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第四十二話 裸族
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第四十二話 裸族
釧路湖のコタンを後にした私たちは屈斜路湖へやってきた。
そこではコタンコロカムイというフクロウが獲れた。
罠で捕獲しようとしていたとき、杉元さんが撃ってはいけないフクロウの眼を撃ってしまった。
アシリパさんは迷信だというが、その眼の光を奪うと言われているから盲目の盗賊を追う私たちからすると縁起が悪い。
杉元さんに尾形さんには内緒にして!と頼み込まれて思わず笑ってしまった。
そこでふと、私は良いことを思いついた。
持っていた包帯を眼帯のようにして片目を覆ってみた。
「夢主、なんで片目を隠す?痛いのか?」
アシリパさんが気付いて心配してくれたので、慌てて否定する。
「盗賊は盲目なんですよね?夜に襲うということでしたから、対策を練ろうと思いまして。ちょっとした試みです。」
「なるほど……」
「俺もやろうかな」
杉元さんが呟くと、アシリパさんがやめておけと制す。
何故、と私と杉元さんが首を傾げると、アシリパさんは笑った。
「ただでさえ杉元は銃が苦手なのに、片目にしたら今度こそ外すぞ。」
思わずふふふ、と笑ってしまった。
杉元さんは不満そうに口を尖らせた。
「夢主ちゃんまで笑うなんて。」
「ふふ、すみません。でも本当に、尾形さんの前で今度銃を外したら馬鹿にされちゃいますよ。」
尾形さんは銃のことになると杉元さんを心底馬鹿にしている。
銃の腕は確かに杉元さんでは尾形さんには敵わないだろうが、杉元さんの長所は銃の腕ではないのだから気にしなくて良いと思うのだけどライバル意識だろうか……。
そんなことを話しながら近くのコタンにフクロウを持っていくと、そこでチタタプにすることに!
私がウキウキしていると、谷垣さんがチタタプ?と首を傾げた。
「エッ谷垣さん、チタタプやったことないんですか!?」
「フチのところでやらなかったのか?」
皆でチタタプ初体験の谷垣さんをからかいながらチタタプをする。
結局今回も尾形さんはチタタプと口にすることはなかった。
チタタプを終えてから、皆に眼帯をしていることを心配された。
皆とても優しいんだな……と感動しつつ、盲目相手の対策だと伝えると、今度は賢いだの天才だのと持て囃されてニヤニヤしてしまう。
しかし尾形さんには片目で撃つには訓練しないと杉元並みに腕が落ちるぞ、と忠告されてしまった。
私がしょんぼりと落ち込むと同時に、杉元さんはムッとしていた。昼間のフクロウの一件があったからなのか、杉元さんが言い返すことはなかった。
盗賊の話をしているとアイヌの人が教えてくれた。
どうやらそこのコタンでも被害は出ているようで、家の外ではコタンコロカムイが大きく鳴いて皆に緊張が走る。
しかし盗賊は月の出ない新月の時を狙うそうで、外を見てみると今日は新月ではないようだ。
その時、森の中からカンカンと音がした気がした。
驚いて顔をあげるも皆それぞれ話していて、アシリパさんと私だけが気づいたようで、二人で顔を見合わせた。
「今のって何かの鳥ですか?」
「いや……聞いたことないな。気のせいだろうか。」
コタンの人が近くに和人が経営する旅館があると教えてくれたので、そちらへ向かうことになった。
「温泉旅行ですね。嬉しい。」
「夢主ちゃん温泉好き?」
私が旅館と聞いて喜ぶと、杉元さんが聞いてきた。
やはりゆっくりとできる空間のひとつである温泉は大好きだ。
「はいっ!元気が出ますよね、日本人で良かったって思います。」
「わかるぅ~混浴とかないかなぁ!」
私が杉元さんに答えたのに白石さんが割り込む。
混浴はちょっと恥ずかしいかな……と口を噤んでしまうと、その瞬間に尾形さんと杉元さんの二人で白石さんの頭をしばいていた。
尾形さんと杉元さん、なんだかんだいって息がぴったりだ。
温泉旅館につくと、部屋割りが自然と決まってしまった。
アシリパさんと杉元さんで1部屋。
谷垣さんとインカラマッさんとチカパシくんで1部屋。
白石さんとキロランケさんで1部屋。
そして最後に、尾形さんと私で1部屋だ。
え、男女別にしてくれないのか……。
案内された部屋に入って、荷物を整理する。
ちょっと女子トークとかしたかったぞ、と残念に思っているとそれが顔に出てしまっていたのか、尾形さんがこちらをジトリと見ていた。
目が合ってしまって気まずい空気になったので、適当に笑い飛ばした。
「あはは……一緒のお部屋で嬉しいです。」
「当然だろ。」
フン、と素っ気なく言い放つと、尾形さんは銃を片手に風呂の用意をしていた。
いつの間に着替えたのだろうか、早くも旅館で用意してくれた浴衣を着ていた。
「尾形さん……お泊り嬉しいんですね。」
ぼそりと呟けば、一瞬荷物を整理していた尾形さんの手が止まる。
何か言いたそうにこちらを見たが、次の瞬間には白石さんとキロランケさんが声もかけずに部屋の襖をあけて「温泉行こー!」と叫んだ。
2人の向こうには杉元さんや谷垣さんもいて、男性陣は揃っているようだ。
「夢主ちゃんも入るぅ?」
白石さんは懲りずに混浴に誘う。
尾形さんが鋭い視線で睨みつけているが気にしていないようす。
「私は後で入りますから。荷物番をしておきますね。」
ごゆっくり、と手を振ると尾形さんは銃を持ったまま温泉へと向かっていった。
いつ何時でも銃を離さないんだからスナイパーの鑑だなこりゃ。
私も見習って武器はいつでも持ち歩こうと思う。
さて、皆もいなくなって久々に一人っきりで部屋に残された。
そろそろ片目の生活にも慣れてきたので、訓練でもしようかしら。
実戦で使えるかが問題だな……と部屋ではさすがに銃をぶっ放すわけにもいかないので、素振りをしたり体を動かす練習をした。
「ふぅ……。」
まずまずといったところだろうか、距離が遠くなればなるほど距離感を掴むのが難しく感じる。
なるべくなら刀で暗殺していきたいところ。
皆がいるからそこまで気を張る必要もないかもしれないけれど。
一息ついて、そろそろアシリパさんやインカラマッさんと合流しようかなと部屋を出ると、重装備のアシリパさんが飛び出してきた。
「夢主!」
「どうしたんですか、アシリパさん。」
「あのコタンで聞いた音は、山賊の音だった!ずっと追われていた!」
「えっ!?」
驚きつつも、早く杉元さんたちに知らせないとと急かされたので武器を持って走り出した。
温泉へ向かいながら詳しく聞くと、舌を鳴らした反響で盲目の盗賊たちは相手の場所を把握して襲っていたらしい。
あのカンカンと鳴った音は、舌を鳴らした音だったのだ。
「皆の服も武器もない……!」
脱衣所にあるはずの荷物が何もない。
温泉を出た様子もないから、まだ中にいるはずだ。
次の瞬間近いところで銃声が響いた。
「まずい!森の中からだ!」
アシリパさんが簡易的なたいまつをつけて走り出す。
私も同じものを見よう見真似で作って二人で露天風呂の奥に広がる森へと向かう。
「アシリパさん、敵に出くわしたらなるべく相手の頭を照らしてください。」
「何故だ?」
「尾形さんは銃を持ち込んでいるはずですから。撃てるなら一撃で仕留めてもらわないと。」
アシリパさんはこくり、と頷いた。
そして忍者のような姿をした男に出くわす。
私が片手で拳銃を構える前に、男の顔面に銃弾が叩き込まれた。
尾形さんだとすぐに分かった。
「アシリパさん森へ!隠れて!」
アシリパさんと私が持っていたたいまつの火が消えると同時に森へとアシリパさんを送り出す。
暗闇ではこちらが不利だ。
でも小柄なアシリパさんなら盲目の敵も発見が遅れるだろう。
「夢主は!?」
「尾形さんの方へ向かいます!」
返事をすると私はそのまま銃声がした方へと走った。
そして今まで長らくつけていた眼帯を外す。
夜目が効く、というのはこういう状態をいうのか、と感心した。
暗いは暗いが、物の輪郭はわかる。
尾形さんの銃身が見えて、小声で声をかけた。
「尾形さん……!」
「夢主、無事か。」
尾形さんを見てぎょっとしてしまった。
服がなかったのは知っていたがまさか素っ裸で森を歩き回るとは。
驚いたが、以前に褌姿を見てしまっている私としてはそれより先に口をついて出た言葉がちょっと常識とズレてしまっていた。
「湯冷めしませんか……?」
「お前なぁ……。」
呆れた様子でこちらを見てくる尾形さん。
せっかく心配したというのに、何故か私が恥ずかしい思いをしただけだった。
「すみません……。武器、私ので良ければ使ってください。」
私が持ってきた拳銃を渡そうとすると、断られてしまった。
尾形さんは自分の銃の残弾数を数える。
「お前が使え。目、慣れてきてんだろ?」
「……わかりました。」
二人で茂みに隠れてなるべく敵から距離を取る。
暗闇からの奇襲を防ぐためだ。
道中何人か撃って敵を足止めし、親玉を追う。
そうしているうちに少しだけ朝日が出てきた。
夜目の利かない状態のこちら側もようやく反撃を開始できそうだ。
顔の真横に耳のように何かが生えている男を見つける。
尾形さんに指で方向を教える。
「……あれ、都丹庵士って人でしょうか。」
小声でつぶやくと、尾形さんは静かに頷いて一発撃った。
耳のように見えたものは集音の役目を果たしているものだったらしい。
相当距離があったが、尾形さんがその片方を撃ち砕いた。
「もうちょっと明るければ外さなかったのに。」
悔しそうにつぶやく尾形さん。
そして逃げて行った都丹庵士と手下2人を追いかけると、建物にたどり着いた。
草の影で隠れて様子を窺う。
「他の皆さんは大丈夫かしら……尾形さん、軍服貸しますよ。腰に巻いてください。」
さすがに朝日で姿が見えるようになって裸体の尾形さんの隣にいる自分が居た堪れなくなってしまった。
上着を脱いで尾形さんに差し出す。
尾形さんは軍服を受け取って、ナチュラルにすん、と上着の匂いを嗅ぐ。
「ちょっと、何匂い嗅いでるんですか!」
私が怒ると返事もせずに私の軍服を腰に巻いた尾形さん。
そんなやりとりをしていると、杉元さんとアシリパさんが合流した
「夢主、尾形も無事だったか。」
「アシリパさん……!あっ、杉元さんお怪我を!?」
「大丈夫、奴らに体勢を立て直す機会を与えたくないからね。都丹庵士たちはその建物の中?」
杉元さんの傷は致命傷ではないとはいえ、浅くはない。
よくもまあ動き回れるもんだ。本当に不死身なのではないかと思ってしまう。
建物の外でアシリパさんに待機してもらって、危険がないか確認してから窓からアシリパさんを入れるということで、私たち3人は先に建物に侵入することにした。
「……この建物……。」
「窓が開かない。」
「……暗闇だな。」
どこの窓も塞がれていて開かない。
そうこうしているうちに扉を塞がれて真っ暗闇の中に閉じ込められてしまった。
眼帯を外して朝日にも慣れてきてしまった目は、完全な闇には対応ができそうにない。
「うぅ……目が慣れていても、ちょっとこれは、厳しいかも……。」
こういうとき、銃を闇雲に撃つのは良くない。
味方にも当ててしまいかねない。
私は刀を抜いて、構える。
確か都丹庵士以外は槍や剣のようなものが武器だった。
だとすれば刀でもやり合える。
「……アシリパさん?」
アシリパさんがどこからかやってきて杉元さんのお尻にくっついている。
カンカンとまた舌を鳴らす音が聞こえてきて、私たちは固まって下手に動けなくなる。
私たちは暗闇からいつ敵が出てくるか分からないのだ。
耳を澄ます以外になにもできなくて、困っていると突然暗闇の中からうめき声が上がった。
尾形さんがその瞬間銃を向けて一人仕留める。
ええ、この人音だけで正確に撃てるのか……と内心で引いてしまった。
尾形さん特殊な訓練をしているようには見えなかったんだけどな。
こっそりと努力するタイプだから侮れない。
その音に反応してもう一人こちらに来たところを、私が前に出て斬りつける。
さあ残るは都丹庵士一人。
どうやら杉元さんと一騎打ちの最中のようだ。
揉み合う音だけが聞こえてくる。
アシリパさんが杉元さんを探す声を上げるも、皆動くな!と叫び声が上がった。
もう他に加勢が来ることはなさそうだが、念のためアシリパさんの近くで刀を構える。
その時だった、家の外からバキバキッメキメキッと音がして、強引に窓が突き破られ、そこには牛山さんの姿が。
「チンポ先生!」
「よお嬢ちゃんまた会ったな。お、夢主も一緒か。」
「牛山さん……!」
ということは、土方さんもいるみたいだ。
部屋のあちらこちらの窓を牛山さんが外してくれて、ようやく落ち着いて状況を話し合う。
どうやら土方さんたちも都丹庵士の情報は掴んでいたようで、近くにきたところでリュウが教えてくれたそうだ。
外を見るとリュウと一緒に白石さんとチカパシくんが誇らしげに仁王立ちしていた。
いや、偉いんだけどね?服を着るか前を隠してほしい。
永倉さんが都丹庵士の処遇を任せてくれというので、皆で目を合わせる。
被害に遭ったアシリパさんの親戚のことを考えると殺してほしいと杉元さんは言うが、アシリパさんは思いつめた表情で都丹庵士に言い放つ。
「こんな暗いところで隠れて暮らして。悪さをするために外に出るのは夜になってから。これではいつまでたってもお前の人生は闇から抜け出せない。」
真っすぐに見据えてそういうアシリパさんの姿はとても強く気高く見えた。
そしてはぐれていた皆と合流する。
「きゃあっ!」
私は皆が裸であったために悲鳴をあげた。
「夢主ちゃん、見てる見てる!隠せてない!バッチリ見ちゃってる!」
両手で顔を覆ってはみたものの、指の間からバッチリ目を開けて凝視してしまっているのを、白石さんに笑われる。
こうやって見ると鍛えているのか皆さん良い体してらっしゃる。
どこもかしこもマッチョの裸体で心臓に悪い。
唯一尾形さんだけは腰に私の軍服を巻いているので、安心して視線をやれる。
しかし腹筋や足はめちゃくちゃ見えるので、これはこれで色気がやばい。
ほっとした瞬間に急に煩悩だらけになるのだから、まったく私という人間は……。
尾形さんはお尻を撃たれたらしい谷垣さんに秋田に帰れなどと厳しい一言を放っている。
もう尾形さんてば、手厳しいんだから。
谷垣さんも谷垣さんで何も言い返さないから本当に真面目な人なんだと思う。
「手当しますよ、谷垣さんと杉元さん。ほら、皆さんは温泉入りなおしてきてくださいな。」
そう言って旅館に誘導して、二人を手当し、私たちも後から温泉に入った。
さあいよいよ大所帯だ。
のっぺらぼうの真相にも近づいているような気がした。
【あとがき:読み返しながら書いてるんですけど、原作者様はちん●んに何か強いこだわりでもあるのでしょうか……笑】
釧路湖のコタンを後にした私たちは屈斜路湖へやってきた。
そこではコタンコロカムイというフクロウが獲れた。
罠で捕獲しようとしていたとき、杉元さんが撃ってはいけないフクロウの眼を撃ってしまった。
アシリパさんは迷信だというが、その眼の光を奪うと言われているから盲目の盗賊を追う私たちからすると縁起が悪い。
杉元さんに尾形さんには内緒にして!と頼み込まれて思わず笑ってしまった。
そこでふと、私は良いことを思いついた。
持っていた包帯を眼帯のようにして片目を覆ってみた。
「夢主、なんで片目を隠す?痛いのか?」
アシリパさんが気付いて心配してくれたので、慌てて否定する。
「盗賊は盲目なんですよね?夜に襲うということでしたから、対策を練ろうと思いまして。ちょっとした試みです。」
「なるほど……」
「俺もやろうかな」
杉元さんが呟くと、アシリパさんがやめておけと制す。
何故、と私と杉元さんが首を傾げると、アシリパさんは笑った。
「ただでさえ杉元は銃が苦手なのに、片目にしたら今度こそ外すぞ。」
思わずふふふ、と笑ってしまった。
杉元さんは不満そうに口を尖らせた。
「夢主ちゃんまで笑うなんて。」
「ふふ、すみません。でも本当に、尾形さんの前で今度銃を外したら馬鹿にされちゃいますよ。」
尾形さんは銃のことになると杉元さんを心底馬鹿にしている。
銃の腕は確かに杉元さんでは尾形さんには敵わないだろうが、杉元さんの長所は銃の腕ではないのだから気にしなくて良いと思うのだけどライバル意識だろうか……。
そんなことを話しながら近くのコタンにフクロウを持っていくと、そこでチタタプにすることに!
私がウキウキしていると、谷垣さんがチタタプ?と首を傾げた。
「エッ谷垣さん、チタタプやったことないんですか!?」
「フチのところでやらなかったのか?」
皆でチタタプ初体験の谷垣さんをからかいながらチタタプをする。
結局今回も尾形さんはチタタプと口にすることはなかった。
チタタプを終えてから、皆に眼帯をしていることを心配された。
皆とても優しいんだな……と感動しつつ、盲目相手の対策だと伝えると、今度は賢いだの天才だのと持て囃されてニヤニヤしてしまう。
しかし尾形さんには片目で撃つには訓練しないと杉元並みに腕が落ちるぞ、と忠告されてしまった。
私がしょんぼりと落ち込むと同時に、杉元さんはムッとしていた。昼間のフクロウの一件があったからなのか、杉元さんが言い返すことはなかった。
盗賊の話をしているとアイヌの人が教えてくれた。
どうやらそこのコタンでも被害は出ているようで、家の外ではコタンコロカムイが大きく鳴いて皆に緊張が走る。
しかし盗賊は月の出ない新月の時を狙うそうで、外を見てみると今日は新月ではないようだ。
その時、森の中からカンカンと音がした気がした。
驚いて顔をあげるも皆それぞれ話していて、アシリパさんと私だけが気づいたようで、二人で顔を見合わせた。
「今のって何かの鳥ですか?」
「いや……聞いたことないな。気のせいだろうか。」
コタンの人が近くに和人が経営する旅館があると教えてくれたので、そちらへ向かうことになった。
「温泉旅行ですね。嬉しい。」
「夢主ちゃん温泉好き?」
私が旅館と聞いて喜ぶと、杉元さんが聞いてきた。
やはりゆっくりとできる空間のひとつである温泉は大好きだ。
「はいっ!元気が出ますよね、日本人で良かったって思います。」
「わかるぅ~混浴とかないかなぁ!」
私が杉元さんに答えたのに白石さんが割り込む。
混浴はちょっと恥ずかしいかな……と口を噤んでしまうと、その瞬間に尾形さんと杉元さんの二人で白石さんの頭をしばいていた。
尾形さんと杉元さん、なんだかんだいって息がぴったりだ。
温泉旅館につくと、部屋割りが自然と決まってしまった。
アシリパさんと杉元さんで1部屋。
谷垣さんとインカラマッさんとチカパシくんで1部屋。
白石さんとキロランケさんで1部屋。
そして最後に、尾形さんと私で1部屋だ。
え、男女別にしてくれないのか……。
案内された部屋に入って、荷物を整理する。
ちょっと女子トークとかしたかったぞ、と残念に思っているとそれが顔に出てしまっていたのか、尾形さんがこちらをジトリと見ていた。
目が合ってしまって気まずい空気になったので、適当に笑い飛ばした。
「あはは……一緒のお部屋で嬉しいです。」
「当然だろ。」
フン、と素っ気なく言い放つと、尾形さんは銃を片手に風呂の用意をしていた。
いつの間に着替えたのだろうか、早くも旅館で用意してくれた浴衣を着ていた。
「尾形さん……お泊り嬉しいんですね。」
ぼそりと呟けば、一瞬荷物を整理していた尾形さんの手が止まる。
何か言いたそうにこちらを見たが、次の瞬間には白石さんとキロランケさんが声もかけずに部屋の襖をあけて「温泉行こー!」と叫んだ。
2人の向こうには杉元さんや谷垣さんもいて、男性陣は揃っているようだ。
「夢主ちゃんも入るぅ?」
白石さんは懲りずに混浴に誘う。
尾形さんが鋭い視線で睨みつけているが気にしていないようす。
「私は後で入りますから。荷物番をしておきますね。」
ごゆっくり、と手を振ると尾形さんは銃を持ったまま温泉へと向かっていった。
いつ何時でも銃を離さないんだからスナイパーの鑑だなこりゃ。
私も見習って武器はいつでも持ち歩こうと思う。
さて、皆もいなくなって久々に一人っきりで部屋に残された。
そろそろ片目の生活にも慣れてきたので、訓練でもしようかしら。
実戦で使えるかが問題だな……と部屋ではさすがに銃をぶっ放すわけにもいかないので、素振りをしたり体を動かす練習をした。
「ふぅ……。」
まずまずといったところだろうか、距離が遠くなればなるほど距離感を掴むのが難しく感じる。
なるべくなら刀で暗殺していきたいところ。
皆がいるからそこまで気を張る必要もないかもしれないけれど。
一息ついて、そろそろアシリパさんやインカラマッさんと合流しようかなと部屋を出ると、重装備のアシリパさんが飛び出してきた。
「夢主!」
「どうしたんですか、アシリパさん。」
「あのコタンで聞いた音は、山賊の音だった!ずっと追われていた!」
「えっ!?」
驚きつつも、早く杉元さんたちに知らせないとと急かされたので武器を持って走り出した。
温泉へ向かいながら詳しく聞くと、舌を鳴らした反響で盲目の盗賊たちは相手の場所を把握して襲っていたらしい。
あのカンカンと鳴った音は、舌を鳴らした音だったのだ。
「皆の服も武器もない……!」
脱衣所にあるはずの荷物が何もない。
温泉を出た様子もないから、まだ中にいるはずだ。
次の瞬間近いところで銃声が響いた。
「まずい!森の中からだ!」
アシリパさんが簡易的なたいまつをつけて走り出す。
私も同じものを見よう見真似で作って二人で露天風呂の奥に広がる森へと向かう。
「アシリパさん、敵に出くわしたらなるべく相手の頭を照らしてください。」
「何故だ?」
「尾形さんは銃を持ち込んでいるはずですから。撃てるなら一撃で仕留めてもらわないと。」
アシリパさんはこくり、と頷いた。
そして忍者のような姿をした男に出くわす。
私が片手で拳銃を構える前に、男の顔面に銃弾が叩き込まれた。
尾形さんだとすぐに分かった。
「アシリパさん森へ!隠れて!」
アシリパさんと私が持っていたたいまつの火が消えると同時に森へとアシリパさんを送り出す。
暗闇ではこちらが不利だ。
でも小柄なアシリパさんなら盲目の敵も発見が遅れるだろう。
「夢主は!?」
「尾形さんの方へ向かいます!」
返事をすると私はそのまま銃声がした方へと走った。
そして今まで長らくつけていた眼帯を外す。
夜目が効く、というのはこういう状態をいうのか、と感心した。
暗いは暗いが、物の輪郭はわかる。
尾形さんの銃身が見えて、小声で声をかけた。
「尾形さん……!」
「夢主、無事か。」
尾形さんを見てぎょっとしてしまった。
服がなかったのは知っていたがまさか素っ裸で森を歩き回るとは。
驚いたが、以前に褌姿を見てしまっている私としてはそれより先に口をついて出た言葉がちょっと常識とズレてしまっていた。
「湯冷めしませんか……?」
「お前なぁ……。」
呆れた様子でこちらを見てくる尾形さん。
せっかく心配したというのに、何故か私が恥ずかしい思いをしただけだった。
「すみません……。武器、私ので良ければ使ってください。」
私が持ってきた拳銃を渡そうとすると、断られてしまった。
尾形さんは自分の銃の残弾数を数える。
「お前が使え。目、慣れてきてんだろ?」
「……わかりました。」
二人で茂みに隠れてなるべく敵から距離を取る。
暗闇からの奇襲を防ぐためだ。
道中何人か撃って敵を足止めし、親玉を追う。
そうしているうちに少しだけ朝日が出てきた。
夜目の利かない状態のこちら側もようやく反撃を開始できそうだ。
顔の真横に耳のように何かが生えている男を見つける。
尾形さんに指で方向を教える。
「……あれ、都丹庵士って人でしょうか。」
小声でつぶやくと、尾形さんは静かに頷いて一発撃った。
耳のように見えたものは集音の役目を果たしているものだったらしい。
相当距離があったが、尾形さんがその片方を撃ち砕いた。
「もうちょっと明るければ外さなかったのに。」
悔しそうにつぶやく尾形さん。
そして逃げて行った都丹庵士と手下2人を追いかけると、建物にたどり着いた。
草の影で隠れて様子を窺う。
「他の皆さんは大丈夫かしら……尾形さん、軍服貸しますよ。腰に巻いてください。」
さすがに朝日で姿が見えるようになって裸体の尾形さんの隣にいる自分が居た堪れなくなってしまった。
上着を脱いで尾形さんに差し出す。
尾形さんは軍服を受け取って、ナチュラルにすん、と上着の匂いを嗅ぐ。
「ちょっと、何匂い嗅いでるんですか!」
私が怒ると返事もせずに私の軍服を腰に巻いた尾形さん。
そんなやりとりをしていると、杉元さんとアシリパさんが合流した
「夢主、尾形も無事だったか。」
「アシリパさん……!あっ、杉元さんお怪我を!?」
「大丈夫、奴らに体勢を立て直す機会を与えたくないからね。都丹庵士たちはその建物の中?」
杉元さんの傷は致命傷ではないとはいえ、浅くはない。
よくもまあ動き回れるもんだ。本当に不死身なのではないかと思ってしまう。
建物の外でアシリパさんに待機してもらって、危険がないか確認してから窓からアシリパさんを入れるということで、私たち3人は先に建物に侵入することにした。
「……この建物……。」
「窓が開かない。」
「……暗闇だな。」
どこの窓も塞がれていて開かない。
そうこうしているうちに扉を塞がれて真っ暗闇の中に閉じ込められてしまった。
眼帯を外して朝日にも慣れてきてしまった目は、完全な闇には対応ができそうにない。
「うぅ……目が慣れていても、ちょっとこれは、厳しいかも……。」
こういうとき、銃を闇雲に撃つのは良くない。
味方にも当ててしまいかねない。
私は刀を抜いて、構える。
確か都丹庵士以外は槍や剣のようなものが武器だった。
だとすれば刀でもやり合える。
「……アシリパさん?」
アシリパさんがどこからかやってきて杉元さんのお尻にくっついている。
カンカンとまた舌を鳴らす音が聞こえてきて、私たちは固まって下手に動けなくなる。
私たちは暗闇からいつ敵が出てくるか分からないのだ。
耳を澄ます以外になにもできなくて、困っていると突然暗闇の中からうめき声が上がった。
尾形さんがその瞬間銃を向けて一人仕留める。
ええ、この人音だけで正確に撃てるのか……と内心で引いてしまった。
尾形さん特殊な訓練をしているようには見えなかったんだけどな。
こっそりと努力するタイプだから侮れない。
その音に反応してもう一人こちらに来たところを、私が前に出て斬りつける。
さあ残るは都丹庵士一人。
どうやら杉元さんと一騎打ちの最中のようだ。
揉み合う音だけが聞こえてくる。
アシリパさんが杉元さんを探す声を上げるも、皆動くな!と叫び声が上がった。
もう他に加勢が来ることはなさそうだが、念のためアシリパさんの近くで刀を構える。
その時だった、家の外からバキバキッメキメキッと音がして、強引に窓が突き破られ、そこには牛山さんの姿が。
「チンポ先生!」
「よお嬢ちゃんまた会ったな。お、夢主も一緒か。」
「牛山さん……!」
ということは、土方さんもいるみたいだ。
部屋のあちらこちらの窓を牛山さんが外してくれて、ようやく落ち着いて状況を話し合う。
どうやら土方さんたちも都丹庵士の情報は掴んでいたようで、近くにきたところでリュウが教えてくれたそうだ。
外を見るとリュウと一緒に白石さんとチカパシくんが誇らしげに仁王立ちしていた。
いや、偉いんだけどね?服を着るか前を隠してほしい。
永倉さんが都丹庵士の処遇を任せてくれというので、皆で目を合わせる。
被害に遭ったアシリパさんの親戚のことを考えると殺してほしいと杉元さんは言うが、アシリパさんは思いつめた表情で都丹庵士に言い放つ。
「こんな暗いところで隠れて暮らして。悪さをするために外に出るのは夜になってから。これではいつまでたってもお前の人生は闇から抜け出せない。」
真っすぐに見据えてそういうアシリパさんの姿はとても強く気高く見えた。
そしてはぐれていた皆と合流する。
「きゃあっ!」
私は皆が裸であったために悲鳴をあげた。
「夢主ちゃん、見てる見てる!隠せてない!バッチリ見ちゃってる!」
両手で顔を覆ってはみたものの、指の間からバッチリ目を開けて凝視してしまっているのを、白石さんに笑われる。
こうやって見ると鍛えているのか皆さん良い体してらっしゃる。
どこもかしこもマッチョの裸体で心臓に悪い。
唯一尾形さんだけは腰に私の軍服を巻いているので、安心して視線をやれる。
しかし腹筋や足はめちゃくちゃ見えるので、これはこれで色気がやばい。
ほっとした瞬間に急に煩悩だらけになるのだから、まったく私という人間は……。
尾形さんはお尻を撃たれたらしい谷垣さんに秋田に帰れなどと厳しい一言を放っている。
もう尾形さんてば、手厳しいんだから。
谷垣さんも谷垣さんで何も言い返さないから本当に真面目な人なんだと思う。
「手当しますよ、谷垣さんと杉元さん。ほら、皆さんは温泉入りなおしてきてくださいな。」
そう言って旅館に誘導して、二人を手当し、私たちも後から温泉に入った。
さあいよいよ大所帯だ。
のっぺらぼうの真相にも近づいているような気がした。
【あとがき:読み返しながら書いてるんですけど、原作者様はちん●んに何か強いこだわりでもあるのでしょうか……笑】