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第四十六話 月島の弱点
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第四十六話 月島の弱点
樺太へ向かう船の上。
鶴見中尉から樺太は寒いから、と私に色々な品をくださった。
例えば、外套の外にもっと厚手の毛布のようなものとか、手袋とか、ブーツも前よりもとっても温かくて歩きやすくてしっかりしたものをいただき、中でも一番嬉しかったのは他の兵士たちと同じようにようやく長ズボンが支給されたこと!
男性用ではないようで、ちょっとスキニーっぽいというか太さも長さもぴったりだ。
上着も肩が落ちたり袖が余ることはない。
不思議に思っていると月島さんがこっそりと教えてくれた。
鶴見中尉は私が第七師団に戻ってきたときのために、特注していたのだそう。
私、スリーサイズ教えた覚えがないんだけど……こわぁい。
他にも生活用品一式と、有難いことに網走に大量にあった武器の一部を横流ししてくれた。
利害の一致というか、鶴見中尉は今後上から色々つつかれた時のための隠蔽なんだろう。
おかげでしばらくは弾薬や武器に困らなそうだ。
それを積み荷として運び入れ、ほっと一息つくと船が出発するところだった。
杉元さんは何やら鯉登さんのお父様とお話している。
そしてその鯉登さんは終始鶴見中尉のブロマイドを見つめてブツブツと何か言っている。
月島さんはそんな鯉登さんの姿は見慣れているのか、無表情に見つめていた。
特に誰かと話すわけでもなく私が外で景色を見ていると、後ろから声をかけられた。
「夢主さん。」
「……月島さん。」
視線をそちらへやると、相変わらずのしかめ面で月島さんがこちらを見ていた。
「どうして尾形についていったのですか?鶴見中尉の元では、不満がありましたか?」
「……いえ。第七師団で過ごした日々は、楽しかったです。とても幸せでした。」
「ではなぜ?」
声のトーンはいつも通り低めだが、それにしても元気がない。
私が脱走したことでたくさんの迷惑をかけてしまったのだろう。
「申し訳ございません、皆様にはご迷惑をおかけしました。……尾形さんには恩があるのです。借りがある、とも言いますが。月島さんも鶴見中尉には何かあるのでしょう?裏切れない、忠誠心が湧くような出来事が。」
私は手すりに手をかけて、ぎゅっと握る。
月島さんは私の隣にきて、遠くを見ていた。
そして小さく呟くように答える。
「……そうですか。ならば仕方がありませんね。」
鶴見中尉の忠実な部下として働くことになったきっかけを思い返しているのだろう、その眼はとても冷たかった。
月島さんも馬鹿ではない、鶴見中尉の人の心を惹きつける、いや操る術は知っているだろう。
分かったうえで、鶴見中尉の下にいるのだろうと感じた。
月島さんが思いつめた表情をしたまま、ぼそりと呟く。
「俺は夢主さんのこと、……嫌いではありません。ですが、鶴見中尉の邪魔をするのなら、容赦はできません。」
「わかってますよ。私も、私の目的のために動いておりますので。……どうぞ、その時までよろしくお願い致します。」
ふわりと微笑むと、月島さんは泣き出しそうな顔をした。
珍しい、ここまで月島さんが表情を崩すなんて。
少しばかり驚いていると、月島さんが改まった様子でこちらに向き直る。
「夢主さん……お願いがふたつあります。」
「……はい。」
私もつられて向き直ると、月島さんは以前に私が第七師団にいたころにお話した、家族と離れた兵士たちが私を誰かに重ねているという話を持ち出す。
確かにその話をしたことを覚えている。黙って頷きながら聞いた。
「ひとつ、俺にも、夢主さんをある人に重ねさせてください。」
「はい、もちろん構いません……それで月島さんの心が晴れるなら。」
私が微笑み返すと、月島さんは泣き出しそうな顔をしたままだ。
きっと、相当抱え込んでいるものがあるのだろう。
私はいたたまれなくなって、月島さんの手をそっと取った。
大切な人を私に重ねることで彼が救われるのだったら、役に立てるのならば、答えるとその握った手に力を込めた。
「ふたつ……下の名前を、呼んでいただけませんか?基ちゃん、と。」
「……はじめちゃん。基ちゃん。」
ゆっくりと確かめるように何度も名前を呼ぶ。
普段だったら恥ずかしい。
でも、こんな弱々しくなった月島さんを見せられてしまうと、茶化すようなことはできなかった。
ぎゅ、と握っていた手に力が込められた。
月島さんは少し俯いて目を閉じ、すぅー…と息を深く吸い込んで、ゆっくりと吐いた。
「……。」
私は静かに月島さんを見つめる。
誰かに――「基ちゃん」と月島さんを呼ぶ人に、なれているだろうか。
しばらくそうした後、月島さんは手を離した。
顔を上げた月島さんはもういつもの仏頂面に戻っていた。
「……ありがとうございます。これからの旅、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。よろしくお願い致します。」
【あとがき:月島のいご草ちゃん過去回収……。】
樺太へ向かう船の上。
鶴見中尉から樺太は寒いから、と私に色々な品をくださった。
例えば、外套の外にもっと厚手の毛布のようなものとか、手袋とか、ブーツも前よりもとっても温かくて歩きやすくてしっかりしたものをいただき、中でも一番嬉しかったのは他の兵士たちと同じようにようやく長ズボンが支給されたこと!
男性用ではないようで、ちょっとスキニーっぽいというか太さも長さもぴったりだ。
上着も肩が落ちたり袖が余ることはない。
不思議に思っていると月島さんがこっそりと教えてくれた。
鶴見中尉は私が第七師団に戻ってきたときのために、特注していたのだそう。
私、スリーサイズ教えた覚えがないんだけど……こわぁい。
他にも生活用品一式と、有難いことに網走に大量にあった武器の一部を横流ししてくれた。
利害の一致というか、鶴見中尉は今後上から色々つつかれた時のための隠蔽なんだろう。
おかげでしばらくは弾薬や武器に困らなそうだ。
それを積み荷として運び入れ、ほっと一息つくと船が出発するところだった。
杉元さんは何やら鯉登さんのお父様とお話している。
そしてその鯉登さんは終始鶴見中尉のブロマイドを見つめてブツブツと何か言っている。
月島さんはそんな鯉登さんの姿は見慣れているのか、無表情に見つめていた。
特に誰かと話すわけでもなく私が外で景色を見ていると、後ろから声をかけられた。
「夢主さん。」
「……月島さん。」
視線をそちらへやると、相変わらずのしかめ面で月島さんがこちらを見ていた。
「どうして尾形についていったのですか?鶴見中尉の元では、不満がありましたか?」
「……いえ。第七師団で過ごした日々は、楽しかったです。とても幸せでした。」
「ではなぜ?」
声のトーンはいつも通り低めだが、それにしても元気がない。
私が脱走したことでたくさんの迷惑をかけてしまったのだろう。
「申し訳ございません、皆様にはご迷惑をおかけしました。……尾形さんには恩があるのです。借りがある、とも言いますが。月島さんも鶴見中尉には何かあるのでしょう?裏切れない、忠誠心が湧くような出来事が。」
私は手すりに手をかけて、ぎゅっと握る。
月島さんは私の隣にきて、遠くを見ていた。
そして小さく呟くように答える。
「……そうですか。ならば仕方がありませんね。」
鶴見中尉の忠実な部下として働くことになったきっかけを思い返しているのだろう、その眼はとても冷たかった。
月島さんも馬鹿ではない、鶴見中尉の人の心を惹きつける、いや操る術は知っているだろう。
分かったうえで、鶴見中尉の下にいるのだろうと感じた。
月島さんが思いつめた表情をしたまま、ぼそりと呟く。
「俺は夢主さんのこと、……嫌いではありません。ですが、鶴見中尉の邪魔をするのなら、容赦はできません。」
「わかってますよ。私も、私の目的のために動いておりますので。……どうぞ、その時までよろしくお願い致します。」
ふわりと微笑むと、月島さんは泣き出しそうな顔をした。
珍しい、ここまで月島さんが表情を崩すなんて。
少しばかり驚いていると、月島さんが改まった様子でこちらに向き直る。
「夢主さん……お願いがふたつあります。」
「……はい。」
私もつられて向き直ると、月島さんは以前に私が第七師団にいたころにお話した、家族と離れた兵士たちが私を誰かに重ねているという話を持ち出す。
確かにその話をしたことを覚えている。黙って頷きながら聞いた。
「ひとつ、俺にも、夢主さんをある人に重ねさせてください。」
「はい、もちろん構いません……それで月島さんの心が晴れるなら。」
私が微笑み返すと、月島さんは泣き出しそうな顔をしたままだ。
きっと、相当抱え込んでいるものがあるのだろう。
私はいたたまれなくなって、月島さんの手をそっと取った。
大切な人を私に重ねることで彼が救われるのだったら、役に立てるのならば、答えるとその握った手に力を込めた。
「ふたつ……下の名前を、呼んでいただけませんか?基ちゃん、と。」
「……はじめちゃん。基ちゃん。」
ゆっくりと確かめるように何度も名前を呼ぶ。
普段だったら恥ずかしい。
でも、こんな弱々しくなった月島さんを見せられてしまうと、茶化すようなことはできなかった。
ぎゅ、と握っていた手に力が込められた。
月島さんは少し俯いて目を閉じ、すぅー…と息を深く吸い込んで、ゆっくりと吐いた。
「……。」
私は静かに月島さんを見つめる。
誰かに――「基ちゃん」と月島さんを呼ぶ人に、なれているだろうか。
しばらくそうした後、月島さんは手を離した。
顔を上げた月島さんはもういつもの仏頂面に戻っていた。
「……ありがとうございます。これからの旅、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。よろしくお願い致します。」
【あとがき:月島のいご草ちゃん過去回収……。】