空欄の場合は夢主になります。
第四十一話 目的のために
お名前をどうぞ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第四十一話 目的のために
海辺で尾形さんと沈黙のひと時を過ごしたあと、ひとまず皆のもとに戻ろうと提案した。
尾形さんは難色を示していたが、私はこのまま金塊の手掛かりから遠ざかるのは悪手だと説得した。
首元にガッツリついているだろうキスマークを隠すように、軍服をしっかりと着直して更に外套を被った。
海岸沿いを歩いていると、アシリパさんがひとりで焚火をしているところに出会う。
「アシリパさん……!バッタは大丈夫でしたか?」
「夢主……ああ、船でバッタが飛んでこれないところまで逃げたから大丈夫だ。」
私が駆け寄るとアシリパさんはほっとした様子で笑う。
しかし心なしかいつもよりもテンションが低い。
何か考え事をしていたようだ。
アシリパさんは小さい体にいろんなものを背負い込んでいるから倒れてしまわないか心配だ。
一緒に焚火に当たっていると、あとから谷垣さんとインカラマッさんがやってきた。
「夢主……。」
谷垣さんが心配そうにこちらに声をかけた。
私は谷垣さんに頭を下げる。
「あ、谷垣さん……先ほどはありがとうございました。谷垣さんが尾形さんを起こしてくれなかったら、私、今頃……。」
「皆もあの後反省していてな……。」
「そうだったんですか、雰囲気を悪くしてしまって……申し訳ないです。」
「いや、いいんだ。あれから結局、皆で相撲を取った。」
「エ?なんで?」
予想だにしない言葉に素っ頓狂な声が出た。
谷垣さんは少し気まずそうに頬をぽり、と掻く。
「まあ、なんだ、色々発散するのに、な。」
「そ、そうなんですね?よかったです。本当にありがとうございました。」
どうしたらあの後相撲なんて取ることになるのだろうか。
私には理解ができなかったがひとまず谷垣さんへお礼を伝えると、後ろにいたインカラマッさんがにこにこと微笑んだ。
「ラッコ鍋を食べたのですか?良い夜を過ごせたでしょう。」
「エッえーと……そう、です、かね……?」
インカラマッさんは私に何があったから知らない様子。
しどろもどろになって話していると、後ろで尾形さんがははぁ、と馬鹿にした様子で笑うのが聞こえた。
そしてなぜかインカラマッさんの隣で顔を赤くして咳ばらいをする谷垣さん。
ははぁ、さては二人共……?なんて邪推してしまった私はニヤニヤしてしまうのを抑えられなかった。
その間も思いつめた表情をしているアシリパさんに気付いた。
心配になって私が声をかけようとしたとき、ちょうど先ほどの面子が戻ってきて、アシリパさんの表情がより一層険しくなった。
そして皆がこちらに声をかけるよりも先に、アシリパさんが言い放つ。
「キロランケニシパが私の父を殺したのか?」
えっ!?と声をあげそうになって慌てて口元を押えた。
皆も動揺した様子を見せる。
インカラマッさんがその後続けて証拠は指紋だと突き付ける。
しかし今度は尾形さんが銃を向ける。
「この女……鶴見中尉と通じているぞ。」
「!?尾形さんどういうことですか。」
私は警戒して拳銃を手に取る。
私だって鶴見中尉のもとに長くいたがインカラマッさんのような来客には会っていない。
金塊関連の情報を鶴見中尉は私に隠していなかったはずのに、内密に会っていたとすると余計に怪しい。
いや……そもそもそれが思い上がりで、鶴見中尉は私を完全に信用していたわけではなかったのだろうとも考えられるけれど。
谷垣さんがインカラマッさんの前に出てかばうも、尾形さんに色仕掛けで丸め込まれたか?と挑発されて動揺を隠せずにいる。
場が硬直したところで、キロランケさんがこの状況で殺し合えばそれこそ鶴見中尉の思う壺だぞと皆を止める。
「情報が錯乱していますね。……白石さんは監獄にいたのっぺらぼうを見ているんですよね?」
私が投げかけると白石さんはマジマジと見ていたわけではないと否定する。
会話をしていたとしても土方さんくらいだそうだ。
皆脱獄するときの情報は土方さんを通じてだったとのこと。
皆お互いを睨み合っていると杉元さんが低い声で、仮にインカラマッさんかキロランケさんのどちらかが殺されれば、その時は残った方を殺すなどと笑えないジョークを言い放った。
理由はそれぞれあるだろうが目的は一つだということ話が固まった。
結局疑心暗鬼のまま、網走監獄へ行くことになる。
「網走監獄かぁ……。」
「夢主、お前、鶴見中尉と行ったことがあるよな?」
私が呟くと尾形さんが聞いていたのか問いかけてくる。
「ええ。そこには予定通りですと今頃には宇佐美さんが配置されているはずなので厄介です。つまり、鶴見中尉側の人間もいるってことですね。」
「宇佐美……あいつか。そいつはァ厄介だ。」
眉間にしわを寄せて尾形さんが呟く。
私もこくり、と頷いた。
「あと網走監獄の看守部長は、門倉さんという方なのですが……できればそこから攻め入りたいですね。」
「何故だ?」
「……抜けているようで抜け目のない方ですから。」
曖昧な言い回しになってしまったが、尾形さんには伝わったようで、ふん、と鼻で笑われて終わった。
釧路からしばらく移動して塘路湖というところややってきた私たち。
道中やはりお互いに疑心暗鬼なのかたまに気まずい空気が流れてしまうときはあって、基本的に杉元さんとアシリパさんと白石さんは仲良し3人組で、谷垣さん・チカパシくん・インカラマッさんも3人で固まっていることが多かった。
私はというと、何があろうと尾形さんについていくだけなので警戒心を持ちつつも誰とでも話す感じだ。
ただ、ちょっとキロランケさんには苦手意識が働いてしまっていることに自分でも気づいていた。
土方さんが以前にパルチザンの話をしたせいで初対面から警戒心マックスで接してしまっている。
そもそも尾形さんが土方さんをそこまで信用しているのかも私には分からない。
信じるべきか自分の目で確かめてみるのも判断材料の一つかもしれないと思い、道中キロランケさんと少しずつ話すようになった。
分かったことは馬が好きだということ。
手先が器用で戦時中はお手製の手投げ弾で活躍したそうな。
私にも簡単な手投げ弾の作り方を教えてくださった。
それから、キロランケさんは私に本気で手を出すつもりがないということも分かった。
バッタに襲われた日のことを改めて謝罪してくれたのだ。
そもそも彼は既婚者であり、子供もいるとのこと。
他には、「ソフィア」という女性と昔縁があったそうだ。
今でも心の中では強く逞しい彼女を大切に想っているそうだが、彼女とは長らく会っていないとのこと。
言い訳にしかならないだろうが、と前置きをした上で尾形さんと共に戦う私をソフィアさんに重ねてしまったそうだ。
あの日のことは結果的に私は無事だったので怒ってはいない。
皆がおかしくなってしまったのはきっとラッコ鍋のせいだと改めてキロランケさんには気にしないように伝えた。
海外の人の名前が出てきたことに驚いてしまったが、そもそもキロランケさんはアイヌのことも戦争のこともよく知っている。
交友関係が広くてもおかしくはなかった。
キロランケさんがそこまで悪い人ではないと分かったと同時に、ロシアのパルチザンだという土方さんの予想も当たってしまっていることに気付いたが、金塊を狙っているのは皆同じ。
立場が違えば悪人にも善人にもなり得るこの旅で、全員と慣れ合うことも全員を過度に敵視するのも無意味だと私は結論付けた。
私が少々キロランケさんと近づいている時は、大体尾形さんが後から割って入ってくるのがお決まりの流れになっていた。
そのうち杉元さんや白石さんも割り込んで、最終的には結局全員でワイワイと話すことになるものだから、随分と賑やかな旅だった。
そして心底、私は欲張りだなと反省する。
尾形さんを裏切るつもりは決してないが、叶うのならば、こうやっていつまでも皆で楽しく笑って暮らしていたかった。
金塊を求めて繋がっているだけで、全員が味方で全員が敵なのだから、それは叶うわけもないのだけれど。
塘路湖では「ぺカンペ」という菱の実がとれるらしい。
なんだか金平糖みたいで可愛らしい。
フチさんの2番目の姉の息子さんがいる塘路湖の近くのコタンに立ち寄る。
そこで、ぺカンペのアイヌの調理方法を教えてもらっていると、そのコタンの人は表情を曇らせた。
どうやらこのあたりに盗賊が出るそうだ。
しかもその盗賊は皆盲目で、その盗賊の親玉には奇妙な入れ墨があるのだという。
それを聞いた瞬間、全員が目を光らせた。
「白石さんはどなたか心当たりありますか?」
私が問うと、白石さんはきっと硫黄山で苦役させられた囚人のひとりだろうと答える。
硫黄山から絶えず噴き出る亜硫酸ガスは目をやられるのだそうだ。
そしてその親玉の名前は「都丹庵士」という。
網走監獄の犬童が今は閉山されているはずの鉱山に囚人たちを送り込んでいるそうな。
その手下たちも犬童の支配下から都丹庵士と逃げた仲間だと予想される。
情報を共有したところで、盗賊の被害状況を確認してそのあたりへ向かおうと決まった。
ほとんどが寝静まった夜、小さくついた明かりの下で私は膝を抱えていた。
「盲目の盗賊……。」
「目が見えないなら金塊は追ってないだろうけど、厄介だね。」
私が独り言を呟くと、起きていたのか横にいた杉元さんが声をかけてくれた。
私はそうですね、と頷く。
「でも心配いらないよ、きっと金塊にたどり着ける。真実が知れるはずだ。」
「……杉元さんがそう言ってくださると、心強いです。」
「えー?ほんとぉ?」
嬉しそうに顔を綻ばせた杉元さんに対して、実は私の後ろで起きていて話を聞いていたのだろう、尾形さんが突然手を伸ばし杉元さんに目つぶしする。
「ぎゃっ」
「ちょっと尾形さん!」
フン、と鼻で笑い飛ばした尾形さんは何も言わず寝床についてしまった。
「杉元さん大丈夫ですか?」
「早く寝ろってことかな……?」
あらやだ杉元さんってばポジティブ。
【あとがき:おやすみなさい。】
海辺で尾形さんと沈黙のひと時を過ごしたあと、ひとまず皆のもとに戻ろうと提案した。
尾形さんは難色を示していたが、私はこのまま金塊の手掛かりから遠ざかるのは悪手だと説得した。
首元にガッツリついているだろうキスマークを隠すように、軍服をしっかりと着直して更に外套を被った。
海岸沿いを歩いていると、アシリパさんがひとりで焚火をしているところに出会う。
「アシリパさん……!バッタは大丈夫でしたか?」
「夢主……ああ、船でバッタが飛んでこれないところまで逃げたから大丈夫だ。」
私が駆け寄るとアシリパさんはほっとした様子で笑う。
しかし心なしかいつもよりもテンションが低い。
何か考え事をしていたようだ。
アシリパさんは小さい体にいろんなものを背負い込んでいるから倒れてしまわないか心配だ。
一緒に焚火に当たっていると、あとから谷垣さんとインカラマッさんがやってきた。
「夢主……。」
谷垣さんが心配そうにこちらに声をかけた。
私は谷垣さんに頭を下げる。
「あ、谷垣さん……先ほどはありがとうございました。谷垣さんが尾形さんを起こしてくれなかったら、私、今頃……。」
「皆もあの後反省していてな……。」
「そうだったんですか、雰囲気を悪くしてしまって……申し訳ないです。」
「いや、いいんだ。あれから結局、皆で相撲を取った。」
「エ?なんで?」
予想だにしない言葉に素っ頓狂な声が出た。
谷垣さんは少し気まずそうに頬をぽり、と掻く。
「まあ、なんだ、色々発散するのに、な。」
「そ、そうなんですね?よかったです。本当にありがとうございました。」
どうしたらあの後相撲なんて取ることになるのだろうか。
私には理解ができなかったがひとまず谷垣さんへお礼を伝えると、後ろにいたインカラマッさんがにこにこと微笑んだ。
「ラッコ鍋を食べたのですか?良い夜を過ごせたでしょう。」
「エッえーと……そう、です、かね……?」
インカラマッさんは私に何があったから知らない様子。
しどろもどろになって話していると、後ろで尾形さんがははぁ、と馬鹿にした様子で笑うのが聞こえた。
そしてなぜかインカラマッさんの隣で顔を赤くして咳ばらいをする谷垣さん。
ははぁ、さては二人共……?なんて邪推してしまった私はニヤニヤしてしまうのを抑えられなかった。
その間も思いつめた表情をしているアシリパさんに気付いた。
心配になって私が声をかけようとしたとき、ちょうど先ほどの面子が戻ってきて、アシリパさんの表情がより一層険しくなった。
そして皆がこちらに声をかけるよりも先に、アシリパさんが言い放つ。
「キロランケニシパが私の父を殺したのか?」
えっ!?と声をあげそうになって慌てて口元を押えた。
皆も動揺した様子を見せる。
インカラマッさんがその後続けて証拠は指紋だと突き付ける。
しかし今度は尾形さんが銃を向ける。
「この女……鶴見中尉と通じているぞ。」
「!?尾形さんどういうことですか。」
私は警戒して拳銃を手に取る。
私だって鶴見中尉のもとに長くいたがインカラマッさんのような来客には会っていない。
金塊関連の情報を鶴見中尉は私に隠していなかったはずのに、内密に会っていたとすると余計に怪しい。
いや……そもそもそれが思い上がりで、鶴見中尉は私を完全に信用していたわけではなかったのだろうとも考えられるけれど。
谷垣さんがインカラマッさんの前に出てかばうも、尾形さんに色仕掛けで丸め込まれたか?と挑発されて動揺を隠せずにいる。
場が硬直したところで、キロランケさんがこの状況で殺し合えばそれこそ鶴見中尉の思う壺だぞと皆を止める。
「情報が錯乱していますね。……白石さんは監獄にいたのっぺらぼうを見ているんですよね?」
私が投げかけると白石さんはマジマジと見ていたわけではないと否定する。
会話をしていたとしても土方さんくらいだそうだ。
皆脱獄するときの情報は土方さんを通じてだったとのこと。
皆お互いを睨み合っていると杉元さんが低い声で、仮にインカラマッさんかキロランケさんのどちらかが殺されれば、その時は残った方を殺すなどと笑えないジョークを言い放った。
理由はそれぞれあるだろうが目的は一つだということ話が固まった。
結局疑心暗鬼のまま、網走監獄へ行くことになる。
「網走監獄かぁ……。」
「夢主、お前、鶴見中尉と行ったことがあるよな?」
私が呟くと尾形さんが聞いていたのか問いかけてくる。
「ええ。そこには予定通りですと今頃には宇佐美さんが配置されているはずなので厄介です。つまり、鶴見中尉側の人間もいるってことですね。」
「宇佐美……あいつか。そいつはァ厄介だ。」
眉間にしわを寄せて尾形さんが呟く。
私もこくり、と頷いた。
「あと網走監獄の看守部長は、門倉さんという方なのですが……できればそこから攻め入りたいですね。」
「何故だ?」
「……抜けているようで抜け目のない方ですから。」
曖昧な言い回しになってしまったが、尾形さんには伝わったようで、ふん、と鼻で笑われて終わった。
釧路からしばらく移動して塘路湖というところややってきた私たち。
道中やはりお互いに疑心暗鬼なのかたまに気まずい空気が流れてしまうときはあって、基本的に杉元さんとアシリパさんと白石さんは仲良し3人組で、谷垣さん・チカパシくん・インカラマッさんも3人で固まっていることが多かった。
私はというと、何があろうと尾形さんについていくだけなので警戒心を持ちつつも誰とでも話す感じだ。
ただ、ちょっとキロランケさんには苦手意識が働いてしまっていることに自分でも気づいていた。
土方さんが以前にパルチザンの話をしたせいで初対面から警戒心マックスで接してしまっている。
そもそも尾形さんが土方さんをそこまで信用しているのかも私には分からない。
信じるべきか自分の目で確かめてみるのも判断材料の一つかもしれないと思い、道中キロランケさんと少しずつ話すようになった。
分かったことは馬が好きだということ。
手先が器用で戦時中はお手製の手投げ弾で活躍したそうな。
私にも簡単な手投げ弾の作り方を教えてくださった。
それから、キロランケさんは私に本気で手を出すつもりがないということも分かった。
バッタに襲われた日のことを改めて謝罪してくれたのだ。
そもそも彼は既婚者であり、子供もいるとのこと。
他には、「ソフィア」という女性と昔縁があったそうだ。
今でも心の中では強く逞しい彼女を大切に想っているそうだが、彼女とは長らく会っていないとのこと。
言い訳にしかならないだろうが、と前置きをした上で尾形さんと共に戦う私をソフィアさんに重ねてしまったそうだ。
あの日のことは結果的に私は無事だったので怒ってはいない。
皆がおかしくなってしまったのはきっとラッコ鍋のせいだと改めてキロランケさんには気にしないように伝えた。
海外の人の名前が出てきたことに驚いてしまったが、そもそもキロランケさんはアイヌのことも戦争のこともよく知っている。
交友関係が広くてもおかしくはなかった。
キロランケさんがそこまで悪い人ではないと分かったと同時に、ロシアのパルチザンだという土方さんの予想も当たってしまっていることに気付いたが、金塊を狙っているのは皆同じ。
立場が違えば悪人にも善人にもなり得るこの旅で、全員と慣れ合うことも全員を過度に敵視するのも無意味だと私は結論付けた。
私が少々キロランケさんと近づいている時は、大体尾形さんが後から割って入ってくるのがお決まりの流れになっていた。
そのうち杉元さんや白石さんも割り込んで、最終的には結局全員でワイワイと話すことになるものだから、随分と賑やかな旅だった。
そして心底、私は欲張りだなと反省する。
尾形さんを裏切るつもりは決してないが、叶うのならば、こうやっていつまでも皆で楽しく笑って暮らしていたかった。
金塊を求めて繋がっているだけで、全員が味方で全員が敵なのだから、それは叶うわけもないのだけれど。
塘路湖では「ぺカンペ」という菱の実がとれるらしい。
なんだか金平糖みたいで可愛らしい。
フチさんの2番目の姉の息子さんがいる塘路湖の近くのコタンに立ち寄る。
そこで、ぺカンペのアイヌの調理方法を教えてもらっていると、そのコタンの人は表情を曇らせた。
どうやらこのあたりに盗賊が出るそうだ。
しかもその盗賊は皆盲目で、その盗賊の親玉には奇妙な入れ墨があるのだという。
それを聞いた瞬間、全員が目を光らせた。
「白石さんはどなたか心当たりありますか?」
私が問うと、白石さんはきっと硫黄山で苦役させられた囚人のひとりだろうと答える。
硫黄山から絶えず噴き出る亜硫酸ガスは目をやられるのだそうだ。
そしてその親玉の名前は「都丹庵士」という。
網走監獄の犬童が今は閉山されているはずの鉱山に囚人たちを送り込んでいるそうな。
その手下たちも犬童の支配下から都丹庵士と逃げた仲間だと予想される。
情報を共有したところで、盗賊の被害状況を確認してそのあたりへ向かおうと決まった。
ほとんどが寝静まった夜、小さくついた明かりの下で私は膝を抱えていた。
「盲目の盗賊……。」
「目が見えないなら金塊は追ってないだろうけど、厄介だね。」
私が独り言を呟くと、起きていたのか横にいた杉元さんが声をかけてくれた。
私はそうですね、と頷く。
「でも心配いらないよ、きっと金塊にたどり着ける。真実が知れるはずだ。」
「……杉元さんがそう言ってくださると、心強いです。」
「えー?ほんとぉ?」
嬉しそうに顔を綻ばせた杉元さんに対して、実は私の後ろで起きていて話を聞いていたのだろう、尾形さんが突然手を伸ばし杉元さんに目つぶしする。
「ぎゃっ」
「ちょっと尾形さん!」
フン、と鼻で笑い飛ばした尾形さんは何も言わず寝床についてしまった。
「杉元さん大丈夫ですか?」
「早く寝ろってことかな……?」
あらやだ杉元さんってばポジティブ。
【あとがき:おやすみなさい。】