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第五十九話 お久しぶりです
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第五十九話 お久しぶりです
船から降りて少ししたら私はやっと町娘の恰好から解放された。
まさか軍服が落ち着くなんて、現代に生きる頃なら考えられないことだった。
町娘の恰好は一応着替えや寝巻として手荷物に抱えた。
そして、船でのやり取りがウソのように、私と尾形さんは今まで通り何も変わらなかった。
少しくらいキズナってやつが生まれても良くない?
現代の恋愛ゲームみたいに好感度が分かれば良いんだけど、そういうのもないし、まあ尾形さんに撃ち殺されていないだけ全然マシなんだろうと自分を慰めた。
そんなことより、やっとの思いで土方さんたちの隠れ家に戻ってこれたのは良いんだけど、急に申し訳なくなってきた。
だって網走監獄では割と自由に行動した上に鶴見中尉に捕まってしまったし……。
しかし尾形さんは罪悪感が1ミリもなさそうな顔をして当然のように屋敷に上がり込む。
そして火鉢の横でまるで猫のようにごろんと横になった。
私はというと、その横で正座して縮こまる以外になかった。
隣の部屋では門倉さんとキラウシさんが花札らしきものに熱中しており、まるで私たちには気付いていないようだ。
いや、気づいてはいるんだろうけど二人とも「久しぶり~」くらいの軽いノリだった。
そうしていると、土方さん・永倉さん・牛山さんが帰宅してくる。
「のら尾形が戻ってきてる。……夢主も。」
皆が尾形さんに気付いたであろうタイミングで、私はその横で小さくなって土下座した。
「この度は無断で姿を消して申し訳ございませんでした……。」
土方さんは冷たい視線でこちらを見下ろし、私たちに網走監獄から今まで何をしていたかと聞き出した。
さすがの尾形さんも起き上がり、いつものように前髪を撫でつける。
尾形さんの口から出るのは半分くらいがウソだった。
杉元さんとのっぺらぼうが流れ弾に当たったと言い、キロランケさんが亡くなったことやソフィアさんのことなども織り交ぜて話す。
私も基本的にはそれらに合わせるだけで良かった。
むしろ私は嘘をほとんど混ぜずに話せる。だって尾形さんが勝手に裏切って消えたんだから。
もしかして、何も言わずに消えたのってこうやって第三者に話すときのため?なんて錯覚を覚えるくらいには、私の口からは有益な情報が何も出てこなかったことだろう。
尾形さんの樺太土産は2つある、と得意げに笑った。
一つはソフィアさんのこと。パルチザンの長である彼女ならきっとアシリパさんを追ってくるだろうと。
もう一つはアシリパさんが暗号を解くカギを思い出したであろうということだった。
なら早くアシリパさんを探さないといけないのでは……!?と指摘されるも、結局のところ刺青人皮がないと暗号は解けないのだから、土方陣営と鶴見中尉陣営に分かれている現状からして、いずれはこちらに接触してくると尾形さんは自分の話は終わったと言わんばかりに火鉢にくっついていた。
「あの……土方さん。家永さんは恐らくまだ鶴見中尉のもとで軍医として働いていると思います。でも、鶴見中尉の手にかかればいつかこの場所も追えてしまうのではないでしょうか。」
「そうだな、鶴見中尉相手に用心しすぎるということはない。」
土方さんはお気に入りの座椅子の上で険しい表情を浮かべていた。
しかしすぐにパッと表情を戻し、私に向き直った。
「何はともあれ、夢主が無事に戻ってきてくれて良かった。
鶴見中尉よりも信頼してくれると思って良いな?」
「あ、はいもちろんです……。」
その表情は明るいような気がしたが、目の奥からあふれる力に私はちょっと引いた。
土方さん、私が急に消えたことに対して怒っているのだろうか。
再度詫びようとしたとき、土方さんはそれを制してこう言い放った。
「尾形と一緒にいるのは構わんが、用心だけはしてくれよ。」
「え?あ、はい。」
土方さんの言葉の意味が読み取れなかった。
鶴見中尉と尾形さんがまるで同列かのような物言いに少し笑いそうになった。
尾形さんは不服そうにふてくされて火鉢を蹴っていた。
それからはまた土方さん陣営との共同生活だった。
が、やはり鶴見中尉に追われる危険性を考えて皆で札幌のはずれの寺へと移ることになった。
寺ならば色んな人が出入りしているから逆に見つかりにくいだろうと考えてのことだ。
荷物は持ってこれるものだけ持ってきたが、人数が多いから食料や衣服も必要で、拠点を移すというのは大変なことだった。
家事に追われていると何やら尾形さんが銃を持って出かけるのを見かけた。
「おでかけですか?」
「……あぁ。」
尾形さんの表情から読み解くに、何か獲物をとってきてくれるようだ。
右目が使えないということは左撃ちをしなければならないので、リハビリかしら。
ついていきたいのは山々だったが、尾形さんはきっと一人で訓練したいだろうから我慢して見送った。
皆にお茶を用意して机を囲む。
そこで門倉さんが看守仲間から聞いたという「海賊房太郎」の話を聞く。
何人もの人を殺し、更には網走で脱獄したと言う囚人。
まず間違いなく刺青人皮の持ち主だろう。
少ししんみりしているところでふと気づいた。
この人見たことあるようなないような…?っていうか軍服着ているし。
「あの、有古さんは第七師団の人間ですよね……何故こちらに?」
「あ、はい。」
有古さんが話そうとしている途中で扉がガラッと開いて、オオハクチョウを得意げに見せつけながら尾形さんが帰還した。
「おかえりなさい。また大物を捕まえたんですね。」
私が立ち上がり尾形さんから荷物を受け取る。
尾形さんが足元にハクチョウを置いたところで、有古さんが表情を変えた。
「尾形上等兵……!?」
「有古……お前もか。お前が鶴見たちを裏切るとはわからんもんだな。」
「私もあなたが裏切るとは思いませんでした。」
不思議そうに首をかしげてそのやり取りを見つめていたが、それよりもこのオオハクチョウをどうやって料理しようかと困ってしまった。
どうやらアイヌではぶつ切りにして大鍋で炊くらしい。
ハクチョウを食べると将来白髪になるらしい、と続くとまだ髪の黒い人たちは顔をしかめた。
都丹さんも門倉さんもほぼ白髪なのに若者顔をしていてちょっと笑ってしまった。
「夢主は、どうする?」
鍋を囲みながら牛山さんに聞かれる。
うーん、と少し考える素振りをしつつ、私はいただくことにした。
っていうか、現代なら白髪染めあるし。それでも白髪がないことに越したことはないんだけどね。
グレーヘアっていうの?お洒落な白髪も最近ではあるからそこまで心配はしていない。
「いただきます。私白髪になってでも健康でたくさん食べたいですから。」
ふふんと笑って頬張っていると、土方さんがその通りだと満足そうに笑っていた。
さて、その夜ほとんど食べ終えた状態で床についたのだが、なぜか先ほど白髪になることを気にしていた人たちが改めて鍋を囲み始めた。
私も皆にお酌でもしようと起き上がり一緒に鍋を囲んだ。
散々嫌がっていたのになぜ…と永倉さんが起きてきて問うと、ハゲないのなら白髪くらい良い!とクソガキのような生意気な口調で答えたもんだから永倉さんは「ペッ」と吐き捨てて布団へと戻っていった。
ちょっと可愛そうだったがそのやり取りが面白くてクスクスと笑っていると、尾形さんに冷めた目つきで見られていた。
【あとがき:白髪になったらパープルやオレンジに染めるのが夢です。】
船から降りて少ししたら私はやっと町娘の恰好から解放された。
まさか軍服が落ち着くなんて、現代に生きる頃なら考えられないことだった。
町娘の恰好は一応着替えや寝巻として手荷物に抱えた。
そして、船でのやり取りがウソのように、私と尾形さんは今まで通り何も変わらなかった。
少しくらいキズナってやつが生まれても良くない?
現代の恋愛ゲームみたいに好感度が分かれば良いんだけど、そういうのもないし、まあ尾形さんに撃ち殺されていないだけ全然マシなんだろうと自分を慰めた。
そんなことより、やっとの思いで土方さんたちの隠れ家に戻ってこれたのは良いんだけど、急に申し訳なくなってきた。
だって網走監獄では割と自由に行動した上に鶴見中尉に捕まってしまったし……。
しかし尾形さんは罪悪感が1ミリもなさそうな顔をして当然のように屋敷に上がり込む。
そして火鉢の横でまるで猫のようにごろんと横になった。
私はというと、その横で正座して縮こまる以外になかった。
隣の部屋では門倉さんとキラウシさんが花札らしきものに熱中しており、まるで私たちには気付いていないようだ。
いや、気づいてはいるんだろうけど二人とも「久しぶり~」くらいの軽いノリだった。
そうしていると、土方さん・永倉さん・牛山さんが帰宅してくる。
「のら尾形が戻ってきてる。……夢主も。」
皆が尾形さんに気付いたであろうタイミングで、私はその横で小さくなって土下座した。
「この度は無断で姿を消して申し訳ございませんでした……。」
土方さんは冷たい視線でこちらを見下ろし、私たちに網走監獄から今まで何をしていたかと聞き出した。
さすがの尾形さんも起き上がり、いつものように前髪を撫でつける。
尾形さんの口から出るのは半分くらいがウソだった。
杉元さんとのっぺらぼうが流れ弾に当たったと言い、キロランケさんが亡くなったことやソフィアさんのことなども織り交ぜて話す。
私も基本的にはそれらに合わせるだけで良かった。
むしろ私は嘘をほとんど混ぜずに話せる。だって尾形さんが勝手に裏切って消えたんだから。
もしかして、何も言わずに消えたのってこうやって第三者に話すときのため?なんて錯覚を覚えるくらいには、私の口からは有益な情報が何も出てこなかったことだろう。
尾形さんの樺太土産は2つある、と得意げに笑った。
一つはソフィアさんのこと。パルチザンの長である彼女ならきっとアシリパさんを追ってくるだろうと。
もう一つはアシリパさんが暗号を解くカギを思い出したであろうということだった。
なら早くアシリパさんを探さないといけないのでは……!?と指摘されるも、結局のところ刺青人皮がないと暗号は解けないのだから、土方陣営と鶴見中尉陣営に分かれている現状からして、いずれはこちらに接触してくると尾形さんは自分の話は終わったと言わんばかりに火鉢にくっついていた。
「あの……土方さん。家永さんは恐らくまだ鶴見中尉のもとで軍医として働いていると思います。でも、鶴見中尉の手にかかればいつかこの場所も追えてしまうのではないでしょうか。」
「そうだな、鶴見中尉相手に用心しすぎるということはない。」
土方さんはお気に入りの座椅子の上で険しい表情を浮かべていた。
しかしすぐにパッと表情を戻し、私に向き直った。
「何はともあれ、夢主が無事に戻ってきてくれて良かった。
鶴見中尉よりも信頼してくれると思って良いな?」
「あ、はいもちろんです……。」
その表情は明るいような気がしたが、目の奥からあふれる力に私はちょっと引いた。
土方さん、私が急に消えたことに対して怒っているのだろうか。
再度詫びようとしたとき、土方さんはそれを制してこう言い放った。
「尾形と一緒にいるのは構わんが、用心だけはしてくれよ。」
「え?あ、はい。」
土方さんの言葉の意味が読み取れなかった。
鶴見中尉と尾形さんがまるで同列かのような物言いに少し笑いそうになった。
尾形さんは不服そうにふてくされて火鉢を蹴っていた。
それからはまた土方さん陣営との共同生活だった。
が、やはり鶴見中尉に追われる危険性を考えて皆で札幌のはずれの寺へと移ることになった。
寺ならば色んな人が出入りしているから逆に見つかりにくいだろうと考えてのことだ。
荷物は持ってこれるものだけ持ってきたが、人数が多いから食料や衣服も必要で、拠点を移すというのは大変なことだった。
家事に追われていると何やら尾形さんが銃を持って出かけるのを見かけた。
「おでかけですか?」
「……あぁ。」
尾形さんの表情から読み解くに、何か獲物をとってきてくれるようだ。
右目が使えないということは左撃ちをしなければならないので、リハビリかしら。
ついていきたいのは山々だったが、尾形さんはきっと一人で訓練したいだろうから我慢して見送った。
皆にお茶を用意して机を囲む。
そこで門倉さんが看守仲間から聞いたという「海賊房太郎」の話を聞く。
何人もの人を殺し、更には網走で脱獄したと言う囚人。
まず間違いなく刺青人皮の持ち主だろう。
少ししんみりしているところでふと気づいた。
この人見たことあるようなないような…?っていうか軍服着ているし。
「あの、有古さんは第七師団の人間ですよね……何故こちらに?」
「あ、はい。」
有古さんが話そうとしている途中で扉がガラッと開いて、オオハクチョウを得意げに見せつけながら尾形さんが帰還した。
「おかえりなさい。また大物を捕まえたんですね。」
私が立ち上がり尾形さんから荷物を受け取る。
尾形さんが足元にハクチョウを置いたところで、有古さんが表情を変えた。
「尾形上等兵……!?」
「有古……お前もか。お前が鶴見たちを裏切るとはわからんもんだな。」
「私もあなたが裏切るとは思いませんでした。」
不思議そうに首をかしげてそのやり取りを見つめていたが、それよりもこのオオハクチョウをどうやって料理しようかと困ってしまった。
どうやらアイヌではぶつ切りにして大鍋で炊くらしい。
ハクチョウを食べると将来白髪になるらしい、と続くとまだ髪の黒い人たちは顔をしかめた。
都丹さんも門倉さんもほぼ白髪なのに若者顔をしていてちょっと笑ってしまった。
「夢主は、どうする?」
鍋を囲みながら牛山さんに聞かれる。
うーん、と少し考える素振りをしつつ、私はいただくことにした。
っていうか、現代なら白髪染めあるし。それでも白髪がないことに越したことはないんだけどね。
グレーヘアっていうの?お洒落な白髪も最近ではあるからそこまで心配はしていない。
「いただきます。私白髪になってでも健康でたくさん食べたいですから。」
ふふんと笑って頬張っていると、土方さんがその通りだと満足そうに笑っていた。
さて、その夜ほとんど食べ終えた状態で床についたのだが、なぜか先ほど白髪になることを気にしていた人たちが改めて鍋を囲み始めた。
私も皆にお酌でもしようと起き上がり一緒に鍋を囲んだ。
散々嫌がっていたのになぜ…と永倉さんが起きてきて問うと、ハゲないのなら白髪くらい良い!とクソガキのような生意気な口調で答えたもんだから永倉さんは「ペッ」と吐き捨てて布団へと戻っていった。
ちょっと可愛そうだったがそのやり取りが面白くてクスクスと笑っていると、尾形さんに冷めた目つきで見られていた。
【あとがき:白髪になったらパープルやオレンジに染めるのが夢です。】