭い視線をすることもなかったし、落ち着いていたようだった。
では刺青がカギなのか。
刺青に金の隠し場所があるのではないかと思った。
どこの誰の刺青だろうか……。
もう頭の中は刺青とアイヌの金塊の話でいっぱいだった。
幸い、ほかにもたくさんの本を借りていたおかげでこの本は読まなかったことにして、今回借りた本の話をするときはほかの本の感想を言うことにした。
さて、どうしたものかと考え込んでいると、こんこん、と窓を叩かれたような気がした。
窓を見るとシルエットが……尾形さんだよな?
恐る恐るカーテンを開くと尾形さんがフードを被ってこちらを見ていた。
あけろ、と口を動かしたので、渋々窓を開けて彼を迎え入れる。
さっと窓とカーテンを閉めると、ただでさえ変な噂が流れているのに(自分のせい)、どういうつもりだと睨みつけてやる。
尾形さんはそんな私を鼻で笑うと、お前を誘いにきた、と短く言う。
「……何にですか。」
尾形さんが鶴見中尉のようにお茶に誘ったりするわけがない。
警戒心丸出しにして問いかけると、尾形さんは元々低い声を更に低くした。
「俺は鶴見中尉を裏切る。そのうち軍を抜けるからついてこい。」
「!?」
私が驚いて声を出す前に尾形さんに手で口を押えられた。
「馬鹿野郎、いい加減学習しろ。」
私は手を離されるとすみません、と謝罪する。
「……詳しいことは後で話してやる。造反を企てているのは玉井伍長、野間、岡田、……あとで無理かもしれないが谷垣も誘う予定だ。……お前は役に立ちそうだから傍においておきたい。」
「……私が役に立つと本気でお思いですか?」
「お前に拒否権はない。俺が未来人の道具を今から出して鶴見中尉にお前を処刑させようか?」
そんな脅しを言われてはどうしようもない。
何か恐ろしい計画が裏で進んでいるようだ。
尾形さんは詳しいことは私に何も教えてくれない。
もしかしたら危険な橋を渡るから、詳しいことを教えないのは私を守るためかもしれない、というのは思い上がりだろうか?
「あとは普段通りにしていていい。なんなら連れ出すそのときに声をかけるから、それまでは何もしなくていいくらいだ。できるなら今まで通りなんでもいいから知識だけ蓄えておけ。あと、ロシア語の勉強もだ。」
「ロシア語?アイヌ語ではなく?」
「はは、もうそこまで察してるなら話は早い。やはりお前は優秀な奴だ、夢主。」
尾形さんが珍しく嬉しそうに笑って私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
初めて尾形さんが私の名前を呼んだこと、初めて尾形さんがちゃんと笑っているのを見た気がしたこと、頭を撫でられたこと、嬉しいことが一気に襲ってきて不覚にも照れてしまった。
「へへ、……っ、あ、いや。」
慌てて緩んだ表情を元に戻そうとしたがうまくいかない。
尾形さんは結局いつものようにククッと喉で笑うとぽん、と頭に手を置いてこちらに言う。
「じゃあ後は頼んだ。ロシア語だぞ?わかったな、俺の優秀な忠犬。」
「犬っ……?」
人をなんだと思っているのかと抗議しようと思ったが、思いのほか尾形さんが嬉しそうだったので何も言えなくなった。
あっという間に尾形さんは部屋から出て行った。
一人残された部屋で、先ほどまで開いていた北海道とアイヌの本をぼんやりと読み返す。
来るべき日のために、これからロシア語の他にも何か学習しようかと考えたかったが、今日はとりあえず尾形さんに褒められたのが嬉しすぎて何も頭に入らなそうだったのでしばらく惚けていることにした。
【あとがき:イケメンの頭ナデナデは犯罪。】
ある日、いつものように鶴見中尉から借りた本を読んでいたときのこと。
いつも鶴見中尉は読み途中の本にはしおりを挟んでいるようだったのだが、この本は違った。
あちらこちらに線が引いてあったり、紙が挟んである。
これが軍の試験勉強に使うような本だったのだろうか?と表紙を見るも、この第七師団がある「北海道とアイヌ」。
内容は生まれも育ちも北海道の主人公による大冒険を描いたもので、旅の道中はややトレジャーハント気味な一攫千金!トラブルに巻き込まれつつも最終的には人情物語!のようなありがちな小説だった。
今更陸軍の情報将校がこのようなおとぎ話にご執心なわけがないと不思議に思った。
しかし、読み進めていくうちに少し嫌な予感がしてきた。
この小説に出てくる主人公が小耳に挟んだアイヌの隠し金について、本では金は金塊としてまとまっているが金の出所は不明でそもそも言い伝えの中の都市伝説のようなものであり、今はもうどこにもないということで終わっていた。
だがもし実在していて、出所もわかっている、としたら?
挟まれた紙に書かれた内容見ると、×や〇がついていて、その文章が合っているか間違っているか実際に確かめていってるのではないか?と思った。
ああ、そういえば以前に鶴見中尉とお茶をしに街へ行ったときだった。
妙な刺青をした男がいたと近くに座っていた客とお店の人が話していて、それを鶴見中尉はじとりとした目で見ていた。
それどころか額当てからドロリとした液体が漏れ出して、鶴見中尉はハンカチで押さえながら「興奮したりすると出る」とおっしゃっていた。
刺青は結局鶴見中尉が気になっていたやつとは別だったようで、帰る頃には鶴見中尉はもう鋭い視線をすることもなかったし、落ち着いていたようだった。
では刺青がカギなのか。
刺青に金の隠し場所があるのではないかと思った。
どこの誰の刺青だろうか……。
もう頭の中は刺青とアイヌの金塊の話でいっぱいだった。
幸い、ほかにもたくさんの本を借りていたおかげでこの本は読まなかったことにして、今回借りた本の話をするときはほかの本の感想を言うことにした。
さて、どうしたものかと考え込んでいると、こんこん、と窓を叩かれたような気がした。
窓を見るとシルエットが……尾形さんだよな?
恐る恐るカーテンを開くと尾形さんがフードを被ってこちらを見ていた。
あけろ、と口を動かしたので、渋々窓を開けて彼を迎え入れる。
さっと窓とカーテンを閉めると、ただでさえ変な噂が流れているのに(自分のせい)、どういうつもりだと睨みつけてやる。
尾形さんはそんな私を鼻で笑うと、お前を誘いにきた、と短く言う。
「……何にですか。」
尾形さんが鶴見中尉のようにお茶に誘ったりするわけがない。
警戒心丸出しにして問いかけると、尾形さんは元々低い声を更に低くした。
「俺は鶴見中尉を裏切る。そのうち軍を抜けるからついてこい。」
「!?」
私が驚いて声を出す前に尾形さんに手で口を押えられた。
「馬鹿野郎、いい加減学習しろ。」
私は手を離されるとすみません、と謝罪する。
「……詳しいことは後で話してやる。造反を企てているのは玉井伍長、野間、岡田、……あとで無理かもしれないが谷垣も誘う予定だ。……お前は役に立ちそうだから傍においておきたい。」
「……私が役に立つと本気でお思いですか?」
「お前に拒否権はない。俺が未来人の道具を今から出して鶴見中尉にお前を処刑させようか?」
そんな脅しを言われてはどうしようもない。
何か恐ろしい計画が裏で進んでいるようだ。
尾形さんは詳しいことは私に何も教えてくれない。
もしかしたら危険な橋を渡るから、詳しいことを教えないのは私を守るためかもしれない、というのは思い上がりだろうか?
「あとは普段通りにしていていい。なんなら連れ出すそのときに声をかけるから、それまでは何もしなくていいくらいだ。できるなら今まで通りなんでもいいから知識だけ蓄えておけ。あと、ロシア語の勉強もだ。」
「ロシア語?アイヌ語ではなく?」
「はは、もうそこまで察してるなら話は早い。やはりお前は優秀な奴だ、夢主。」
尾形さんが珍しく嬉しそうに笑って私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
初めて尾形さんが私の名前を呼んだこと、初めて尾形さんがちゃんと笑っているのを見た気がしたこと、頭を撫でられたこと、嬉しいことが一気に襲ってきて不覚にも照れてしまった。
「へへ、……っ、あ、いや。」
慌てて緩んだ表情を元に戻そうとしたがうまくいかない。
尾形さんは結局いつものようにククッと喉で笑うとぽん、と頭に手を置いてこちらに言う。
「じゃあ後は頼んだ。ロシア語だぞ?わかったな、俺の優秀な忠犬。」
「犬っ……?」
人をなんだと思っているのかと抗議しようと思ったが、思いのほか尾形さんが嬉しそうだったので何も言えなくなった。
あっという間に尾形さんは部屋から出て行った。
一人残された部屋で、先ほどまで開いていた北海道とアイヌの本をぼんやりと読み返す。
来るべき日のために、これからロシア語の他にも何か学習しようかと考えたかったが、今日はとりあえず尾形さんに褒められたのが嬉しすぎて何も頭に入らなそうだったのでしばらく惚けていることにした。
【あとがき:イケメンの頭ナデナデは犯罪。】