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第二十三話 土方歳三
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第二十三話 土方歳三
日泥と馬吉の抗争は日泥夫妻が死亡、息子と妾は巣立ち、終わった。
私たちは刺青人皮だけで良かったのだが、街の人からある程度の報酬をもらって街を出ることになった。
茨戸では土方歳三さんと永倉新八さんの二人しかいなかったが、拠点に戻ると牛山辰馬という色々とビックな人と、家永カノ(本名は親宣というらしい。男のようだ。)という女性の恰好をした合計4人が集っていた。
私はなんだかその堂々たるメンバーにビビってしまって、尾形さんの影に隠れるようにして拠点の屋敷に入った。
土方さんは座敷に入るなり、中の人に声をかける。
「戻ったぞ。牛山、家永の調子はどうだ。」
「土方のジイさん、なんで人を拾って帰ってきたんだ。しかも野郎だ。」
牛山と呼ばれた巨体の男性は尾形さんを厄介そうに見ている。
しかし、その陰から私がスッと顔を出すと牛山さんの態度は豹変する。
「おお、めんこい娘だ。」
そう言って私の顔を覗き込む牛山さん。
すぐ手前の尾形さんに視線を移すと、今度は不服そうに尾形さんを指さした。
「いや、この距離感……夫婦か?尚更どういうつもりだ。」
「夫婦じゃないです!」
思わず食い気味に否定する。
その態度が気に入らなかったのか、尾形さんは自分に引っ付いていた私を力ずくで引き剥がしてぐいぐい前に押す。
「イタッ、ちょ、なんですか尾形さん。」
尾形さんは返事をしない。
諦めて一歩前に出ると、中にいる人たち全員の視線が集中した。
私は小さく深呼吸をしてから挨拶をする。
「夢主と申します。狙撃と家事が得意でして、皆様のお力になれればと思います。何卒宜しくお願い致します。」
改まって挨拶をすると、土方さんは微笑みながら「いい子じゃないか。」と尾形さんに言っていたが、尾形さんはフン、と馬鹿にしたように笑っていた。
相変わらず自分以外が私を褒めると気に入らない様子。
「で、こっちの兄ちゃんは?」
牛山さんが尾形さんへ視線を移す。
尾形さんは前髪をなで上げながら短く返答した。
「……尾形だ。」
呆れた。
それで自己紹介になると思っているのかこの人は。
私は尾形さんの代わりに紹介をすることにした。
「こちらは尾形百之助上等兵です。狙撃の達人でございまして、土方さんもご存じの通り腕は確かです。私たち、元々は鶴見中尉率いる第7師団におりましたが、現在は脱走兵扱いです。」
「ほう、なかなかやるなあ嬢ちゃん。」
牛山さんから感嘆の声があがった。
「……恐れ入ります。」
優秀なのは尾形さんなのだが、そこらへんを説明するのは蛇足だろうと受け流す。
土方さんが茨戸であったことを説明し、そこで尾形さんと私が得た刺青人皮と交換に用心棒としてこの一味に入ることを伝えた。
「腕が確かなら良いけどよ。」
牛山さんは尾形さんの腕を疑っている。
見せつけてやろうか、と尾形さんが銃を構えようとするのを慌てて止める。
永倉さんがその様子を見て、「この者の腕は確かだ。」と短く答えるとひとまず牛山さんは納得したようだった。
改めて土方さんが全員の紹介をしてくれた。
剣術の永倉さん、パワーの牛山さん、そして医者の家永さん。
ずっと黙っていた家永さんは紹介をされると尾形さんに声をかけた。
「尾形さん、よろしければ、わたくしが腕のお怪我を診ましょうか。」
確かに私の応急処置では十分ではなかったかもしれない。
私も家永さんの申し出には賛成だった。
しかし尾形さんはいらないと一言で終わらせてしまった。
「ちょっと尾形さん、手当てしてもらった方が良いですよ。」
「……いい。」
「え、なんで……」
「お前がやったので十分だ。」
「そんなわけないですよ。」
この人どういうつもりなんだろう。
あまりしつこくしても怒られるだろうから、それ以上は何も言えなかった。
そのやり取りをみていた家永さんは、何故かくすくすと笑っていた。
「賑やかになったのは良いことだな。よろしく頼むぞ、尾形、夢主。」
土方さんは満足そうに笑って部屋の奥にあった、自分の定位置なのだろう、窓際の椅子に深く腰掛けた。
「よろしくお願いいたします。」
「……。」
私は深々と頭を下げたが、尾形さんは何も言わなかった。
この人社会性なさすぎ。
そんなこんなで土方組に入れてもらった私たち。
何日かすると皆と仲良くなれてきた。
土方さん、永倉さんと一緒にいると私たちは正直おじいちゃんと孫にしか見えないだろう。
その見た目を有効利用して、街での聞き込みをしたこともあった。
牛山さんは最初の方こそ本気か嘘かわからないが口説いてきた。しかしその度に尾形さんが失礼なことを言って割って入ってきた。
失礼なこととはもちろん牛山さんに対してではなく、私に対してだ。
たとえば、「この女は牙をむくぞ」「こいつといるより遊女でも抱いた方が良い」「この女ほど厄介な女はいない」などなど。
尾形さんは、私が未来人だということ以外何を知っているんだ!と叫びたくなったが、言うわけにはいかない。
ぐっと堪える日々だった。
牛山さんは尾形さんがそうやって入ってきて私の悪口を言うのが気の毒に思ったのだろう、尾形さんの前でそういった絡み方をすることは減った。
もちろん二人になると真面目な顔でヤらないかと聞いてくるので節操がないなとも思ったが。
家永さんはマジで美人。
これで男だというのだから信じられない。
脳みそを開いて手術の実験をしたり、自分の美しくありたいところを人を殺して奪っていたりとなかなかサイコパスな一面があるらしく「あまり近づくと殺されかねんぞ」と牛山さんに冗談交じりに言われたが、全く冗談に聞こえなかった。
しかし家永さんは私には基本的に優しくて頼りになるお姉さん、といった感じだったため、私も信頼して接することができた。女友達ができたような気分だったし、実際仲良くなれたと思う。
私も医療を学びたかったので、怪我をしていた家永さんの看病をしながら医学を教えてもらったりもした。
なんとなく形だけでも皆と仲良くなれた私と違って、尾形さんは常に一線を引いている。
いまだかつて尾形さんが心を許している人を見たことがない。
しかしここの人たちはコミュニケーションが取れなくても情報集めや銃の腕があれば皆なんだかんだ認めてくれる空気だったので、そういう意味では尾形さんの居心地は良さそうだった。
ここでは他人の眼があるからか、最近は尾形さんの抱き枕にされることがなくて、私は久々にのんびりと眠ることができて嬉しかった。
【あとがき:欲求不満尾形】
日泥と馬吉の抗争は日泥夫妻が死亡、息子と妾は巣立ち、終わった。
私たちは刺青人皮だけで良かったのだが、街の人からある程度の報酬をもらって街を出ることになった。
茨戸では土方歳三さんと永倉新八さんの二人しかいなかったが、拠点に戻ると牛山辰馬という色々とビックな人と、家永カノ(本名は親宣というらしい。男のようだ。)という女性の恰好をした合計4人が集っていた。
私はなんだかその堂々たるメンバーにビビってしまって、尾形さんの影に隠れるようにして拠点の屋敷に入った。
土方さんは座敷に入るなり、中の人に声をかける。
「戻ったぞ。牛山、家永の調子はどうだ。」
「土方のジイさん、なんで人を拾って帰ってきたんだ。しかも野郎だ。」
牛山と呼ばれた巨体の男性は尾形さんを厄介そうに見ている。
しかし、その陰から私がスッと顔を出すと牛山さんの態度は豹変する。
「おお、めんこい娘だ。」
そう言って私の顔を覗き込む牛山さん。
すぐ手前の尾形さんに視線を移すと、今度は不服そうに尾形さんを指さした。
「いや、この距離感……夫婦か?尚更どういうつもりだ。」
「夫婦じゃないです!」
思わず食い気味に否定する。
その態度が気に入らなかったのか、尾形さんは自分に引っ付いていた私を力ずくで引き剥がしてぐいぐい前に押す。
「イタッ、ちょ、なんですか尾形さん。」
尾形さんは返事をしない。
諦めて一歩前に出ると、中にいる人たち全員の視線が集中した。
私は小さく深呼吸をしてから挨拶をする。
「夢主と申します。狙撃と家事が得意でして、皆様のお力になれればと思います。何卒宜しくお願い致します。」
改まって挨拶をすると、土方さんは微笑みながら「いい子じゃないか。」と尾形さんに言っていたが、尾形さんはフン、と馬鹿にしたように笑っていた。
相変わらず自分以外が私を褒めると気に入らない様子。
「で、こっちの兄ちゃんは?」
牛山さんが尾形さんへ視線を移す。
尾形さんは前髪をなで上げながら短く返答した。
「……尾形だ。」
呆れた。
それで自己紹介になると思っているのかこの人は。
私は尾形さんの代わりに紹介をすることにした。
「こちらは尾形百之助上等兵です。狙撃の達人でございまして、土方さんもご存じの通り腕は確かです。私たち、元々は鶴見中尉率いる第7師団におりましたが、現在は脱走兵扱いです。」
「ほう、なかなかやるなあ嬢ちゃん。」
牛山さんから感嘆の声があがった。
「……恐れ入ります。」
優秀なのは尾形さんなのだが、そこらへんを説明するのは蛇足だろうと受け流す。
土方さんが茨戸であったことを説明し、そこで尾形さんと私が得た刺青人皮と交換に用心棒としてこの一味に入ることを伝えた。
「腕が確かなら良いけどよ。」
牛山さんは尾形さんの腕を疑っている。
見せつけてやろうか、と尾形さんが銃を構えようとするのを慌てて止める。
永倉さんがその様子を見て、「この者の腕は確かだ。」と短く答えるとひとまず牛山さんは納得したようだった。
改めて土方さんが全員の紹介をしてくれた。
剣術の永倉さん、パワーの牛山さん、そして医者の家永さん。
ずっと黙っていた家永さんは紹介をされると尾形さんに声をかけた。
「尾形さん、よろしければ、わたくしが腕のお怪我を診ましょうか。」
確かに私の応急処置では十分ではなかったかもしれない。
私も家永さんの申し出には賛成だった。
しかし尾形さんはいらないと一言で終わらせてしまった。
「ちょっと尾形さん、手当てしてもらった方が良いですよ。」
「……いい。」
「え、なんで……」
「お前がやったので十分だ。」
「そんなわけないですよ。」
この人どういうつもりなんだろう。
あまりしつこくしても怒られるだろうから、それ以上は何も言えなかった。
そのやり取りをみていた家永さんは、何故かくすくすと笑っていた。
「賑やかになったのは良いことだな。よろしく頼むぞ、尾形、夢主。」
土方さんは満足そうに笑って部屋の奥にあった、自分の定位置なのだろう、窓際の椅子に深く腰掛けた。
「よろしくお願いいたします。」
「……。」
私は深々と頭を下げたが、尾形さんは何も言わなかった。
この人社会性なさすぎ。
そんなこんなで土方組に入れてもらった私たち。
何日かすると皆と仲良くなれてきた。
土方さん、永倉さんと一緒にいると私たちは正直おじいちゃんと孫にしか見えないだろう。
その見た目を有効利用して、街での聞き込みをしたこともあった。
牛山さんは最初の方こそ本気か嘘かわからないが口説いてきた。しかしその度に尾形さんが失礼なことを言って割って入ってきた。
失礼なこととはもちろん牛山さんに対してではなく、私に対してだ。
たとえば、「この女は牙をむくぞ」「こいつといるより遊女でも抱いた方が良い」「この女ほど厄介な女はいない」などなど。
尾形さんは、私が未来人だということ以外何を知っているんだ!と叫びたくなったが、言うわけにはいかない。
ぐっと堪える日々だった。
牛山さんは尾形さんがそうやって入ってきて私の悪口を言うのが気の毒に思ったのだろう、尾形さんの前でそういった絡み方をすることは減った。
もちろん二人になると真面目な顔でヤらないかと聞いてくるので節操がないなとも思ったが。
家永さんはマジで美人。
これで男だというのだから信じられない。
脳みそを開いて手術の実験をしたり、自分の美しくありたいところを人を殺して奪っていたりとなかなかサイコパスな一面があるらしく「あまり近づくと殺されかねんぞ」と牛山さんに冗談交じりに言われたが、全く冗談に聞こえなかった。
しかし家永さんは私には基本的に優しくて頼りになるお姉さん、といった感じだったため、私も信頼して接することができた。女友達ができたような気分だったし、実際仲良くなれたと思う。
私も医療を学びたかったので、怪我をしていた家永さんの看病をしながら医学を教えてもらったりもした。
なんとなく形だけでも皆と仲良くなれた私と違って、尾形さんは常に一線を引いている。
いまだかつて尾形さんが心を許している人を見たことがない。
しかしここの人たちはコミュニケーションが取れなくても情報集めや銃の腕があれば皆なんだかんだ認めてくれる空気だったので、そういう意味では尾形さんの居心地は良さそうだった。
ここでは他人の眼があるからか、最近は尾形さんの抱き枕にされることがなくて、私は久々にのんびりと眠ることができて嬉しかった。
【あとがき:欲求不満尾形】