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第六十六話 けが人と死人と…
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第六十六話 けが人と死人と…
列車に乗り込んですぐは、あちらこちらからの銃声や爆撃音など列車以外の揺れや衝撃を感じることが多く、私は身をひそめることに徹底した。
きっと、アシリパさんは杉元さんがついているだろうし大丈夫。
そう何度も自分に言い聞かせて、いよいよ取り返しのつかないところまで来ているという自覚から自分をわざと遠ざける。
そうでもしないと尾形さんと別行動になってしまった今、立ち止まってしまいそうだった。
チラリと列車内を覗き込むと、第七師団の増員が乗っていたらしく中には大量の兵士たちがいた。
そして奥の方では鯉登さん?らしき人影が見える。
あまり近づきすぎると見つかる恐れがあるため、迂闊に近づけない。
誰かと対峙しているらしく鯉登さんが一瞬構えたのは見えたが、その先は私には見えなかった。
また、列車中央では窓ガラスがパリンッと音をたてて割れたかと思えば、兵士たちがビュンビュンと投げ出されている。
こんなことをできるのは、不敗の牛山の異名をもつ、牛山さんしかありえない。
今まで無事であったことを安心しつつ、ということは土方さんや永倉さんもいるのだろうと予想をする。
とにかく冷静な状況判断が必要だ。
牛山さんや鯉登さんが乱闘している場所で、列車の中を突っ切るのは難しい。
それならば、と列車の上に上がると人影が2つ見えて思わず伏せるように身を低くして隠れる。
ちらりと覗き込むとその人影は尾形さんと、鶴見中尉だと服装から予想がついた。
何を話しているのかは分からないが、戦況によっては政府から目をつけられている鶴見中尉が不利になることは必須で、尾形さんが改めて鶴見中尉に自分を売り込んでいるのだとしか思えない。
ああ、これでは結局金塊をめぐって出世欲に負けたようなものじゃないか!と少し頭が痛くなったが、
アシリパさんたちを傷つけずにそれが達成できるなら私も応援はしたいと思う。
余計なことを考えるな。
ぶん、と頭を振って私はもう一度列車内に降り立つ。
とにかくなんとかして尾形さんのいる前方へと行かなくては、といつの間にか静かになった後方車両から移動することにした。
尾形さんと鶴見中尉を確認してから列車内に再び戻るまでのこの一瞬の間に、さっきまでやる気に満ちていたはずの兵士たちは静かになっている。
おぞましいほどの血の跡や、意識のない兵士が大量に重なっている。
前方では今までにないほどの大きな爆撃が何度かあって、衝撃に驚いた私は毎回その場にしゃがみ込む。
血痕も音も匂いも衝撃も、すべてが恐ろしくて足がすくみそうになった。
でも尾形さんと合流しなくちゃ。
ひとつふたつと車両を通過して連結部に来たとき、見覚えのある人影が2つ視界に飛び込んできた。
身体中から血の気がサアアッと音をたてて引くのを感じる。
「……ッ鯉登さん!月島さん!」
二人は血まみれで、あちこちに打ち身のような跡があり、月島さんが特に重症だった。
誰がこんなことを……いや、この状況だったら誰と誰がやりあってもおかしくはない。
私が駆け寄って二人を少しでも楽な姿勢になるようにと抱え起こす。
本当は横にしてやりたいところだったが、意識を失った男性が重すぎることや爆撃や振動で外に落ちる可能性があったため上体だけをなんとか起こした。
気道を塞がないように注意しながら、彼らの容態を見る。
「……夢主……。」
鯉登さんが弱々しく私を呼ぶ。
「鯉登さん、大丈夫だから、皆助かりますから。少し休んでください。」
彼の頬や肩は出血が激しかった。
当て布をし数少ない手持ちの包帯を使用して手当をする。
鯉登さんは私をじっと見つめたあと何も言わずにそのまま意識を手放した。
月島さんの方は重症すぎて、どこから手を付けて良いのかわからない。
もしかして、ここは爆撃があった車両ではないか?だとしたら爆撃をかなり近くから体に受けている。
肩の骨が外れているのと、左腕が腫れあがり不自然な方向に向いている。
意識がないうちにと痛みを伴うであろう場所を手当てしてしまおう。
外れた肩をはめなおして、爆撃で飛び散っていた木片を使用して彼の腕を固定した。
悔しいが私にできることはもうない。
出血を押さえて安静にさせることがこの場では精一杯の処置だ。
ふと、応急手当がひと段落したときに視界の端に爆撃を受けて損傷している列車内の様子が写った。
「え……。」
思わず声を失い、硬直してしまった。
そこにはうつぶせに倒れた大男の姿……牛山さん以外に他ならなかった。
動揺のあまりフラフラとよろめきながら車両に入り、牛山さんだと思われる男性を抱え起こす。
まだ固まる前のおびただしい量の血が私の身体に付着するが、気にしている余裕はなかった。
左半身が吹き飛んでしまっているが抱え起こして顔を見て、やっぱり牛山さんだと確信したときに絶望感が押し寄せた。
もう息はない。
そっと彼を床に下ろしてその安らかな顔を見下ろした。
牛山さんは力が強くて女に目がなくて、でも紳士のように私には優しかった。
土方さんや尾形さんに挟まれているときに間に入ってくれたりと、困ったときには助け船を出してくれるのが牛山さんだった。
さっきの鯉登さんと月島さん、そして牛山さんの惨状を見て、胃から酸っぱいものがこみあげてきた。
吐きそうになるのを我慢して、叫びそうになる口を押えた。
私の顔も身体も彼らの血で血まみれになってしまったけれど、ほんの少しでも一緒に居た人たちのこんな姿を見るのが辛くてそれどころではなかった。
列車にはまだ杉元さんたちや土方さん、鶴見中尉、尾形さんもいるだろう。
全員が死ぬまで戦いが終わらないなんてことにならないようにしたいが、もう私には何ができるか分からなかった。
涙が勝手に零れ落ちていた。
それでも泣いている時間がもったいなく感じて立ち上がり、やっとの思いで次の車両に移ったとき私はまたも衝撃を受ける。
「永倉さん……。」
そこには永倉さんと、一緒に行動していたであろう夏太郎さんがいる。
そして、その向こうに力なく座っているのが……
「土方さんっ!そんな……!」
悲鳴をあげるように叫びながら駆け寄る。
二人も無念そうに俯いていた。
「そんな……こんなこと……。」
何も言葉が出ない。
理不尽に命を奪われることが大前提の戦争とはいえ、土方さんが金塊をめぐってこんな形で命を落とすなんて……。
いつも若々しく不敵な笑みを浮かべていて、どっちつかずにフラフラしていた私のことを信頼すると言ってくれた人。
永倉さんは悲しみにふける間もなく、土方さんの遺体を運ぼうとする。
無力感に苛まれながら私も手伝おうとしたが、永倉さんに止められてしまった。
「夢主には、まだやれることがあるだろう。」
「永倉さん……。」
こんなにも何人もの大切な人を守れなかった私に、まだなにができるっていうの?
一緒に居た夏太郎さんが運び出すことを手伝って、二人は列車から離脱していった。
何も考えられなくなっていっぱいいっぱいの頭がぼーっとしている。
さっきから立て続けに起こった衝撃的な出来事がウソのようで、信じられない。
夢の中に居るような心地で、ぼんやりしながら漠然とどうしようかと考える。
まともに働かない頭であったが、ここで立ち止まってはいけないとなんとなく感じたので足を踏み出す。
銃を構え、一歩一歩感触をかみしめるように進んだ。
頭の中は靄がかかっているようで、悲しいとか辛いとか考える前に体だけが動いているような感覚だった。
【あとがき:つらい。】
列車に乗り込んですぐは、あちらこちらからの銃声や爆撃音など列車以外の揺れや衝撃を感じることが多く、私は身をひそめることに徹底した。
きっと、アシリパさんは杉元さんがついているだろうし大丈夫。
そう何度も自分に言い聞かせて、いよいよ取り返しのつかないところまで来ているという自覚から自分をわざと遠ざける。
そうでもしないと尾形さんと別行動になってしまった今、立ち止まってしまいそうだった。
チラリと列車内を覗き込むと、第七師団の増員が乗っていたらしく中には大量の兵士たちがいた。
そして奥の方では鯉登さん?らしき人影が見える。
あまり近づきすぎると見つかる恐れがあるため、迂闊に近づけない。
誰かと対峙しているらしく鯉登さんが一瞬構えたのは見えたが、その先は私には見えなかった。
また、列車中央では窓ガラスがパリンッと音をたてて割れたかと思えば、兵士たちがビュンビュンと投げ出されている。
こんなことをできるのは、不敗の牛山の異名をもつ、牛山さんしかありえない。
今まで無事であったことを安心しつつ、ということは土方さんや永倉さんもいるのだろうと予想をする。
とにかく冷静な状況判断が必要だ。
牛山さんや鯉登さんが乱闘している場所で、列車の中を突っ切るのは難しい。
それならば、と列車の上に上がると人影が2つ見えて思わず伏せるように身を低くして隠れる。
ちらりと覗き込むとその人影は尾形さんと、鶴見中尉だと服装から予想がついた。
何を話しているのかは分からないが、戦況によっては政府から目をつけられている鶴見中尉が不利になることは必須で、尾形さんが改めて鶴見中尉に自分を売り込んでいるのだとしか思えない。
ああ、これでは結局金塊をめぐって出世欲に負けたようなものじゃないか!と少し頭が痛くなったが、
アシリパさんたちを傷つけずにそれが達成できるなら私も応援はしたいと思う。
余計なことを考えるな。
ぶん、と頭を振って私はもう一度列車内に降り立つ。
とにかくなんとかして尾形さんのいる前方へと行かなくては、といつの間にか静かになった後方車両から移動することにした。
尾形さんと鶴見中尉を確認してから列車内に再び戻るまでのこの一瞬の間に、さっきまでやる気に満ちていたはずの兵士たちは静かになっている。
おぞましいほどの血の跡や、意識のない兵士が大量に重なっている。
前方では今までにないほどの大きな爆撃が何度かあって、衝撃に驚いた私は毎回その場にしゃがみ込む。
血痕も音も匂いも衝撃も、すべてが恐ろしくて足がすくみそうになった。
でも尾形さんと合流しなくちゃ。
ひとつふたつと車両を通過して連結部に来たとき、見覚えのある人影が2つ視界に飛び込んできた。
身体中から血の気がサアアッと音をたてて引くのを感じる。
「……ッ鯉登さん!月島さん!」
二人は血まみれで、あちこちに打ち身のような跡があり、月島さんが特に重症だった。
誰がこんなことを……いや、この状況だったら誰と誰がやりあってもおかしくはない。
私が駆け寄って二人を少しでも楽な姿勢になるようにと抱え起こす。
本当は横にしてやりたいところだったが、意識を失った男性が重すぎることや爆撃や振動で外に落ちる可能性があったため上体だけをなんとか起こした。
気道を塞がないように注意しながら、彼らの容態を見る。
「……夢主……。」
鯉登さんが弱々しく私を呼ぶ。
「鯉登さん、大丈夫だから、皆助かりますから。少し休んでください。」
彼の頬や肩は出血が激しかった。
当て布をし数少ない手持ちの包帯を使用して手当をする。
鯉登さんは私をじっと見つめたあと何も言わずにそのまま意識を手放した。
月島さんの方は重症すぎて、どこから手を付けて良いのかわからない。
もしかして、ここは爆撃があった車両ではないか?だとしたら爆撃をかなり近くから体に受けている。
肩の骨が外れているのと、左腕が腫れあがり不自然な方向に向いている。
意識がないうちにと痛みを伴うであろう場所を手当てしてしまおう。
外れた肩をはめなおして、爆撃で飛び散っていた木片を使用して彼の腕を固定した。
悔しいが私にできることはもうない。
出血を押さえて安静にさせることがこの場では精一杯の処置だ。
ふと、応急手当がひと段落したときに視界の端に爆撃を受けて損傷している列車内の様子が写った。
「え……。」
思わず声を失い、硬直してしまった。
そこにはうつぶせに倒れた大男の姿……牛山さん以外に他ならなかった。
動揺のあまりフラフラとよろめきながら車両に入り、牛山さんだと思われる男性を抱え起こす。
まだ固まる前のおびただしい量の血が私の身体に付着するが、気にしている余裕はなかった。
左半身が吹き飛んでしまっているが抱え起こして顔を見て、やっぱり牛山さんだと確信したときに絶望感が押し寄せた。
もう息はない。
そっと彼を床に下ろしてその安らかな顔を見下ろした。
牛山さんは力が強くて女に目がなくて、でも紳士のように私には優しかった。
土方さんや尾形さんに挟まれているときに間に入ってくれたりと、困ったときには助け船を出してくれるのが牛山さんだった。
さっきの鯉登さんと月島さん、そして牛山さんの惨状を見て、胃から酸っぱいものがこみあげてきた。
吐きそうになるのを我慢して、叫びそうになる口を押えた。
私の顔も身体も彼らの血で血まみれになってしまったけれど、ほんの少しでも一緒に居た人たちのこんな姿を見るのが辛くてそれどころではなかった。
列車にはまだ杉元さんたちや土方さん、鶴見中尉、尾形さんもいるだろう。
全員が死ぬまで戦いが終わらないなんてことにならないようにしたいが、もう私には何ができるか分からなかった。
涙が勝手に零れ落ちていた。
それでも泣いている時間がもったいなく感じて立ち上がり、やっとの思いで次の車両に移ったとき私はまたも衝撃を受ける。
「永倉さん……。」
そこには永倉さんと、一緒に行動していたであろう夏太郎さんがいる。
そして、その向こうに力なく座っているのが……
「土方さんっ!そんな……!」
悲鳴をあげるように叫びながら駆け寄る。
二人も無念そうに俯いていた。
「そんな……こんなこと……。」
何も言葉が出ない。
理不尽に命を奪われることが大前提の戦争とはいえ、土方さんが金塊をめぐってこんな形で命を落とすなんて……。
いつも若々しく不敵な笑みを浮かべていて、どっちつかずにフラフラしていた私のことを信頼すると言ってくれた人。
永倉さんは悲しみにふける間もなく、土方さんの遺体を運ぼうとする。
無力感に苛まれながら私も手伝おうとしたが、永倉さんに止められてしまった。
「夢主には、まだやれることがあるだろう。」
「永倉さん……。」
こんなにも何人もの大切な人を守れなかった私に、まだなにができるっていうの?
一緒に居た夏太郎さんが運び出すことを手伝って、二人は列車から離脱していった。
何も考えられなくなっていっぱいいっぱいの頭がぼーっとしている。
さっきから立て続けに起こった衝撃的な出来事がウソのようで、信じられない。
夢の中に居るような心地で、ぼんやりしながら漠然とどうしようかと考える。
まともに働かない頭であったが、ここで立ち止まってはいけないとなんとなく感じたので足を踏み出す。
銃を構え、一歩一歩感触をかみしめるように進んだ。
頭の中は靄がかかっているようで、悲しいとか辛いとか考える前に体だけが動いているような感覚だった。
【あとがき:つらい。】