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第五十五話 悲しみ
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第五十五話 悲しみ
再会を喜ぶ皆をよそに座り込んだまま動けないでいると、アシリパさんが私の前に手を差し伸べた。
「アシリパさん……。」
驚くほどか細い声しか出なかった。
なんとか立ち上がるも、くら、と貧血のような眩暈を覚えて立ち止まる。
杉元さんが尾形さんを背負い、荷物は白石さんが持つ。
二人共私に気を遣ってか、何も言わない。
その後歩き出すと、人影がいくつか見える。
近づいていくと血まみれの鯉登さん、月島さん、谷垣さん、キロランケさん。
キロランケさんは横たわりもう虫の息といったところだった。
とどめを刺そうとしている鯉登さんたちに、アシリパさんが駆け寄る。
金塊の手掛かりについて聞き出せなくなる!とアシリパさんが抵抗し、何やらキロランケさんの耳元で言葉を交わしたあと、キロランケさんは静かに息を引き取った。
皆で見届け、流氷でお墓の代わりに埋め立てる。
私はそれもできず、ただ膝をついてその姿を見守っていた。
肩をぽん、と叩かれびくりと震えた。
顔を上げると鯉登さんがこちらを見下ろしていた。
「尾形は死んだのか?」
「……いえ、毒矢を目にくらいました。」
答えたあとで、ふと視線を下ろすと鯉登さんの右腕は血まみれだった。
キロランケさんと死闘を繰り広げたのだろう。
先ほどの尾形さんの目玉から血が噴き出していた光景がフラッシュバックする。
血の気がサァァと引くのを感じ、急いで無事な方の左手を引っ張り鯉登さんを座らせる。
「夢主……?」
何も言わず荷物から包帯や消毒を取り出し、腕を固定する。
黙々と作業をしていると鯉登さんは心配そうに私の顔を覗き込む。
「おい夢主。」
「……。」
何も答えられず、青白い顔のまま鯉登さんへ視線を移す。
鯉登さんは無事な方の腕で私を引き寄せた。
「……大丈夫だ、絶対に助かる。尾形は好かんが、夢主を悲しませったぁ許せん。」
「ぁ、ありがとう、ございます。」
鯉登さんの体温が感じられ、少し力が抜ける。
そんなやり取りをしていると、後ろで月島さんがガクリと膝をついた。
「ひどい傷だ。よく今まで立っていられた。」
谷垣さんが月島さんを支える。
月島さんの首元は血まみれで、どうやらキロランケさんの爆弾をくらったようだ。
傷を診ようとするが、ここで縫い付けるのは危険だ。
爆弾の破片なんかも入っているかもしれない。
一応止血だけでもとタオルで押さえる。
谷垣さんが月島さんを背負って、亜港まで戻ろうという話になったとき、杉元さんとアシリパさんが人影をみつけて走り出した。
鯉登さんが止めたが聞く耳を持たない。
そしてしばらくすると、以前にスチェンカという格闘試合で出会った岩息がニッコニコで杉元さんたちと共にこちらへやってきた。
赤ちゃんを抱くかのように月島さんを抱き上げると一緒に歩き出した。
亜港付近のニヴブ民族のコタンに立ち寄らせてもらう。
尾形さんと月島さんを寝かせ、皆で火を囲む。
何故尾形さんが金塊を狙っているのか……と話題になるが、私は何も知らされていない。
言葉を発する気さえ起きないので、部屋の隅で膝をかかえていた。
あの時、尾形さんが撃たれた時、一歩も動けなかった。
杉元さんがいなかったら本当に死んでしまっていたかもしれない。
その瞬間なぜ動けなかったのか、このまま死んでしまったらどうしよう、などといろんなことが頭をぐるぐると駆け巡る。
後悔ばかりしていた。
月島さんが一緒にいた女性(彼女がスヴェトラーナのようだ)にロシア語で話しかける。
島を出て岩息と一緒に回れ、ただし両親にも必ず手紙を書けと言っている。
生きていれば真っ暗な底からは抜け出せる、と吐いた月島さんの口調は、暗かった。
自分は助からずとも、同じ思いをしている人たちは助ける、そんな優しさを月島さんが見せていることに気付いたのは、ロシア語が分かり月島さんの事情を知っている私だけだろう。
ああ……私だって私を犠牲にしてでも尾形さんを助けたい。
ぽろ、と涙がこぼれ落ち、泣いているのが誰かにバレる前に顔を伏せた。
その後も村では今までのようにニヴブの怖い話を聞いたり、それを聞いてふざけ合っている杉元さんたちの姿を私は見ていた。
ただ、皆の輪に入ることができず、尾形さんの傍からは一歩も離れられなかった。
心配して話しかけてくれる人はいても、全く心が落ち着くことはなく、ひたすらにあの時を何度も考えてしまっていた。
【あとがき:くよくよしちゃう。】
再会を喜ぶ皆をよそに座り込んだまま動けないでいると、アシリパさんが私の前に手を差し伸べた。
「アシリパさん……。」
驚くほどか細い声しか出なかった。
なんとか立ち上がるも、くら、と貧血のような眩暈を覚えて立ち止まる。
杉元さんが尾形さんを背負い、荷物は白石さんが持つ。
二人共私に気を遣ってか、何も言わない。
その後歩き出すと、人影がいくつか見える。
近づいていくと血まみれの鯉登さん、月島さん、谷垣さん、キロランケさん。
キロランケさんは横たわりもう虫の息といったところだった。
とどめを刺そうとしている鯉登さんたちに、アシリパさんが駆け寄る。
金塊の手掛かりについて聞き出せなくなる!とアシリパさんが抵抗し、何やらキロランケさんの耳元で言葉を交わしたあと、キロランケさんは静かに息を引き取った。
皆で見届け、流氷でお墓の代わりに埋め立てる。
私はそれもできず、ただ膝をついてその姿を見守っていた。
肩をぽん、と叩かれびくりと震えた。
顔を上げると鯉登さんがこちらを見下ろしていた。
「尾形は死んだのか?」
「……いえ、毒矢を目にくらいました。」
答えたあとで、ふと視線を下ろすと鯉登さんの右腕は血まみれだった。
キロランケさんと死闘を繰り広げたのだろう。
先ほどの尾形さんの目玉から血が噴き出していた光景がフラッシュバックする。
血の気がサァァと引くのを感じ、急いで無事な方の左手を引っ張り鯉登さんを座らせる。
「夢主……?」
何も言わず荷物から包帯や消毒を取り出し、腕を固定する。
黙々と作業をしていると鯉登さんは心配そうに私の顔を覗き込む。
「おい夢主。」
「……。」
何も答えられず、青白い顔のまま鯉登さんへ視線を移す。
鯉登さんは無事な方の腕で私を引き寄せた。
「……大丈夫だ、絶対に助かる。尾形は好かんが、夢主を悲しませったぁ許せん。」
「ぁ、ありがとう、ございます。」
鯉登さんの体温が感じられ、少し力が抜ける。
そんなやり取りをしていると、後ろで月島さんがガクリと膝をついた。
「ひどい傷だ。よく今まで立っていられた。」
谷垣さんが月島さんを支える。
月島さんの首元は血まみれで、どうやらキロランケさんの爆弾をくらったようだ。
傷を診ようとするが、ここで縫い付けるのは危険だ。
爆弾の破片なんかも入っているかもしれない。
一応止血だけでもとタオルで押さえる。
谷垣さんが月島さんを背負って、亜港まで戻ろうという話になったとき、杉元さんとアシリパさんが人影をみつけて走り出した。
鯉登さんが止めたが聞く耳を持たない。
そしてしばらくすると、以前にスチェンカという格闘試合で出会った岩息がニッコニコで杉元さんたちと共にこちらへやってきた。
赤ちゃんを抱くかのように月島さんを抱き上げると一緒に歩き出した。
亜港付近のニヴブ民族のコタンに立ち寄らせてもらう。
尾形さんと月島さんを寝かせ、皆で火を囲む。
何故尾形さんが金塊を狙っているのか……と話題になるが、私は何も知らされていない。
言葉を発する気さえ起きないので、部屋の隅で膝をかかえていた。
あの時、尾形さんが撃たれた時、一歩も動けなかった。
杉元さんがいなかったら本当に死んでしまっていたかもしれない。
その瞬間なぜ動けなかったのか、このまま死んでしまったらどうしよう、などといろんなことが頭をぐるぐると駆け巡る。
後悔ばかりしていた。
月島さんが一緒にいた女性(彼女がスヴェトラーナのようだ)にロシア語で話しかける。
島を出て岩息と一緒に回れ、ただし両親にも必ず手紙を書けと言っている。
生きていれば真っ暗な底からは抜け出せる、と吐いた月島さんの口調は、暗かった。
自分は助からずとも、同じ思いをしている人たちは助ける、そんな優しさを月島さんが見せていることに気付いたのは、ロシア語が分かり月島さんの事情を知っている私だけだろう。
ああ……私だって私を犠牲にしてでも尾形さんを助けたい。
ぽろ、と涙がこぼれ落ち、泣いているのが誰かにバレる前に顔を伏せた。
その後も村では今までのようにニヴブの怖い話を聞いたり、それを聞いてふざけ合っている杉元さんたちの姿を私は見ていた。
ただ、皆の輪に入ることができず、尾形さんの傍からは一歩も離れられなかった。
心配して話しかけてくれる人はいても、全く心が落ち着くことはなく、ひたすらにあの時を何度も考えてしまっていた。
【あとがき:くよくよしちゃう。】