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第五十一話 尾形視点
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第五十一話 尾形視点
夢主とは上手くやっていけてると思っていた。
自分の銃の腕と、夢主がいれば、金塊にも手が届くだろうし――何にでもなれる、全てが手に入ると思い込んでいたが、思い上がりだったようだ。
勇作の持っていたすべてを、夢主が持っているように感じていたから。
夢主と勇作は別物だと分かっていたが、それでも、夢主を自分のものにすれば愛されなかった自分がいなくなったかのような錯覚を覚えていたのだ。
網走監獄に潜入する少し前。
キロランケにアシリパと杉元を引き離す話を持ち掛けられた俺は、急に足元がぐらついたような感覚を覚えた。
状況次第だが、万一の時は杉元を殺さねばならん。
俺は前に一度杉元とはやりあっているし今更それくらいでは動揺はしない。
ただ、夢主はどうだろうか。
夢主にその辺の人間のような弱みはない、ためらいなく人を撃てるはずだ。
今までだって、俺が崖から落ちたときも、谷垣を狩ろうとしたときも、日泥の抗争に巻き込まれたときも、夢主はブレなかった。
訳の分からない理屈で聖人で居続けようとはせず、手を汚すことをためらわない。
だからと言って、俺は夢主を汚いと思うこともなかったし、むしろ一度汚れても汚れる前以上に綺麗になったようにさえ思えた。
何度だってあいつは臆さずに汚れていった。
そんな夢主だからこそ、勇作のように俺を拒否しないという自信があった。
だから第七師団を敵にまわそうがあいつは俺についてこれた。
しかし杉元相手ではどうだろうか?以前第七師団に杉元が捕まった時、幽閉された杉元を手当したと聞いた。
第七師団の元で夢主はしたたかにやっていると思っていたが、鶴見中尉のやり方に思うところがあったのだろう、とその時はあまり気にも留めなかったが、今度ばかりはどうなるか予想がつかなかった。
実際どうなるかという疑問よりも、とっくに腹をくくってついてきているだろう夢主を俺はまだ信じ切れていない、というその事実が俺を揺るがした。
結局、キロランケに心配はされたが、俺は個人行動を選んだ。
俺の弱さ故、と認めたくはなかったので、夢主に杉元は撃てないとだけ伝えてあとはもう口を利かなった。
噴煙の中、のっぺらぼうを殺し、杉元の頭部を撃ち抜いたあと、夢主は俺に銃口を向けた。
双眼鏡ごしに少しだけ見えたあいつの動揺した顔が、今も離れない。
それでも歯を食いしばり俺に一発ぶち込んだ夢主だが、銃弾は俺のすぐ後ろの壁を砕いて終わった。
夢主に銃を向けられることに妙な高揚感を覚える自分自身を心の中で嘲笑し、甘いな、と前髪をかき上げながら俺はその場を後にした。
いつかアシリパが金塊やのっぺらぼうのことについて鍵となる何かを思い出せるようになるまで、俺はこうやって何度もぐるぐるとあの日を思い返すのだろう。
今まで、勇作や父を殺した日を何度も繰り返し思い出しているように。
そしてロシアとの国境線で待ち伏せされた今、俺は敵を倒すべく一人で森に入った。
冷徹で、冷静で、家族を殺そうが、仲間の悲鳴が聞こえようが、動じないような強敵。
ああ、俺は本来こういう人間だった、と夢主を頭から消すことに没頭した。
森の中で雪を口にする。
夢主が、雪は地上のチリやほこりなどが集まっているから雑菌だらけだ、と以前に呟いたのを思い出す。
ブンッと頭を思わず振った。
何をしていても、すぐそばに夢主の声が聞こえてくるようだった。
これじゃあまるで亡霊だ、と眉をしかめる。
一晩粘ってようやく相手を撃ち抜いてやったところで、俺も燃料切れだ。
さすがにこの過酷な状況の中、何時間も気を張っているのは辛かった。
なんとかアシリパたちのもとへ戻るも、その後はずーっと勇作の亡霊が俺に付きまとっている。
亡霊は亡霊でも、勇作か……とふわふわする頭の中で嫌味を吐いた。
俺は勇作の亡霊を眺めながらも、心のどこかで夢主を探していた。
勇作を殺すまでの過程が何度も頭の中を巡ったが、なぜだかこの記憶に夢主がいれば、俺はこうはならなかったんじゃないかと感じている。
あの未来人、俺の前に来るのが遅すぎたんだ、と内心悪態をついて、俺は意識を手放した。
【あとがき:人はこれを遠距離恋愛と呼ぶ。】
夢主とは上手くやっていけてると思っていた。
自分の銃の腕と、夢主がいれば、金塊にも手が届くだろうし――何にでもなれる、全てが手に入ると思い込んでいたが、思い上がりだったようだ。
勇作の持っていたすべてを、夢主が持っているように感じていたから。
夢主と勇作は別物だと分かっていたが、それでも、夢主を自分のものにすれば愛されなかった自分がいなくなったかのような錯覚を覚えていたのだ。
網走監獄に潜入する少し前。
キロランケにアシリパと杉元を引き離す話を持ち掛けられた俺は、急に足元がぐらついたような感覚を覚えた。
状況次第だが、万一の時は杉元を殺さねばならん。
俺は前に一度杉元とはやりあっているし今更それくらいでは動揺はしない。
ただ、夢主はどうだろうか。
夢主にその辺の人間のような弱みはない、ためらいなく人を撃てるはずだ。
今までだって、俺が崖から落ちたときも、谷垣を狩ろうとしたときも、日泥の抗争に巻き込まれたときも、夢主はブレなかった。
訳の分からない理屈で聖人で居続けようとはせず、手を汚すことをためらわない。
だからと言って、俺は夢主を汚いと思うこともなかったし、むしろ一度汚れても汚れる前以上に綺麗になったようにさえ思えた。
何度だってあいつは臆さずに汚れていった。
そんな夢主だからこそ、勇作のように俺を拒否しないという自信があった。
だから第七師団を敵にまわそうがあいつは俺についてこれた。
しかし杉元相手ではどうだろうか?以前第七師団に杉元が捕まった時、幽閉された杉元を手当したと聞いた。
第七師団の元で夢主はしたたかにやっていると思っていたが、鶴見中尉のやり方に思うところがあったのだろう、とその時はあまり気にも留めなかったが、今度ばかりはどうなるか予想がつかなかった。
実際どうなるかという疑問よりも、とっくに腹をくくってついてきているだろう夢主を俺はまだ信じ切れていない、というその事実が俺を揺るがした。
結局、キロランケに心配はされたが、俺は個人行動を選んだ。
俺の弱さ故、と認めたくはなかったので、夢主に杉元は撃てないとだけ伝えてあとはもう口を利かなった。
噴煙の中、のっぺらぼうを殺し、杉元の頭部を撃ち抜いたあと、夢主は俺に銃口を向けた。
双眼鏡ごしに少しだけ見えたあいつの動揺した顔が、今も離れない。
それでも歯を食いしばり俺に一発ぶち込んだ夢主だが、銃弾は俺のすぐ後ろの壁を砕いて終わった。
夢主に銃を向けられることに妙な高揚感を覚える自分自身を心の中で嘲笑し、甘いな、と前髪をかき上げながら俺はその場を後にした。
いつかアシリパが金塊やのっぺらぼうのことについて鍵となる何かを思い出せるようになるまで、俺はこうやって何度もぐるぐるとあの日を思い返すのだろう。
今まで、勇作や父を殺した日を何度も繰り返し思い出しているように。
そしてロシアとの国境線で待ち伏せされた今、俺は敵を倒すべく一人で森に入った。
冷徹で、冷静で、家族を殺そうが、仲間の悲鳴が聞こえようが、動じないような強敵。
ああ、俺は本来こういう人間だった、と夢主を頭から消すことに没頭した。
森の中で雪を口にする。
夢主が、雪は地上のチリやほこりなどが集まっているから雑菌だらけだ、と以前に呟いたのを思い出す。
ブンッと頭を思わず振った。
何をしていても、すぐそばに夢主の声が聞こえてくるようだった。
これじゃあまるで亡霊だ、と眉をしかめる。
一晩粘ってようやく相手を撃ち抜いてやったところで、俺も燃料切れだ。
さすがにこの過酷な状況の中、何時間も気を張っているのは辛かった。
なんとかアシリパたちのもとへ戻るも、その後はずーっと勇作の亡霊が俺に付きまとっている。
亡霊は亡霊でも、勇作か……とふわふわする頭の中で嫌味を吐いた。
俺は勇作の亡霊を眺めながらも、心のどこかで夢主を探していた。
勇作を殺すまでの過程が何度も頭の中を巡ったが、なぜだかこの記憶に夢主がいれば、俺はこうはならなかったんじゃないかと感じている。
あの未来人、俺の前に来るのが遅すぎたんだ、と内心悪態をついて、俺は意識を手放した。
【あとがき:人はこれを遠距離恋愛と呼ぶ。】