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第二十六話 剥製屋さん
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第二十六話 剥製屋さん
いつものように情報収集して戻ってきた尾形さんが、有力な情報を掴んだと皆を居間に集めた。
あぐらをかいて座っている尾形さんの隣に、座布団を敷いて正座し私も輪に加わる。
尾形さんは、おもむろに話し始めた。
「鶴見中尉が剥製屋に入ったようだ。「江渡貝剥製所」と入口に書いてあった。中尉は戻っていったが、月島と前山が出入りしているのを確認した。」
鶴見中尉が……?
でもなんで剥製屋なんだろう。刺青人皮を探すのに必要だったのだろうか。
「……金塊につながる何かがあるのは間違いなさそうだな。」
土方さんがニヤリと笑う。
この老人とは思えない覇気のある人間はどうやったら出来上がるのだろうか。
時折私を口説くのも、精神的な若さからだと思う。
「誰が行きますか?」
私が聞くと、尾形さんが手を上げた。
そして尾形さんは黙って私の手を持ち上げる。
え、立候補制なの?
少し動揺するも、強く引っ張られているので手を下ろすことはできなかった。
「じゃあ俺も行こう。」
牛山さんも手を上げた。
そこで土方さんがこう続けた。
「尾形と夢主は長距離からの攻撃手段があるから良い人選だ。二人で対象を追い詰めるなり情報を聞き出すなりしろ。牛山、お前は町にいる兵をなんとかしろ。」
私とは離れた行動をすることになった牛山さんは初めは不満そうにしていたが、相談していくうちに土方さんや永倉さんも後から合流することになったので、結果的に誰が誰と行動していようとあまり関係ないことになった。
当日、私と尾形さんは江渡貝剥製所を見下ろせる丘に立った。
木々に隠れて時を待つ。
今家にいるのは剥製屋さんと月島さん、前山さんの3人だ。
「あ、月島さんが出ていきました。」
「持ち物を見るに……風呂だな。」
二人で交互に双眼鏡を覗く。
この時代の銃にスコープはない。
片方が双眼鏡を覗いている間はもう片方は銃を構え常に照準を合わせている。
双眼鏡越しに久々に見る月島さんは以前と変わりがなさそうで安心した。
急に第七師団を飛び出してしまったから、迷惑をかけてしまった負い目がある。
鯉登さんは元気にしているだろうか?
そんなことを考えながら呟いた。
「……月島さんは長風呂ですよ。」
「なんでお前がそんなこと知ってるんだ。」
双眼鏡から顔を上げて尾形さんを見ると、口を真一文字に伸ばして険しい顔をした尾形さんと目が合う。
別にやましいことは何もないんだけどな、と困ってしまった。
最近の尾形さんは土方さんや牛山さんや家永さんが面白がって煽るせいで、嫉妬深くなっている。
何なら家の中で私の姿が見えないと怒るときもある。まるで親離れできない子供のようだ。
「……兵舎のお風呂の掃除をするときに、最後の方が出るのを待ってたことがありまして。中にいたのが月島さんでした。」
そう伝えると尾形さんは安心したのか満足そうな様子で、ザクッと木に軍刀を刺す。
そしてそれを支えに銃を撃った。
双眼鏡を覗くと前山さんが部屋の中で倒れていた。
「あ、前山さんが……。」
「ど真ん中だろ。苦しんでない。」
そういう問題じゃない。
でも土方さんたちといるということは、立場上殺しあうこともあるということだ。
ふと、鯉登さんと月島さんと鶴見中尉の顔が浮かぶ。
あの人たちとは殺し合いしたくないな……と思ってしまうのはまだ踏ん切りがついてない証拠だろう。
今一度気を引き締めなければ、足手まといになってしまう。
尾形さんに続いて玄関から堂々と屋敷に入る。
屋内での接戦になると思って、私も尾形さんと同じように拳銃を手にした。
「お邪魔しまぁす。」
一応前山さんがいたあたりの部屋に入ると、軍の銃が二本立てかけてあったので、いつもの要領でボルトを引き抜いた。
「手慣れてきたな。」
「尾形上等兵の指導の賜物です。」
ふざけた会話をしつつも、剥製だらけの屋敷を物色する。
ある扉を開けると、動物ではなく人間を模ったものがたくさんあって、驚きのあまり私の喉がヒュッと鳴った。
尾形さんも珍しくギョッとした表情を見せていた。
「これ、……鶴見中尉ですかね?」
その中の一体が明らかに急ごしらえで作られた鶴見中尉っぽい特徴のあるものだった。
私が銃でつつくと目玉がぽーん!と勢いよく飛び出した。
「ひえっ」
「遊んでないで情報を掴め。……ほら見ろ、これでは鶴見中尉に有利すぎる。」
尾形さんが刺青人皮の偽物が流通するかもしれない証拠を見つけると得意げに見せてきた。
刺青人皮のレプリカだろう、染色テストをしているような端切れがいくつも見つかった
「剥製屋の坊やは鶴見中尉にぞっこんらしい。懐柔は難しいかもしれ……」
尾形さんの言葉が止まったのでそちらを見ると、開いた扉があってここの剥製屋さんは逃げてしまったあとのようだった。
「じゃあほかの部屋見ましょ。」
「そうだな……。」
次の瞬間、部屋を出ようとした尾形さんの拳銃に剣が突き刺さった。
「尾形さんッ!」
何者かにドカッと背中を蹴られた衝撃で吹っ飛んだ尾形さんはそのまま剥製の影に隠れる。
私も素早く地面を蹴り、テーブルと剥製の影に入る。
「よくも前山を……!」
月島さんだ。
尾形さんを殺す気でいる。
「本部の飼い猫め!わかっているぞ貴様の魂胆は!」
月島さんは尾形さんの持っていた拳銃を奪っていた。
何発か剥製やテーブルに銃弾が当たる。
怒りに任せて月島さんは叫ぶ。
「ご主人様に反乱分子を差し出し出世というご褒美が欲しいのだ。だがケチな獲物じゃ見返りも少ない。我々が力をつけ増長し、本部の手に負えない存在となるまで虎視眈々と待っている!第七師団長であった父君を超えたいがために仲間を売るのだッ!!」
「え。そうなんですか?」
思わず隣で銃を構える尾形さんに聞いてしまう。
尾形さんは否定も肯定もしなかった。
「仲間だの戦友だの……くさい台詞で若者を乗せるのがお上手ですね鶴見中尉殿……。」
そう呟いた後に、確実に月島さんがいるところを狙い尾形さんは撃つ。
月島さんは確かにお強いけれど、射撃だと尾形さんには敵わないと思う。
月島さん自身もそれを分かっているのか、「江渡貝!生きているか!」と叫んで出て行ってしまった。
良い判断だ。
ここで尾形さんと戦うよりは勝ち目がある。
私は月島さんと殺し合いにならなかったことに一安心した。
「江渡貝を追っていったか、……月島より先にとっ捕まえないと。」
「追いかけましょう。」
屋敷から出ようとすると、入口から話し声が聞こえてくる。
あれ、この声って確か……。
「杉元さんの声だ。もう一人は誰でしょう……?」
私が呟くと、尾形さんは以前に土方さんがくれた手配書をガサガサと出す。
扉の影から顔を見て手配書と見比べる。
あ、囚人で内通者の「白石由竹」さんだ。
「こいつらに月島の邪魔をさせよう。」
悪い顔をしている尾形さんが物陰に隠れたので、私も銃を構えて扉の影に隠れた。
ちょうど部屋に入ってきた白石さんを二人で両側から脅す。
聞いていた通り、土方さんの名前を出したら一発で彼は言うことを聞いた。
白石さんたちを月島さんが行った方へと上手く誘導できたので、私たちも江渡貝という剥製屋さんを探す。
狙うは漁夫の利ってやつ?
屋敷から出て月島さんや江渡貝さんを探す。
江渡貝さんは恐らく剥製を着て逃げたのだろう。
屋敷からなくなっていた不気味な白熊の目撃情報を追うと、炭鉱の方へ行ったようだ。
「尾形さん、あれ!」
町中で急いで走っているあきらかに剥製を着た人がいたので私は指さす。
「江渡貝くーん」
尾形さんが鶴見中尉を真似てそう剥製屋さんを呼ぶ。
不敵な笑みを浮かべていた。
2人で銃を向けて近づいていくと、突然トロッコが凄いスピードで来て白熊を攫う。
声からするに月島さんが乗ってきたようだ。
そして走り去ったトロッコの先に、杉元さんと白石さんがいた。
「私たちも行きましょう!」
「連中が潰し合うのを待って刺青人皮をかすめ取るか。」
尾形さんは妖しく呟いた。
杉元さんたちに続いて私たちもトロッコに乗る。
「わぁぁ!これ、結構スピード出ますね。」
「いつでも撃てるようにしておけよ。」
こんなアトラクションが私のいた世界にもあったな、なんてちょっと懐かしくなる。
でもこれは命綱などないからケガするやつだ。気を引き締めなくては。
杉元さんたちが揉めている音が若干聞こえてきたが、振動と風の音がうるさくてあまり状況が分からない。
トンネルの先で二股にわかれているところを見るに、きっと今レールが向いている方は杉元さんたちが行ったはずだ。
「尾形さん…!二股になってます!!」
バシュッと音がしてレールを見ると、尾形さんはレールを撃って切り替えていた。
動くトロッコに乗りながら的を外さないとはさすがである。
思わず感嘆の声をあげてしまった。
「すごい!」
「ははぁッ」
珍しく素直に嬉しそうなリアクションをした尾形さん。
ご機嫌なようだ。
月島さんたちのと距離も少し縮まった。
だがしかしその先で炭鉱夫が「ダイナマイトに火をつけたから止まれ!」と叫ぶ。
「エッ嘘!」
「いかん!」
尾形さんが銃でブレーキをかける。
そして間もなくボンッ!と音がして私たちのトロッコは止まった。
月島さんと剥製屋さんはそのまま奥へ行ってしまった。
くそう、あとちょっとだったのに!
二人でトロッコの外に出て押していると、変な匂いがした気がした。
「なんの匂いですかね……?」
「匂い?」
そう聞き返して尾形さんがクンクンと嗅いでいると、不気味なブワワッと音がしてそのあと大爆発が起きた。
「きゃっ!」
「夢主!」
二人共そのまま吹っ飛ばされる。
受け身を取ってまもなく今度は暴風に引っ張られた。
慌てて近くのレールを握って耐えているとまたデカイのがくるぞ!と炭鉱夫の声がした。
息をつく間もなくて、私は必死で受け身を取ろうとした。
「夢主、掴まれ!」
「尾形さん……!」
尾形さんが咄嗟に私を守るように抱きしめて、私は尾形さんにしがみついた。
次の瞬間、今までで一番大きな爆発音がして、そのあとは視界が真っ暗になった。
「っ……ぅぅ、尾形さん……。」
幸い尾形さんにかばってもらったため、私はすぐに意識を取り戻した。
焦げ臭い匂いと濃いガスの匂いが充満している。
ここに長くいてはいけない!と本能で感じた。
「けほっ尾形さん!起きて……!」
「……ごほっ!」
パシパシと頬を叩いて尾形さんを起こす。
尾形さんは大きく咳き込んで意識を取り戻すと、すぐに出口を探し始めた。
瓦礫を二人でどかして逃げ道を探していると、一人の炭鉱夫が出口まで案内してくれた。
なんて運が良いんだろう。助かったようだ。
「はぁ……怖かった。」
トンネルから出ると安心して座り込んでしまった。
あの爆発から生き延びられたのは奇跡じゃないかと思う。
尾形さんは外にいた人たちから水をもらってきてくれて、私にくれる。
ドカッと隣に腰を下ろす尾形さん。
ふたりでしばらく座って水を飲んで休憩した。
「尾形さん、守ってくれてありがとうございます。お怪我はないですか?」
「ああ……お前こそ大丈夫か。」
尾形さんは私の煤けた頬を撫でた。
尾形さんの手も煤がついていたみたいで、結局私の頬がまた黒く塗られたようで、ははッと乾いた笑いをこぼした。
「月島さんたちと杉元さんたち、逃げられましたかね……?」
「さあな。確かめるか。動けるか?」
「はい。」
二人で脱出できた人たちを探す。
その中に杉元さんや月島さんがいることを願い走り回る。
人が集まっているところを見て回っても、それらしき人はいない。
「尾形さんどうしましょう杉元さんも月島さんも見当たりません!」
「悪運尽きたか……?」
さっきの爆発で生き埋めになっているのではないか、と心配で涙目になってしまう。
当然私が泣いたところで尾形さんにもどうしようもないことなので、二人で黙ってしまい気まずい沈黙が流れた。
「どうした夢主。凄い格好だな。」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこには牛山さんがいた。
「牛山さん……!炭鉱が爆発して……出てこない人たちがいるんです。」
半べそ状態の私がほぼ泣きながら伝えると、牛山さんはポンッと頭を撫でてそのまま炭鉱へ向かっていった。
「えっ!?牛山さん、危ないですよ!」
私の声が聞こえていないのか、そのままドォンッ!と身一つで炭鉱に突っ込んだ牛山さん。
「えええ……。」
「あいつは人間じゃねえな。」
二人でドン引きしていると、牛山さんは杉本さんと白石さんを軽々と抱えて戻ってきた。
見ていた周りのひとたちから歓声が起こった。
凄すぎて、人間じゃないみたいだ。
「男らしいというかなんというか…。」
「夢主、お前もし牛山に抱かれたら体バラバラになるぞ。」
尾形さんが横でぼそりと呟いた。
「やめてくださいよ!」
【あとがき:全身チ●ポおじさんカッコいい!】
いつものように情報収集して戻ってきた尾形さんが、有力な情報を掴んだと皆を居間に集めた。
あぐらをかいて座っている尾形さんの隣に、座布団を敷いて正座し私も輪に加わる。
尾形さんは、おもむろに話し始めた。
「鶴見中尉が剥製屋に入ったようだ。「江渡貝剥製所」と入口に書いてあった。中尉は戻っていったが、月島と前山が出入りしているのを確認した。」
鶴見中尉が……?
でもなんで剥製屋なんだろう。刺青人皮を探すのに必要だったのだろうか。
「……金塊につながる何かがあるのは間違いなさそうだな。」
土方さんがニヤリと笑う。
この老人とは思えない覇気のある人間はどうやったら出来上がるのだろうか。
時折私を口説くのも、精神的な若さからだと思う。
「誰が行きますか?」
私が聞くと、尾形さんが手を上げた。
そして尾形さんは黙って私の手を持ち上げる。
え、立候補制なの?
少し動揺するも、強く引っ張られているので手を下ろすことはできなかった。
「じゃあ俺も行こう。」
牛山さんも手を上げた。
そこで土方さんがこう続けた。
「尾形と夢主は長距離からの攻撃手段があるから良い人選だ。二人で対象を追い詰めるなり情報を聞き出すなりしろ。牛山、お前は町にいる兵をなんとかしろ。」
私とは離れた行動をすることになった牛山さんは初めは不満そうにしていたが、相談していくうちに土方さんや永倉さんも後から合流することになったので、結果的に誰が誰と行動していようとあまり関係ないことになった。
当日、私と尾形さんは江渡貝剥製所を見下ろせる丘に立った。
木々に隠れて時を待つ。
今家にいるのは剥製屋さんと月島さん、前山さんの3人だ。
「あ、月島さんが出ていきました。」
「持ち物を見るに……風呂だな。」
二人で交互に双眼鏡を覗く。
この時代の銃にスコープはない。
片方が双眼鏡を覗いている間はもう片方は銃を構え常に照準を合わせている。
双眼鏡越しに久々に見る月島さんは以前と変わりがなさそうで安心した。
急に第七師団を飛び出してしまったから、迷惑をかけてしまった負い目がある。
鯉登さんは元気にしているだろうか?
そんなことを考えながら呟いた。
「……月島さんは長風呂ですよ。」
「なんでお前がそんなこと知ってるんだ。」
双眼鏡から顔を上げて尾形さんを見ると、口を真一文字に伸ばして険しい顔をした尾形さんと目が合う。
別にやましいことは何もないんだけどな、と困ってしまった。
最近の尾形さんは土方さんや牛山さんや家永さんが面白がって煽るせいで、嫉妬深くなっている。
何なら家の中で私の姿が見えないと怒るときもある。まるで親離れできない子供のようだ。
「……兵舎のお風呂の掃除をするときに、最後の方が出るのを待ってたことがありまして。中にいたのが月島さんでした。」
そう伝えると尾形さんは安心したのか満足そうな様子で、ザクッと木に軍刀を刺す。
そしてそれを支えに銃を撃った。
双眼鏡を覗くと前山さんが部屋の中で倒れていた。
「あ、前山さんが……。」
「ど真ん中だろ。苦しんでない。」
そういう問題じゃない。
でも土方さんたちといるということは、立場上殺しあうこともあるということだ。
ふと、鯉登さんと月島さんと鶴見中尉の顔が浮かぶ。
あの人たちとは殺し合いしたくないな……と思ってしまうのはまだ踏ん切りがついてない証拠だろう。
今一度気を引き締めなければ、足手まといになってしまう。
尾形さんに続いて玄関から堂々と屋敷に入る。
屋内での接戦になると思って、私も尾形さんと同じように拳銃を手にした。
「お邪魔しまぁす。」
一応前山さんがいたあたりの部屋に入ると、軍の銃が二本立てかけてあったので、いつもの要領でボルトを引き抜いた。
「手慣れてきたな。」
「尾形上等兵の指導の賜物です。」
ふざけた会話をしつつも、剥製だらけの屋敷を物色する。
ある扉を開けると、動物ではなく人間を模ったものがたくさんあって、驚きのあまり私の喉がヒュッと鳴った。
尾形さんも珍しくギョッとした表情を見せていた。
「これ、……鶴見中尉ですかね?」
その中の一体が明らかに急ごしらえで作られた鶴見中尉っぽい特徴のあるものだった。
私が銃でつつくと目玉がぽーん!と勢いよく飛び出した。
「ひえっ」
「遊んでないで情報を掴め。……ほら見ろ、これでは鶴見中尉に有利すぎる。」
尾形さんが刺青人皮の偽物が流通するかもしれない証拠を見つけると得意げに見せてきた。
刺青人皮のレプリカだろう、染色テストをしているような端切れがいくつも見つかった
「剥製屋の坊やは鶴見中尉にぞっこんらしい。懐柔は難しいかもしれ……」
尾形さんの言葉が止まったのでそちらを見ると、開いた扉があってここの剥製屋さんは逃げてしまったあとのようだった。
「じゃあほかの部屋見ましょ。」
「そうだな……。」
次の瞬間、部屋を出ようとした尾形さんの拳銃に剣が突き刺さった。
「尾形さんッ!」
何者かにドカッと背中を蹴られた衝撃で吹っ飛んだ尾形さんはそのまま剥製の影に隠れる。
私も素早く地面を蹴り、テーブルと剥製の影に入る。
「よくも前山を……!」
月島さんだ。
尾形さんを殺す気でいる。
「本部の飼い猫め!わかっているぞ貴様の魂胆は!」
月島さんは尾形さんの持っていた拳銃を奪っていた。
何発か剥製やテーブルに銃弾が当たる。
怒りに任せて月島さんは叫ぶ。
「ご主人様に反乱分子を差し出し出世というご褒美が欲しいのだ。だがケチな獲物じゃ見返りも少ない。我々が力をつけ増長し、本部の手に負えない存在となるまで虎視眈々と待っている!第七師団長であった父君を超えたいがために仲間を売るのだッ!!」
「え。そうなんですか?」
思わず隣で銃を構える尾形さんに聞いてしまう。
尾形さんは否定も肯定もしなかった。
「仲間だの戦友だの……くさい台詞で若者を乗せるのがお上手ですね鶴見中尉殿……。」
そう呟いた後に、確実に月島さんがいるところを狙い尾形さんは撃つ。
月島さんは確かにお強いけれど、射撃だと尾形さんには敵わないと思う。
月島さん自身もそれを分かっているのか、「江渡貝!生きているか!」と叫んで出て行ってしまった。
良い判断だ。
ここで尾形さんと戦うよりは勝ち目がある。
私は月島さんと殺し合いにならなかったことに一安心した。
「江渡貝を追っていったか、……月島より先にとっ捕まえないと。」
「追いかけましょう。」
屋敷から出ようとすると、入口から話し声が聞こえてくる。
あれ、この声って確か……。
「杉元さんの声だ。もう一人は誰でしょう……?」
私が呟くと、尾形さんは以前に土方さんがくれた手配書をガサガサと出す。
扉の影から顔を見て手配書と見比べる。
あ、囚人で内通者の「白石由竹」さんだ。
「こいつらに月島の邪魔をさせよう。」
悪い顔をしている尾形さんが物陰に隠れたので、私も銃を構えて扉の影に隠れた。
ちょうど部屋に入ってきた白石さんを二人で両側から脅す。
聞いていた通り、土方さんの名前を出したら一発で彼は言うことを聞いた。
白石さんたちを月島さんが行った方へと上手く誘導できたので、私たちも江渡貝という剥製屋さんを探す。
狙うは漁夫の利ってやつ?
屋敷から出て月島さんや江渡貝さんを探す。
江渡貝さんは恐らく剥製を着て逃げたのだろう。
屋敷からなくなっていた不気味な白熊の目撃情報を追うと、炭鉱の方へ行ったようだ。
「尾形さん、あれ!」
町中で急いで走っているあきらかに剥製を着た人がいたので私は指さす。
「江渡貝くーん」
尾形さんが鶴見中尉を真似てそう剥製屋さんを呼ぶ。
不敵な笑みを浮かべていた。
2人で銃を向けて近づいていくと、突然トロッコが凄いスピードで来て白熊を攫う。
声からするに月島さんが乗ってきたようだ。
そして走り去ったトロッコの先に、杉元さんと白石さんがいた。
「私たちも行きましょう!」
「連中が潰し合うのを待って刺青人皮をかすめ取るか。」
尾形さんは妖しく呟いた。
杉元さんたちに続いて私たちもトロッコに乗る。
「わぁぁ!これ、結構スピード出ますね。」
「いつでも撃てるようにしておけよ。」
こんなアトラクションが私のいた世界にもあったな、なんてちょっと懐かしくなる。
でもこれは命綱などないからケガするやつだ。気を引き締めなくては。
杉元さんたちが揉めている音が若干聞こえてきたが、振動と風の音がうるさくてあまり状況が分からない。
トンネルの先で二股にわかれているところを見るに、きっと今レールが向いている方は杉元さんたちが行ったはずだ。
「尾形さん…!二股になってます!!」
バシュッと音がしてレールを見ると、尾形さんはレールを撃って切り替えていた。
動くトロッコに乗りながら的を外さないとはさすがである。
思わず感嘆の声をあげてしまった。
「すごい!」
「ははぁッ」
珍しく素直に嬉しそうなリアクションをした尾形さん。
ご機嫌なようだ。
月島さんたちのと距離も少し縮まった。
だがしかしその先で炭鉱夫が「ダイナマイトに火をつけたから止まれ!」と叫ぶ。
「エッ嘘!」
「いかん!」
尾形さんが銃でブレーキをかける。
そして間もなくボンッ!と音がして私たちのトロッコは止まった。
月島さんと剥製屋さんはそのまま奥へ行ってしまった。
くそう、あとちょっとだったのに!
二人でトロッコの外に出て押していると、変な匂いがした気がした。
「なんの匂いですかね……?」
「匂い?」
そう聞き返して尾形さんがクンクンと嗅いでいると、不気味なブワワッと音がしてそのあと大爆発が起きた。
「きゃっ!」
「夢主!」
二人共そのまま吹っ飛ばされる。
受け身を取ってまもなく今度は暴風に引っ張られた。
慌てて近くのレールを握って耐えているとまたデカイのがくるぞ!と炭鉱夫の声がした。
息をつく間もなくて、私は必死で受け身を取ろうとした。
「夢主、掴まれ!」
「尾形さん……!」
尾形さんが咄嗟に私を守るように抱きしめて、私は尾形さんにしがみついた。
次の瞬間、今までで一番大きな爆発音がして、そのあとは視界が真っ暗になった。
「っ……ぅぅ、尾形さん……。」
幸い尾形さんにかばってもらったため、私はすぐに意識を取り戻した。
焦げ臭い匂いと濃いガスの匂いが充満している。
ここに長くいてはいけない!と本能で感じた。
「けほっ尾形さん!起きて……!」
「……ごほっ!」
パシパシと頬を叩いて尾形さんを起こす。
尾形さんは大きく咳き込んで意識を取り戻すと、すぐに出口を探し始めた。
瓦礫を二人でどかして逃げ道を探していると、一人の炭鉱夫が出口まで案内してくれた。
なんて運が良いんだろう。助かったようだ。
「はぁ……怖かった。」
トンネルから出ると安心して座り込んでしまった。
あの爆発から生き延びられたのは奇跡じゃないかと思う。
尾形さんは外にいた人たちから水をもらってきてくれて、私にくれる。
ドカッと隣に腰を下ろす尾形さん。
ふたりでしばらく座って水を飲んで休憩した。
「尾形さん、守ってくれてありがとうございます。お怪我はないですか?」
「ああ……お前こそ大丈夫か。」
尾形さんは私の煤けた頬を撫でた。
尾形さんの手も煤がついていたみたいで、結局私の頬がまた黒く塗られたようで、ははッと乾いた笑いをこぼした。
「月島さんたちと杉元さんたち、逃げられましたかね……?」
「さあな。確かめるか。動けるか?」
「はい。」
二人で脱出できた人たちを探す。
その中に杉元さんや月島さんがいることを願い走り回る。
人が集まっているところを見て回っても、それらしき人はいない。
「尾形さんどうしましょう杉元さんも月島さんも見当たりません!」
「悪運尽きたか……?」
さっきの爆発で生き埋めになっているのではないか、と心配で涙目になってしまう。
当然私が泣いたところで尾形さんにもどうしようもないことなので、二人で黙ってしまい気まずい沈黙が流れた。
「どうした夢主。凄い格好だな。」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこには牛山さんがいた。
「牛山さん……!炭鉱が爆発して……出てこない人たちがいるんです。」
半べそ状態の私がほぼ泣きながら伝えると、牛山さんはポンッと頭を撫でてそのまま炭鉱へ向かっていった。
「えっ!?牛山さん、危ないですよ!」
私の声が聞こえていないのか、そのままドォンッ!と身一つで炭鉱に突っ込んだ牛山さん。
「えええ……。」
「あいつは人間じゃねえな。」
二人でドン引きしていると、牛山さんは杉本さんと白石さんを軽々と抱えて戻ってきた。
見ていた周りのひとたちから歓声が起こった。
凄すぎて、人間じゃないみたいだ。
「男らしいというかなんというか…。」
「夢主、お前もし牛山に抱かれたら体バラバラになるぞ。」
尾形さんが横でぼそりと呟いた。
「やめてくださいよ!」
【あとがき:全身チ●ポおじさんカッコいい!】