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第四十三話 チタタプの中のチタタプ
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第四十三話 チタタプの中のチタタプ
網走よりも少し南、北見についたとき、急に写真を撮ろうという話になった。
杉元さん曰くフチさんに写真を送って安心させてやりたいとのこと。
写真と聞いて少し懐かしくなってしまったが、この時代では当然現代の日本のようにスマホでポチッと撮れるわけはなく、土方さんの古い知り合いの写真家を呼んで撮影会になった。
順番に撮って現像を待つ。
なんだか谷垣さんだけやけに時間がかかっていた。写真慣れしてないのかな?不器用そうだし……。
ピンでの写真は証明写真みたいにカチコチになってしまった。
むむ、と眉間にしわを寄せていると土方さんが声をかけてきた。
「夢主、ほかに誰かと映らないか?」
「え、いいんですか?」
「時間もあるし、構わないだろう。」
写真家さんも頷いていたので、嬉しくなる。
誰がいいかな、やっぱりアシリパさんかな、とか思いながら周りへ視線をやると、皆と目が合う。
「え?何?」
全員の視線を浴びる恐怖から思わず固まってしまうと、土方さんが苦笑いをした。
「皆、夢主と一緒に撮りたいんだろう。」
「ええ……。」
現代だったら手間もかからず皆でせーので撮れたのに。
あらゆる不便さに順応してきた私だったが、ここで今までで一番つらい文明のギャップを感じた。
「どうしよう……。」
本気で誰にしようか悩んでしまう。
歴史的に有名な土方さんの方がもし現代に持って帰れた時にとんでもないお宝になりそう。
私が悩んでいる間に、尾形さんが私の腕をぐいっと引っ張ってカメラの前に立った。
「えっえっ?」
「俺しかいないだろうが。」
「ええ?」
戸惑いながらカメラの前に行くと、周りからはブーイングが起きた。
特に杉元さんとアシリパさんがそっくりな動きで尾形さんへ文句を言っていて思わず笑ってしまったが、おかげで笑顔の写真が撮れた。
その後私たちは網走の近くのコタンに寄って、鮭を獲ったりヤマブドウを獲ったりと相変わらずのアイヌグルメを堪能し、計画を練った。
網走監獄は一度土方さんたちが脱獄しているせいか、守りが固い。
囚人の脱獄も警戒しているだろうが、のっぺらぼうを匿っているところが一番厳重だろうとなった。
脱獄王の白石さんの見立てだと、警備の手薄な網走川に面した塀から侵入することになるだろうとのこと。
鮭の収穫の時期なのを利用して、塀にアイヌ式のクチャ(小屋)を作ってそれを隠れ蓑にキロランケさんの指示でトンネルを掘りをする。
力仕事は杉元さん、キロランケさん、チカパシくん、谷垣さんにお任せして、ほかのメンバーは策を練る。
逐一トンネル掘りの報告はきていたが、どうやら一度は門倉さんに接触したらしい。
杉元さんたちが知っていたかは分からないが、土方さん曰く、門倉さんとは内通しているので順調とのこと。
そんなことだろうと思いました、と内心で私はほくそ笑んだ。
ある日、作戦会議前にキロランケさんと尾形さんが小屋の外で何やら話し込んでいた。
珍しい組み合わせだ。二人共そんなに仲が良かったかしら?
内容は聞こえないが雰囲気が重い。
ご飯を皆で作ろうとなって呼びに行ったのだが、立ち聞きは悪いと思って恐る恐る声をかけた。
「あのぅ……」
「「!」」
二人がバッと驚いた様子でこちらを見る。
「す、すみません、お夕飯を皆で作りましょうという話になりまして、お知らせに来ました。」
おずおずと内容を伝えると、キロランケさんが何やら意味深な眼差しでこちらを見ていた。
尾形さんはまるでキロランケさんから興味をなくしたように、何も言わず中へ戻っていった。
「何かあったんですか?」
キロランケさんに問うが、大したことではないんだ、と流されてしまった。
「尾形さんが何かご無礼をしましたか?だとしたらすみません……悪気があるわけじゃないと思うんですけど、皆にああなのです。」
「はは、夢主は尾形の良き理解者だな。」
キロランケさんが私の頭を優しく撫でる。
その手はとても温かく優しい手だった。
「……そうですかね。」
「ああ。一見尾形が何もかも決めて夢主を引っ張っているように見えて、夢主が支えているから尾形は前に進めているんだと思うぞ。」
「?」
キロランケさんの言葉の意図が読めない。
疑問符を浮かべたまま見上げていると、キロランケさんは力強く頷いて、さあ皆のところに行こうと私を誘導した。
家に戻ると、アシリパさんが鮭について杉元さんに語っている。
鮭はアイヌにとって「本当の食べ物」という意味で、シペと言われているそうで、川に鮭が少ない年は餓死する者が出るほどの重要なものらしい。
そして頭を切り落として上あごの軟骨のある部分を取り出したアシリパさんは、この部分を使う珍味といえば!?とあからさまな態度で杉元さんに問いかける。
杉元さんも「まさか~?」とうきうきした顔を見せた。
「チタタプだ!」
「ハイ出ましたチタタプ!!」
ふふ、杉元さんは本当にチタタプが好きだなぁ。
アシリパさんは更にたたみかけるように杉元さんに言う。
「本来チタタプとは鮭のチタタプのことを指すんだ。」
「チタタプの中のチタタプ!!」
そう叫んだ杉元さんは興奮のあまり近くにいたキロランケさんをつねる。
そしてついに皆でチタタプをすることに。
私も参加できるとなると、なんだかドキドキしてしまう。
チカパシくんが土方さんの名刀をスラリと取り出してこれでチタタプをしたいと言ってきて、その価値を知っている永倉さんが驚いた表情を見せた。
土方さんがチカパシくんを支えながら日本刀でチタタプをする姿に、私も永倉さんも絶句する。
下手したら木の板も切れてしまいそうで、ハラハラした。
大盛り上がりのチタタプだったが、ただ一人「チタタプ」と言わない男がいた。
そう、尾形さんだ。
アシリパさんは本当のチタタプでチタタプと言わないならいつ言うのだと尾形さんを挑発する。
私はあまり尾形さんを刺激しないように、静かに聞き耳を立てて待った。
アシリパさんが諦めて去ろうとしたときに、小さな声で一度だけ「チタタプ」と聞こえた。
おお!と思ったがアシリパさんと私以外は誰一人として聞いていなかったらしく、明らかに皆の尾形さんへの興味の低さが垣間見えて笑ってしまいそうになった。
そして鮭料理の晩餐が始まった。
なかなか美味しい。
「おいしいですね。」
隣の尾形さんに思わず声をかけるも、尾形さんは無言でおかゆにイクラを入れたごはんをひたすら食べる。
返事をするよりも食べていたいほど美味しいってことだろう、と前向きに理解することにした。
食べてる途中で、牛山さんがインカラマッさんに良い人いるのか、とナンパを始めた。
それを見ていたチカパシくんが、谷垣さんの食べていた器を取ってインカラマッさんに渡す。
アイヌ式の意味があるようだ。
私を含めて谷垣さんや他の人たちは不思議そうにしていたが、インカラマッさんは少し戸惑っていた。
アシリパさんがこれはアイヌ式の求婚だと教えてくれる。
半分飯を食べて、半分を女にやり、女が食べたら婚姻が成立するらしい。
なるほど、と聞いていると、谷垣さんは器を返しなさいと言って去ってしまった。
遅れてインカラマッさんが追いかける。
あれ、あの二人は付き合っているんじゃなかったのかな?と皆で顔を見合わせた。
谷垣さんはマタギの生き方を選ぶと予想がつくが、ではアイヌや金塊のことを含めてインカラマッさんとはどういう関係なんだろう?
案外複雑なのかもしれないな……とお節介にも色々と考えてしまう。
そんな私の隣で尾形さんは終始興味なさそうにご飯を食べているのが気になり、ふと聞いてみた。
「私が半分くださいって言ったら、くれますか?」
「……。」
無言でご飯を食べ続ける尾形さん。
そうだよね、興味ないよね。
尾形さんの目的は分からないけれど、金塊を争っている人たちとつるんでいるくらいだし、安定した幸せな結婚生活には興味ないだろう。
今までも、先ほども無視されているのでそもそも返事を期待した私が馬鹿だった。
冗談です、と自嘲して私も串焼きに手を伸ばしていると、尾形さんがぼそりと呟いた。
「やるかもしれんな。」
「!」
思わず目を輝かせて振り向いてしまった。
しかし尾形さんが目を合わせてくれることはなく、もりもりとご飯を口に運ぶだけだった。
空耳だったのではないかと思うほどの一瞬の出来事だったが、嬉しかったので私は満足だった。
【あとがき:鮭食べてる尾形はまさに猫そのもの。】
網走よりも少し南、北見についたとき、急に写真を撮ろうという話になった。
杉元さん曰くフチさんに写真を送って安心させてやりたいとのこと。
写真と聞いて少し懐かしくなってしまったが、この時代では当然現代の日本のようにスマホでポチッと撮れるわけはなく、土方さんの古い知り合いの写真家を呼んで撮影会になった。
順番に撮って現像を待つ。
なんだか谷垣さんだけやけに時間がかかっていた。写真慣れしてないのかな?不器用そうだし……。
ピンでの写真は証明写真みたいにカチコチになってしまった。
むむ、と眉間にしわを寄せていると土方さんが声をかけてきた。
「夢主、ほかに誰かと映らないか?」
「え、いいんですか?」
「時間もあるし、構わないだろう。」
写真家さんも頷いていたので、嬉しくなる。
誰がいいかな、やっぱりアシリパさんかな、とか思いながら周りへ視線をやると、皆と目が合う。
「え?何?」
全員の視線を浴びる恐怖から思わず固まってしまうと、土方さんが苦笑いをした。
「皆、夢主と一緒に撮りたいんだろう。」
「ええ……。」
現代だったら手間もかからず皆でせーので撮れたのに。
あらゆる不便さに順応してきた私だったが、ここで今までで一番つらい文明のギャップを感じた。
「どうしよう……。」
本気で誰にしようか悩んでしまう。
歴史的に有名な土方さんの方がもし現代に持って帰れた時にとんでもないお宝になりそう。
私が悩んでいる間に、尾形さんが私の腕をぐいっと引っ張ってカメラの前に立った。
「えっえっ?」
「俺しかいないだろうが。」
「ええ?」
戸惑いながらカメラの前に行くと、周りからはブーイングが起きた。
特に杉元さんとアシリパさんがそっくりな動きで尾形さんへ文句を言っていて思わず笑ってしまったが、おかげで笑顔の写真が撮れた。
その後私たちは網走の近くのコタンに寄って、鮭を獲ったりヤマブドウを獲ったりと相変わらずのアイヌグルメを堪能し、計画を練った。
網走監獄は一度土方さんたちが脱獄しているせいか、守りが固い。
囚人の脱獄も警戒しているだろうが、のっぺらぼうを匿っているところが一番厳重だろうとなった。
脱獄王の白石さんの見立てだと、警備の手薄な網走川に面した塀から侵入することになるだろうとのこと。
鮭の収穫の時期なのを利用して、塀にアイヌ式のクチャ(小屋)を作ってそれを隠れ蓑にキロランケさんの指示でトンネルを掘りをする。
力仕事は杉元さん、キロランケさん、チカパシくん、谷垣さんにお任せして、ほかのメンバーは策を練る。
逐一トンネル掘りの報告はきていたが、どうやら一度は門倉さんに接触したらしい。
杉元さんたちが知っていたかは分からないが、土方さん曰く、門倉さんとは内通しているので順調とのこと。
そんなことだろうと思いました、と内心で私はほくそ笑んだ。
ある日、作戦会議前にキロランケさんと尾形さんが小屋の外で何やら話し込んでいた。
珍しい組み合わせだ。二人共そんなに仲が良かったかしら?
内容は聞こえないが雰囲気が重い。
ご飯を皆で作ろうとなって呼びに行ったのだが、立ち聞きは悪いと思って恐る恐る声をかけた。
「あのぅ……」
「「!」」
二人がバッと驚いた様子でこちらを見る。
「す、すみません、お夕飯を皆で作りましょうという話になりまして、お知らせに来ました。」
おずおずと内容を伝えると、キロランケさんが何やら意味深な眼差しでこちらを見ていた。
尾形さんはまるでキロランケさんから興味をなくしたように、何も言わず中へ戻っていった。
「何かあったんですか?」
キロランケさんに問うが、大したことではないんだ、と流されてしまった。
「尾形さんが何かご無礼をしましたか?だとしたらすみません……悪気があるわけじゃないと思うんですけど、皆にああなのです。」
「はは、夢主は尾形の良き理解者だな。」
キロランケさんが私の頭を優しく撫でる。
その手はとても温かく優しい手だった。
「……そうですかね。」
「ああ。一見尾形が何もかも決めて夢主を引っ張っているように見えて、夢主が支えているから尾形は前に進めているんだと思うぞ。」
「?」
キロランケさんの言葉の意図が読めない。
疑問符を浮かべたまま見上げていると、キロランケさんは力強く頷いて、さあ皆のところに行こうと私を誘導した。
家に戻ると、アシリパさんが鮭について杉元さんに語っている。
鮭はアイヌにとって「本当の食べ物」という意味で、シペと言われているそうで、川に鮭が少ない年は餓死する者が出るほどの重要なものらしい。
そして頭を切り落として上あごの軟骨のある部分を取り出したアシリパさんは、この部分を使う珍味といえば!?とあからさまな態度で杉元さんに問いかける。
杉元さんも「まさか~?」とうきうきした顔を見せた。
「チタタプだ!」
「ハイ出ましたチタタプ!!」
ふふ、杉元さんは本当にチタタプが好きだなぁ。
アシリパさんは更にたたみかけるように杉元さんに言う。
「本来チタタプとは鮭のチタタプのことを指すんだ。」
「チタタプの中のチタタプ!!」
そう叫んだ杉元さんは興奮のあまり近くにいたキロランケさんをつねる。
そしてついに皆でチタタプをすることに。
私も参加できるとなると、なんだかドキドキしてしまう。
チカパシくんが土方さんの名刀をスラリと取り出してこれでチタタプをしたいと言ってきて、その価値を知っている永倉さんが驚いた表情を見せた。
土方さんがチカパシくんを支えながら日本刀でチタタプをする姿に、私も永倉さんも絶句する。
下手したら木の板も切れてしまいそうで、ハラハラした。
大盛り上がりのチタタプだったが、ただ一人「チタタプ」と言わない男がいた。
そう、尾形さんだ。
アシリパさんは本当のチタタプでチタタプと言わないならいつ言うのだと尾形さんを挑発する。
私はあまり尾形さんを刺激しないように、静かに聞き耳を立てて待った。
アシリパさんが諦めて去ろうとしたときに、小さな声で一度だけ「チタタプ」と聞こえた。
おお!と思ったがアシリパさんと私以外は誰一人として聞いていなかったらしく、明らかに皆の尾形さんへの興味の低さが垣間見えて笑ってしまいそうになった。
そして鮭料理の晩餐が始まった。
なかなか美味しい。
「おいしいですね。」
隣の尾形さんに思わず声をかけるも、尾形さんは無言でおかゆにイクラを入れたごはんをひたすら食べる。
返事をするよりも食べていたいほど美味しいってことだろう、と前向きに理解することにした。
食べてる途中で、牛山さんがインカラマッさんに良い人いるのか、とナンパを始めた。
それを見ていたチカパシくんが、谷垣さんの食べていた器を取ってインカラマッさんに渡す。
アイヌ式の意味があるようだ。
私を含めて谷垣さんや他の人たちは不思議そうにしていたが、インカラマッさんは少し戸惑っていた。
アシリパさんがこれはアイヌ式の求婚だと教えてくれる。
半分飯を食べて、半分を女にやり、女が食べたら婚姻が成立するらしい。
なるほど、と聞いていると、谷垣さんは器を返しなさいと言って去ってしまった。
遅れてインカラマッさんが追いかける。
あれ、あの二人は付き合っているんじゃなかったのかな?と皆で顔を見合わせた。
谷垣さんはマタギの生き方を選ぶと予想がつくが、ではアイヌや金塊のことを含めてインカラマッさんとはどういう関係なんだろう?
案外複雑なのかもしれないな……とお節介にも色々と考えてしまう。
そんな私の隣で尾形さんは終始興味なさそうにご飯を食べているのが気になり、ふと聞いてみた。
「私が半分くださいって言ったら、くれますか?」
「……。」
無言でご飯を食べ続ける尾形さん。
そうだよね、興味ないよね。
尾形さんの目的は分からないけれど、金塊を争っている人たちとつるんでいるくらいだし、安定した幸せな結婚生活には興味ないだろう。
今までも、先ほども無視されているのでそもそも返事を期待した私が馬鹿だった。
冗談です、と自嘲して私も串焼きに手を伸ばしていると、尾形さんがぼそりと呟いた。
「やるかもしれんな。」
「!」
思わず目を輝かせて振り向いてしまった。
しかし尾形さんが目を合わせてくれることはなく、もりもりとご飯を口に運ぶだけだった。
空耳だったのではないかと思うほどの一瞬の出来事だったが、嬉しかったので私は満足だった。
【あとがき:鮭食べてる尾形はまさに猫そのもの。】