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第三十話 チタタプ
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第三十話 チタタプ
こんにちは夢主です。
私は今杉元さんの背中の上にいます。
その後、土方さんたちと別ルートで月形に向かうことになった私たち。
追手が来ないように山道を歩くとのことだったが、足を痛めてしまった私は上手く歩けない。
杉元さん、尾形さん、牛山さんに代わる代わる背負ってもらった。
尾形さんもこのときばかりはちゃんとおんぶをしてくれたので、ほっとした。
「杉元さん、すみません……重いでしょう。」
「んーん、夢主ちゃんは軽いよ。ちゃんとご飯食べてる?」
「た、食べてますよ。」
優しい。
杉元さんは尾形さんとは馬が合わないようすだけど、私には優しくしてくださる。
「杉元さん、私には優しくしてくださるのですね。」
「えっ、そうかな。みんなに平等にしてるつもりなんだけどな。」
「では皆に優しいのですね。」
杉元さんは少し驚いていたけれど、優しいと褒められて嬉しいのか耳が赤い。
「……夢主ちゃんはさぁ、なんで尾形と一緒にいるの。付き合ってるの?」
「エッ……そういう約束はしていませんけれど……。」
「ふぅん。なんだか仲が良いみたいで妬けちゃうなぁ。」
肩越しにチラ、と視線を向けてくる杉元さんが鋭い眼差しをしていて、少し恐ろしくなる。
私はこの視線を知っている。
土方さんと同じだ。あと、鶴見中尉もよくこうやって私をじっくりと見ていた。
とはいえこの会話は足元にいるアシリパさんや近くにいる牛山さんは聞いている様子なので、これ以上は突っ込んでこないだろう。
尾形さんは終始双眼鏡を覗いていて、聞いているのかどうか表情がわからない。
まあ聞かれていても問題はなさそうだけれども。
「私、実は記憶喪失でして……。森に迷っているときに尾形さんに助けていただきました。それで鶴見中尉に女中として雇ってもらったのですが、尾形さんには御恩がありますからついていってるのです。尾形さんの、いや、皆様の足手まといになりたくなかったのですが……。」
事実だから問題ないだろう。
私がこう話すと牛山さんが「へえ」とひとり呟いていた。
皆に背負われている時点で足手まとい以外の何者でもないな……としょんぼりとしていると、アシリパさんが私を見上げて笑った。
「杉元は夢主は強い女だと言っていたぞ。」
「本当ですか?嬉しいなぁ。」
ふふ、と笑うと杉元さんが「アシリパさんやめて恥ずかしい」と顔を赤くした。
「でもあの時は鶴見中尉の部下としか思ってなかったから……こんな形でも一緒に旅ができて嬉しいよ。夢主ちゃんと一緒なら鶴見中尉や他の金塊を狙うやつらにも勝てる気がする。」
「ふふふ、私も心強いです。」
私が楽しそうに笑っていると、ゴホンッと尾形さんが大きめな咳ばらいをした。
ああ、聞いていたのね。怒っていらっしゃる。
杉元さんは尾形さんへ挑発的な笑みを浮かべていたようだ。
二人の間に険悪なムードが漂った。
そんなやりとりをしているとアシリパさんがヤマシギを発見してはしゃぐ。
尾形さんがさっそく銃で撃とうとするがとめられていた。
ヤマシギは蛇行して飛ぶので罠の方がたくさん捕まえられるとのこと。
それを聞いても私は、でも尾形さんなら撃ち落とせそうだな……と飛んでいるヤマシギを見てぼんやりと思っていた。
とりあえず、今日は罠をかけて近くで野宿することになった。
火を起こして、簡単な風よけを草木を集めて作る。
小さなやぐらの中で火を皆で囲った。
今日は道中通った川で数匹とれたお魚が夕食だ。
ああ、久々の地面だ。
私は地面に座って足をさする。
「足は痛むかい?」
牛山さんが問いかける。
「大分良くなりました。今日は皆さん一日背負っていただいてありがとうございます。」
「なあに良い訓練になる。」
牛山さんの体格だとむしろ私は錘にもならないようで、もうちょっと食べるように言ってくる。
アシリパさんが笑った。
「じゃあ明日のヤマシギを夢主はたくさん食べなくちゃな。」
「アシリパさんこそ、成長期ではないのですか?」
「アシリパさんは食い意地張ってるから大丈夫だよ夢主ちゃん。」
杉元さんが口を挟む。
アシリパさんはムッとすると言い返した。
なんだか微笑ましくなるやり取りだ。
「杉元はオソマ食うくらい食い意地張ってるぞ。」
「オソマ?」
首を傾げていると杉元さんがコラッと叱りつける。
「うんこだ。」
前言撤回。微笑ましくない。
アシリパさんの嬉々とした表情に驚いてしまった。
えっ杉元さんってうんこ食べるの……?
第一小さい子になんてことを……。
「杉元さん……?」
疑わしそうな顔をすると杉元さんは慌てる。
「イヤッ違うんだよ夢主ちゃん!オソマはうんこだけど、みそはうんこじゃないでしょ!?」
相当慌てているのか意味がわからない。
でもなんとなく言いたいことは分かった。
思わず笑いだしてしまった。
「あは、わかりました。味噌をオソマと呼んでいるのですね?」
「そうだ。杉元はオソマ食うんだ。」
「あらあら。」
くすくすと笑っていると杉元さんが困ったように「もー」と笑う。
牛山さんもケラケラと笑っていてアシリパさんもニコニコしている。
ああ、こういうのって一家団欒みたいでいいな、と思ってしまった。
兵舎にいるときや鶴見中尉や鯉登さん月島さんと任務に行っているときをふと思い出す。
今頃皆どうしているだろうか。
その間ずっと尾形さんは無言で魚を食べ、時折こちらをじっと見つめていた。
夜、寝ることになって杉元さんはアシリパさんとくっついて寝ていた。
なんだか親子?兄妹?みたいで本当に二人の関係は微笑ましい。
牛山さんは体が大きいので少し離れたところで大の字で寝ている。
そして残ったスペースで尾形さんと私が横並び。
尾形さんに背を向けて眠ることにした。
もちろん少し距離を取ろうとしたけど、尾形さんが私の腰を掴んで離さなかった。
「足、大丈夫か。」
後ろから低く話しかけられて驚いた。
びく、と動いてしまったのはバレているだろうか。
「……はい。もう明日は自分で歩けます。」
迷惑をおかけしてすみません、と呟くと尾形さんは、はああ…と低くため息をついた。
本当に足手まといになってしまっていると泣きそうになった。
しかし、尾形さんは私の背中にぐい、と頭を押し付けてもう一度ため息交じりに呟いた。
「……悪かった。」
「エッ」
驚きのあまり後ろを振り返ってしまった。
尾形さんは急に驚いて振り返った私に、なんだ、と問いかける。
自分が何を言っていたかわかっているのだろうか。
「……てっきり私、怒られるかと。」
「なんでだよ。」
相変わらずの無表情だったが、尾形さんは私の頬をそっと撫でた。
意味がわからなかったが、ドキドキしてしまったのはなんでだろうか。
少し不安になって名前を呼ぶ。
「尾形さん?」
「……いや、なんでもねえ。動けるなら明日の早朝、鳥を撃ちに行くぞ。」
「え、あ、はい。」
分かったら寝ろ、とそういって尾形さんは私の顔から手を離すと、以前二人で旅をしていたときのように腰に腕を回して抱き枕にする。
その後は何も言われなかった。
私はドキドキした余韻があって少しの間眠れなかったが、寝る直前、杉元さんがこちらを凄い目で見ていたような気がする。
いつからか起きていたような気がするのはきのせいかな。
気付くと早朝、尾形さんにトントン、と肩を叩かれて起こされる。
「!」
ひゃあ、と声が出そうになった。
またも私は寝返りを打っていたらしい。尾形さんの顔が真正面にあって驚いた。
荷物を持って尾形さんの後を追う。
カワシギがいるはずのルートを通る。
足がまだ本調子ではなくて見晴らしの良い岩場のポジションに上がれず、私が撃てたのは一羽だけだったが、尾形さんは三羽も撃ち落とした。
「わあ、やっぱり尾形さんは凄いですね。」
フフンと笑う尾形さん。
あ、ちょっと可愛いかも、などと思ってしまったのはまだ私が寝ぼけているせいか。
「四羽もあれば、あとは罠にかかったやつと合わせれば十分でしょうかね。」
「罠で獲れていればな。」
そう嫌味を言った尾形さん。
皆のもとへ戻ると案の定カワシギは二羽しかいなかったようで、尾形さんは自慢げに鳥を差し出してふんぞり返っていた。
この旅ではアシリパさんがアイヌ式の料理を色々と教えてくれるらしい。
脳みそが絶品なのだとか。
チンポ先生と呼ばれた牛山さんが脳みそを勧められてたじたじになっている。
「夢主もどうだ?」
「うーん、ちょっと怖いけど……いただきます。」
杉元さんも食べてるし、と少し指につけて食べる。
うーん生肉って感じ。たくさん食べなきゃまあ、大丈夫かな。
お腹壊さないといいけど。
ためらいなく脳みそを食べた私に、杉元さんと牛山さんが恐らくだが尊敬の眼差しを向けていた。
確かに現代であっても、ゲテモノが食べられる女子は珍しいのかも。
その後はチタタプという肉の叩きを教えてもらう。
皆で叩くものらしく、チタタプと言いながら叩くのだそうだ。
「ちた、たぷ、チタタプ、チタタプ……。」
「夢主いいぞ、上手だ。」
「えへへ。」
意外と楽しい。
交代しろと言われたので、尾形さんに代わるが尾形さんは一言も発さない。
杉元さんが挙手して、それをアシリパさんに報告する。
「アシリパさん!尾形がチタタプって言ってません!」
「ち、ちたたぷ、ちたたぷ…っ」
「アシリパさん!夢主ちゃんが尾形の影武者してます!」
あーぁ、尾形さんの影で言ってみたけどダメだった。
アシリパさんにニヤニヤしながら挑発された尾形さんだったが、結局チタタプということはなく、能面のような顔をしたままだった。
そしてヤマシギを煮込んだオハウ(要するに水炊き)をみんなでいただく。
ほくほくしてておいしい。
美味しいときはヒンナって言うんだって杉元さんが教えてくれた。
ヒンナは食べ物に感謝する意味もあるらしい。
「ヒンナですね。」
美味しいお鍋に思わず顔が綻ぶ。
私が笑うと、アシリパさんが満足そうに頷いた。
【あとがき:チタタプ最高。】
こんにちは夢主です。
私は今杉元さんの背中の上にいます。
その後、土方さんたちと別ルートで月形に向かうことになった私たち。
追手が来ないように山道を歩くとのことだったが、足を痛めてしまった私は上手く歩けない。
杉元さん、尾形さん、牛山さんに代わる代わる背負ってもらった。
尾形さんもこのときばかりはちゃんとおんぶをしてくれたので、ほっとした。
「杉元さん、すみません……重いでしょう。」
「んーん、夢主ちゃんは軽いよ。ちゃんとご飯食べてる?」
「た、食べてますよ。」
優しい。
杉元さんは尾形さんとは馬が合わないようすだけど、私には優しくしてくださる。
「杉元さん、私には優しくしてくださるのですね。」
「えっ、そうかな。みんなに平等にしてるつもりなんだけどな。」
「では皆に優しいのですね。」
杉元さんは少し驚いていたけれど、優しいと褒められて嬉しいのか耳が赤い。
「……夢主ちゃんはさぁ、なんで尾形と一緒にいるの。付き合ってるの?」
「エッ……そういう約束はしていませんけれど……。」
「ふぅん。なんだか仲が良いみたいで妬けちゃうなぁ。」
肩越しにチラ、と視線を向けてくる杉元さんが鋭い眼差しをしていて、少し恐ろしくなる。
私はこの視線を知っている。
土方さんと同じだ。あと、鶴見中尉もよくこうやって私をじっくりと見ていた。
とはいえこの会話は足元にいるアシリパさんや近くにいる牛山さんは聞いている様子なので、これ以上は突っ込んでこないだろう。
尾形さんは終始双眼鏡を覗いていて、聞いているのかどうか表情がわからない。
まあ聞かれていても問題はなさそうだけれども。
「私、実は記憶喪失でして……。森に迷っているときに尾形さんに助けていただきました。それで鶴見中尉に女中として雇ってもらったのですが、尾形さんには御恩がありますからついていってるのです。尾形さんの、いや、皆様の足手まといになりたくなかったのですが……。」
事実だから問題ないだろう。
私がこう話すと牛山さんが「へえ」とひとり呟いていた。
皆に背負われている時点で足手まとい以外の何者でもないな……としょんぼりとしていると、アシリパさんが私を見上げて笑った。
「杉元は夢主は強い女だと言っていたぞ。」
「本当ですか?嬉しいなぁ。」
ふふ、と笑うと杉元さんが「アシリパさんやめて恥ずかしい」と顔を赤くした。
「でもあの時は鶴見中尉の部下としか思ってなかったから……こんな形でも一緒に旅ができて嬉しいよ。夢主ちゃんと一緒なら鶴見中尉や他の金塊を狙うやつらにも勝てる気がする。」
「ふふふ、私も心強いです。」
私が楽しそうに笑っていると、ゴホンッと尾形さんが大きめな咳ばらいをした。
ああ、聞いていたのね。怒っていらっしゃる。
杉元さんは尾形さんへ挑発的な笑みを浮かべていたようだ。
二人の間に険悪なムードが漂った。
そんなやりとりをしているとアシリパさんがヤマシギを発見してはしゃぐ。
尾形さんがさっそく銃で撃とうとするがとめられていた。
ヤマシギは蛇行して飛ぶので罠の方がたくさん捕まえられるとのこと。
それを聞いても私は、でも尾形さんなら撃ち落とせそうだな……と飛んでいるヤマシギを見てぼんやりと思っていた。
とりあえず、今日は罠をかけて近くで野宿することになった。
火を起こして、簡単な風よけを草木を集めて作る。
小さなやぐらの中で火を皆で囲った。
今日は道中通った川で数匹とれたお魚が夕食だ。
ああ、久々の地面だ。
私は地面に座って足をさする。
「足は痛むかい?」
牛山さんが問いかける。
「大分良くなりました。今日は皆さん一日背負っていただいてありがとうございます。」
「なあに良い訓練になる。」
牛山さんの体格だとむしろ私は錘にもならないようで、もうちょっと食べるように言ってくる。
アシリパさんが笑った。
「じゃあ明日のヤマシギを夢主はたくさん食べなくちゃな。」
「アシリパさんこそ、成長期ではないのですか?」
「アシリパさんは食い意地張ってるから大丈夫だよ夢主ちゃん。」
杉元さんが口を挟む。
アシリパさんはムッとすると言い返した。
なんだか微笑ましくなるやり取りだ。
「杉元はオソマ食うくらい食い意地張ってるぞ。」
「オソマ?」
首を傾げていると杉元さんがコラッと叱りつける。
「うんこだ。」
前言撤回。微笑ましくない。
アシリパさんの嬉々とした表情に驚いてしまった。
えっ杉元さんってうんこ食べるの……?
第一小さい子になんてことを……。
「杉元さん……?」
疑わしそうな顔をすると杉元さんは慌てる。
「イヤッ違うんだよ夢主ちゃん!オソマはうんこだけど、みそはうんこじゃないでしょ!?」
相当慌てているのか意味がわからない。
でもなんとなく言いたいことは分かった。
思わず笑いだしてしまった。
「あは、わかりました。味噌をオソマと呼んでいるのですね?」
「そうだ。杉元はオソマ食うんだ。」
「あらあら。」
くすくすと笑っていると杉元さんが困ったように「もー」と笑う。
牛山さんもケラケラと笑っていてアシリパさんもニコニコしている。
ああ、こういうのって一家団欒みたいでいいな、と思ってしまった。
兵舎にいるときや鶴見中尉や鯉登さん月島さんと任務に行っているときをふと思い出す。
今頃皆どうしているだろうか。
その間ずっと尾形さんは無言で魚を食べ、時折こちらをじっと見つめていた。
夜、寝ることになって杉元さんはアシリパさんとくっついて寝ていた。
なんだか親子?兄妹?みたいで本当に二人の関係は微笑ましい。
牛山さんは体が大きいので少し離れたところで大の字で寝ている。
そして残ったスペースで尾形さんと私が横並び。
尾形さんに背を向けて眠ることにした。
もちろん少し距離を取ろうとしたけど、尾形さんが私の腰を掴んで離さなかった。
「足、大丈夫か。」
後ろから低く話しかけられて驚いた。
びく、と動いてしまったのはバレているだろうか。
「……はい。もう明日は自分で歩けます。」
迷惑をおかけしてすみません、と呟くと尾形さんは、はああ…と低くため息をついた。
本当に足手まといになってしまっていると泣きそうになった。
しかし、尾形さんは私の背中にぐい、と頭を押し付けてもう一度ため息交じりに呟いた。
「……悪かった。」
「エッ」
驚きのあまり後ろを振り返ってしまった。
尾形さんは急に驚いて振り返った私に、なんだ、と問いかける。
自分が何を言っていたかわかっているのだろうか。
「……てっきり私、怒られるかと。」
「なんでだよ。」
相変わらずの無表情だったが、尾形さんは私の頬をそっと撫でた。
意味がわからなかったが、ドキドキしてしまったのはなんでだろうか。
少し不安になって名前を呼ぶ。
「尾形さん?」
「……いや、なんでもねえ。動けるなら明日の早朝、鳥を撃ちに行くぞ。」
「え、あ、はい。」
分かったら寝ろ、とそういって尾形さんは私の顔から手を離すと、以前二人で旅をしていたときのように腰に腕を回して抱き枕にする。
その後は何も言われなかった。
私はドキドキした余韻があって少しの間眠れなかったが、寝る直前、杉元さんがこちらを凄い目で見ていたような気がする。
いつからか起きていたような気がするのはきのせいかな。
気付くと早朝、尾形さんにトントン、と肩を叩かれて起こされる。
「!」
ひゃあ、と声が出そうになった。
またも私は寝返りを打っていたらしい。尾形さんの顔が真正面にあって驚いた。
荷物を持って尾形さんの後を追う。
カワシギがいるはずのルートを通る。
足がまだ本調子ではなくて見晴らしの良い岩場のポジションに上がれず、私が撃てたのは一羽だけだったが、尾形さんは三羽も撃ち落とした。
「わあ、やっぱり尾形さんは凄いですね。」
フフンと笑う尾形さん。
あ、ちょっと可愛いかも、などと思ってしまったのはまだ私が寝ぼけているせいか。
「四羽もあれば、あとは罠にかかったやつと合わせれば十分でしょうかね。」
「罠で獲れていればな。」
そう嫌味を言った尾形さん。
皆のもとへ戻ると案の定カワシギは二羽しかいなかったようで、尾形さんは自慢げに鳥を差し出してふんぞり返っていた。
この旅ではアシリパさんがアイヌ式の料理を色々と教えてくれるらしい。
脳みそが絶品なのだとか。
チンポ先生と呼ばれた牛山さんが脳みそを勧められてたじたじになっている。
「夢主もどうだ?」
「うーん、ちょっと怖いけど……いただきます。」
杉元さんも食べてるし、と少し指につけて食べる。
うーん生肉って感じ。たくさん食べなきゃまあ、大丈夫かな。
お腹壊さないといいけど。
ためらいなく脳みそを食べた私に、杉元さんと牛山さんが恐らくだが尊敬の眼差しを向けていた。
確かに現代であっても、ゲテモノが食べられる女子は珍しいのかも。
その後はチタタプという肉の叩きを教えてもらう。
皆で叩くものらしく、チタタプと言いながら叩くのだそうだ。
「ちた、たぷ、チタタプ、チタタプ……。」
「夢主いいぞ、上手だ。」
「えへへ。」
意外と楽しい。
交代しろと言われたので、尾形さんに代わるが尾形さんは一言も発さない。
杉元さんが挙手して、それをアシリパさんに報告する。
「アシリパさん!尾形がチタタプって言ってません!」
「ち、ちたたぷ、ちたたぷ…っ」
「アシリパさん!夢主ちゃんが尾形の影武者してます!」
あーぁ、尾形さんの影で言ってみたけどダメだった。
アシリパさんにニヤニヤしながら挑発された尾形さんだったが、結局チタタプということはなく、能面のような顔をしたままだった。
そしてヤマシギを煮込んだオハウ(要するに水炊き)をみんなでいただく。
ほくほくしてておいしい。
美味しいときはヒンナって言うんだって杉元さんが教えてくれた。
ヒンナは食べ物に感謝する意味もあるらしい。
「ヒンナですね。」
美味しいお鍋に思わず顔が綻ぶ。
私が笑うと、アシリパさんが満足そうに頷いた。
【あとがき:チタタプ最高。】