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第四十五話 尾形の裏切り
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第四十五話 尾形の裏切り
作戦は失敗どころか、アシリパさんがキロランケさんや尾形さんに連れ去られてしまった。
私や負傷した杉元さんたちと待機組だったはずの家永さんも鶴見中尉に捕獲された。
鶴見中尉は私たちにトドメを刺すかと思いきや、網走近郊の病院に運び込み、杉元さんやインカラマッさんの手当を指示する。
「鶴見中尉、良いのですか?」
「夢主くんを取り戻せたからな、私は機嫌が良いのだ。」
冗談。
恐らくは杉元さんが持っている刺青人皮が手元に来るからだろう。
でも、二人を助けさせてくれるなら好都合。
外科手術ができるような軍医は連れてきていないのか、と私が歯がゆく思っていると家永さんが手術に踏み切ると宣言した。
「夢主さん、お手伝い願えますか?」
家永さんがこちらをじっと見つめる。
「もちろんです。私にできることならば何でもします。」
あくまで助手としてだが杉元さんの脳に残った弾を取り除く手術に立ち会う。
正気ならめまいがしてしまうほどショッキングなものだったが、私の内心はそれどころではない。
尾形さんからの強烈な裏切りにメラメラと復讐心が沸き上がるのを感じていた。
さすがマッドサイエンティストといったところだろうか、杉元さんの手術はあっという間に完了した。
途中脳みそを少し余分に削り取って居たのは気のせいかしら。
そのままインカラマッさんのお腹の傷を縫う手術に入る。
インカラマッさんのお腹にはマキリと言われるアイヌの刀が刺さっていた。
「これは……キロランケさんのだ。」
「恐らく一撃刺された後に自分で押し込んでいます。もし自分が死んだ後も誰に刺されたか分かるようにですね。」
「そんな……。」
インカラマッさんは確かアシリパさんの父親と面識があると言っていた。
親しくしてもらったと嬉しそうに思い出話を聞かせてくれた。
だからのっぺらぼうが撃たれたとき冷静でいられなかっただろうに、裏切りを少しでも皆に伝えるために自分を犠牲にした。
「家永さん、インカラマッさんを救えますか……?」
「最善は尽くします。彼女自身の回復力にもかかってますので。」
驚くほどに冷静に家永さんは答える。
この状況で熱血なドラマのように、無責任に絶対に救う!と言い切らないところに私は信頼を感じて、強く頷いた。
手術が終わり、手術室から出ると谷垣さんが部屋の前で頭を抱えていた。
「夢主……!家永……!どうだ!?」
縋るように聞いてくる谷垣さん。
家永さんは冷静に先ほどと同じ言葉を繰り返す。
「一命はとりとめたと思います。が、全ては彼女自身の回復力にかかっています。」
「そうか……。」
谷垣さんは辛そうにグッとこぶしを握る。
傍にいながら守れなかった後悔なのだろうか。
でも、谷垣さんが杉元さんを守ってくれたから杉元さんは生きている。
「谷垣さんのおかげで杉元さんも助かりました。インカラマッさんもきっと大丈夫ですよ、お強い方ですから。」
「……そうだな、ありがとう夢主。」
その日は私も色々ありすぎて疲れてしまった。
血みどろになった軍服を脱ぎ捨てて空いたベッドで死んだように寝ていると、次の日の朝、鶴見中尉と月島さんと鯉登さんが様子を見にやってきた。
「ご苦労だったね夢主くん。調子はどうかな?」
汚れてしまった軍服を脱いだままだったので慌てて羽織直そうとする。
鶴見中尉は黙って汚れた私の軍服を私の手から取ると傍にあった机に頬り投げる。
そして自分の上着を私に羽織らせてくれた。
この紳士的な行動が懐かしい。
しかし今はそんな鶴見中尉の振る舞いを手放しには喜べない。
「……杉元さんとインカラマッさんを救わせてくれてありがとうございました。」
鶴見中尉の大きいぶかぶかの軍服を肩からかけたまま私は立ち上がる。
二人の様子を見に行かねば、と部屋を出ようとすると鶴見中尉が私の肩を掴む。
「?」
「夢主くんは、次、尾形上等兵に会ったら何をする?」
「……。」
私は足を止めて鶴見中尉へ向き直る。
正直、怒りはあるがどうするべきか迷っている。
少しの間視線を落として考えたが、あまり鶴見中尉の機嫌を損ねるようなことはしたくない。
顔を上げて静かに言い放った。
「金塊を、……すべての、答えを求めます。」
何故私に何も教えてくれないのか、旅の目的は何なのか、金塊がそんなに重要ならばこれだけ危ない目に遭っているのだ私にも教えてくれても良いだろうと思う。
鶴見中尉は私の答えに満足したのだろうか、一度だけ頷いて見せた。
「……インカラマッは今、家永が診ておる。杉元のところへ行こう。」
部屋を出て、月島さん鯉登さんも一緒に杉元さんの病室へ向かう。
杉元さんは驚くことにとっくに目を覚まして起き上がり、おにぎりをむしゃむしゃと食べていた。
「杉元さん……!ご気分はいかがですか?」
「ありがとう、まだ痛みはあるけど、大丈夫。夢主ちゃんが助けてくれたんだってな。」
「杉元さんを守ったのは谷垣さんで、救ったのは家永さんですよ。」
杉元さんの傍に寄り、お茶を差し出す。
湯呑を受け取った杉元さんは、ごく、と一口お茶を飲んでからニッコリと笑った。
「んーん……。尾形に、銃を向けたんでしょ?谷垣が言ってた。別の発砲音がしたって。」
「……ごめんなさい杉元さん。私、何も知らなくて……こんなことになる前に止められなくて。」
俯く私に、杉元さんは私の頭を何も言わずに優しく撫でてくれた。
私が事前に知っていれば作戦を止められたかもしれない。
杉元さんをアシリパさんと引き離すなんて酷い作戦だ。
私が落ち込んでいる間に、病室には家永さんが谷垣さんと一緒に戻ってきて、キロランケさんは樺太へ向かったと情報を教えてくれる。
どうやらインカラマッさんからの情報のようだ。
「キロランケも尾形も……ぶっ殺してやる。」
杉元さんは低く呟く。
あまりに殺気にぞくりと鳥肌が立った。
そんな状況で鶴見中尉は杉元さんが持っていた刺青人皮を大切そうに眺めては頬ずりをしていた。
鶴見中尉は元々のっぺらぼうがどのような狙いで動いていたか、また今後アシリパさんというカギを手に入れたキロランケさんたちがロシアのパルチザンと合流する可能性が高いなどという見立てを話す。
それを聞いた杉元さんは俺を使え、と言った。
確かにアシリパさんは杉元さんがいないと警戒してしまうだろう。
杉元さんはアシリパさんを確保して刺青人皮の暗号が解けたら200円くれと鶴見中尉に交渉を持ちかける。
更に谷垣さんも杉元さんの補助としてついていくと言う。
インカラマッさんには戻るまでは死ぬなと言ってあるとのこと。
なんて男らしいのだろう。
家永さんは興奮した様子で「アシリパさんを必ず取り戻してくださぁい!」と叫んでいる。
なんだか杉元さんが乗り移ったようだ。
私がぎょっとしていると、俺の脳みそ食っただろ!と杉元さんがツッコミを入れていた。
確かに、少し余分に脳みそを切り取っていたような……?
鶴見中尉は網走での出来事が上に報告できていないし、後処理が残っているとのことで、先遣隊として月島さんと鯉登さんも杉元さんたちと一緒に樺太へ向かえと命令を出した。
月島さんは表情一つ変えなかったが、鯉登さんはキエエェッと猿叫を上げて嫌がっていた。
「……鶴見中尉。」
私が声をかけると、鶴見中尉は笑った。
「心配するな、夢主くんも行ってもらう。これから上が次々やってくるだろうから私の傍にいては身を匿うのも大変だからな。」
あら、意外だった。
今度こそ逃がさないと足を切って監禁でもされるかと思ったのだが、杉元さんたちへの同行を許された。
先ほどの尾形さんについての問いに満足がいっていたのだろうか?と期待してしまう。
「ありがとうございます。」
色々と言いたいことはあったが、全てを飲み込んで私はぺこりと頭を下げる。
こうして、私たちは鯉登さんの父上、鯉登少将の船で樺太へ向かうことになった。
【あとがき:しばらく尾形とは遠距離恋愛(?)になります。この時点で尾形がなにしたいのかわからない……!!】
作戦は失敗どころか、アシリパさんがキロランケさんや尾形さんに連れ去られてしまった。
私や負傷した杉元さんたちと待機組だったはずの家永さんも鶴見中尉に捕獲された。
鶴見中尉は私たちにトドメを刺すかと思いきや、網走近郊の病院に運び込み、杉元さんやインカラマッさんの手当を指示する。
「鶴見中尉、良いのですか?」
「夢主くんを取り戻せたからな、私は機嫌が良いのだ。」
冗談。
恐らくは杉元さんが持っている刺青人皮が手元に来るからだろう。
でも、二人を助けさせてくれるなら好都合。
外科手術ができるような軍医は連れてきていないのか、と私が歯がゆく思っていると家永さんが手術に踏み切ると宣言した。
「夢主さん、お手伝い願えますか?」
家永さんがこちらをじっと見つめる。
「もちろんです。私にできることならば何でもします。」
あくまで助手としてだが杉元さんの脳に残った弾を取り除く手術に立ち会う。
正気ならめまいがしてしまうほどショッキングなものだったが、私の内心はそれどころではない。
尾形さんからの強烈な裏切りにメラメラと復讐心が沸き上がるのを感じていた。
さすがマッドサイエンティストといったところだろうか、杉元さんの手術はあっという間に完了した。
途中脳みそを少し余分に削り取って居たのは気のせいかしら。
そのままインカラマッさんのお腹の傷を縫う手術に入る。
インカラマッさんのお腹にはマキリと言われるアイヌの刀が刺さっていた。
「これは……キロランケさんのだ。」
「恐らく一撃刺された後に自分で押し込んでいます。もし自分が死んだ後も誰に刺されたか分かるようにですね。」
「そんな……。」
インカラマッさんは確かアシリパさんの父親と面識があると言っていた。
親しくしてもらったと嬉しそうに思い出話を聞かせてくれた。
だからのっぺらぼうが撃たれたとき冷静でいられなかっただろうに、裏切りを少しでも皆に伝えるために自分を犠牲にした。
「家永さん、インカラマッさんを救えますか……?」
「最善は尽くします。彼女自身の回復力にもかかってますので。」
驚くほどに冷静に家永さんは答える。
この状況で熱血なドラマのように、無責任に絶対に救う!と言い切らないところに私は信頼を感じて、強く頷いた。
手術が終わり、手術室から出ると谷垣さんが部屋の前で頭を抱えていた。
「夢主……!家永……!どうだ!?」
縋るように聞いてくる谷垣さん。
家永さんは冷静に先ほどと同じ言葉を繰り返す。
「一命はとりとめたと思います。が、全ては彼女自身の回復力にかかっています。」
「そうか……。」
谷垣さんは辛そうにグッとこぶしを握る。
傍にいながら守れなかった後悔なのだろうか。
でも、谷垣さんが杉元さんを守ってくれたから杉元さんは生きている。
「谷垣さんのおかげで杉元さんも助かりました。インカラマッさんもきっと大丈夫ですよ、お強い方ですから。」
「……そうだな、ありがとう夢主。」
その日は私も色々ありすぎて疲れてしまった。
血みどろになった軍服を脱ぎ捨てて空いたベッドで死んだように寝ていると、次の日の朝、鶴見中尉と月島さんと鯉登さんが様子を見にやってきた。
「ご苦労だったね夢主くん。調子はどうかな?」
汚れてしまった軍服を脱いだままだったので慌てて羽織直そうとする。
鶴見中尉は黙って汚れた私の軍服を私の手から取ると傍にあった机に頬り投げる。
そして自分の上着を私に羽織らせてくれた。
この紳士的な行動が懐かしい。
しかし今はそんな鶴見中尉の振る舞いを手放しには喜べない。
「……杉元さんとインカラマッさんを救わせてくれてありがとうございました。」
鶴見中尉の大きいぶかぶかの軍服を肩からかけたまま私は立ち上がる。
二人の様子を見に行かねば、と部屋を出ようとすると鶴見中尉が私の肩を掴む。
「?」
「夢主くんは、次、尾形上等兵に会ったら何をする?」
「……。」
私は足を止めて鶴見中尉へ向き直る。
正直、怒りはあるがどうするべきか迷っている。
少しの間視線を落として考えたが、あまり鶴見中尉の機嫌を損ねるようなことはしたくない。
顔を上げて静かに言い放った。
「金塊を、……すべての、答えを求めます。」
何故私に何も教えてくれないのか、旅の目的は何なのか、金塊がそんなに重要ならばこれだけ危ない目に遭っているのだ私にも教えてくれても良いだろうと思う。
鶴見中尉は私の答えに満足したのだろうか、一度だけ頷いて見せた。
「……インカラマッは今、家永が診ておる。杉元のところへ行こう。」
部屋を出て、月島さん鯉登さんも一緒に杉元さんの病室へ向かう。
杉元さんは驚くことにとっくに目を覚まして起き上がり、おにぎりをむしゃむしゃと食べていた。
「杉元さん……!ご気分はいかがですか?」
「ありがとう、まだ痛みはあるけど、大丈夫。夢主ちゃんが助けてくれたんだってな。」
「杉元さんを守ったのは谷垣さんで、救ったのは家永さんですよ。」
杉元さんの傍に寄り、お茶を差し出す。
湯呑を受け取った杉元さんは、ごく、と一口お茶を飲んでからニッコリと笑った。
「んーん……。尾形に、銃を向けたんでしょ?谷垣が言ってた。別の発砲音がしたって。」
「……ごめんなさい杉元さん。私、何も知らなくて……こんなことになる前に止められなくて。」
俯く私に、杉元さんは私の頭を何も言わずに優しく撫でてくれた。
私が事前に知っていれば作戦を止められたかもしれない。
杉元さんをアシリパさんと引き離すなんて酷い作戦だ。
私が落ち込んでいる間に、病室には家永さんが谷垣さんと一緒に戻ってきて、キロランケさんは樺太へ向かったと情報を教えてくれる。
どうやらインカラマッさんからの情報のようだ。
「キロランケも尾形も……ぶっ殺してやる。」
杉元さんは低く呟く。
あまりに殺気にぞくりと鳥肌が立った。
そんな状況で鶴見中尉は杉元さんが持っていた刺青人皮を大切そうに眺めては頬ずりをしていた。
鶴見中尉は元々のっぺらぼうがどのような狙いで動いていたか、また今後アシリパさんというカギを手に入れたキロランケさんたちがロシアのパルチザンと合流する可能性が高いなどという見立てを話す。
それを聞いた杉元さんは俺を使え、と言った。
確かにアシリパさんは杉元さんがいないと警戒してしまうだろう。
杉元さんはアシリパさんを確保して刺青人皮の暗号が解けたら200円くれと鶴見中尉に交渉を持ちかける。
更に谷垣さんも杉元さんの補助としてついていくと言う。
インカラマッさんには戻るまでは死ぬなと言ってあるとのこと。
なんて男らしいのだろう。
家永さんは興奮した様子で「アシリパさんを必ず取り戻してくださぁい!」と叫んでいる。
なんだか杉元さんが乗り移ったようだ。
私がぎょっとしていると、俺の脳みそ食っただろ!と杉元さんがツッコミを入れていた。
確かに、少し余分に脳みそを切り取っていたような……?
鶴見中尉は網走での出来事が上に報告できていないし、後処理が残っているとのことで、先遣隊として月島さんと鯉登さんも杉元さんたちと一緒に樺太へ向かえと命令を出した。
月島さんは表情一つ変えなかったが、鯉登さんはキエエェッと猿叫を上げて嫌がっていた。
「……鶴見中尉。」
私が声をかけると、鶴見中尉は笑った。
「心配するな、夢主くんも行ってもらう。これから上が次々やってくるだろうから私の傍にいては身を匿うのも大変だからな。」
あら、意外だった。
今度こそ逃がさないと足を切って監禁でもされるかと思ったのだが、杉元さんたちへの同行を許された。
先ほどの尾形さんについての問いに満足がいっていたのだろうか?と期待してしまう。
「ありがとうございます。」
色々と言いたいことはあったが、全てを飲み込んで私はぺこりと頭を下げる。
こうして、私たちは鯉登さんの父上、鯉登少将の船で樺太へ向かうことになった。
【あとがき:しばらく尾形とは遠距離恋愛(?)になります。この時点で尾形がなにしたいのかわからない……!!】