第六十一話　変装


そんな風な賑やかな生活を数日繰り返している間に、新たな情報が入ってきた。
永倉さんが頻繁にやり取りしている新聞記者、聞くとかの有名な石川啄木だと言うではないか。
エッ！？あの有名な！？と口にしかけたが、恐らくまだ彼が歌人として売り出す前なのだろう、永倉さんに怪訝そうな表情をされた。

そもそも土方さんも永倉さんも歴史上の有名人だ。
こんな人たちと当たり前に同じ時を過ごしていることに気付くとたまにサインとかもらっておいた方が良いんじゃないかと悪知恵が働きそうになるが、なんとか理性で押しこめた。

もしも現代に戻れたとして、そのときにサインを握りしめていられるかどうかは不確実だし、現代で鑑定してもらっても資料や歴史とズレがあったら贋作扱いになるだろう。


さて、話を戻すとそんな石川啄木さんが言うには娼婦を狙った連続殺人犯が付近をうろついているという。
門倉さん曰く脱獄囚人にこの事件を起こしそうな人物がいると言う。
せっかく拠点を移したというのに、警察に騒がれて金塊を狙う第七師団の耳に情報が入ることは厄介だと土方さんが顔をしかめた。



案の定、数日後にはまた娼婦が殺され、札幌には事件を追っている警察がウロウロしているし花街は遊びに来る第七師団の人間が多い。
鶴見中尉が来てもおかしくない状況になった。

そこで私たちは新聞売りや金魚売りなど物売りの恰好をして事件の進捗を伺うことに。
皆それぞれの恰好をしていたが、土方さんの傍で金魚売りをお手伝いすることに。
牛山さんの虚無僧は迫力があるし、尾形さんの親孝行の姿は少し恐怖感があった。
門倉さんの高野行人は何がしたいのか分からなくて思わず笑ってしまった。

事件の探りを行うためだったが、あまりに面白い状態にクスクスと笑っていると土方さんがそっと私の頭を撫でた。

「？」

見上げると、土方さんは優しい目をしてこちらを見つめていた。

「……私は、いつまでもこうやっていられれば幸せなんですけどね。」

少し寂しくなってしまってそう話しかけると、土方さんはそれでも成しえなければならん、と呟いて表情を引き締めた。

そんなやり取りをしている中、事件に進展があったとまた石川啄木さんがやってくる。
どういうことだと話を聞くと、ロンドンで起きたジャックザリッパーの模倣犯ではないかというのだ。
新聞社に臓物を送り付ける挑発があり、さらには娼婦を穢れた罪人だともあったそうだ。
手口があまりに似通っているということで、もしも模倣犯だとするとジャックザリッパーのようにこれから４０日以内に最後の殺人を行いぱったりと消えるだろうとのこと。

石川さんは別件の事件のことも教えてくれた。
北海道中の街で小さい子が何人も行方不明になっているのだそう。
しかもどうやら犯人は町を転々としつつ、札幌に近づいている様子。
札幌で何が起きようとしているのだろうか……。
嫌な胸騒ぎを覚えた。

さて、動かなくてはと全員で帰る支度をする。
尾形さんは動く気がないのか親孝行をまだ続けていて、帰るぞ！と叱られていた。




【あとがき：原作だとここでは房太郎の暴れっぷりと宇佐美のヤバサっぷりが浮き彫りになっているけど、土方組はあまり動きがないので書くことない……(´・ω・`)】