空欄の場合は夢主になります。
第十八話 二人旅
お名前をどうぞ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第十八話 二人旅
こんにちは夢主です。
鶴見中尉から造反を企んでいたことがバレて、私は晴れて正式に脱走兵となりました!
……嬉しくはないけども。
あ、でも谷垣さんを殺さないで済んだのは少し嬉しかった。
これから尾形さんと二人で刺青人皮を探す旅となるが……これがまた気まずい。
「……。」
「……。」
だって尾形さんはあまりしゃべらない。
元々無口だけれども、二人きりなのに親睦を深めようとかはないのかね?
私は一応尾形さんの相棒だと思ってるんですけど?
今日も何度目かの野宿になりそうだと思いながらしょんぼりとしていると、尾形さんが廃屋を見つけてきた。
しかも手にはいつ撃ち落としたのか、見慣れない鳥がいた。
廃屋には昔住んでいた人のものだろう鍋や囲炉裏がそのまま残っていて、私が色々漁っては喜んでいると、尾形さんが料理しておけと言ってくる。
調味料も何もないのに!と怒ると、尾形さんは街に出て少し何かもらってくると言っていなくなってしまった。
確かに鶴見中尉の管轄からかなり離れたところに来たし、兵隊の恰好をしていると街の人々は日露戦争の生き残りとしてかなり優しくしてくれる。
なんなら鶴見中尉の方が反乱分子なので、第七師団なのがバレても最悪誤魔化せる。
この数日間、何度も尾形さんは鳥を撃ち落としてくれたので、食べるものには困らなかった。
その時に何度か鳥の下処理を教えてもらった。
それを思い出してやってみよう……まずは羽をむしって……内臓取ったり血抜きってやつもしなくちゃだめか。
幸い近くに川があったのでそこで下ごしらえをした。
しばらくして尾形さんが戻ってきた。
手には大量の野菜と瓶?
「わあすごい!これなんですか?」
「余った野菜でいいと言ったんだが……あと米と味噌と塩と、酒。」
「お酒!?こんなに?」
お酒なんていつぶりだろう!?
私は嬉しくてついはしゃいでしまう。
尾形さんはそんな私を笑うでもなく無表情で見下ろしていた。
兵舎にいたときにこの時代の料理の仕方はある程度教わっていて本当に良かった。すごく役に立っている。
包丁がないので短剣で野菜の皮を剥いていると、尾形さんが「器用だな」と一言呟く。
褒めているとは思わなかったが、なんだかそれがとても嬉しくて、でへへ……と気持ち悪い笑い方をすることしかできなかった。
尾形さんもある程度は料理ができるらしい。
火の調節や鳥の下処理の甘かったところを手伝ってくれた。
寒いし、暖を取る目的もあったので鍋にした。
「わぁ、おいしそ~!いただきまーす♪」
久々の食事という食事に嬉しくて笑顔が止まらない。
囲炉裏を挟んで向かい合って食べる。
ニコニコしながら食べていると、尾形さんがじっとそれを見ている。
「?どうしたんですか」
その視線に気づいて問いかけると、尾形さんがフン、と笑ってお酒の入った瓶を取り出した。
「飲むか。」
「やったー!」
「……お前、成人してたのか。」
「え?元の世界ではたっくさん飲んでましたよ。」
「……もっと若く見えた。」
「えー?褒めても何も出ませんよう?あ、お酌しますよ!」
ニヤニヤしてしまうのは、お酒が楽しみなせいか、はたまた若いとおだてられたせいか。
いそいそと尾形さんの隣に座ると、適当な器にお酒を注ぐ。
初対面時の緊張感を思い出すと、尾形さんと二人でお酒を飲める日が来るなんて考えられなかった。
幸せを噛みしめて、鍋は二人でたいらげた。
お酒も大分減ってきた。
「ふぅ美味しかったぁ!ごちそうさまでした。」
「……なあ。」
「?」
「あんこう鍋、食ったことあるか。」
ほんのり赤くなった顔で、尾形さんが話し始める。
どこか表情が寂しそうで、私は一瞬驚いてしまう。
普段はまともな会話なんてないから、酔っているせいにして話したいのだろうと思う。
それならば私も酔っているふり、をしてあげよう。
「ないですねぇ。」
「……俺の母はよく作った。」
ぽつりぽつりと尾形さんが話し始める。
元浅草芸者の母は、尾形さんの父、花沢中将が帰ってくると信じて、美味しいと言ってくれたあんこう鍋を作れる時期は毎日毎日作ったのだという。
尾形さんがどれだけ鳥を獲ろうと、毎日だそうだ。
同じ女として少しだけ気持ちがわかってしまいそうで切なくなる。
それほどまでに好いていたのだな……と思いながら黙って聞く。
「……俺には弟がいる。」
「あー、勇作さん、でしたっけ。」
兵の人たちから尾形さんの悪口と一緒に勇作さんの話は何度か聞いたことがあった。
尾形さんは、その勇作さんがいかに素晴らしいかをひたすらに語った。
彼の見た目から育ち、言動、行動すべてを並べる。
勇作さんがどれだけ優秀で、どれだけ清く、どれだけ勇敢だったか。
だがそれは純粋な誉め言葉ではなく、すべてが尾形さんへの裏返しの言葉、つまり自分に対する悪口。自虐の一種だと私はわかった。
ごく……と静かに酒を飲み込むと、尾形さんは「そんな奴を、勇作を、俺が殺した。」と低く呟いた。
いつもより低く静かな声が小屋の中に響いた気がした。
戦争の中でどさくさに紛れて撃ったそうだ。
兵の皆は戦争中に流れ弾に当たったと言っていたので、真相を知るものは恐らく少ない。
尾形さんのその声の低さは殺すことに躊躇があったからではない。
落胆しているからだ。
優秀な彼が亡くなったら次は尾形さんが祝福されると思ったらしい。
しかし勇作さんの死の真実を知っても父である花沢中将は、尾形さんを祝福し受け入れることはなかったそうだ。
そのため、花沢中将を自害に見せかけて殺したそうだ。
酒を飲み干して、ふぅ、とため息をついた尾形さんは私の横でゴロンと仰向けになる。
その顔は赤く火照っていて妙に色気がある。
「俺も、勇作のように女も知らず、人も殺さず清く生きていれば……罪悪感があれば、祝福されることはあったんだろうか……。」
眠そうに呟いている尾形さん。
彼のゆっくりとした呼吸が静かな空間に響く。まるで深い悪夢の中で苦しんでいるようだった。
私はすぐ横にある尾形さんの手を握った。
「ねえ尾形さん。」
「……。」
尾形さんは起き上がる様子はなく、こちらをちらり、と見る。
彼は手を振り払うこともしなかった。
「私が祝福しますよ。私は尾形さんがどんなに穢れていようと、どんなに歪んでいようとも、関係ありませんからね。」
「ははっ、お前がか……。」
尾形さんは自由な方の腕で顔を隠すように覆う。
口元だけが見えて、にんまりと笑っていた。
「聞いていたでしょう?誰も愛さないなら、私が愛します。」
彼はこちらを見ていないけれど、私はまっすぐに尾形さんを見る。
そして握った手に力を込め、以前の言葉は決して嘘ではないと改めて伝える。
「……夢主、お前は……いや、なんでもねえ。」
また一つ、何かを言おうとした尾形さんだったが話すのを止めた。
そして今度こそ本当に眠ってしまったようだ。
手を離そうとしても、ぎゅ、と握ったまま尾形さんは寝てしまったので困った。
なるべく彼を起こさないように手を握ったまま、彼の横で眠ることにした。
【あとがき:親睦会という名の尾形過去編消化】
こんにちは夢主です。
鶴見中尉から造反を企んでいたことがバレて、私は晴れて正式に脱走兵となりました!
……嬉しくはないけども。
あ、でも谷垣さんを殺さないで済んだのは少し嬉しかった。
これから尾形さんと二人で刺青人皮を探す旅となるが……これがまた気まずい。
「……。」
「……。」
だって尾形さんはあまりしゃべらない。
元々無口だけれども、二人きりなのに親睦を深めようとかはないのかね?
私は一応尾形さんの相棒だと思ってるんですけど?
今日も何度目かの野宿になりそうだと思いながらしょんぼりとしていると、尾形さんが廃屋を見つけてきた。
しかも手にはいつ撃ち落としたのか、見慣れない鳥がいた。
廃屋には昔住んでいた人のものだろう鍋や囲炉裏がそのまま残っていて、私が色々漁っては喜んでいると、尾形さんが料理しておけと言ってくる。
調味料も何もないのに!と怒ると、尾形さんは街に出て少し何かもらってくると言っていなくなってしまった。
確かに鶴見中尉の管轄からかなり離れたところに来たし、兵隊の恰好をしていると街の人々は日露戦争の生き残りとしてかなり優しくしてくれる。
なんなら鶴見中尉の方が反乱分子なので、第七師団なのがバレても最悪誤魔化せる。
この数日間、何度も尾形さんは鳥を撃ち落としてくれたので、食べるものには困らなかった。
その時に何度か鳥の下処理を教えてもらった。
それを思い出してやってみよう……まずは羽をむしって……内臓取ったり血抜きってやつもしなくちゃだめか。
幸い近くに川があったのでそこで下ごしらえをした。
しばらくして尾形さんが戻ってきた。
手には大量の野菜と瓶?
「わあすごい!これなんですか?」
「余った野菜でいいと言ったんだが……あと米と味噌と塩と、酒。」
「お酒!?こんなに?」
お酒なんていつぶりだろう!?
私は嬉しくてついはしゃいでしまう。
尾形さんはそんな私を笑うでもなく無表情で見下ろしていた。
兵舎にいたときにこの時代の料理の仕方はある程度教わっていて本当に良かった。すごく役に立っている。
包丁がないので短剣で野菜の皮を剥いていると、尾形さんが「器用だな」と一言呟く。
褒めているとは思わなかったが、なんだかそれがとても嬉しくて、でへへ……と気持ち悪い笑い方をすることしかできなかった。
尾形さんもある程度は料理ができるらしい。
火の調節や鳥の下処理の甘かったところを手伝ってくれた。
寒いし、暖を取る目的もあったので鍋にした。
「わぁ、おいしそ~!いただきまーす♪」
久々の食事という食事に嬉しくて笑顔が止まらない。
囲炉裏を挟んで向かい合って食べる。
ニコニコしながら食べていると、尾形さんがじっとそれを見ている。
「?どうしたんですか」
その視線に気づいて問いかけると、尾形さんがフン、と笑ってお酒の入った瓶を取り出した。
「飲むか。」
「やったー!」
「……お前、成人してたのか。」
「え?元の世界ではたっくさん飲んでましたよ。」
「……もっと若く見えた。」
「えー?褒めても何も出ませんよう?あ、お酌しますよ!」
ニヤニヤしてしまうのは、お酒が楽しみなせいか、はたまた若いとおだてられたせいか。
いそいそと尾形さんの隣に座ると、適当な器にお酒を注ぐ。
初対面時の緊張感を思い出すと、尾形さんと二人でお酒を飲める日が来るなんて考えられなかった。
幸せを噛みしめて、鍋は二人でたいらげた。
お酒も大分減ってきた。
「ふぅ美味しかったぁ!ごちそうさまでした。」
「……なあ。」
「?」
「あんこう鍋、食ったことあるか。」
ほんのり赤くなった顔で、尾形さんが話し始める。
どこか表情が寂しそうで、私は一瞬驚いてしまう。
普段はまともな会話なんてないから、酔っているせいにして話したいのだろうと思う。
それならば私も酔っているふり、をしてあげよう。
「ないですねぇ。」
「……俺の母はよく作った。」
ぽつりぽつりと尾形さんが話し始める。
元浅草芸者の母は、尾形さんの父、花沢中将が帰ってくると信じて、美味しいと言ってくれたあんこう鍋を作れる時期は毎日毎日作ったのだという。
尾形さんがどれだけ鳥を獲ろうと、毎日だそうだ。
同じ女として少しだけ気持ちがわかってしまいそうで切なくなる。
それほどまでに好いていたのだな……と思いながら黙って聞く。
「……俺には弟がいる。」
「あー、勇作さん、でしたっけ。」
兵の人たちから尾形さんの悪口と一緒に勇作さんの話は何度か聞いたことがあった。
尾形さんは、その勇作さんがいかに素晴らしいかをひたすらに語った。
彼の見た目から育ち、言動、行動すべてを並べる。
勇作さんがどれだけ優秀で、どれだけ清く、どれだけ勇敢だったか。
だがそれは純粋な誉め言葉ではなく、すべてが尾形さんへの裏返しの言葉、つまり自分に対する悪口。自虐の一種だと私はわかった。
ごく……と静かに酒を飲み込むと、尾形さんは「そんな奴を、勇作を、俺が殺した。」と低く呟いた。
いつもより低く静かな声が小屋の中に響いた気がした。
戦争の中でどさくさに紛れて撃ったそうだ。
兵の皆は戦争中に流れ弾に当たったと言っていたので、真相を知るものは恐らく少ない。
尾形さんのその声の低さは殺すことに躊躇があったからではない。
落胆しているからだ。
優秀な彼が亡くなったら次は尾形さんが祝福されると思ったらしい。
しかし勇作さんの死の真実を知っても父である花沢中将は、尾形さんを祝福し受け入れることはなかったそうだ。
そのため、花沢中将を自害に見せかけて殺したそうだ。
酒を飲み干して、ふぅ、とため息をついた尾形さんは私の横でゴロンと仰向けになる。
その顔は赤く火照っていて妙に色気がある。
「俺も、勇作のように女も知らず、人も殺さず清く生きていれば……罪悪感があれば、祝福されることはあったんだろうか……。」
眠そうに呟いている尾形さん。
彼のゆっくりとした呼吸が静かな空間に響く。まるで深い悪夢の中で苦しんでいるようだった。
私はすぐ横にある尾形さんの手を握った。
「ねえ尾形さん。」
「……。」
尾形さんは起き上がる様子はなく、こちらをちらり、と見る。
彼は手を振り払うこともしなかった。
「私が祝福しますよ。私は尾形さんがどんなに穢れていようと、どんなに歪んでいようとも、関係ありませんからね。」
「ははっ、お前がか……。」
尾形さんは自由な方の腕で顔を隠すように覆う。
口元だけが見えて、にんまりと笑っていた。
「聞いていたでしょう?誰も愛さないなら、私が愛します。」
彼はこちらを見ていないけれど、私はまっすぐに尾形さんを見る。
そして握った手に力を込め、以前の言葉は決して嘘ではないと改めて伝える。
「……夢主、お前は……いや、なんでもねえ。」
また一つ、何かを言おうとした尾形さんだったが話すのを止めた。
そして今度こそ本当に眠ってしまったようだ。
手を離そうとしても、ぎゅ、と握ったまま尾形さんは寝てしまったので困った。
なるべく彼を起こさないように手を握ったまま、彼の横で眠ることにした。
【あとがき:親睦会という名の尾形過去編消化】