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第六十話 土方さんとおしゃべり
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第六十話 土方さんとおしゃべり
土方さんたちの隠れ家で、各々情報収集をする。
一時的な隠れ家であるため荷物は少ないものの、日々の食事や掃除など簡単な家事を一挙に引き受けたものだから、私は大忙しだった。
尾形さんは情報収集というよりは、右目を失ったことで狙撃に影響があるらしく、左撃ちができるようにと訓練をしているようだった。
銃に対する真摯さやプライドの高さは今まで出会った人の中でも尾形さんが一番だと思う。
その姿勢を私にも少しは向けてくれないかしら、なんて思うのは欲張りかな。
ここまで殺されずにあちこちの陣営を渡ってこれただけでも運が良く、尾形さんも見捨てずに私と一緒に居てくれているのに、それでもまだ求めてしまうのが情けなかった。
一通りの家事を片付けてふぅ、とため息をはく。
すると誰もいないと思っていたのに、扉の向こうから土方さんが顔を出した。
「お疲れかな夢主。」
「あっ、土方さん……すみません。ちょっと考え事をしてしまいまして。」
土方さんの登場に驚いて立ち上がり、ぺこ、と頭を下げる。
尾形さんだけじゃない。
土方さんもこうやってフラフラしている素性の知れない私を受け入れてくれている。
それだけでまだ頑張れそうな気がしたので、きゅ、と唇を結んで気を引き締めた。
しかし、土方さんはそんな私を見ると目を細めて少し寂しそうに笑う。
「夢主は、そこまでして尾形につく理由があるのか?」
「え。」
どういう意味だろうか。
疑われている?敵だとみなされるのか?と警戒心がわきあがる。
土方さんは半ば私を憐れむような表情でそのまま続ける。
「辛そうだ。」
そういわれて、ハッと自分の頬を押さえてしまった。
自分はそんな表情をしていたのか。
何も言い返せずにいる私に対して、土方さんは少し話そうか、とその場に胡坐を組んだ。
お茶を用意します、と伝えるも土方さんは首を横に振った。
土方さんの向かいに正座したものの、沈黙が流れる。
私が尾形さんについていく理由……。
「えっと……。」
私が困っているのを分かっていて、土方さんは何も言わない。
すぐに答えが出なくても、聞いてくれるという態度を崩さなかった。
自分の祖父ほどの年齢であろう土方さんに、真っ直ぐに見つめられて私は余計に言葉を詰まらせた。
「……尾形さんには、第七師団の宿舎の近くで迷子になっていた私を、拾ってもらった恩があります。」
「ほう。」
以前にも土方さんたちと行動を共にしたことがあったが、込み入った話はお互いにしなかった。
とにかく金塊についての情報だけを求めていたから。
「実は私、迷子になる前の記憶がないので、その……最初はもう頼れるところが何もなくてついていくしかありませんでした。」
「……尾形に強制されて?鶴見中尉よりも尾形の方が信用できると思っているのか?」
土方さんは私から何を聞き出そうとしているのだろう。
尾形さんが金塊を求める理由は土方さんに話したところで、軍の階級には全く土方さんは興味を示さないだろうから、無駄な情報だろう。
鶴見中尉の話ならば、と思って話をそちらに進める。
「強制されてではないですが、信用できるかどうかというより……、単純に私の居場所がなかったんです。鶴見中尉は、北海道の領地拡大や中央政府と対等にやり合うことが恐らく狙いです。もちろん、過去の戦争で亡くなった兵士たちの弔いと声高々に宣言したこと自体も嘘ではないはずですが。……その目的を果たすのには私は不要だと思いました。もしも私が鶴見中尉のもとから離れなかったとしたらきっと、安全な場所に隔離されて戦争や内戦の恐ろしさも何も知らされないまま、鶴見中尉の帰りを待つだけの愛人……いや家政婦にでもなったんじゃないかと思います。」
愛人というのはおこがましいと言い直す。
鶴見中尉の私に対する執着は愛情というよりは、支配的なものを感じたからだ。
土方さんは、鋭い視線ではあったが優しくこちらを見つめている。
「……かといって、尾形さんにも私が必要かといえば、そうでもないような気がして……少し自分の立ち位置や決意に迷ってしまっていました。」
「なるほどな。」
土方さんは腕を組んだ。
今の話で、鶴見中尉の狙いは土方さんの予想と違わなかったのだろう。
土方さんにとって答え合わせができたのなら、もう私は必要ないだろう。
そろそろ話を切り上げても良いかと、夕飯の下ごしらえをしなくては、と伝える。
しかし「今日は皆で夕飯の用意をやろう」と土方さんに断られてしまった。
立ち上がりかけたが腰をもう一度下ろす。
土方さんはやや愉快そうに私に問いかける。
「まるでもう話す必要がないと言わんばかりだな?」
「そ、そんなことは……。」
図星だった。
だって、鶴見中尉の話が聞ければそれで土方さんは満足するかと思ったから。
「……私からはもう金塊についての関係者の情報はありません。土方さんのお役に立てず申し訳ありません。」
困惑しつつも改まった姿勢で真摯に土方さんに伝えるが、土方さんは驚いたようすを見せた。
しかし土方さんはすぐにフフフと笑いだした。
「夢主、まさかこの土方歳三が金塊にしか興味のないつまらない男だと思っていないかい?」
「えっ、そんな……。」
否定したつもりだったが、あながち間違いでもない。
すぐに撤回した。
「いえ、違わないです。つまらないとは思っていませんが、土方さんに限らず私がこれまで関わってきた方々は、皆金塊に対して真っ直ぐでしたから。きっと土方さんも情報を求めて私を受けて入れてくれているんだと思っています。だから、私や尾形さんのような信用ならないであろう立場の人間も戦力や情報があれば味方につけるのかと。」
土方さんは私が素直に認めたことで嬉しそうに笑う。
「まあ、尾形に対しては情報を持っていてもあまり信用していない。あやつは、誰かのためにと動けるやつではないだろうからな。だが夢主、お前さんは違うだろう?誰かのために動ける人間は信用している。金塊が万が一夢主の手に渡ったとしても、アイヌや和人のために使うだろうと信用できるからだ。」
「そ、そうですね……確かにそうするかもしれないです。」
急に褒められて動揺する。
誰かのために……か。
確かに杉元さんアシリパさんが金塊を持つことになっても私は異論がないから、きっと私は金塊を尾形さんではなくあの2人に譲るだろう。
知らず知らずのうちに私の中では金塊はあくまで第二の目標であって、一番の目標は尾形さんを祝福することだと確信する。
祝福することにも通じるが、尾形さんがアシリパさんや杉元さんに対して因縁のようなものを抱えているのをなんとかほぐしてあげたい。
心の中で迷いに迷っていたものがなくなり、ストンとまさに腑に落ちた感覚があった。
私の顔色が良くなったことに気付いたのだろう。
土方さんがフッと笑った。
「この土方歳三だって金塊だけではない。ほかに抱えているものなどたくさんある。夢主のことは信頼しているから、情報以外であってもかかわりたいと思うことがあるんだ。」
「は、はい……ありがとうございます。」
すらすらと人を褒めることができる土方さんは凄い。
これが年の功というものだろうか。
「夢主には、何か尾形に関して抱えているものが色々あるのだろうが……もう大丈夫そうだな。」
「はい、すごく心が軽くなりました。」
本当に助かった。
迷ったままで尾形さんを救えるとは到底思えない。
それに、金塊争奪戦の中で誰の役に立ちたいかハッキリとした。
スッキリした気持ちで外を見るともう日が落ちてきていた。
やり残した家事をバタバタと片付ける。
そうこうしている間に、永倉さんや牛山さんなどが帰宅してきた。
慌てて玄関までお出迎えをして夕飯の用意がまだだと侘びていると、後ろから土方さんがやってきて「皆で用意をしようか」と声をかけてくれた。
続々と帰宅してくる人たちの中に混じって尾形さんがまた野鳥を撃ち落としてきた。
おお!凄い!と皆が喜ぶと、尾形さんも少し得意げな表情を浮かべる。
……全くもって誰かのために動かない人ではないと思うんだけどな、と考えたが私だけが尾形さんの良いところを知っていても良いじゃないかと一人噛みしめた。
【あとがき:土方おじいちゃんの貫禄。】
土方さんたちの隠れ家で、各々情報収集をする。
一時的な隠れ家であるため荷物は少ないものの、日々の食事や掃除など簡単な家事を一挙に引き受けたものだから、私は大忙しだった。
尾形さんは情報収集というよりは、右目を失ったことで狙撃に影響があるらしく、左撃ちができるようにと訓練をしているようだった。
銃に対する真摯さやプライドの高さは今まで出会った人の中でも尾形さんが一番だと思う。
その姿勢を私にも少しは向けてくれないかしら、なんて思うのは欲張りかな。
ここまで殺されずにあちこちの陣営を渡ってこれただけでも運が良く、尾形さんも見捨てずに私と一緒に居てくれているのに、それでもまだ求めてしまうのが情けなかった。
一通りの家事を片付けてふぅ、とため息をはく。
すると誰もいないと思っていたのに、扉の向こうから土方さんが顔を出した。
「お疲れかな夢主。」
「あっ、土方さん……すみません。ちょっと考え事をしてしまいまして。」
土方さんの登場に驚いて立ち上がり、ぺこ、と頭を下げる。
尾形さんだけじゃない。
土方さんもこうやってフラフラしている素性の知れない私を受け入れてくれている。
それだけでまだ頑張れそうな気がしたので、きゅ、と唇を結んで気を引き締めた。
しかし、土方さんはそんな私を見ると目を細めて少し寂しそうに笑う。
「夢主は、そこまでして尾形につく理由があるのか?」
「え。」
どういう意味だろうか。
疑われている?敵だとみなされるのか?と警戒心がわきあがる。
土方さんは半ば私を憐れむような表情でそのまま続ける。
「辛そうだ。」
そういわれて、ハッと自分の頬を押さえてしまった。
自分はそんな表情をしていたのか。
何も言い返せずにいる私に対して、土方さんは少し話そうか、とその場に胡坐を組んだ。
お茶を用意します、と伝えるも土方さんは首を横に振った。
土方さんの向かいに正座したものの、沈黙が流れる。
私が尾形さんについていく理由……。
「えっと……。」
私が困っているのを分かっていて、土方さんは何も言わない。
すぐに答えが出なくても、聞いてくれるという態度を崩さなかった。
自分の祖父ほどの年齢であろう土方さんに、真っ直ぐに見つめられて私は余計に言葉を詰まらせた。
「……尾形さんには、第七師団の宿舎の近くで迷子になっていた私を、拾ってもらった恩があります。」
「ほう。」
以前にも土方さんたちと行動を共にしたことがあったが、込み入った話はお互いにしなかった。
とにかく金塊についての情報だけを求めていたから。
「実は私、迷子になる前の記憶がないので、その……最初はもう頼れるところが何もなくてついていくしかありませんでした。」
「……尾形に強制されて?鶴見中尉よりも尾形の方が信用できると思っているのか?」
土方さんは私から何を聞き出そうとしているのだろう。
尾形さんが金塊を求める理由は土方さんに話したところで、軍の階級には全く土方さんは興味を示さないだろうから、無駄な情報だろう。
鶴見中尉の話ならば、と思って話をそちらに進める。
「強制されてではないですが、信用できるかどうかというより……、単純に私の居場所がなかったんです。鶴見中尉は、北海道の領地拡大や中央政府と対等にやり合うことが恐らく狙いです。もちろん、過去の戦争で亡くなった兵士たちの弔いと声高々に宣言したこと自体も嘘ではないはずですが。……その目的を果たすのには私は不要だと思いました。もしも私が鶴見中尉のもとから離れなかったとしたらきっと、安全な場所に隔離されて戦争や内戦の恐ろしさも何も知らされないまま、鶴見中尉の帰りを待つだけの愛人……いや家政婦にでもなったんじゃないかと思います。」
愛人というのはおこがましいと言い直す。
鶴見中尉の私に対する執着は愛情というよりは、支配的なものを感じたからだ。
土方さんは、鋭い視線ではあったが優しくこちらを見つめている。
「……かといって、尾形さんにも私が必要かといえば、そうでもないような気がして……少し自分の立ち位置や決意に迷ってしまっていました。」
「なるほどな。」
土方さんは腕を組んだ。
今の話で、鶴見中尉の狙いは土方さんの予想と違わなかったのだろう。
土方さんにとって答え合わせができたのなら、もう私は必要ないだろう。
そろそろ話を切り上げても良いかと、夕飯の下ごしらえをしなくては、と伝える。
しかし「今日は皆で夕飯の用意をやろう」と土方さんに断られてしまった。
立ち上がりかけたが腰をもう一度下ろす。
土方さんはやや愉快そうに私に問いかける。
「まるでもう話す必要がないと言わんばかりだな?」
「そ、そんなことは……。」
図星だった。
だって、鶴見中尉の話が聞ければそれで土方さんは満足するかと思ったから。
「……私からはもう金塊についての関係者の情報はありません。土方さんのお役に立てず申し訳ありません。」
困惑しつつも改まった姿勢で真摯に土方さんに伝えるが、土方さんは驚いたようすを見せた。
しかし土方さんはすぐにフフフと笑いだした。
「夢主、まさかこの土方歳三が金塊にしか興味のないつまらない男だと思っていないかい?」
「えっ、そんな……。」
否定したつもりだったが、あながち間違いでもない。
すぐに撤回した。
「いえ、違わないです。つまらないとは思っていませんが、土方さんに限らず私がこれまで関わってきた方々は、皆金塊に対して真っ直ぐでしたから。きっと土方さんも情報を求めて私を受けて入れてくれているんだと思っています。だから、私や尾形さんのような信用ならないであろう立場の人間も戦力や情報があれば味方につけるのかと。」
土方さんは私が素直に認めたことで嬉しそうに笑う。
「まあ、尾形に対しては情報を持っていてもあまり信用していない。あやつは、誰かのためにと動けるやつではないだろうからな。だが夢主、お前さんは違うだろう?誰かのために動ける人間は信用している。金塊が万が一夢主の手に渡ったとしても、アイヌや和人のために使うだろうと信用できるからだ。」
「そ、そうですね……確かにそうするかもしれないです。」
急に褒められて動揺する。
誰かのために……か。
確かに杉元さんアシリパさんが金塊を持つことになっても私は異論がないから、きっと私は金塊を尾形さんではなくあの2人に譲るだろう。
知らず知らずのうちに私の中では金塊はあくまで第二の目標であって、一番の目標は尾形さんを祝福することだと確信する。
祝福することにも通じるが、尾形さんがアシリパさんや杉元さんに対して因縁のようなものを抱えているのをなんとかほぐしてあげたい。
心の中で迷いに迷っていたものがなくなり、ストンとまさに腑に落ちた感覚があった。
私の顔色が良くなったことに気付いたのだろう。
土方さんがフッと笑った。
「この土方歳三だって金塊だけではない。ほかに抱えているものなどたくさんある。夢主のことは信頼しているから、情報以外であってもかかわりたいと思うことがあるんだ。」
「は、はい……ありがとうございます。」
すらすらと人を褒めることができる土方さんは凄い。
これが年の功というものだろうか。
「夢主には、何か尾形に関して抱えているものが色々あるのだろうが……もう大丈夫そうだな。」
「はい、すごく心が軽くなりました。」
本当に助かった。
迷ったままで尾形さんを救えるとは到底思えない。
それに、金塊争奪戦の中で誰の役に立ちたいかハッキリとした。
スッキリした気持ちで外を見るともう日が落ちてきていた。
やり残した家事をバタバタと片付ける。
そうこうしている間に、永倉さんや牛山さんなどが帰宅してきた。
慌てて玄関までお出迎えをして夕飯の用意がまだだと侘びていると、後ろから土方さんがやってきて「皆で用意をしようか」と声をかけてくれた。
続々と帰宅してくる人たちの中に混じって尾形さんがまた野鳥を撃ち落としてきた。
おお!凄い!と皆が喜ぶと、尾形さんも少し得意げな表情を浮かべる。
……全くもって誰かのために動かない人ではないと思うんだけどな、と考えたが私だけが尾形さんの良いところを知っていても良いじゃないかと一人噛みしめた。
【あとがき:土方おじいちゃんの貫禄。】