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第五十六話 2度目の脱走
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第五十六話 2度目の脱走
モス、という寒天のようなニヴブのお菓子を食べる。
甘くておいしい……。
食欲がなかったが、これだけはまともに食べられた。
相変わらず尾形さんは意識がない。
月島さんも、ある程度は応急処置はしたものの、早めに医者に診せなければいけない。
鯉登さんがモスという響きを気に入ったのか、ご機嫌で月島さんの顔面にぬるんとモスをのっけているので、きちんと小さく切って食べさせてあげる。
月島さんは私にお礼を言いつつ、心配そうに見上げていた。
その視線に気付いていながらも、私は今は誰にも心に踏み入れられたくなくて視線を逸らした。
その間にそろそろ病院に行かなくてはという話になる。
ロシア人には日本人の見分けなんかつかないだろうと杉元さんたちがニヴブの恰好をして診療所を回ることに。
私は1人残ることにして、月島さんと尾形さんの傍を離れなかった。
村で二人を見守っていると、ロシア人の医者がやってくる。
ロシア語で事情を話すと、まず月島さんの傷を診てくれた。
丁寧に処置してもらえたので月島さんはあとは治癒を待つだけだろう。
問題は尾形さんだった。
やはり設備がきちんとした場所でないと治せない。
これには私も賛成だった。
皆は渋ったが杉元さんが尾形さんにはまだいろいろと聞くことがあるから死なせない、と恐ろしく冷めた表情でつぶやいた。
こうして尾形さんの手術をすることになった。
雪の中、そりで診療所まで尾形さんを運ぶ。
診療所に入ろうとした医者に『私も手術を手伝わせてください』、そう伝えると医者は驚いた様子でこちらを見る。
君は看護師か?と聞かれたので頷くと、医者は少し考える素振りを見せたがすぐに快諾してくれた。
手術室には、医者、助手のお姉さん、そして私の3人が入った。
他の皆は外で待機だ。
医者が戦争の経験者だったのもあって外科手術に慣れていた。
手術自体は成功したが、呼吸も血圧も弱いままだ。
私も、今夜が山場だと思う。
医者がそのことを皆に伝えに行く。
そして助手のお姉さんも機材を片付けると言い残し部屋を出た。
恐らく私の様子を見て、気を遣ってくれたのだろう。
私は尾形さんの胸元にそっと手を置いた。
「これで最後なのかなぁ……。」
ぽた、と涙が零れ落ちる。
今まで頑張ってきたのに、裏切られても、諦めなかったのに。
ずるっと力が抜けてしゃがみ込み尾形さんの胸に額を擦りつけるように顔を埋め、ぐすぐすと泣いていると、突然尾形さんが凄い力で私の頭を掴むと自分の胸にぎゅっと押し付けた。
「!?」
「夢主……そのまま聞け。俺は杉元たちにバレる前に医者を脅して出てくるから、お前は馬を用意しろ。」
掠れた声で尾形さんが私の耳にささやく。
驚く間も与えられず、尾形さんが私の頭を掴んで無理矢理に持ち上げた。
顔を見ると、尾形さんは片方の目でじっとこちらを見ていた。
その眼差しは有無を言わさぬ力強さがあった。
「行け。」
「は、はい……っ!」
生きてる!?意識がある!?そんなことを考える時間もなく、私は言われるがまま部屋の隅に投げてあった荷物を掴むと手術室の後ろの窓から飛び出す。
馬の繋いである場所は分かっていたので、一直線に向かう。
馬を一頭連れ出したところで杉元さんの怒鳴り声が聞こえた。
ああ、皆にバレたか。
散々尾形さんが死にかけている間に迷惑と心配をかけてしまった。
情けない姿を長いことずっと見せてしまっていた上に、恩返しもしないままにまた脱走するなんて。
だからといって尾形さんをこのまま皆に差し出すような馬鹿な真似は私にはできない。
窓の傍までくると、尾形さんと鯉登さんの声が聞こえる。
尾形さんはロシア語で鯉登さんを「バルチョーナク(ボンボンが)」と罵っているのが聞こえた。
そのままガッと鈍い音が聞こえて、一言二言尾形さんが呟く声が聞こえたあと、窓から飛び出してきた。
「尾形さん乗って!」
手術着のままの尾形さんが後ろに飛び乗り私の腰を掴んだのを確認すると、そのまま馬を発進させる。
言いたいことは山ほどあったが、ぐっとこらえて、脱走までの戦況を聞く。
「誰か殺しました!?」
「医者を怪我させたが、女は無事、鯉登少尉殿は気絶ってところだな。」
「なら良いです。」
後ろから杉元さんの声がする。
チラと視線をやると銃を構えていた。
「杉元さんです!撃たれる!」
何発か銃声がしたが、尾形さんは悠々と両手を広げて銃弾は全てかすりもしなかった。
「杉元は銃が下手だからなァ……。」
へらへらと笑っている尾形さんだったが、こちらはヒヤヒヤしっぱなしだった。
やがて追い付けないと分かったのか杉元さんは足を止めてこちらを見ていた。
【あとがき:祝脱走(2回目)】
モス、という寒天のようなニヴブのお菓子を食べる。
甘くておいしい……。
食欲がなかったが、これだけはまともに食べられた。
相変わらず尾形さんは意識がない。
月島さんも、ある程度は応急処置はしたものの、早めに医者に診せなければいけない。
鯉登さんがモスという響きを気に入ったのか、ご機嫌で月島さんの顔面にぬるんとモスをのっけているので、きちんと小さく切って食べさせてあげる。
月島さんは私にお礼を言いつつ、心配そうに見上げていた。
その視線に気付いていながらも、私は今は誰にも心に踏み入れられたくなくて視線を逸らした。
その間にそろそろ病院に行かなくてはという話になる。
ロシア人には日本人の見分けなんかつかないだろうと杉元さんたちがニヴブの恰好をして診療所を回ることに。
私は1人残ることにして、月島さんと尾形さんの傍を離れなかった。
村で二人を見守っていると、ロシア人の医者がやってくる。
ロシア語で事情を話すと、まず月島さんの傷を診てくれた。
丁寧に処置してもらえたので月島さんはあとは治癒を待つだけだろう。
問題は尾形さんだった。
やはり設備がきちんとした場所でないと治せない。
これには私も賛成だった。
皆は渋ったが杉元さんが尾形さんにはまだいろいろと聞くことがあるから死なせない、と恐ろしく冷めた表情でつぶやいた。
こうして尾形さんの手術をすることになった。
雪の中、そりで診療所まで尾形さんを運ぶ。
診療所に入ろうとした医者に『私も手術を手伝わせてください』、そう伝えると医者は驚いた様子でこちらを見る。
君は看護師か?と聞かれたので頷くと、医者は少し考える素振りを見せたがすぐに快諾してくれた。
手術室には、医者、助手のお姉さん、そして私の3人が入った。
他の皆は外で待機だ。
医者が戦争の経験者だったのもあって外科手術に慣れていた。
手術自体は成功したが、呼吸も血圧も弱いままだ。
私も、今夜が山場だと思う。
医者がそのことを皆に伝えに行く。
そして助手のお姉さんも機材を片付けると言い残し部屋を出た。
恐らく私の様子を見て、気を遣ってくれたのだろう。
私は尾形さんの胸元にそっと手を置いた。
「これで最後なのかなぁ……。」
ぽた、と涙が零れ落ちる。
今まで頑張ってきたのに、裏切られても、諦めなかったのに。
ずるっと力が抜けてしゃがみ込み尾形さんの胸に額を擦りつけるように顔を埋め、ぐすぐすと泣いていると、突然尾形さんが凄い力で私の頭を掴むと自分の胸にぎゅっと押し付けた。
「!?」
「夢主……そのまま聞け。俺は杉元たちにバレる前に医者を脅して出てくるから、お前は馬を用意しろ。」
掠れた声で尾形さんが私の耳にささやく。
驚く間も与えられず、尾形さんが私の頭を掴んで無理矢理に持ち上げた。
顔を見ると、尾形さんは片方の目でじっとこちらを見ていた。
その眼差しは有無を言わさぬ力強さがあった。
「行け。」
「は、はい……っ!」
生きてる!?意識がある!?そんなことを考える時間もなく、私は言われるがまま部屋の隅に投げてあった荷物を掴むと手術室の後ろの窓から飛び出す。
馬の繋いである場所は分かっていたので、一直線に向かう。
馬を一頭連れ出したところで杉元さんの怒鳴り声が聞こえた。
ああ、皆にバレたか。
散々尾形さんが死にかけている間に迷惑と心配をかけてしまった。
情けない姿を長いことずっと見せてしまっていた上に、恩返しもしないままにまた脱走するなんて。
だからといって尾形さんをこのまま皆に差し出すような馬鹿な真似は私にはできない。
窓の傍までくると、尾形さんと鯉登さんの声が聞こえる。
尾形さんはロシア語で鯉登さんを「バルチョーナク(ボンボンが)」と罵っているのが聞こえた。
そのままガッと鈍い音が聞こえて、一言二言尾形さんが呟く声が聞こえたあと、窓から飛び出してきた。
「尾形さん乗って!」
手術着のままの尾形さんが後ろに飛び乗り私の腰を掴んだのを確認すると、そのまま馬を発進させる。
言いたいことは山ほどあったが、ぐっとこらえて、脱走までの戦況を聞く。
「誰か殺しました!?」
「医者を怪我させたが、女は無事、鯉登少尉殿は気絶ってところだな。」
「なら良いです。」
後ろから杉元さんの声がする。
チラと視線をやると銃を構えていた。
「杉元さんです!撃たれる!」
何発か銃声がしたが、尾形さんは悠々と両手を広げて銃弾は全てかすりもしなかった。
「杉元は銃が下手だからなァ……。」
へらへらと笑っている尾形さんだったが、こちらはヒヤヒヤしっぱなしだった。
やがて追い付けないと分かったのか杉元さんは足を止めてこちらを見ていた。
【あとがき:祝脱走(2回目)】