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第六話 告白後
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第六話 告白後
「申し訳ありませんでしたーッ!!」
人生初土下座が明治時代の陸軍中尉にやることになるとは。
鶴見中尉は机に頬杖をついている。
「いやあ、夢主くんがまさか尾形上等兵のことを好いているとはねえ……気づかなかったよ。」
……心なしか中尉の声が低い。
テーブルに飾られた植物の葉っぱを摘みながら彼はこちらを見ない。
お怒りでいらっしゃるようだ。
それもそうだろう、本来仕事に励まなければならない人間が、悠長に恋愛の真似事などしていたら面白いものではない。
「違うんです、いや違くないですけど、その、あまりに尾形さんが悪く言われていたものだから……我慢できなくなってしまって変なことを言ってしまいました!そういうつもりで言ったわけではないんです。」
慌てて早口で否定するも鶴見中尉は残念そうにため息をついている。
なんか娘に彼氏ができて怒っているパパみたいだ。
「お騒がせしてすみませんでした。」
地面に頭を擦り付けていると、鶴見中尉はもういいから立ちなさい、と声をかけた。
びく、と肩が震えてしまったが、おずおずと立ち上がる。
ああ、ついにクビだろうか。
私、頑張ったのにな…なんて悲しくなる。
鶴見中尉は立ち上がった私に近づき、手を取ると視線を合わせてこう言った。
「尾形上等兵は確かにあのように掴みどころのない性格だから、悪く言われることもある。それを我慢できなかった夢主くんは、とても優しいんだろうね。」
「えっ、えっと……?」
鶴見中尉から目を離せない。
困っていると中尉は微笑む。
「でも今度からは困ったときは私を頼りなさい。必ず夢主くんの力になるよ。」
大人の男性に面と向かってこのように言われたのは初めてでたじろいでしまう。
頼ってくれと言ってきてしかも実際頼れる権力があるとなると説得力が凄い。
包容力のある大人というのはこのようなものを言うのか、と納得した。
「軍の人間にはあまり夢主くんを困らせないよう、噂はやめるように言っておくから、安心して仕事に励んでくれたまえ。」
渋さのあるカッコいい男性に微笑まれて嫌な気持ちになるわけがない。
何より仕事を辞めなくて済んでよかった。
ほっとしたら涙ぐんでしまって何も言えずにこくんと頷くことしかできなかった。
鶴見中尉には「今度は気晴らしに外で食事でもしようね」と約束をとりつけられて、解放された。
ほっとしつつ鶴見中尉の部屋を出ると、目の前には明らかに激昂している様子の鯉登さんがいた。
つ、鶴見中尉に手をとられていたのを見られていたかな……と焦る。
彼は鶴見中尉の熱狂的な信者だ。
ついてこいと言わんばかりに腕を引っ張られてどこかへ連れていかれる。
前のめりになりながらも必死についていった。
連れていかれたのは鯉登さんの仕事部屋。
初めて入る彼のプライベートな空間にちょっと緊張する。
整理整頓された部屋はとても鯉登さんらしいと思った。
「あの……鯉登さん、ご迷惑をおかけしました。」
「処分はされなかったか。」
「はい……。」
そう答えると視界が真っ暗?まっ黄色?になる。
鯉登少尉の軍服に包まれたと気づいたのは数秒後。
「ひゃぁ!?」
驚いて悲鳴が出たが、鯉登さんは私を抱きしめたまま離さない。
それどころか抱きしめる腕に力が入って痛い。
あばらが折れそうだ。
「ぅ、鯉登さん……っ苦しいです……。」
「あ……すまない。つい。安心したものだったから。」
鯉登さんは私を解放する。
ほっと一息つくと、彼は泣きそうな顔をしていた。
「わいは尾形上等兵が好きなんか。」
「え、っと、それは皆さんと同じくらい……大切に思ってますよ。毎日のように何度も悪口を聞かされて我慢できなくなってしまって……ついカッとなって支離滅裂なことを言ってしまいました。鯉登さんにもご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
私がなんとか言い終えると鯉登さんは安心した様子で座り込んでしまった。
完全に脱力した模様。
「えっ、大丈夫ですか!?」
「わいがだいかに取らるって思うて生きた心地がせんかった。」
「す、すみませんでした紛らわしいことを……。」
鯉登さんと尾形さんはあまり仲が良くない様子。
お互いに良く思っていない気がしたので、私は深入りはしなかったが、私が尾形さんだけのものになったと勘違いしていたようだ。
鯉登さんはすっかり元気になると、今度そのようなものがいたら自分が斬りつけてやると大袈裟なことを言っていた。
鯉登さんくらい激昂しやすいタイプだと、あながち大袈裟でもないのかもしれない。
その後、外で洗濯をしていると月島さんが声をかけてきた。
「夢主さん……。」
「はい!?あっ、月島さん、お疲れ様です。」
驚いて素っ頓狂な声が出た。
手を止めて立ち上がろうとするも、月島さんは私の隣にしゃがんで洗濯物を一緒に洗い始めた。
私の仕事ですから、と慌てて止めるが月島さんは少しお話がしたいので、一緒に仕事させてくださいとこちらを見ずに言った。
いつも仏頂面だが、今日は真剣そのものだったのでありがとうございます、と小さく呟いて一緒に洗濯物を洗う。
お話がしたいと言いつつもなかなか言い出さない月島さん。
ばしゃばしゃと水音だけが響いた。
しびれを切らしてこちらから声をかけた。
「あの、先日はご迷惑をおかけして、すみませんでした。」
「夢主さんが謝ることではありません……あいつら、毎日のように尾形上等兵のことを悪く言うために夢主さんについて回っていましたよね。もっと強く忠告すればよかったんです。こちらこそ不快な思いをされていたのに助けられず、すみませんでした。」
「そんなことないです……。」
また沈黙が流れる。
今度は月島さんが言葉を発した。
「……夢主さんは尾形上等兵を想っておられるのですか?」
「エッ」
「いえ、すみません、私には関係のないことなので言いたくないのなら無理に言わずとも……」
月島さんまで鯉登さんと同じ質問をしてくるのかと少しおかしな気持ちになる。
一日に何度も同じ話をすることになるとは……それだけ自分がやらかしたことの大きさにかなり後悔した。
「その、嫌いではないですよ?でも他の皆さん同様大切に思っております。やはり拾っていただいた恩もありますから……。」
「ああ……なるほど、それならば安心しました。」
月島さんの横顔が少し和らいだような気がした。
そういえば、あの時私にいろいろ言ってきた人たちはどうなったのだろう?
ふと気になって問いかける。
「あの時の人たちは、どうなりましたか……?」
恐る恐る聞いてみると、月島さんはちらりと横眼でこちらを見たのち、少し間をあけて言った。
「鯉登少尉がボコボコにして、私がみっちり説教しました。もうあのようなことは言わないと思いますよ。」
そういいながら月島さんが洗濯物を絞ると、洗濯物からミチミチと音がしたような気がして私はちょっと青ざめた。
それでもあの人たち命はあったのか、よかった。とほっとした。
洗濯物を干し終えると、話し込んでしまってすみませんでしたと月島さんは謝ってから戻っていった。
こちらこそ手伝ってもらって助かったので深々と頭を下げた。
その後は何事もなく仕事を進めることができた。
夕食の時間になって、食堂で皆のご飯をもりつける。
私はごはんをよそっていて、ほかの料理は当番制で兵士たちがもりつけている。
給食当番みたいだな、と毎回思うが、そのことを共有できる人間もいないので少し寂しい。
あれからというもの、何人かは失恋でもしたかのように死んだ目でこちらを見てくるようになった。
尾形さんのことを好いているというデマ(あながち嘘でもない)が蔓延してしまったので仕方がないかもしれない。不愉快な思いをさせてしまったようだ。
それでも仲良くしてくださる人がほとんどだったので、安心した。
ご飯をよそっていると、「おい」と低く声をかけられた。
その声にドキッとして裏返った声で「ハイッ」と返事をして顔を上げると尾形さんがいた。
「あ、尾形さん……。」
気まずい。
周りのひとたちもおしゃべりをやめてこちらを見ているのが分かる。
「ええと……どうかされましたか?」
「大盛。」
「アッ、ハイッ!」
慌ててご飯を盛り付けて尾形さんに手渡す。
尾形さんは茶碗を差し出した私の手をガッと掴んで言った。
「仕事ちゃんとしろよアバズレ。」
「はあ!?」
思わず叫んだが慌てて、丁寧な口調に戻す。
「っ、丁寧なご指導感謝いたします尾形上等兵殿!」
言い返した後にムッとしていると尾形さんは腹が立つほど良い笑顔で去っていった。
噂の張本人と物騒な会話をしてしまったせいで、今度は喧嘩していると噂が流れてしまい、私は頭を抱えた。
【あとがき:ただの痴話喧嘩。】
「申し訳ありませんでしたーッ!!」
人生初土下座が明治時代の陸軍中尉にやることになるとは。
鶴見中尉は机に頬杖をついている。
「いやあ、夢主くんがまさか尾形上等兵のことを好いているとはねえ……気づかなかったよ。」
……心なしか中尉の声が低い。
テーブルに飾られた植物の葉っぱを摘みながら彼はこちらを見ない。
お怒りでいらっしゃるようだ。
それもそうだろう、本来仕事に励まなければならない人間が、悠長に恋愛の真似事などしていたら面白いものではない。
「違うんです、いや違くないですけど、その、あまりに尾形さんが悪く言われていたものだから……我慢できなくなってしまって変なことを言ってしまいました!そういうつもりで言ったわけではないんです。」
慌てて早口で否定するも鶴見中尉は残念そうにため息をついている。
なんか娘に彼氏ができて怒っているパパみたいだ。
「お騒がせしてすみませんでした。」
地面に頭を擦り付けていると、鶴見中尉はもういいから立ちなさい、と声をかけた。
びく、と肩が震えてしまったが、おずおずと立ち上がる。
ああ、ついにクビだろうか。
私、頑張ったのにな…なんて悲しくなる。
鶴見中尉は立ち上がった私に近づき、手を取ると視線を合わせてこう言った。
「尾形上等兵は確かにあのように掴みどころのない性格だから、悪く言われることもある。それを我慢できなかった夢主くんは、とても優しいんだろうね。」
「えっ、えっと……?」
鶴見中尉から目を離せない。
困っていると中尉は微笑む。
「でも今度からは困ったときは私を頼りなさい。必ず夢主くんの力になるよ。」
大人の男性に面と向かってこのように言われたのは初めてでたじろいでしまう。
頼ってくれと言ってきてしかも実際頼れる権力があるとなると説得力が凄い。
包容力のある大人というのはこのようなものを言うのか、と納得した。
「軍の人間にはあまり夢主くんを困らせないよう、噂はやめるように言っておくから、安心して仕事に励んでくれたまえ。」
渋さのあるカッコいい男性に微笑まれて嫌な気持ちになるわけがない。
何より仕事を辞めなくて済んでよかった。
ほっとしたら涙ぐんでしまって何も言えずにこくんと頷くことしかできなかった。
鶴見中尉には「今度は気晴らしに外で食事でもしようね」と約束をとりつけられて、解放された。
ほっとしつつ鶴見中尉の部屋を出ると、目の前には明らかに激昂している様子の鯉登さんがいた。
つ、鶴見中尉に手をとられていたのを見られていたかな……と焦る。
彼は鶴見中尉の熱狂的な信者だ。
ついてこいと言わんばかりに腕を引っ張られてどこかへ連れていかれる。
前のめりになりながらも必死についていった。
連れていかれたのは鯉登さんの仕事部屋。
初めて入る彼のプライベートな空間にちょっと緊張する。
整理整頓された部屋はとても鯉登さんらしいと思った。
「あの……鯉登さん、ご迷惑をおかけしました。」
「処分はされなかったか。」
「はい……。」
そう答えると視界が真っ暗?まっ黄色?になる。
鯉登少尉の軍服に包まれたと気づいたのは数秒後。
「ひゃぁ!?」
驚いて悲鳴が出たが、鯉登さんは私を抱きしめたまま離さない。
それどころか抱きしめる腕に力が入って痛い。
あばらが折れそうだ。
「ぅ、鯉登さん……っ苦しいです……。」
「あ……すまない。つい。安心したものだったから。」
鯉登さんは私を解放する。
ほっと一息つくと、彼は泣きそうな顔をしていた。
「わいは尾形上等兵が好きなんか。」
「え、っと、それは皆さんと同じくらい……大切に思ってますよ。毎日のように何度も悪口を聞かされて我慢できなくなってしまって……ついカッとなって支離滅裂なことを言ってしまいました。鯉登さんにもご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
私がなんとか言い終えると鯉登さんは安心した様子で座り込んでしまった。
完全に脱力した模様。
「えっ、大丈夫ですか!?」
「わいがだいかに取らるって思うて生きた心地がせんかった。」
「す、すみませんでした紛らわしいことを……。」
鯉登さんと尾形さんはあまり仲が良くない様子。
お互いに良く思っていない気がしたので、私は深入りはしなかったが、私が尾形さんだけのものになったと勘違いしていたようだ。
鯉登さんはすっかり元気になると、今度そのようなものがいたら自分が斬りつけてやると大袈裟なことを言っていた。
鯉登さんくらい激昂しやすいタイプだと、あながち大袈裟でもないのかもしれない。
その後、外で洗濯をしていると月島さんが声をかけてきた。
「夢主さん……。」
「はい!?あっ、月島さん、お疲れ様です。」
驚いて素っ頓狂な声が出た。
手を止めて立ち上がろうとするも、月島さんは私の隣にしゃがんで洗濯物を一緒に洗い始めた。
私の仕事ですから、と慌てて止めるが月島さんは少しお話がしたいので、一緒に仕事させてくださいとこちらを見ずに言った。
いつも仏頂面だが、今日は真剣そのものだったのでありがとうございます、と小さく呟いて一緒に洗濯物を洗う。
お話がしたいと言いつつもなかなか言い出さない月島さん。
ばしゃばしゃと水音だけが響いた。
しびれを切らしてこちらから声をかけた。
「あの、先日はご迷惑をおかけして、すみませんでした。」
「夢主さんが謝ることではありません……あいつら、毎日のように尾形上等兵のことを悪く言うために夢主さんについて回っていましたよね。もっと強く忠告すればよかったんです。こちらこそ不快な思いをされていたのに助けられず、すみませんでした。」
「そんなことないです……。」
また沈黙が流れる。
今度は月島さんが言葉を発した。
「……夢主さんは尾形上等兵を想っておられるのですか?」
「エッ」
「いえ、すみません、私には関係のないことなので言いたくないのなら無理に言わずとも……」
月島さんまで鯉登さんと同じ質問をしてくるのかと少しおかしな気持ちになる。
一日に何度も同じ話をすることになるとは……それだけ自分がやらかしたことの大きさにかなり後悔した。
「その、嫌いではないですよ?でも他の皆さん同様大切に思っております。やはり拾っていただいた恩もありますから……。」
「ああ……なるほど、それならば安心しました。」
月島さんの横顔が少し和らいだような気がした。
そういえば、あの時私にいろいろ言ってきた人たちはどうなったのだろう?
ふと気になって問いかける。
「あの時の人たちは、どうなりましたか……?」
恐る恐る聞いてみると、月島さんはちらりと横眼でこちらを見たのち、少し間をあけて言った。
「鯉登少尉がボコボコにして、私がみっちり説教しました。もうあのようなことは言わないと思いますよ。」
そういいながら月島さんが洗濯物を絞ると、洗濯物からミチミチと音がしたような気がして私はちょっと青ざめた。
それでもあの人たち命はあったのか、よかった。とほっとした。
洗濯物を干し終えると、話し込んでしまってすみませんでしたと月島さんは謝ってから戻っていった。
こちらこそ手伝ってもらって助かったので深々と頭を下げた。
その後は何事もなく仕事を進めることができた。
夕食の時間になって、食堂で皆のご飯をもりつける。
私はごはんをよそっていて、ほかの料理は当番制で兵士たちがもりつけている。
給食当番みたいだな、と毎回思うが、そのことを共有できる人間もいないので少し寂しい。
あれからというもの、何人かは失恋でもしたかのように死んだ目でこちらを見てくるようになった。
尾形さんのことを好いているというデマ(あながち嘘でもない)が蔓延してしまったので仕方がないかもしれない。不愉快な思いをさせてしまったようだ。
それでも仲良くしてくださる人がほとんどだったので、安心した。
ご飯をよそっていると、「おい」と低く声をかけられた。
その声にドキッとして裏返った声で「ハイッ」と返事をして顔を上げると尾形さんがいた。
「あ、尾形さん……。」
気まずい。
周りのひとたちもおしゃべりをやめてこちらを見ているのが分かる。
「ええと……どうかされましたか?」
「大盛。」
「アッ、ハイッ!」
慌ててご飯を盛り付けて尾形さんに手渡す。
尾形さんは茶碗を差し出した私の手をガッと掴んで言った。
「仕事ちゃんとしろよアバズレ。」
「はあ!?」
思わず叫んだが慌てて、丁寧な口調に戻す。
「っ、丁寧なご指導感謝いたします尾形上等兵殿!」
言い返した後にムッとしていると尾形さんは腹が立つほど良い笑顔で去っていった。
噂の張本人と物騒な会話をしてしまったせいで、今度は喧嘩していると噂が流れてしまい、私は頭を抱えた。
【あとがき:ただの痴話喧嘩。】