空欄の場合は夢主になります。
第五十二話 極寒
お名前をどうぞ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第五十二話 極寒
国境までの道を犬ぞりで北上しているとき、私たちは大吹雪に見舞われていた。
犬ぞりは2台。
エノノカちゃんとその祖父と私と月島さんと鯉登さんで1台が先導。
杉元さんと谷垣さんとチカパシくんで1台で後続。
なんともなければ真っ直ぐついてくれば良いだけの道だったが、吹雪の中だと人は方向感覚を失う。
途中後続が続いてないことに気付き月島さんが銃声で位置を教えるも、それすら風の音にかき消された。
合流を諦め、建物が見えたという場所へ私たちは向かう。
「杉元さんたち……無事でしょうか。」
ぼそりと呟くと、月島さんも険しい表情をしていた。
「谷垣がいるなら簡単には死なないと思いますが……。」
そこは牛舎のようで人は見当たらない。
火を起こして温まろうという話をしていると、外国人の男性がやってきた。
ロシア語だったため、月島さんと私で通訳する。
ついてこい、と言われて進んだ先には何やら大きな装置?のようなものが。
「これは?」
と質問するも、男性は私たちを急かしてその装置の掃除をさせる。
後に知ったがこれは第二不動レンズというもので、燈台のレンズだったようだ。
何も知らない私たちは言われるがままにレンズを磨き上げる。
その間に男性は燃料を準備していたようで、燈台の明かりをつけた。
かなり強力な燈台のようだ。
鯉登さんがウロチョロと落ち着きなく燈台の前で遠くを見ようとしている。
それを月島さんが注意し、鯉登さんも諦めたようで先ほどの男性のいる下の部屋へと私たちは降りた。
下の部屋に行くと、男性の奥様だろうか、女の人がお菓子や温かいお茶を出してくれた。
「スーシェカというものだそうです。……美味しそうですね。」
菓子パンのようなものがお皿にたくさん乗っていて、鯉登さんがさっそく手を伸ばす。
美味しいようで目をキラキラさせて、鶴見中尉にも教えてあげたいと呟いていた。
のんびりと団欒していると、バタンッと扉の音がして、顔を真っ赤にした杉元さんたち3人がやってきた。
「杉元さん谷垣さん……!」
二人はハァハァと荒い呼吸を繰り返し若干呆然としている。
あの吹雪の中を歩いてきたのだから当然だろうが、死にかけたのだろう、表情が強張っていた。
ここの主人がペチカの上が温かいと教えてくれると、杉元さんたちはぎゅうぎゅうになってそこに収まる。
それを見た鯉登さんが虫みたいだと笑った。ちょっと酷い。
その日はそこに泊めてもらうことになった。
「杉元さんたちは、はぐれた後どうしてたんですか?闇雲に歩いていたわけではないですよね?」
「犬ぞりを壊して燃やしたり、犬を集めて暖を取って、谷垣の地元のモチ食って、ウトウトしてたら燈台の火が見えたんだ。」
杉元さんは遠い昔のことのように目を細めて答える。
壮絶な時間を過ごしたようだ。
主人によると、あの燈台は日露戦争以来使っていないものだったらしく、ここのご夫婦がいなかったらと思うとぞっとする。
とにかく無事で良かった。
ヘンケ(おじいちゃん)が犬ぞりを作り直すとのことだったので手伝う。
その時谷垣さんは猟犬のリュウが逸れたのは、前のそりにちゃんとついてこうとしていたのだろうと推察していた。
なんと賢い……と感動していると鯉登さんの驚いたような声が響いた。
「月島ァ!金槌がくっついた!」
月島さんは冷めた表情でこの気温で金属を触ればそうなるし、無理矢理剥がせば手の皮がはがれると脅す。
まぁ実際脅しではなくその通りではあるのだが。
「どうしましょ、お湯沸かしてもらいましょうk…「おい、誰か小便かけてやれ。」
月島さんが当然のような口調で遮ってくる。
びっくりして言葉が出ないでいると、杉元さんが真面目な表情で続けた。
「オレ、出るぜ……手ェ出しな。」
それを聞いた鯉登さんが猛ダッシュで逃げ出し、杉元さんは鯉登さんとしばらく追いかけっこしていた。
「……仲良いなぁ。」
「夢主さんも、なかなかの鬼畜ですね。」
考えるのを放棄して微笑ましく見ていると、月島さんにツッコまれた。
奥様が食事を準備してくれると言うので、皆で手伝う。
ビリメニという餃子のようなものや、ビーツを入れた赤いボルシチなどが食卓を彩る。
美味しい、ってなんていうの?とチカパシくんが聞くと月島さんが「フクースナ」だと答える。
そして皆でフクースナと繰り返していると、夫婦はいつもは二人なので賑やかなのが嬉しいと笑った。
ご家族について問いかけると、スヴェトラーナという名の娘がロシア軍の脱走兵に連れ去られてしまったそうな。
ロシア軍や政府は何もしてくれず、日露戦争時の役目を終えた燈台だが、この場所でずっと娘さんが帰ってくるのを待っているとのこと。
これを翻訳していた月島さんの表情は、段々と恐ろしいほどに冷めたものになっていた。
以前に月島さんが私に重ねた大切な人は、まだ見つからないのだろう。
そのことに気付いているのは私と、もしかしたら鯉登さんもかしら、と私は皆の様子をうかがっていた。
翌日、吹雪はやみ、出発の前に杉元さんは娘さんの写真を夫婦から受け取っていた。
助けてもらったお礼に行く先々で聞いて回るくらいは良いだろう、とのこと。
何度もお礼を言って、私たちは出発した。
それから私たちは新問付近の樺太アイヌの集落に滞在していた。
ここに来るまでにも、アシリパさんとスヴェトラーナさんのことを聞いて回ったが収穫はなかった。
エノノカちゃんがチカパシくんに、ここの集落にメコオヤシ出たとウキウキで言っている。
「メコオヤシ?」
私も思わず聞き返すと、樺太アイヌの昔話に出てくる猫の化け物だそうで、毛皮に赤と白のブチがある犬みたいに大きな猫だそうだ。
しかも浜に群れで出てきたとのこと。
「オオヤマネコだな。」
話を聞いていた月島さんが呟く。
なるほど、と頷いていると、鯉登さんがフンと笑う。
「尾形百之助じゃないのか?いよいよ奴らに追いついたか。」
「なんで尾形なんだよ。」
怪訝そうに杉元さんが問いかける。
谷垣さんは何も言わない。
ああ……この空気嫌だなぁ、第七師団にいたころを思い出す。
「山猫の子供は山猫、だそうですよ。」
耐え切れずに口を挟む。
他の人から言われるくらいなら、私が言ってしまおうと思ったのだ。
努めて冷静に言おうとしたせいで不自然なほどに優しい声色になってしまい、怒っていると勘違いしたらしい鯉登さんがすまんかった……と私に呟く。
私は事実ですから……と慌てて鯉登さんをなだめている間に、月島さんが山猫は芸者を指す隠語だと説明していた。
「くだらねえな。」
杉元さんが呟く。
鯉登さんは、尾形さんがあの性格だから嫌っている者も少なくないし自分も嫌いだと答える。
そして山猫には人を化かす、インチキなどの意味もあると言う。
案の定ではないか?と杉元さんい問い返していた。
尾形さんは本当にどういうつもりなのだろうか……首根っこ掴んで問い詰めなければ気が収まらない。
私が頭を抱えている間に、その話に教訓があるとすればだが、「泥棒猫は撃ち殺せ」だと話がまとまっていた。
異議はないが、ひとつ付け足したい。
……もし撃ち殺すならば、私の役目だ。
そう静かに心に刻んだ。
【あとがき:猫ちゃん可愛い。】
国境までの道を犬ぞりで北上しているとき、私たちは大吹雪に見舞われていた。
犬ぞりは2台。
エノノカちゃんとその祖父と私と月島さんと鯉登さんで1台が先導。
杉元さんと谷垣さんとチカパシくんで1台で後続。
なんともなければ真っ直ぐついてくれば良いだけの道だったが、吹雪の中だと人は方向感覚を失う。
途中後続が続いてないことに気付き月島さんが銃声で位置を教えるも、それすら風の音にかき消された。
合流を諦め、建物が見えたという場所へ私たちは向かう。
「杉元さんたち……無事でしょうか。」
ぼそりと呟くと、月島さんも険しい表情をしていた。
「谷垣がいるなら簡単には死なないと思いますが……。」
そこは牛舎のようで人は見当たらない。
火を起こして温まろうという話をしていると、外国人の男性がやってきた。
ロシア語だったため、月島さんと私で通訳する。
ついてこい、と言われて進んだ先には何やら大きな装置?のようなものが。
「これは?」
と質問するも、男性は私たちを急かしてその装置の掃除をさせる。
後に知ったがこれは第二不動レンズというもので、燈台のレンズだったようだ。
何も知らない私たちは言われるがままにレンズを磨き上げる。
その間に男性は燃料を準備していたようで、燈台の明かりをつけた。
かなり強力な燈台のようだ。
鯉登さんがウロチョロと落ち着きなく燈台の前で遠くを見ようとしている。
それを月島さんが注意し、鯉登さんも諦めたようで先ほどの男性のいる下の部屋へと私たちは降りた。
下の部屋に行くと、男性の奥様だろうか、女の人がお菓子や温かいお茶を出してくれた。
「スーシェカというものだそうです。……美味しそうですね。」
菓子パンのようなものがお皿にたくさん乗っていて、鯉登さんがさっそく手を伸ばす。
美味しいようで目をキラキラさせて、鶴見中尉にも教えてあげたいと呟いていた。
のんびりと団欒していると、バタンッと扉の音がして、顔を真っ赤にした杉元さんたち3人がやってきた。
「杉元さん谷垣さん……!」
二人はハァハァと荒い呼吸を繰り返し若干呆然としている。
あの吹雪の中を歩いてきたのだから当然だろうが、死にかけたのだろう、表情が強張っていた。
ここの主人がペチカの上が温かいと教えてくれると、杉元さんたちはぎゅうぎゅうになってそこに収まる。
それを見た鯉登さんが虫みたいだと笑った。ちょっと酷い。
その日はそこに泊めてもらうことになった。
「杉元さんたちは、はぐれた後どうしてたんですか?闇雲に歩いていたわけではないですよね?」
「犬ぞりを壊して燃やしたり、犬を集めて暖を取って、谷垣の地元のモチ食って、ウトウトしてたら燈台の火が見えたんだ。」
杉元さんは遠い昔のことのように目を細めて答える。
壮絶な時間を過ごしたようだ。
主人によると、あの燈台は日露戦争以来使っていないものだったらしく、ここのご夫婦がいなかったらと思うとぞっとする。
とにかく無事で良かった。
ヘンケ(おじいちゃん)が犬ぞりを作り直すとのことだったので手伝う。
その時谷垣さんは猟犬のリュウが逸れたのは、前のそりにちゃんとついてこうとしていたのだろうと推察していた。
なんと賢い……と感動していると鯉登さんの驚いたような声が響いた。
「月島ァ!金槌がくっついた!」
月島さんは冷めた表情でこの気温で金属を触ればそうなるし、無理矢理剥がせば手の皮がはがれると脅す。
まぁ実際脅しではなくその通りではあるのだが。
「どうしましょ、お湯沸かしてもらいましょうk…「おい、誰か小便かけてやれ。」
月島さんが当然のような口調で遮ってくる。
びっくりして言葉が出ないでいると、杉元さんが真面目な表情で続けた。
「オレ、出るぜ……手ェ出しな。」
それを聞いた鯉登さんが猛ダッシュで逃げ出し、杉元さんは鯉登さんとしばらく追いかけっこしていた。
「……仲良いなぁ。」
「夢主さんも、なかなかの鬼畜ですね。」
考えるのを放棄して微笑ましく見ていると、月島さんにツッコまれた。
奥様が食事を準備してくれると言うので、皆で手伝う。
ビリメニという餃子のようなものや、ビーツを入れた赤いボルシチなどが食卓を彩る。
美味しい、ってなんていうの?とチカパシくんが聞くと月島さんが「フクースナ」だと答える。
そして皆でフクースナと繰り返していると、夫婦はいつもは二人なので賑やかなのが嬉しいと笑った。
ご家族について問いかけると、スヴェトラーナという名の娘がロシア軍の脱走兵に連れ去られてしまったそうな。
ロシア軍や政府は何もしてくれず、日露戦争時の役目を終えた燈台だが、この場所でずっと娘さんが帰ってくるのを待っているとのこと。
これを翻訳していた月島さんの表情は、段々と恐ろしいほどに冷めたものになっていた。
以前に月島さんが私に重ねた大切な人は、まだ見つからないのだろう。
そのことに気付いているのは私と、もしかしたら鯉登さんもかしら、と私は皆の様子をうかがっていた。
翌日、吹雪はやみ、出発の前に杉元さんは娘さんの写真を夫婦から受け取っていた。
助けてもらったお礼に行く先々で聞いて回るくらいは良いだろう、とのこと。
何度もお礼を言って、私たちは出発した。
それから私たちは新問付近の樺太アイヌの集落に滞在していた。
ここに来るまでにも、アシリパさんとスヴェトラーナさんのことを聞いて回ったが収穫はなかった。
エノノカちゃんがチカパシくんに、ここの集落にメコオヤシ出たとウキウキで言っている。
「メコオヤシ?」
私も思わず聞き返すと、樺太アイヌの昔話に出てくる猫の化け物だそうで、毛皮に赤と白のブチがある犬みたいに大きな猫だそうだ。
しかも浜に群れで出てきたとのこと。
「オオヤマネコだな。」
話を聞いていた月島さんが呟く。
なるほど、と頷いていると、鯉登さんがフンと笑う。
「尾形百之助じゃないのか?いよいよ奴らに追いついたか。」
「なんで尾形なんだよ。」
怪訝そうに杉元さんが問いかける。
谷垣さんは何も言わない。
ああ……この空気嫌だなぁ、第七師団にいたころを思い出す。
「山猫の子供は山猫、だそうですよ。」
耐え切れずに口を挟む。
他の人から言われるくらいなら、私が言ってしまおうと思ったのだ。
努めて冷静に言おうとしたせいで不自然なほどに優しい声色になってしまい、怒っていると勘違いしたらしい鯉登さんがすまんかった……と私に呟く。
私は事実ですから……と慌てて鯉登さんをなだめている間に、月島さんが山猫は芸者を指す隠語だと説明していた。
「くだらねえな。」
杉元さんが呟く。
鯉登さんは、尾形さんがあの性格だから嫌っている者も少なくないし自分も嫌いだと答える。
そして山猫には人を化かす、インチキなどの意味もあると言う。
案の定ではないか?と杉元さんい問い返していた。
尾形さんは本当にどういうつもりなのだろうか……首根っこ掴んで問い詰めなければ気が収まらない。
私が頭を抱えている間に、その話に教訓があるとすればだが、「泥棒猫は撃ち殺せ」だと話がまとまっていた。
異議はないが、ひとつ付け足したい。
……もし撃ち殺すならば、私の役目だ。
そう静かに心に刻んだ。
【あとがき:猫ちゃん可愛い。】