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第三話 月島軍曹の話
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第三話 月島軍曹の話
鶴見中尉は凄い御方だが、何を考えているのかわからないときがある。
尾形上等兵が森で拾った女をどういうつもりかこの陸軍第七師団の兵舎で雇うという。
珍妙な格好をしている女は夢主と名乗った。
苗字を聞いても、記憶がないので…と躱されて、あまり気乗りはしないが名前で呼んでいる。
夢主はよく働いた。
最初はここのやり方に戸惑っていた様子だったが、すぐに慣れた。
しかもこの男ばかりの中で気負いしないのか、兵士たちともよく会話しているところを見るに、社交的な性格なのかもしれない。
自分の周りで見てきた女たちは慎ましやかでおしとやかだが夢主は違う。だからと言って品がないわけでもなく、何故だか人種が違うような気までしていた。
時々言葉遣いに困っているようだったが、気づけば鶴見中尉に頼み込んで本を借りて勉強していた。
読み書きもできるし、理解も早い、教養があるようだと感心した。
もしかしたら記憶が戻る前は良いところのお嬢さんだったのではないか?
いや、だとしたら相当早く行方不明者の話が軍に来るはずだ。
なぜ日本語を習得しているにもかかわらず改めて語学の本を読んでいるのか不思議だったが、いつの間にか言葉遣いが綺麗になってきていた。
その頃にはすっかり軍の男共は夢主に骨抜きにされていた。
確かにいつも明るく元気な彼女がいると、場が華やぐ。
むさくるしい男共に囲まれていても、彼女は嫌な顔ひとつしなかった。
夢主は頻繁に兵士たちから声をかけられている。
仕事が止まってしまっては大変だろうと見かねて、用事があるようなふりをして、兵士たちには任務へ戻れと命令していた。
そうしているうちに夢主は俺を見つけると声をかけるようになってきた。
「あ、月島さん!お戻りですか、お疲れ様でした。」
玄関の掃除をしていた夢主がこちらに気付いて笑顔で挨拶をしてくる。
ここが兵舎じゃなかったら、まるで普通の夫婦の会話のようで、なんだかどぎまぎした。
「ああ、夢主さんも、ご苦労様。」
その後は掃除を終えた夢主を誘い、誰もいない食堂でお茶を飲みながら、何気ない世間話をしていた。
ふと、自分はよく夢主を観察していたが、夢主自身からここでの暮らしをどう思っているのか聞きたくなった。
「夢主さんは、ここの暮らしは慣れましたか?」
夢主はうーん、と首を傾げて困ったように笑った。
「まだまだ至らないところばかりで……すみません」
「ああ、いや、そうじゃないんだ。兵士たちによく絡まれているだろう?まだ若いのに男に囲まれて嫌じゃないかと思ってな。」
「ええと、あまり気になりません。皆さん良い方ですし。」
いかん、聞き方を間違えたか。
夢主は慎重に言葉を選んでいるようだった。
本心が聞きたかったのに。
少し後悔していると、夢主はふわりと笑った。
「それに、皆さんがあまり長くお話されているときは、月島さんが助けてくださりますから。」
まるで頼られているようで悪い気はしない。
仕事のせいで少しすさんでいた心が洗われたような気分になった。
「兵士たちには少し弁えてもらわないといけませんね。」
厳しい口調でつぶやくと、夢主はいいえ、と遮った。
「長い軍隊生活ですと、故郷を離れた方も多いでしょう。ご家族や友人、恋人や兄弟……会いたい人がいるのに会えないのは辛いことです。ましてや戦争も経験されているわけですし、そういった方々が私にご家族を重ねていることを感じることはありますが、私は嫌ではありません。私でお役に立てるなら嬉しいです。」
こんなことを考えて誰にでも明るく優しく接していたのか、と驚いた。
彼女の思慮深さは後付けなのではないと感じて、元々どんな暮らしをしていたのか知りたくなる。
そう感動していると、通りかかった鯉登少尉に見つかる。
「月島ァ!」と叫びながらこちらに近づくと何やら早口の薩摩弁でまくしたてる。
全部が聞き取れたわけではないが、夢主さんを出し抜こうとは云々…と聞こえた。
ああ、鯉登少尉も夢主さんに骨抜きにされた哀れな男たちの一人か……。
強引に鯉登少尉に引っ張られて立ち上がるも、要件はどうせ夢主さんを独り占めしたことと、鶴見中尉の話だろう。
夢主さんにすみません、失礼しますと声をかけると、彼女はニコニコと笑って頑張ってくださいねと笑いかける。
その笑顔は本当に俺に向けたものなのか、はたまた俺の家族の真似をしたものなのか。悩むことになった。
【あとがき:心のどこかでワンチャンあればいいなと思っている。】
鶴見中尉は凄い御方だが、何を考えているのかわからないときがある。
尾形上等兵が森で拾った女をどういうつもりかこの陸軍第七師団の兵舎で雇うという。
珍妙な格好をしている女は夢主と名乗った。
苗字を聞いても、記憶がないので…と躱されて、あまり気乗りはしないが名前で呼んでいる。
夢主はよく働いた。
最初はここのやり方に戸惑っていた様子だったが、すぐに慣れた。
しかもこの男ばかりの中で気負いしないのか、兵士たちともよく会話しているところを見るに、社交的な性格なのかもしれない。
自分の周りで見てきた女たちは慎ましやかでおしとやかだが夢主は違う。だからと言って品がないわけでもなく、何故だか人種が違うような気までしていた。
時々言葉遣いに困っているようだったが、気づけば鶴見中尉に頼み込んで本を借りて勉強していた。
読み書きもできるし、理解も早い、教養があるようだと感心した。
もしかしたら記憶が戻る前は良いところのお嬢さんだったのではないか?
いや、だとしたら相当早く行方不明者の話が軍に来るはずだ。
なぜ日本語を習得しているにもかかわらず改めて語学の本を読んでいるのか不思議だったが、いつの間にか言葉遣いが綺麗になってきていた。
その頃にはすっかり軍の男共は夢主に骨抜きにされていた。
確かにいつも明るく元気な彼女がいると、場が華やぐ。
むさくるしい男共に囲まれていても、彼女は嫌な顔ひとつしなかった。
夢主は頻繁に兵士たちから声をかけられている。
仕事が止まってしまっては大変だろうと見かねて、用事があるようなふりをして、兵士たちには任務へ戻れと命令していた。
そうしているうちに夢主は俺を見つけると声をかけるようになってきた。
「あ、月島さん!お戻りですか、お疲れ様でした。」
玄関の掃除をしていた夢主がこちらに気付いて笑顔で挨拶をしてくる。
ここが兵舎じゃなかったら、まるで普通の夫婦の会話のようで、なんだかどぎまぎした。
「ああ、夢主さんも、ご苦労様。」
その後は掃除を終えた夢主を誘い、誰もいない食堂でお茶を飲みながら、何気ない世間話をしていた。
ふと、自分はよく夢主を観察していたが、夢主自身からここでの暮らしをどう思っているのか聞きたくなった。
「夢主さんは、ここの暮らしは慣れましたか?」
夢主はうーん、と首を傾げて困ったように笑った。
「まだまだ至らないところばかりで……すみません」
「ああ、いや、そうじゃないんだ。兵士たちによく絡まれているだろう?まだ若いのに男に囲まれて嫌じゃないかと思ってな。」
「ええと、あまり気になりません。皆さん良い方ですし。」
いかん、聞き方を間違えたか。
夢主は慎重に言葉を選んでいるようだった。
本心が聞きたかったのに。
少し後悔していると、夢主はふわりと笑った。
「それに、皆さんがあまり長くお話されているときは、月島さんが助けてくださりますから。」
まるで頼られているようで悪い気はしない。
仕事のせいで少しすさんでいた心が洗われたような気分になった。
「兵士たちには少し弁えてもらわないといけませんね。」
厳しい口調でつぶやくと、夢主はいいえ、と遮った。
「長い軍隊生活ですと、故郷を離れた方も多いでしょう。ご家族や友人、恋人や兄弟……会いたい人がいるのに会えないのは辛いことです。ましてや戦争も経験されているわけですし、そういった方々が私にご家族を重ねていることを感じることはありますが、私は嫌ではありません。私でお役に立てるなら嬉しいです。」
こんなことを考えて誰にでも明るく優しく接していたのか、と驚いた。
彼女の思慮深さは後付けなのではないと感じて、元々どんな暮らしをしていたのか知りたくなる。
そう感動していると、通りかかった鯉登少尉に見つかる。
「月島ァ!」と叫びながらこちらに近づくと何やら早口の薩摩弁でまくしたてる。
全部が聞き取れたわけではないが、夢主さんを出し抜こうとは云々…と聞こえた。
ああ、鯉登少尉も夢主さんに骨抜きにされた哀れな男たちの一人か……。
強引に鯉登少尉に引っ張られて立ち上がるも、要件はどうせ夢主さんを独り占めしたことと、鶴見中尉の話だろう。
夢主さんにすみません、失礼しますと声をかけると、彼女はニコニコと笑って頑張ってくださいねと笑いかける。
その笑顔は本当に俺に向けたものなのか、はたまた俺の家族の真似をしたものなのか。悩むことになった。
【あとがき:心のどこかでワンチャンあればいいなと思っている。】