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第十九話 遊郭
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第十九話 遊郭
あの晩の告白、というか自白、というか……尾形さんの過去の話をされてから、尾形さんの私の扱いが変わった。
親睦を深めて距離が縮まった、――と思いきや、そうではないんです。
なぜか、あの日から尾形さんは野宿をやめて、宿をとったり街で遊び始めた。
普通の宿なら良いですよ?野宿は寒いですし危険ですから、文明のあるところで眠れるのは喜ばしいことです。
しかし尾形さんが連れて行ってくれるのが花街といいますか……夜の街なんですよ!
しかも私を連れて!
彼女連れで女遊びをするなんて……とみんな気の毒そうに私を見てくる。
人によってはどうしてそんな彼といるのとこそこそ聞いてくる女の人がいて、こちらが聞きたいわ!!と叫びたくなるのを必死に抑えた。
そもそも、付き合ってるわけではないから私に答える権利がない。
否定したいが面倒なので閉口し、周りの人からの視線には耐える他なかった。
むしろこっちから尾形さんには何度も理由を聞いているが、尾形さんの表情は変わらないし返事もない。
どういうつもりなのだろうかと困り果てた。
あとね、地味に尾形さんのお金の出所が分からなくて怖い。
上等兵ってこんなにお金もらえるのってくらい毎回そこそこなところに泊まる。
銃にお金かかるのだからやめようと言っても、酔っぱらった尾形さんは俺は外さないから弾も減らないとヘラヘラと笑うので呆れた。
今日も通された大きい御座敷の中心で、彼は女の人をたくさん侍らせて、相変わらず少し憎たらしい笑みを浮かべて酒を飲む。
暑いから……と胸元を開けた尾形さんが、煌びやかな着物を着崩した女の人と腕を組みながらお酒を飲むその姿は、なんだか女の人が引き立て役に見えてしまうくらいに色っぽい。
私もいつも通りお座敷の端っこに座って、尾形さんにたまに話しかけられると適当に返事をしてお酒をいただく。
お酒を飲めるからいいんだけどさ、こんな絵を見ながら飲むくらいなら一人で飲みたかった。
――もしかして、私がどんな尾形さんでも愛すとか酔った勢いで(本心だけど)言ったせいで、試しているのだろうか?
そういう駆け引きは健全じゃないなぁ、と勝手に解釈して顔をしかめるも、ここで一緒に拗れた恋愛ごっこをやっている場合ではない。
尾形さんが花街通いを始めてから、私は体がなまらないよう、時々席を外して訓練したり、明かりを借りてロシア語や医学を勉強することにしていた。
そもそも、こういうお店がただ女の人とお話とお酒を楽しむだけの店ではないのは、生娘じゃない私はわかっている。
奥の部屋には布団とかあって、まあなんだ、男女がそろえばそういうところなのだ。
なので邪魔をしないように私は頃合いを見計らって席を外した。
その後尾形さんはいつも女の人の中でも一番賢そうな人を連れて、その部屋に入る。
彼の好みは知的な人なのか、と少し残念な気持ちになる。
私は正直勉強が得意ではない。今は必要に迫られて必死に勉強しているけれども。
男の人はたまには発散しないといけないのだろう、と勝手に理由をつけて彼のプライベートには立ち入らないようにした。
あの重い過去を私に話してくれただけでも、私には勿体ないほどに大切な思い出の詰まった情報だったからそれで充分だと自分を納得させた。
今日もいつものように、頃合いを見計らって別室をお借りできますかとお店の人に聞き荷物を持って出る。
尾形さんはいつも私が出ていくのをじっと見ていて、でも絶対に何か言うことはなくそのまま見送るのだ。
案内してくれた女の人は、部屋へ行くまでの道のりで「何であんな遊び人と付き合ってるの?いくら顔が良くてもやめなさいよ、苦労してるでしょ?早く別れちゃいな。私の昔の彼氏もね……」と長々と忠告してくれた。
ああ、顔がいいのか。やっと尾形さんの周りからの良い評価が見えた。
そんなことがなんだか嬉しく感じるのだから私もかなりこじらせている。
私はまだまだ話し足りない様子の女の人に曖昧に微笑んでお礼を言って部屋に入る。
小さな部屋だが落ち着いて勉強ができそうだと思って、医学書を広げた。
しかし、しばらくして気づいた。
今日の店の人はいじわるだったようだ。
他のお店では、「彼女連れで来て遊女を抱く狂った性癖の男」から離れた部屋を用意してくれたが、今日は尾形さんがいる座敷のすぐ隣の部屋のようだ。
聞き覚えのある声と女性たちのにぎやかな話し声が聞こえてきた。
入り組んだ廊下だったから気づかなかったが、角を何回か曲がっていた気がする。
つまりぐるっと回って、元の部屋の近くに案内されてしまったようだ。
長々と忠告してくれたので話に気を取られて全く気がつかなかった。
参ったな……これじゃあ尾形さんの夜の生活まで知ってしまう……。
いやいや確かに私は愛すとは言ったけど、そういう愛し方はちょっとできる自信が……と思っていると、急に騒がしい声が消えた。
何人もいた遊女たちが退出したようだ。
今日の賢い女子はどの子になったのだろう、と話声が聞こえてくるのを待つ。
いや待てよ。
このまま甘ったるい声とか聞こえてきたら、さすがに私も気分が悪いな……と思って外に出ようと静かに荷物をまとめていると、思っていたのとは違う声がした。
――刺青のことを聞いてる。
そして女の人からいくつも情報を引き出すと、尾形さんは口止め料のお金を払った。
今日は気乗りしないが抱いたことにしといてくれ、と追加でお駄賃もあげていた。
はああ?わざわざ、こんなことしてたの。
いや、確かにここでは現代のようにインターネットで調べてすぐわかる時代ではない。
情報がものをいう世界だからお金を惜しまなかったのか。
この調子だと今までのお店でもきっと女の人を抱いてないな。
女の人から情報を聞き出した尾形さんはその後一言も女の人と話さなかった。
1時間ほどだろうか。少し時間がたってから女の人はお帰りまでに適当に寝床を乱しておいてくださいと伝えて出て行った。
その後尾形さんが奥の部屋で一人で寝ようとするので、たまらず襖をあけて突撃する。
「ちょっと!尾形さん!」
「なんだ、覗き野郎がいるから話を切り上げたのに、お前だったのか。」
尾形さんはため息をつく。
私が色々気を使っていたのは何だったのだと詰め寄る。
「なんで教えてくれないんですか。私てっきり絶倫で浮気趣味の尾形さんが毎晩毎晩女の人抱いてると思ってすごく気遣ったのに!!」
「馬鹿野郎。」
「イテッ」
はしたない言葉を言い過ぎたので、おでこをバチンとデコピンされた。
「俺がそんなことするかよ、馬鹿。」
「何度もバカバカ言わないでくださいよ。」
ほっとしたのとムカムカしたので、感情がぐちゃぐちゃになる。
悩んでいたこと自体がもう全部馬鹿らしくなって、笑ってしまっていたが。
どういう感情なのかわからないが、つられて尾形さんも少し笑っていた。
尾形さんはそのまま奥の部屋の布団に転がる。
そして布団をめくって、隣をポンポンと叩いた。
「バレたならしょうがねーな。ほら、寝るぞ。」
「え。いいです別にさっきの隣の部屋空けてもらってますもん。」
急な展開に頭が追いつかず、つい冷たい態度を取ってしまった。
「お前なぁ……。」
呆れた様子の尾形さん。
でも天の邪鬼な私は、愛すとは言ったけどそういうのはちょっと……と、ごねて見せる。
しかし尾形さんに不意打ちで足を払われて倒れこんだ。
「わぁ!?ちょっと!乱暴!」
ぼす、と布団に倒れるとそのまま布団を被せて尾形さんは寝る体勢に入る。
ああ良かった抱かれるわけじゃないようだ、とほっとしている自分に気付く。
無茶苦茶だけど、愛情はあるのに抱かれる気分じゃないという己の我儘さに驚く。
そんな私も受けとめてくれている尾形さん。
散々振り回されたけど、許してあげちゃおうかな、なんて思うのだから私も甘いな。
後ろから抱き枕にされながら、私は寝ることにした。
「おやすみなさい、尾形さん。」
「ん。」
【あとがき:ヒロインにNTR趣味がなくてよかった。】
あの晩の告白、というか自白、というか……尾形さんの過去の話をされてから、尾形さんの私の扱いが変わった。
親睦を深めて距離が縮まった、――と思いきや、そうではないんです。
なぜか、あの日から尾形さんは野宿をやめて、宿をとったり街で遊び始めた。
普通の宿なら良いですよ?野宿は寒いですし危険ですから、文明のあるところで眠れるのは喜ばしいことです。
しかし尾形さんが連れて行ってくれるのが花街といいますか……夜の街なんですよ!
しかも私を連れて!
彼女連れで女遊びをするなんて……とみんな気の毒そうに私を見てくる。
人によってはどうしてそんな彼といるのとこそこそ聞いてくる女の人がいて、こちらが聞きたいわ!!と叫びたくなるのを必死に抑えた。
そもそも、付き合ってるわけではないから私に答える権利がない。
否定したいが面倒なので閉口し、周りの人からの視線には耐える他なかった。
むしろこっちから尾形さんには何度も理由を聞いているが、尾形さんの表情は変わらないし返事もない。
どういうつもりなのだろうかと困り果てた。
あとね、地味に尾形さんのお金の出所が分からなくて怖い。
上等兵ってこんなにお金もらえるのってくらい毎回そこそこなところに泊まる。
銃にお金かかるのだからやめようと言っても、酔っぱらった尾形さんは俺は外さないから弾も減らないとヘラヘラと笑うので呆れた。
今日も通された大きい御座敷の中心で、彼は女の人をたくさん侍らせて、相変わらず少し憎たらしい笑みを浮かべて酒を飲む。
暑いから……と胸元を開けた尾形さんが、煌びやかな着物を着崩した女の人と腕を組みながらお酒を飲むその姿は、なんだか女の人が引き立て役に見えてしまうくらいに色っぽい。
私もいつも通りお座敷の端っこに座って、尾形さんにたまに話しかけられると適当に返事をしてお酒をいただく。
お酒を飲めるからいいんだけどさ、こんな絵を見ながら飲むくらいなら一人で飲みたかった。
――もしかして、私がどんな尾形さんでも愛すとか酔った勢いで(本心だけど)言ったせいで、試しているのだろうか?
そういう駆け引きは健全じゃないなぁ、と勝手に解釈して顔をしかめるも、ここで一緒に拗れた恋愛ごっこをやっている場合ではない。
尾形さんが花街通いを始めてから、私は体がなまらないよう、時々席を外して訓練したり、明かりを借りてロシア語や医学を勉強することにしていた。
そもそも、こういうお店がただ女の人とお話とお酒を楽しむだけの店ではないのは、生娘じゃない私はわかっている。
奥の部屋には布団とかあって、まあなんだ、男女がそろえばそういうところなのだ。
なので邪魔をしないように私は頃合いを見計らって席を外した。
その後尾形さんはいつも女の人の中でも一番賢そうな人を連れて、その部屋に入る。
彼の好みは知的な人なのか、と少し残念な気持ちになる。
私は正直勉強が得意ではない。今は必要に迫られて必死に勉強しているけれども。
男の人はたまには発散しないといけないのだろう、と勝手に理由をつけて彼のプライベートには立ち入らないようにした。
あの重い過去を私に話してくれただけでも、私には勿体ないほどに大切な思い出の詰まった情報だったからそれで充分だと自分を納得させた。
今日もいつものように、頃合いを見計らって別室をお借りできますかとお店の人に聞き荷物を持って出る。
尾形さんはいつも私が出ていくのをじっと見ていて、でも絶対に何か言うことはなくそのまま見送るのだ。
案内してくれた女の人は、部屋へ行くまでの道のりで「何であんな遊び人と付き合ってるの?いくら顔が良くてもやめなさいよ、苦労してるでしょ?早く別れちゃいな。私の昔の彼氏もね……」と長々と忠告してくれた。
ああ、顔がいいのか。やっと尾形さんの周りからの良い評価が見えた。
そんなことがなんだか嬉しく感じるのだから私もかなりこじらせている。
私はまだまだ話し足りない様子の女の人に曖昧に微笑んでお礼を言って部屋に入る。
小さな部屋だが落ち着いて勉強ができそうだと思って、医学書を広げた。
しかし、しばらくして気づいた。
今日の店の人はいじわるだったようだ。
他のお店では、「彼女連れで来て遊女を抱く狂った性癖の男」から離れた部屋を用意してくれたが、今日は尾形さんがいる座敷のすぐ隣の部屋のようだ。
聞き覚えのある声と女性たちのにぎやかな話し声が聞こえてきた。
入り組んだ廊下だったから気づかなかったが、角を何回か曲がっていた気がする。
つまりぐるっと回って、元の部屋の近くに案内されてしまったようだ。
長々と忠告してくれたので話に気を取られて全く気がつかなかった。
参ったな……これじゃあ尾形さんの夜の生活まで知ってしまう……。
いやいや確かに私は愛すとは言ったけど、そういう愛し方はちょっとできる自信が……と思っていると、急に騒がしい声が消えた。
何人もいた遊女たちが退出したようだ。
今日の賢い女子はどの子になったのだろう、と話声が聞こえてくるのを待つ。
いや待てよ。
このまま甘ったるい声とか聞こえてきたら、さすがに私も気分が悪いな……と思って外に出ようと静かに荷物をまとめていると、思っていたのとは違う声がした。
――刺青のことを聞いてる。
そして女の人からいくつも情報を引き出すと、尾形さんは口止め料のお金を払った。
今日は気乗りしないが抱いたことにしといてくれ、と追加でお駄賃もあげていた。
はああ?わざわざ、こんなことしてたの。
いや、確かにここでは現代のようにインターネットで調べてすぐわかる時代ではない。
情報がものをいう世界だからお金を惜しまなかったのか。
この調子だと今までのお店でもきっと女の人を抱いてないな。
女の人から情報を聞き出した尾形さんはその後一言も女の人と話さなかった。
1時間ほどだろうか。少し時間がたってから女の人はお帰りまでに適当に寝床を乱しておいてくださいと伝えて出て行った。
その後尾形さんが奥の部屋で一人で寝ようとするので、たまらず襖をあけて突撃する。
「ちょっと!尾形さん!」
「なんだ、覗き野郎がいるから話を切り上げたのに、お前だったのか。」
尾形さんはため息をつく。
私が色々気を使っていたのは何だったのだと詰め寄る。
「なんで教えてくれないんですか。私てっきり絶倫で浮気趣味の尾形さんが毎晩毎晩女の人抱いてると思ってすごく気遣ったのに!!」
「馬鹿野郎。」
「イテッ」
はしたない言葉を言い過ぎたので、おでこをバチンとデコピンされた。
「俺がそんなことするかよ、馬鹿。」
「何度もバカバカ言わないでくださいよ。」
ほっとしたのとムカムカしたので、感情がぐちゃぐちゃになる。
悩んでいたこと自体がもう全部馬鹿らしくなって、笑ってしまっていたが。
どういう感情なのかわからないが、つられて尾形さんも少し笑っていた。
尾形さんはそのまま奥の部屋の布団に転がる。
そして布団をめくって、隣をポンポンと叩いた。
「バレたならしょうがねーな。ほら、寝るぞ。」
「え。いいです別にさっきの隣の部屋空けてもらってますもん。」
急な展開に頭が追いつかず、つい冷たい態度を取ってしまった。
「お前なぁ……。」
呆れた様子の尾形さん。
でも天の邪鬼な私は、愛すとは言ったけどそういうのはちょっと……と、ごねて見せる。
しかし尾形さんに不意打ちで足を払われて倒れこんだ。
「わぁ!?ちょっと!乱暴!」
ぼす、と布団に倒れるとそのまま布団を被せて尾形さんは寝る体勢に入る。
ああ良かった抱かれるわけじゃないようだ、とほっとしている自分に気付く。
無茶苦茶だけど、愛情はあるのに抱かれる気分じゃないという己の我儘さに驚く。
そんな私も受けとめてくれている尾形さん。
散々振り回されたけど、許してあげちゃおうかな、なんて思うのだから私も甘いな。
後ろから抱き枕にされながら、私は寝ることにした。
「おやすみなさい、尾形さん。」
「ん。」
【あとがき:ヒロインにNTR趣味がなくてよかった。】