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第三十四話 犬童
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第三十四話 犬童
アイヌの村を出てから、旭川に大分近づいたところの村で土方歳三たちと合流した夢主たち。
土方歳三は白石が逃げて第七師団に身柄を確保されていることを皆に報告した。
「困りましたね、第七師団には私と尾形さんは戻れません……。」
夢主が心配そうに眉を下げる。
キロランケも元第七師団だと杉元が発すると、夢主は驚いてキロランケの顔を見る。
「俺のいたところは鶴見中尉のところじゃないぞ。」
「あ……そうだったんですね、すみません驚いてしまって。」
「まあ、人数も多いし隊も分かれてるしなぁ。」
そして道中で白石を追った際にキロランケは顔を見られてしまっているから奪還には行けないと続ける。
奪還するべきかどうか悩み、沈黙が流れた。
交友が深かったであろう人たちまでもが白石を置いていく判断をした様子の中、杉元だけが白石を助けに行こうと提案する。
旭川では目立つと考えて、鈴川聖弘を連れて近くのコタンに寄ることになった一行。
道中逃げ出した鈴川を全員で少しずつ罠にかけては捕獲しながら向かう。
「俺にどうしろってんだ!」
満身創痍で逆切れをした鈴川だったが、杉元が殺されずに済むには以前に熊岸長庵を脱獄させたときのように白石を奪還させろと脅していうことを聞かせる。
「潜伏すると言いましても……軍は横の繋がりが強いですよ。」
「架空の上級将校はバレるだろうな。」
よく鶴見中尉と任務に出ていた夢主はすぐにバレるのではないかと聞く。
尾形もそれには同意した様子だった。
そのときワンワン、と家の外から鳴き声がした。
それを聞いた鈴川は「犬童四郎助」はどうだろうかと問いかける。
「網走監獄のですか……?」
夢主が聞き返すと永倉が声をあげた。
「似てるのですか?」
網走監獄は元々土方がいたところだ。
永倉が土方に問いかけるも即答で似てないと答えた。
夢主もそれに同意してうんうん、と頷く。
しかし鈴川は大真面目に続けた。
「骨格は近いと思う。似てないところを減らす。」
「私が髪を切ります。……一度お会いしたことがあるので。」
鈴川は犬童を見た経験から髪型を直したりと真似をする。。
夢主も一度鶴見中尉に連れられて網走監獄には行ったことがあったので、その時の記憶を頼りに髪を切ってやる。
見た目が少し似てきたところで尾形が問いかける。
「多少面識のある人間にはバレちまうぞ?大丈夫か?」
そこで土方歳三が知っている限りの犬童の性格を事細かに伝える。
長いこと幽閉されていただけあって、情報は多かった。
それを聞いた鈴川がスゥー、と表情を変えると周りの人間が皆息を飲んだ。
まるで別人のようだった。
さて、ここから作戦会議、というときに眠ってしまったアシリパ。
土方がアシリパを受け止めて笑う。
「この子は大物になるな。」
「ところで、第七師団といっても広いですよ。絞り込まないと。」
夢主が呟く。
キロランケが夢主をチラ、と目配せして答える。
「……白石を連行した連中の肩章の番号が27だった。」
夢主は土方歳三が以前アイヌのふりをしたパルチザンがいると言ったせいだろうか、キロランケに苦手意識があるようでキロランケの声にビクリと肩を揺らした。
しかし肩が揺れたのは苦手意識だけではなかった。
唐突にキロランケは夢主の手を握ったのだった。
「夢主といったな、お前さん、なんでこいつと一緒にいるんだ?もっと太ったらいい女なのにな。」
顎で尾形の方を指し示しながらキロランケは聞く。
夢主が「ええ?」と戸惑っていると尾形がキロランケと夢主の手を振り払って離す。
ぐい、と夢主を自分側に抱き寄せ、尾形は問いかけた。
「……27聯隊って言ったな?」
ここまで夢主はされるがままである。
「何妬いてんだよ尾形ァ」
杉元が茶化したが、尾形は表情を変えない。
「いやお前らアホか。」
そう言って夢主の外套をまくりあげて肩章を見せる。
そこには27とあった。
「鶴見中尉のもとに白石さんがいるとなると……厄介ですね。少し階級が下の人を交渉人に使った方が良いと思います。」
「聯隊長は鶴見中尉の息がかかった淀川輝前中佐だなぁ……。」
「……淀川中佐は階級にお悩みです。そこを突けませんか鈴川さん。」
内部事情を知る夢主と尾形で話を進めると、鈴川は犬童の顔を保ったままニヤリと笑った。
「お嬢ちゃん、内部に詳しそうだな。周囲の人間関係や育った環境など知識があることはすべて教えろ。」
少し上からの言葉に尾形がピクリと反応する。
銃を向ける前に尾形の手を夢主が押さえ込んで答える。
「もちろんです。白石さんを必ず取り戻してくださいね。」
そうして作戦決行の時。
鈴川は犬童四郎助として、杉元は仮面をかぶった不気味な看守として潜入した。
淀川中佐を呼び出して面会をする。
夢主と尾形は木の影から不測の事態に備える。
熊岸長庵を捕獲したということで、彼の贋作を使って白石由竹と交換しようと淀川中佐に持ち掛ける鈴川。
鈴川が淀川中佐は出世に悩んでいるというところをしっかりと突いて、功績を譲るというと明らかに顔色が変わった。
詐欺師というだけあって完璧な誘導だった。
あと一押し、いや、もうほとんど落ちたも同然の状態まで追い詰めた。
白石が応接間にやってきたあたりで、鯉登少尉が駆け足で向かっていることに気付いた尾形。
「夢主、ボンボンが来たぞ。」
「鯉登さんだ。鈴川さん大丈夫かしら。わかる範囲のことはお教えしましたが……第七師団のことはよくわかりますが、犬童さんのことが情報が少なくて……。」
夢主は久々に鯉登少尉を見れたことが嬉しいのか一瞬顔を明るくしたが、すぐに真剣な表情に戻る。
鯉登少尉は味方であれば頼もしいが出し抜くとなると厄介だと夢主もわかっている。
部屋の中では鯉登少尉が鈴川に対して薩摩弁が分かるかと問いかけた。
犬童ならば薩摩藩との囚人との会話の経験から流暢な薩摩弁が分かると鯉登少尉は言う。
杉元が仮面の下で焦った様子を見せるが、なんと鈴川は流暢に言葉を返した。
鶴見中尉のお気に入りの部下の話や、その中の一人の鯉登少尉が薩摩弁を話すこと、犬童は薩摩弁が話せること、これらはすべて夢主が鈴川に教えたことだった。
鈴川と鯉登少尉はしばらくラリーを続け、それらはとても良いペースだと思われたその時、鯉登少尉は二発銃弾を撃ち込む。
「鈴川さんが……!」
夢主が悲鳴を上げるがもう遅かった。
弾丸は鈴川の脳天を直撃し、杉元も撃たれたが杉元は倒れることはなくそのまま白石を守り逃げ出した。
夢主と尾形ですぐさま応戦する。
鯉登少尉は上手く銃弾の届かない死角に隠れたが、二人は周囲にいた第七師団の戦力を確実に削ぐ。
「夢主!!生きちょったんか!嬉しかけれど悔しか!」
夢主の存在に気付いた鯉登少尉が嬉しそうに顔を綻ばせ叫ぶ。
しかし尾形も同時にいると分かるとすぐに表情を歪ませた。
夢主は急に呼ばれて少し狼狽える。
「鯉登さん……」
「逃げるぞ夢主!」
尾形が夢主の手を掴むと、杉元と白石と合流し逃げようと走り出した。
途中で気球隊の試作機、飛行船のようなものを発見すると、それを奪うと決める。
「杉元さん、止血しないと……!」
「大丈夫、夢主ちゃん。俺は不死身だ……ッ」
走りながら夢主が顔色の悪い杉元に言うが、杉元は今は逃げるが先だと叫ぶ。
気球隊を全員で脅して気球を動かす。
「鯉登さんが来てます……!」
少し気球が浮き始めたが、近くに鯉登少尉がこちらに走ってきていることに気付いた夢主が叫ぶ。
気球が飛び立つのを阻止しようとしていた軍人たちを飛び越えて鯉登少尉が気球に飛び乗る。
杉元と飛行船の上で対峙する杉元と鯉登少尉。
「……鯉登さんは自顕流を使います。」
夢主が低い声で言う。
そして尾形が後ろからつづけた。
「2発撃たれた状態で勝てるような相手じゃない。」
鯉登少尉が早口の薩摩弁でまくしたてると、尾形は何を言っているのかさっぱりだと馬鹿にしたように肩をすくめた。
軍刀を振りかぶった鯉登少尉を杉元が銃で受ける。
「受けちゃだめっ!」
夢主が叫ぶが、もうすでに杉元が顔面に防いだ銃を撃ち込まれている。
杉元のもとへ夢主が行こうとするが、尾形が夢主の手を掴む。
それどころか逃げないように夢主の肩を強く抱き寄せる。
「なんで……!」
「お前が勝てる相手じゃないだろ。」
「でも……!」
二人が揉めている間にアシリパが地上から援護射撃をする。
その隙をついて白石が鯉登少尉を飛行船から突き落とした。
落ちていく鯉登少尉が夢主をまっすぐに睨みつけた。
「夢主ー!絶対連れ帰っでな!!」
「ええ……?」
そういわれましても……と夢主は困惑した様子で固まる。
尾形はハンッと馬鹿にしたように夢主を抱き寄せたまま鯉登少尉が落ちていく様を見下ろした。
鯉登少尉を突き落としたあと、命綱でぶら下がった白石に飛び移ったアシリパが乗り込む。
飛行船の上で杉元の怪我を夢主とアシリパが診る。
「……肩の銃弾は貫通していますが……。」
「左胸には残ってるな、あとで取り出さないと。」
ここまでして白石を取り戻した理由。
それについて杉元がそこで語り始める。
要するに、白石が土方歳三のスパイをしていたことに杉元は気づいたらしい。
しかし、結果的に白石は杉元たちを裏切ってなかった。
それが分かったから杉元は白石を信頼して助けることにしたのだそうだ。
よかった、と胸をなでおろした夢主。
ほっとしたのも束の間、今度は飛行船の操縦がうまくいかなくなった。
杉元と白石とアシリパが三人そろって操縦桿をバンバンと叩いてウキーッと叫ぶ。
それを尾形がうるさいと一蹴した。
「あとは風の吹くままですね。」
夢主がそう呟いたが、その表情は険しい。
恐らく鶴見中尉は追手を向かわせている。
降りた後は上手く逃げなければと考えていた。
尾形はそんな夢主を静かにじっと見つめていた。
【あとがき:夢主が第七師団に戻らなくてほっとしている。】