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第二十話 尾形視点
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第二十話 尾形視点
母が作るあんこう鍋と勇作の話をした日、夢主は俺を受け入れると言った。
その言葉が俺をどれだけ救ったかあいつは分かっているのだろうか。
今まで感じたことのない幸福感を噛みしめてその日は寝た。
朝起きるまで、あいつの手のぬくもりをずっと感じていた。
しかし、今までずっと愛情を否定してひねくれて生きてきた人生、ちょっとくらい優しくされた程度では俺は変われなかった。
次の日にはもう、刺青人皮を探すことに頭がいっぱいだった。
否、意識して頭をいっぱいにしておかないと、立ち止まってしまいそうだったからだ。
俺にはなんとしてでも金塊を探す理由があった。
それなのにここで夢主と全て投げ出して終わりにしても良い、と頭の片隅に一瞬でも浮かんだからこれには自分でも驚いた。
情報収集をしたかったので、花街に行った。
女連れで来たせいでかなり目立ってしまったので夢主を連れてきたのは失敗だったか、と少し後悔したが、あいつはキョロキョロしながらも大人しくついてきた。
本当にこんなちんちくりんな未来人が俺を受け入れる気でいるのだろうかと少し疑ってしまう。
花街に女連れで来る変態扱いされているのは分かっていたが、二人で野宿するよりはマシだと思った。
今こいつと野宿なんかしようもんなら、完全に絆されてしまう。
花街では基本的に口の堅そうな知的な女、更に金で黙るタイプの女を選んだ。
そういうタイプの女を見つけては、変わった刺青の客、またはそれを探している奴を聞き出して、お駄賃をやった。
夢主は俺がただ女遊びを始めたと思っているようで時折冷めた目で見てくるが、それでも毎回あいつは最初から別室などということはせず、頃合いを見計らって出ていく。
初めのうちこそ、何度もなぜこんなことをするのか聞いてきたが、それは抗議の意味というよりは純粋な疑問からのようで、俺に対する執着心があるのかないのかはっきりしない。
普通の女なら怒って逃げ出すだろうに。
そしてほかの遊女が耳打ちしてきたのだが、どうやら夢主は退出したあと別室で勉強や訓練をしているらしい。
そんな変わった女子が好みなのか、と少し馬鹿にしたように聞いてきた遊女もいたが、俺からすれば夢主のしたたかさ、曲がりなさは感心するほかない。
その人並外れた努力、したたかさ、真っすぐさがあいつの長所だ。
勇作のように清いままでいたいのかと思えば、以前兵舎で侵入者に襲われたときは簡単に人を刺した。
勇作のように勇ましくありたいのかと思えば、今のように一歩引いて自分のやるべきことに集中できる。
なぜか俺は無意識のうちに女の夢主を勇作と比べがちだが、いくら比べても夢主は勇作とは違った。
いつものように口の堅そうな女を呼びつけ情報を仕入れていた。今回は当たりだったようだ。
元新撰組の土方とほかにも不敗の牛山と思われる特徴のある集団が刺青人皮を追っているとのこと。
あの土方が生きているとは驚いた。
……その一味に加わるのは悪くなさそうだ。
今日は収穫があったのでいつもよりも多めにお駄賃をやって女を追い出す。
しかし、問題は隣の部屋だ。
誰かが覗き見しているようで、人の気配がわずかに感じる。
撃ち殺してやっても良かったが、余計な注目を集めてせっかく握った情報を無駄にしたくない。
仕方がないので今日は寝ることにした。
こんな気配を出してくるやつ相手なら、たとえ寝込みに襲われても対応くらいはできるだろう。
すると、突然隣の部屋の襖が勢いよく開いた。
そこにいたのは今にも泣きだしそうな顔をした夢主だった。
遊女と遊んでいるときの俺の目の前ではすました顔をしていたくせに、今更泣き面を見せてくるとは、こいつの感情はよくわからん。
なんだお前か、と呟くが、内心はほっとした。
やっと誤解が解けたか、どうだ?俺はお前を裏切ったりしてないぞ、と言ってやりたかったが、生憎そんな茶目っ気のあることを言えるほど俺は洒落た人間ではなかった。
俺の行動は夢主を散々悩ませただろうに、夢主はほっとしたように笑っていて、俺もつられて笑ってしまう。
しかしほっとしたのもつかの間、夢主は別室で寝ようとする。
なんとよそよそしい。
自慢ではないが大体の女、ましてや「愛す」と宣言した女なら喜んで抱かれにくると思っていたので驚いた。
愛すなどと偉そうなこと言っておいて抱かれる気がないとはこれまた厄介だ。
まあ、夢主が思い通りにならないのはいつものことなので、今はまだそのときじゃないなら我慢してやろう。
その代わりいつかは思い知らせてやるからな、と心に決めて、俺は夢主を抱きしめるようにして寝た。
【あとがき:お互い思い通りにならない。】
母が作るあんこう鍋と勇作の話をした日、夢主は俺を受け入れると言った。
その言葉が俺をどれだけ救ったかあいつは分かっているのだろうか。
今まで感じたことのない幸福感を噛みしめてその日は寝た。
朝起きるまで、あいつの手のぬくもりをずっと感じていた。
しかし、今までずっと愛情を否定してひねくれて生きてきた人生、ちょっとくらい優しくされた程度では俺は変われなかった。
次の日にはもう、刺青人皮を探すことに頭がいっぱいだった。
否、意識して頭をいっぱいにしておかないと、立ち止まってしまいそうだったからだ。
俺にはなんとしてでも金塊を探す理由があった。
それなのにここで夢主と全て投げ出して終わりにしても良い、と頭の片隅に一瞬でも浮かんだからこれには自分でも驚いた。
情報収集をしたかったので、花街に行った。
女連れで来たせいでかなり目立ってしまったので夢主を連れてきたのは失敗だったか、と少し後悔したが、あいつはキョロキョロしながらも大人しくついてきた。
本当にこんなちんちくりんな未来人が俺を受け入れる気でいるのだろうかと少し疑ってしまう。
花街に女連れで来る変態扱いされているのは分かっていたが、二人で野宿するよりはマシだと思った。
今こいつと野宿なんかしようもんなら、完全に絆されてしまう。
花街では基本的に口の堅そうな知的な女、更に金で黙るタイプの女を選んだ。
そういうタイプの女を見つけては、変わった刺青の客、またはそれを探している奴を聞き出して、お駄賃をやった。
夢主は俺がただ女遊びを始めたと思っているようで時折冷めた目で見てくるが、それでも毎回あいつは最初から別室などということはせず、頃合いを見計らって出ていく。
初めのうちこそ、何度もなぜこんなことをするのか聞いてきたが、それは抗議の意味というよりは純粋な疑問からのようで、俺に対する執着心があるのかないのかはっきりしない。
普通の女なら怒って逃げ出すだろうに。
そしてほかの遊女が耳打ちしてきたのだが、どうやら夢主は退出したあと別室で勉強や訓練をしているらしい。
そんな変わった女子が好みなのか、と少し馬鹿にしたように聞いてきた遊女もいたが、俺からすれば夢主のしたたかさ、曲がりなさは感心するほかない。
その人並外れた努力、したたかさ、真っすぐさがあいつの長所だ。
勇作のように清いままでいたいのかと思えば、以前兵舎で侵入者に襲われたときは簡単に人を刺した。
勇作のように勇ましくありたいのかと思えば、今のように一歩引いて自分のやるべきことに集中できる。
なぜか俺は無意識のうちに女の夢主を勇作と比べがちだが、いくら比べても夢主は勇作とは違った。
いつものように口の堅そうな女を呼びつけ情報を仕入れていた。今回は当たりだったようだ。
元新撰組の土方とほかにも不敗の牛山と思われる特徴のある集団が刺青人皮を追っているとのこと。
あの土方が生きているとは驚いた。
……その一味に加わるのは悪くなさそうだ。
今日は収穫があったのでいつもよりも多めにお駄賃をやって女を追い出す。
しかし、問題は隣の部屋だ。
誰かが覗き見しているようで、人の気配がわずかに感じる。
撃ち殺してやっても良かったが、余計な注目を集めてせっかく握った情報を無駄にしたくない。
仕方がないので今日は寝ることにした。
こんな気配を出してくるやつ相手なら、たとえ寝込みに襲われても対応くらいはできるだろう。
すると、突然隣の部屋の襖が勢いよく開いた。
そこにいたのは今にも泣きだしそうな顔をした夢主だった。
遊女と遊んでいるときの俺の目の前ではすました顔をしていたくせに、今更泣き面を見せてくるとは、こいつの感情はよくわからん。
なんだお前か、と呟くが、内心はほっとした。
やっと誤解が解けたか、どうだ?俺はお前を裏切ったりしてないぞ、と言ってやりたかったが、生憎そんな茶目っ気のあることを言えるほど俺は洒落た人間ではなかった。
俺の行動は夢主を散々悩ませただろうに、夢主はほっとしたように笑っていて、俺もつられて笑ってしまう。
しかしほっとしたのもつかの間、夢主は別室で寝ようとする。
なんとよそよそしい。
自慢ではないが大体の女、ましてや「愛す」と宣言した女なら喜んで抱かれにくると思っていたので驚いた。
愛すなどと偉そうなこと言っておいて抱かれる気がないとはこれまた厄介だ。
まあ、夢主が思い通りにならないのはいつものことなので、今はまだそのときじゃないなら我慢してやろう。
その代わりいつかは思い知らせてやるからな、と心に決めて、俺は夢主を抱きしめるようにして寝た。
【あとがき:お互い思い通りにならない。】