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第六十四話 潜伏期間
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第六十四話 潜伏期間
ビール工場から逃げ出してから、恐らく暗号解読完了までの時間はあまり残されていないと踏んだ。
銃の手入れや食料の確保、身を潜めやすい衣服などもこのときに大急ぎで取り揃えた。
そして私と尾形さんは身を潜めて土方陣営の近くにいた。
札幌の停車場にて土方さんがロシア人数人とやりとりしているのを目撃した。
「……函館まで来いって言ってますね。」
「おまえ、耳がいいな。」
「どうも。……私たちも列車に乗り込みますか。」
尾形さんは、たまに私をじっと見てくる。
恐らく、尾形さんの目的を知ってもなおついてくる私を鬱陶しいと思っているのだろう。
もしくは、今までほとんど尾形さんの操り人形のように無条件に従っていた私が、アシリパさんや杉元さんを撃ちたくないという明確な意思を持って反抗したことが面白くないとか?
ちゃんと最後までお供するし、私が祝福するから何とか落ち着いてほしいと何度も言葉にしているのに、尾形さんはその度に満足そうに笑うだけだ。
絶対誰にも祝福されてないなんてことはない、母親も父親も愛していたはずだとも言った。
それでも何も変わらなかった。
相変わらず尾形さんの気持ちがわからない。
なんて勝手な人なの……と思うけれど、私はもう尾形さんを心底好いてしまったのだからしょうがない。
そうして、大量のロシア人が乗車した列車に一般客と混じって私と尾形さんは乗車した。
尾形さんはフードをしっかりと被り、私は下に軍服を着ているものの上から町娘の着物を着こんだ。
ロシア人たちの中で女性が一人、声を張り上げている。
きっとあれがソフィアさんというのっぺらぼうだったウイルクの元同胞なのだろう。
難しい単語は聞き取れなかったが、要約すると北海道の多民族国家や極東連邦国家を作りたいといった話だろう。
私が盗み聞きしているのを尾形さんは知っているようで、あまり視線をそっちにやるな、と言わんばかりに私を肘で小突いた。
私は慌てて視線を落とし、尾形さんにもたれるようにして仮眠をとった。
やがて函館についた後、ロシア人の一行は五稜郭へとむかっていた。
私たちは彼らを尾行する。
なるほど暗号の場所は現代でも有名な名所の五稜郭だったのね。
星の形をしているから、刺青の模様でも示せたのかしら?
しかしここは石垣があるし、守りに徹されると侵入がしづらい。
「尾形さん、どこに身を潜めますか?」
「……林しかねえなぁ。」
尾形さんは、周囲を見渡しフンと当然のように言い放つ。
確かに五稜郭の周りには林があるけれど……もし金塊が五稜郭の内部にあったとして、私たちがここから奪えるものか?
いや、奪うというのは違うな。
私は杉元さんたちが金塊をきちんと手に入れるのを見届けて、尚且つ尾形さんを止めなくてはいけない。
そのためには金塊に近づくことよりも、各陣営の勢力を見極めて必要な時に手助けしなくてはならない。
特に、鶴見中尉は武器も人も大量に投入できる分警戒しなくてはいけない。
そういえば、鶴見中尉は尾形さんの企みを知っているのだろうか。
人を操ることがうまい彼であっても、ただの出世欲だけではないと見抜けているのだろうか。
政府とやり合おうとしている鶴見中尉が尾形さんにそこまで集中しているとも思えない。
私が色々と考え込んでいる間に、尾形さんは東だの北だのとヤマをはろうとしている。
まさか手分けするつもりなのか?と私が問いかけるとせっかく2人いるのだから固まる理由がないと即答されてしまった。
「でも……もう置いていかれるのはまっぴらごめんなんですけど?」
少しむっとして反論すると、尾形さんは面倒くさそうに頭を掻いた。
その態度に私が重ねて文句を言おうとしていると、尾形さんがため息をついて私に向き直った。
珍しく尾形さんが私をまっすぐと見るので、思わず身じろぎをしてしまった。
「……あのロシア人がきっといる。お前じゃ敵わんだろう。必ず合流するから、お前は東側から様子を見ていろ。ロシア人がいても戦うな。」
言葉では結局別行動になることを示していたが、必ず合流する、とこんなにも強く言われてしまってはもうこれ以上何も言えない。
私は絶対ですよ……と呟いて尾形さんを見つめる。
こんな時に泣くつもりはないのだが、あまりに真剣に見つめ合ってしまったため少し涙が浮かんでしまった。
尾形さんはそんな私の顔を見つめると、私の後頭部に手を回してグイッと私を引き寄せた。
少しよろめきながらも一歩前に足を踏み出すと尾形さんの胸元に顔がぴったりとくっつく。
「……尾形さん?」
「死ぬなよ。絶対に。」
なんだか尾形さんの声が少し震えているような気がした。
銃を持っていない方の腕で尾形さんの背中に腕を回す。
互いにぎゅ、と力をこめて数秒間そうしていた。
そっとどちらともなく離れると、尾形さんはいつも通りの澄ました表情で私に言う。
「アシリパはともかく、杉元は始末しちまっても良いぜ?」
「ちょっと、これまでの私の話聞いてました?」
尾形さんが愉快そうにフンと笑って、私もつられて笑顔を零す。
そこでようやく私たちは東と北でそれぞれ別れた。
私が東口側の林まで歩いている間にも、五稜郭の中ではきっとソフィアさんたちと土方さんや杉元さんが金塊のために動いているのだろう。
きっと第七師団も黙ってはいないだろうし、激しい戦いになる。
あのヴァシリさんも尾形さんを追っているだろうし、以前に会ったときに嘘をついているし私が狙われる可能性もある。
尾形さんに死ぬなよと言われて、嬉しかった。
一応、大切に思われているのかも、なんて単純な私の脳みそは踊っていて、ご機嫌な状態でとにかく身を隠せて五稜郭の内情が見渡しやすい場所を探しそのあとはただじっと息をひそめていた。
【あとがき:ちょろい……。】
ビール工場から逃げ出してから、恐らく暗号解読完了までの時間はあまり残されていないと踏んだ。
銃の手入れや食料の確保、身を潜めやすい衣服などもこのときに大急ぎで取り揃えた。
そして私と尾形さんは身を潜めて土方陣営の近くにいた。
札幌の停車場にて土方さんがロシア人数人とやりとりしているのを目撃した。
「……函館まで来いって言ってますね。」
「おまえ、耳がいいな。」
「どうも。……私たちも列車に乗り込みますか。」
尾形さんは、たまに私をじっと見てくる。
恐らく、尾形さんの目的を知ってもなおついてくる私を鬱陶しいと思っているのだろう。
もしくは、今までほとんど尾形さんの操り人形のように無条件に従っていた私が、アシリパさんや杉元さんを撃ちたくないという明確な意思を持って反抗したことが面白くないとか?
ちゃんと最後までお供するし、私が祝福するから何とか落ち着いてほしいと何度も言葉にしているのに、尾形さんはその度に満足そうに笑うだけだ。
絶対誰にも祝福されてないなんてことはない、母親も父親も愛していたはずだとも言った。
それでも何も変わらなかった。
相変わらず尾形さんの気持ちがわからない。
なんて勝手な人なの……と思うけれど、私はもう尾形さんを心底好いてしまったのだからしょうがない。
そうして、大量のロシア人が乗車した列車に一般客と混じって私と尾形さんは乗車した。
尾形さんはフードをしっかりと被り、私は下に軍服を着ているものの上から町娘の着物を着こんだ。
ロシア人たちの中で女性が一人、声を張り上げている。
きっとあれがソフィアさんというのっぺらぼうだったウイルクの元同胞なのだろう。
難しい単語は聞き取れなかったが、要約すると北海道の多民族国家や極東連邦国家を作りたいといった話だろう。
私が盗み聞きしているのを尾形さんは知っているようで、あまり視線をそっちにやるな、と言わんばかりに私を肘で小突いた。
私は慌てて視線を落とし、尾形さんにもたれるようにして仮眠をとった。
やがて函館についた後、ロシア人の一行は五稜郭へとむかっていた。
私たちは彼らを尾行する。
なるほど暗号の場所は現代でも有名な名所の五稜郭だったのね。
星の形をしているから、刺青の模様でも示せたのかしら?
しかしここは石垣があるし、守りに徹されると侵入がしづらい。
「尾形さん、どこに身を潜めますか?」
「……林しかねえなぁ。」
尾形さんは、周囲を見渡しフンと当然のように言い放つ。
確かに五稜郭の周りには林があるけれど……もし金塊が五稜郭の内部にあったとして、私たちがここから奪えるものか?
いや、奪うというのは違うな。
私は杉元さんたちが金塊をきちんと手に入れるのを見届けて、尚且つ尾形さんを止めなくてはいけない。
そのためには金塊に近づくことよりも、各陣営の勢力を見極めて必要な時に手助けしなくてはならない。
特に、鶴見中尉は武器も人も大量に投入できる分警戒しなくてはいけない。
そういえば、鶴見中尉は尾形さんの企みを知っているのだろうか。
人を操ることがうまい彼であっても、ただの出世欲だけではないと見抜けているのだろうか。
政府とやり合おうとしている鶴見中尉が尾形さんにそこまで集中しているとも思えない。
私が色々と考え込んでいる間に、尾形さんは東だの北だのとヤマをはろうとしている。
まさか手分けするつもりなのか?と私が問いかけるとせっかく2人いるのだから固まる理由がないと即答されてしまった。
「でも……もう置いていかれるのはまっぴらごめんなんですけど?」
少しむっとして反論すると、尾形さんは面倒くさそうに頭を掻いた。
その態度に私が重ねて文句を言おうとしていると、尾形さんがため息をついて私に向き直った。
珍しく尾形さんが私をまっすぐと見るので、思わず身じろぎをしてしまった。
「……あのロシア人がきっといる。お前じゃ敵わんだろう。必ず合流するから、お前は東側から様子を見ていろ。ロシア人がいても戦うな。」
言葉では結局別行動になることを示していたが、必ず合流する、とこんなにも強く言われてしまってはもうこれ以上何も言えない。
私は絶対ですよ……と呟いて尾形さんを見つめる。
こんな時に泣くつもりはないのだが、あまりに真剣に見つめ合ってしまったため少し涙が浮かんでしまった。
尾形さんはそんな私の顔を見つめると、私の後頭部に手を回してグイッと私を引き寄せた。
少しよろめきながらも一歩前に足を踏み出すと尾形さんの胸元に顔がぴったりとくっつく。
「……尾形さん?」
「死ぬなよ。絶対に。」
なんだか尾形さんの声が少し震えているような気がした。
銃を持っていない方の腕で尾形さんの背中に腕を回す。
互いにぎゅ、と力をこめて数秒間そうしていた。
そっとどちらともなく離れると、尾形さんはいつも通りの澄ました表情で私に言う。
「アシリパはともかく、杉元は始末しちまっても良いぜ?」
「ちょっと、これまでの私の話聞いてました?」
尾形さんが愉快そうにフンと笑って、私もつられて笑顔を零す。
そこでようやく私たちは東と北でそれぞれ別れた。
私が東口側の林まで歩いている間にも、五稜郭の中ではきっとソフィアさんたちと土方さんや杉元さんが金塊のために動いているのだろう。
きっと第七師団も黙ってはいないだろうし、激しい戦いになる。
あのヴァシリさんも尾形さんを追っているだろうし、以前に会ったときに嘘をついているし私が狙われる可能性もある。
尾形さんに死ぬなよと言われて、嬉しかった。
一応、大切に思われているのかも、なんて単純な私の脳みそは踊っていて、ご機嫌な状態でとにかく身を隠せて五稜郭の内情が見渡しやすい場所を探しそのあとはただじっと息をひそめていた。
【あとがき:ちょろい……。】