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第二十五話 そうだ!銀行強盗しよう
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第二十五話 そうだ!銀行強盗しよう
土方さんに剣術を教えてもらい始めて少し経った頃。
一人で自主練していると、珍しく尾形さんが声をかけてきた。
尾形さんってば、相変わらず誰かが近くにいると私に話しかけることはほとんどなくて、話しかけたとしても大体が私に対する悪口なのだから困る。
そんな尾形さんに口では敵わないので、精神年齢小学生男子め!と心の中でいつも悪口を言い返していた。
誰もいないときに話しかけてくるときは、その内容は比較的まともなはず……と、身構えていると尾形さんは不機嫌そうに言った。
「夢主、お前ジジイそそのかして何考えてる。」
「土方さんのことですか?永倉さんのことですか?」
すっとぼけてやった。
実際永倉さんも私のことは可愛がってくれているけど、本物の孫のような扱いをされている。
問題は土方さんだった。時折すごく鋭い視線を送ってくる。
どんなに鈍感でもわかるわ、あれは獲物を狩る目だよ。
でもその視線の意味が好意だとは微塵も思っていなかったので、そそのかして……なんて言われると動揺した。
尾形さんは私がとぼけているとわかった上で、尚も不機嫌そうに言い放った。
「土方歳三に決まってんだろ。お前あのジジイに色目使ってるだろ。」
「色目って……そんなわけないじゃないですか!」
ツッコミの要領でブンッと持っていた刀を振ると、尾形さんが愛用している三十年式歩兵銃がそれを受け止めた。
兵舎で訓練していたときから度々真剣で手合わせしたり、何なら実弾を使ったりしていたので、よくある戯れだ。
しかし今日は尾形さんが銃で受け止めた瞬間に、パキッと軽い音を立てて私の持っていた刀が二つに折れてしまった。
「あっ……!」「……。」
二人で呆然と刀の半身を見つめていると、屋敷から土方さんの声がして焦る。
「こ、これ土方さんに借りた刀……」
あわわ、と漫画のように慌てる私に、尾形さんはフンッと笑って立ち去った。
思わず「ちょっと、助けてくださいよ!」と叫ぶと、その声に気付いたのか土方さんが来てしまった。
「夢主、いたのか。」
「あっ、ひ、土方さん……。」
ひょこ、と顔を出した土方さんは、折れた刀が足元に落ちていて手には半身となった刀を持って立ち尽くす私を見ると高らかに笑いだした。
やばい殺される……!?
尾形さんといい鶴見中尉といい、笑うときは大体良からぬことを考えている人が近くにいたせいで防衛本能からか私は身構えてしまった。
「土方さん、ごめんなさい刀を壊してしまって……!」
「ハハハ、そのなまくら刀では仕方あるまい。実戦じゃなくて良かったな、夢主。」
良かった!怒ってないみたいだ。
屋敷から出てこちらに歩いてきた土方さんは、私の手から折れた刀を取ると、しばらくそのまま黙った。
「――実は、狙っている刀があってな。」
おもむろに話し出した内容を一言で言うと、「銀行強盗する」だった。
銀行にはお目当ての名刀があるらしい。
それが手に入ったら今土方さんが使っているお古の刀を私にくれるとのこと。
強盗となると、さすがに警察やら兵隊やら来るとのことで、土方さんが事前に何人かを少し離れた隣町で騒ぎを起こすようにと指示をした。
主要なメンバー以外に手下となって動く人がいるのを私は初めて知った。
それともお金で雇っただけかな。
作戦会議をしているうちに、私は土方さんと共に銀行内を制圧した後に侵入することになった。
尾形さんは私と一緒に来たかったようだが、土方さんが若干得意げな顔で「夢主を少し借りるよ。」と挑発してきたため、「どうぞ好きなだけ遊んでやってくれ」と言葉とは裏腹にめちゃくちゃ機嫌の悪そうな顔で言い返していた。
少し気の毒だったので「尾形さんがいるなら隣町組は安全ですね」とおだてると、尾形さんは早くも機嫌を直したようだった。
前髪を撫でつけて「まあな」と呟いていた。
本当に小学生みたい。
とういうことで、やってきました金融街。
混乱に乗じて制圧した銀行に入ると、土方さんは真っ先に二階へと行く。
私も一応銃を構えてそのあとに続いた。
刀を手にすると、土方さんは嬉しそうに笑った。
「時を超えて我が元へ。」
「素敵な刀ですね。」
「和泉守兼定だ……約束通り、こちらは夢主にやろう。」
「……ありがとうございます。」
お古の刀を腰に差してその重さに驚いた。
もしかして、このお古も相当良いやつなのでは?
土方さんが目的の刀を得たのでそのまま脱出しようとしていると、建物の外にちらほらと軍服と、見覚えのある顔があって驚く。
「土方さん!第七師団です……!鶴見中尉もいます。」
「馬に乗れ。」
冷静に外にあった馬に乗った土方さん。
その後ろに乗ると、「しっかりと掴まっていなさい」と私の手を土方さんの腰に誘導する。
この人おじいちゃんとは思えないほど筋肉ある……本当に人間?と違う意味でドキドキした。
体勢を整えるとちょうど銀行の窓が開いて、鶴見中尉が叫んだ。
「土方歳三!!よくも夢主を……!」
「中尉……!?」
鶴見中尉!?盗まれたの私じゃなくて刀です!
とツッコミを入れたかったけれどそんな余裕はなかった。
鶴見中尉は間髪入れずにこちらへ一発撃つ。
タイミング良く動き出した馬のおかげで土方さんの帽子に当たり外れた。
牽制で土方さんも鶴見中尉に向けて撃って、そのまま私たちは逃げた。
「奴が鶴見という軍人だな?腹の座った良い面構えをしているじゃないか。」
「……そう、ですね。」
なんとも複雑な気持ちだった。
元上司と現上司って感じだ。
拠点に戻ると、隣町組は解散していて、尾形さんと牛山さんが座敷の居間に座っていた。
2人は何か話していたのだろうか、妙に余所余所しくてしかも少し距離がある。
「ただいま戻りました。」
声をかけると二人はパッといつもより明るい表情でこちらを見て、何か言いかけたが明らかに躊躇いを見せてから言うのをやめた様子だった。
「?」
不思議に思ったが追及するのはやめた。
土方さんが皆にご苦労だった、と一言かけてその日の活動は終了した。
お疲れだろうと皆にお茶を出そうとしていると、家永さんが先に調理場にいた。
もう動けるほど元気になったんだ、よかった……。
「家永さん、お手伝いします。」
「ありがとうございます。でも夢主さんもお疲れではないですか?」
「大丈夫です……もとはといえば私が刀を折ってしまったせいですから。」
「土方さんも、わざと貴女にボロい刀をあげたのかもしれませんよ。」
ふふ、と家永さんは笑った。
どういう意味だと首を傾げていると、家永さんはそっと耳打ちしてきた。
「夢主さんとデートしたかったようなので。」
「エッ!?ウワッ!あっつ!」
動揺して手元が狂ってしまった。
手にお湯がかかり悶えていると、家永さんはニヤニヤ笑いながらも水を用意して手を冷やしてくれた。
「あらあら。夢主様、大丈夫ですかぁ~?」
そのままきゅ、と手を握られて不覚にもドキッとしてしまった。
危ない、これでは私はただの惚れっぽい人間だ。
皆にお茶を出さないと、と気を取り直す。
「そ……そういえば、尾形さんと牛山さん、何かあったんですか?」
家永さんはああ、それはですね、と楽しそうに笑いながら二つの包みを出した。
「これは?」
「お茶菓子です。」
「……はぁ。」
それが尾形さんたちと何の関係があるのだろう、ときょとんとしてしまう。
「これはどちらもお団子です。一つはみたらし、もう一つはあんこです。」
「へえ、美味しそうですね。お茶請けに出しましょう!」
きっとみんな喜ぶぞ!とうきうきしていると、家永さんが私に問いかける。
「……夢主さんはどちらがお好きですか?」
その問いかける声色とこちらを期待した眼差しで見つめる家永さんの表情で気づいた。
まさかあの二人……私がどっちのお団子を選ぶかで揉めた!?
「あの、これ、私がどちらか選ぶ感じでしょうか……。」
「はい。正解でございます。」
「はぁ~……。」
「モテる女性は大変ですわね。お二人共、自分が選んだ方が欲しいに決まってる!と言い争ってましたわ。」
くすくすと楽しそうに笑う家永さん。
なんだか本当に女性のようだ。女の私よりも女らしい。
いや、でもまず家永さんが止めてくださいよ。
なんでノリノリで尾形さんたちの賭けに混ざってるんですか。
「期待してもらっているところ恐縮ですが、余った方をいただきます。」
「あらそうですの、残念ですわ。」
そんなやりとりをしているうちに、全員分のお茶が用意できたので居間に二人で持って行った。
尾形さんと牛山さんは相変わらずそわそわとこちらを見ている。
しかも、どうやらお茶を用意している間に、賭けの参加者が増えてしまったようで、土方さんと永倉さんもこちらをチラチラと見てきた。
いや、プレッシャー凄いな……。
でもここは皆に先に配るから大丈夫だ、と自分を落ち着かせ、何も知らないフリをして一人一人お茶とお団子を好きな方選んでもらって渡していく。
よし、これで私は余った方をいただけば……あれ?
お盆を見ると、みたらしとあんこが一本ずつ……。
あ!!そうか、家永さんと私のか!
全員の視線が私に集まる。
「う、家永さん先にどうぞ……?」
「いいえ、夢主様どうぞ!」
縋るような気持ちで家永さんを見ると、期待でキラキラと輝いた目をしている。
だめだ!四面楚歌!
ちら、と尾形さんの方を見ると尾形さんはあんこを持っていたので、私に選択肢はなかった。
「……じ、じゃあこっちで。」
私があんこを取ると、牛山さんがみたらしを持ったまま無言で地面に崩れ落ちた。
そして尾形さんは牛山さんを得意げな顔で見下ろして、ふんすっと荒い鼻息を吐いた。
土方さんと永倉さんはそうかそうか、とニヤニヤと笑っていたし、家永さんはキャーキャー騒いでる。
何このカオス。どうしてくれるの。
困り果てた私を慰めるように、そっと私の団子を持つ方の手を握った家永さん。
驚いて私がそちらに視線をやると、家永さんの綺麗な顔がこちらをまっすぐに見ていた。
家永さんは見せつけるように私の団子をぺろり、と舐め上げる。
その妖艶な舌使いにゾクゾクッとしたものが背中を走った。
そして上目遣いにこちらを見つめて低い声でこう言い放つ。
「でもね、夢主さん。わたくしも貴女にすごく興味ありますの。」
「「「「「!?!?」」」」」
一瞬時が止まった。
【あとがき:家永カノ百合枠にて参戦!?】
土方さんに剣術を教えてもらい始めて少し経った頃。
一人で自主練していると、珍しく尾形さんが声をかけてきた。
尾形さんってば、相変わらず誰かが近くにいると私に話しかけることはほとんどなくて、話しかけたとしても大体が私に対する悪口なのだから困る。
そんな尾形さんに口では敵わないので、精神年齢小学生男子め!と心の中でいつも悪口を言い返していた。
誰もいないときに話しかけてくるときは、その内容は比較的まともなはず……と、身構えていると尾形さんは不機嫌そうに言った。
「夢主、お前ジジイそそのかして何考えてる。」
「土方さんのことですか?永倉さんのことですか?」
すっとぼけてやった。
実際永倉さんも私のことは可愛がってくれているけど、本物の孫のような扱いをされている。
問題は土方さんだった。時折すごく鋭い視線を送ってくる。
どんなに鈍感でもわかるわ、あれは獲物を狩る目だよ。
でもその視線の意味が好意だとは微塵も思っていなかったので、そそのかして……なんて言われると動揺した。
尾形さんは私がとぼけているとわかった上で、尚も不機嫌そうに言い放った。
「土方歳三に決まってんだろ。お前あのジジイに色目使ってるだろ。」
「色目って……そんなわけないじゃないですか!」
ツッコミの要領でブンッと持っていた刀を振ると、尾形さんが愛用している三十年式歩兵銃がそれを受け止めた。
兵舎で訓練していたときから度々真剣で手合わせしたり、何なら実弾を使ったりしていたので、よくある戯れだ。
しかし今日は尾形さんが銃で受け止めた瞬間に、パキッと軽い音を立てて私の持っていた刀が二つに折れてしまった。
「あっ……!」「……。」
二人で呆然と刀の半身を見つめていると、屋敷から土方さんの声がして焦る。
「こ、これ土方さんに借りた刀……」
あわわ、と漫画のように慌てる私に、尾形さんはフンッと笑って立ち去った。
思わず「ちょっと、助けてくださいよ!」と叫ぶと、その声に気付いたのか土方さんが来てしまった。
「夢主、いたのか。」
「あっ、ひ、土方さん……。」
ひょこ、と顔を出した土方さんは、折れた刀が足元に落ちていて手には半身となった刀を持って立ち尽くす私を見ると高らかに笑いだした。
やばい殺される……!?
尾形さんといい鶴見中尉といい、笑うときは大体良からぬことを考えている人が近くにいたせいで防衛本能からか私は身構えてしまった。
「土方さん、ごめんなさい刀を壊してしまって……!」
「ハハハ、そのなまくら刀では仕方あるまい。実戦じゃなくて良かったな、夢主。」
良かった!怒ってないみたいだ。
屋敷から出てこちらに歩いてきた土方さんは、私の手から折れた刀を取ると、しばらくそのまま黙った。
「――実は、狙っている刀があってな。」
おもむろに話し出した内容を一言で言うと、「銀行強盗する」だった。
銀行にはお目当ての名刀があるらしい。
それが手に入ったら今土方さんが使っているお古の刀を私にくれるとのこと。
強盗となると、さすがに警察やら兵隊やら来るとのことで、土方さんが事前に何人かを少し離れた隣町で騒ぎを起こすようにと指示をした。
主要なメンバー以外に手下となって動く人がいるのを私は初めて知った。
それともお金で雇っただけかな。
作戦会議をしているうちに、私は土方さんと共に銀行内を制圧した後に侵入することになった。
尾形さんは私と一緒に来たかったようだが、土方さんが若干得意げな顔で「夢主を少し借りるよ。」と挑発してきたため、「どうぞ好きなだけ遊んでやってくれ」と言葉とは裏腹にめちゃくちゃ機嫌の悪そうな顔で言い返していた。
少し気の毒だったので「尾形さんがいるなら隣町組は安全ですね」とおだてると、尾形さんは早くも機嫌を直したようだった。
前髪を撫でつけて「まあな」と呟いていた。
本当に小学生みたい。
とういうことで、やってきました金融街。
混乱に乗じて制圧した銀行に入ると、土方さんは真っ先に二階へと行く。
私も一応銃を構えてそのあとに続いた。
刀を手にすると、土方さんは嬉しそうに笑った。
「時を超えて我が元へ。」
「素敵な刀ですね。」
「和泉守兼定だ……約束通り、こちらは夢主にやろう。」
「……ありがとうございます。」
お古の刀を腰に差してその重さに驚いた。
もしかして、このお古も相当良いやつなのでは?
土方さんが目的の刀を得たのでそのまま脱出しようとしていると、建物の外にちらほらと軍服と、見覚えのある顔があって驚く。
「土方さん!第七師団です……!鶴見中尉もいます。」
「馬に乗れ。」
冷静に外にあった馬に乗った土方さん。
その後ろに乗ると、「しっかりと掴まっていなさい」と私の手を土方さんの腰に誘導する。
この人おじいちゃんとは思えないほど筋肉ある……本当に人間?と違う意味でドキドキした。
体勢を整えるとちょうど銀行の窓が開いて、鶴見中尉が叫んだ。
「土方歳三!!よくも夢主を……!」
「中尉……!?」
鶴見中尉!?盗まれたの私じゃなくて刀です!
とツッコミを入れたかったけれどそんな余裕はなかった。
鶴見中尉は間髪入れずにこちらへ一発撃つ。
タイミング良く動き出した馬のおかげで土方さんの帽子に当たり外れた。
牽制で土方さんも鶴見中尉に向けて撃って、そのまま私たちは逃げた。
「奴が鶴見という軍人だな?腹の座った良い面構えをしているじゃないか。」
「……そう、ですね。」
なんとも複雑な気持ちだった。
元上司と現上司って感じだ。
拠点に戻ると、隣町組は解散していて、尾形さんと牛山さんが座敷の居間に座っていた。
2人は何か話していたのだろうか、妙に余所余所しくてしかも少し距離がある。
「ただいま戻りました。」
声をかけると二人はパッといつもより明るい表情でこちらを見て、何か言いかけたが明らかに躊躇いを見せてから言うのをやめた様子だった。
「?」
不思議に思ったが追及するのはやめた。
土方さんが皆にご苦労だった、と一言かけてその日の活動は終了した。
お疲れだろうと皆にお茶を出そうとしていると、家永さんが先に調理場にいた。
もう動けるほど元気になったんだ、よかった……。
「家永さん、お手伝いします。」
「ありがとうございます。でも夢主さんもお疲れではないですか?」
「大丈夫です……もとはといえば私が刀を折ってしまったせいですから。」
「土方さんも、わざと貴女にボロい刀をあげたのかもしれませんよ。」
ふふ、と家永さんは笑った。
どういう意味だと首を傾げていると、家永さんはそっと耳打ちしてきた。
「夢主さんとデートしたかったようなので。」
「エッ!?ウワッ!あっつ!」
動揺して手元が狂ってしまった。
手にお湯がかかり悶えていると、家永さんはニヤニヤ笑いながらも水を用意して手を冷やしてくれた。
「あらあら。夢主様、大丈夫ですかぁ~?」
そのままきゅ、と手を握られて不覚にもドキッとしてしまった。
危ない、これでは私はただの惚れっぽい人間だ。
皆にお茶を出さないと、と気を取り直す。
「そ……そういえば、尾形さんと牛山さん、何かあったんですか?」
家永さんはああ、それはですね、と楽しそうに笑いながら二つの包みを出した。
「これは?」
「お茶菓子です。」
「……はぁ。」
それが尾形さんたちと何の関係があるのだろう、ときょとんとしてしまう。
「これはどちらもお団子です。一つはみたらし、もう一つはあんこです。」
「へえ、美味しそうですね。お茶請けに出しましょう!」
きっとみんな喜ぶぞ!とうきうきしていると、家永さんが私に問いかける。
「……夢主さんはどちらがお好きですか?」
その問いかける声色とこちらを期待した眼差しで見つめる家永さんの表情で気づいた。
まさかあの二人……私がどっちのお団子を選ぶかで揉めた!?
「あの、これ、私がどちらか選ぶ感じでしょうか……。」
「はい。正解でございます。」
「はぁ~……。」
「モテる女性は大変ですわね。お二人共、自分が選んだ方が欲しいに決まってる!と言い争ってましたわ。」
くすくすと楽しそうに笑う家永さん。
なんだか本当に女性のようだ。女の私よりも女らしい。
いや、でもまず家永さんが止めてくださいよ。
なんでノリノリで尾形さんたちの賭けに混ざってるんですか。
「期待してもらっているところ恐縮ですが、余った方をいただきます。」
「あらそうですの、残念ですわ。」
そんなやりとりをしているうちに、全員分のお茶が用意できたので居間に二人で持って行った。
尾形さんと牛山さんは相変わらずそわそわとこちらを見ている。
しかも、どうやらお茶を用意している間に、賭けの参加者が増えてしまったようで、土方さんと永倉さんもこちらをチラチラと見てきた。
いや、プレッシャー凄いな……。
でもここは皆に先に配るから大丈夫だ、と自分を落ち着かせ、何も知らないフリをして一人一人お茶とお団子を好きな方選んでもらって渡していく。
よし、これで私は余った方をいただけば……あれ?
お盆を見ると、みたらしとあんこが一本ずつ……。
あ!!そうか、家永さんと私のか!
全員の視線が私に集まる。
「う、家永さん先にどうぞ……?」
「いいえ、夢主様どうぞ!」
縋るような気持ちで家永さんを見ると、期待でキラキラと輝いた目をしている。
だめだ!四面楚歌!
ちら、と尾形さんの方を見ると尾形さんはあんこを持っていたので、私に選択肢はなかった。
「……じ、じゃあこっちで。」
私があんこを取ると、牛山さんがみたらしを持ったまま無言で地面に崩れ落ちた。
そして尾形さんは牛山さんを得意げな顔で見下ろして、ふんすっと荒い鼻息を吐いた。
土方さんと永倉さんはそうかそうか、とニヤニヤと笑っていたし、家永さんはキャーキャー騒いでる。
何このカオス。どうしてくれるの。
困り果てた私を慰めるように、そっと私の団子を持つ方の手を握った家永さん。
驚いて私がそちらに視線をやると、家永さんの綺麗な顔がこちらをまっすぐに見ていた。
家永さんは見せつけるように私の団子をぺろり、と舐め上げる。
その妖艶な舌使いにゾクゾクッとしたものが背中を走った。
そして上目遣いにこちらを見つめて低い声でこう言い放つ。
「でもね、夢主さん。わたくしも貴女にすごく興味ありますの。」
「「「「「!?!?」」」」」
一瞬時が止まった。
【あとがき:家永カノ百合枠にて参戦!?】