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第十六話 谷垣
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第十六話 谷垣
あのとき尾形さんが負傷した近くの村を探す。
北海道の冬は寒くて険しかった。
仮病を使っていたとはいえ、病み上がりにこれだけ動ける尾形さんは常人じゃないなと思う。
二階堂さんは、もはや杉元さんのことしか興味がない様子。
金塊などくれてやるとよく呟いていた。
しばらく歩くと、アイヌの独特の家が並んだ村が見つかった。
アイヌは私たちを警戒せずに迎え入れてくれた。
人によっては日本語がわかるらしく、私たちの服装を見て、この家にも同じ服を着て怪我をした人間がいると教えてくれたので、家の中で待たせてもらう。
「誰でしょうか……もしかして杉元さん?いや、でも杉元さんはほとんど軍帽だけでしたから違いますかねぇ。」
「行方不明者は玉井伍長、野間、岡田、……あとは谷垣か。」
尾形さんはそう呟くと案内されるがままに家の中へあがった。
「第七師団の人ですかね?」
確かに、軍の人間がいるようだ。
見たことがある武器が立てかけてある。
私はその銃のボルトを引き抜いて尾形さんに渡す。
「手癖の悪い女だなァ?」
「うるさいですよ、尾形さん。」
「ちょっと、イチャつくのやめてもらえます?」
尾形さんは私が少しでも役に立とうと思って色々やると、馬鹿にしたように言ってくる。二人の時はもっとストレートに褒めてくれたのに。
それを二階堂さんがツッコミを入れて終わる。
道中こんなやりとりを何度もやった。
二階堂さんがおばあちゃんの肩を揉んでいる。
私は銃を抱えて猫背になって顔に影を落とす尾形さんの隣で正座をして、怪我人だという軍人を待った。
「シンナキサラ」と入口から聞こえてきた。
村の子の声だろう。
私は思わず姿勢を正す。
帰ってきたのは、なんと谷垣さんだった。
「谷垣源次郎一等卒……」
尾形さんはゆらりと動く。
その顔には笑みが浮かんでいた。
驚いた様子の谷垣さん。
仕掛け弓にかかって負傷して、村の人たちに助けてもらっていたという。
しかし、尾形さんは谷垣さんを信じない。
玉井伍長、野間さん、岡田さん、彼らを殺したのではないかと問いかける。
谷垣さんが銃をチラりと見る。
「いま……自分の銃を見たのか?」
谷垣さんの表情がこわばる。
私が抜いて手渡したボルトを、コンコン、と額に打ち付けて見せる尾形さん。
谷垣さんは殺されると思っているらしく「アイヌの人たちだけは……」と言いかけたところで、尾形さんが冗談だとパッと表情を明るくした。
冗談……?あの尾形さんが、こんな冗談を言うだろうか?どういうつもりだろうか。
私は努めて冷静な顔を保った。
尾形さんが出て行こうとするので、後を追う。
すれ違いざまに尾形さんは不死身の杉元を見たかと問いかける。
答えはNOだった。
それをすんなりと受け入れる尾形さん。
しかし、私は尾形さんの表情に不安を覚えた。
目を見て確信した。……谷垣さんの話信じてないな。
「尾形さん、谷垣さんを殺すんですか?」
「当然だろ。おそらく玉井伍長が谷垣の勧誘に失敗したんだ。」
私は少し気乗りしなかった。
勧誘に失敗したからといって谷垣さんが簡単に人を殺すだろうか?ちょっと疑問だったからだ。
でも、谷垣さんがもしもこちらの動きについて何か知っているなら、私たちに危険が及ぶのは確かだ。
それでも殺す以外の方法があるんじゃないか、と抵抗したくなってしまった。
そのあとすぐに、尾形さんは村が見える高所を取って、谷垣さんを撃った。
「外れたようです。」
二階堂さんが冷静に伝える。
「手っ取り早くあの場で殺してしまえば良かったのでは?」
二階堂さんが問いかける。
尾形さんは表情を変えない。
「あの場でやれば目撃者も殺さなければならん。バアチャン子の俺にそんなことをさせるな。」
「へえ、おばあちゃん子なんですね。知らなかった。」
私の言葉を尾形さんは完璧にスルー。
プライベートを踏み荒らされたくないのだろう。
「夢主、奴をおびき出せ。」
「おびき出せたとして、仕留められますか?」
谷垣さんのために少し時間稼ぎをしてあげよう、と思って尾形さんに質問をする。
尾形さんは銃を構えたまま、こちらに言う。
「この三十年式歩兵銃。ロシア兵の小銃より弾が小さく、2・3発当てても死なんので不殺銃などと言われたが、射程距離と命中率においてはこちらが上だった。」
私も一応銃を構える。
尾形さんは話をつづけた。
「優秀な銃だが、並みの兵士では百メートル先となると相手に致命傷を与えるのは難しい。でも俺は三百メートル以内なら確実に相手の頭を撃ち抜ける。俺と相性が合うというわけだ。」
「それは……凄いですね。」
まぁまぁ時間を稼げたはず。
大丈夫だろうか?
尾形さんはそんな私に気が付いているのかいないのか、不敵に笑みを漏らした。
「そういうわけだからおびき出せ。それともなんだ?谷垣の胸毛にでも惚れたか?」
「そんなわけないでしょ。」
私はムッとしつつ入口付近と窓際を何発か撃つ。
そうすることで出口が限られるからだ。
そろそろ言うことに従わなくては。これ以上尾形さんを待たせるのは危険だ。
「二階堂、しっかり監視しておけ。あの家は出入り口が一か所、窓が三か所、谷垣はそのどれかから逃走するかもしれん。」
私も持っていた双眼鏡で状況を見る。
窓をかぎ針のようなもので塞いでいる様子。
「双眼鏡が反射するぞ」と尾形さんが言いかけたとき、「家の中から双眼鏡でこちらを見ている」と二階堂さんが叫ぶ。
私が撃つまでもなく、尾形さんは谷垣さんの双眼鏡を粉砕した。
しかし悲鳴もないくらいに反応が薄い。
嘘くさいな……と尾形さんはつぶやいた。
次に何か煙の出るものがいくつか投げ捨てられた。
「罠じゃないですか?」
「……やられたな。おそらく死角から逃げた。」
家の反対側が見えるところへ回ると、確かに家に不自然な穴が開いている。
そこから逃げたのだろう。
はぁ、良かった……。
一応表面上だけでも「あーあ」と呟いていると、尾形さんがフードの上から私の頭の上に手を置く。
見上げると、ニヤリと笑みを浮かべていた。
「谷垣狩りだぜ。」
【あとがき:一応原作通りに話を区切ってみた。】
あのとき尾形さんが負傷した近くの村を探す。
北海道の冬は寒くて険しかった。
仮病を使っていたとはいえ、病み上がりにこれだけ動ける尾形さんは常人じゃないなと思う。
二階堂さんは、もはや杉元さんのことしか興味がない様子。
金塊などくれてやるとよく呟いていた。
しばらく歩くと、アイヌの独特の家が並んだ村が見つかった。
アイヌは私たちを警戒せずに迎え入れてくれた。
人によっては日本語がわかるらしく、私たちの服装を見て、この家にも同じ服を着て怪我をした人間がいると教えてくれたので、家の中で待たせてもらう。
「誰でしょうか……もしかして杉元さん?いや、でも杉元さんはほとんど軍帽だけでしたから違いますかねぇ。」
「行方不明者は玉井伍長、野間、岡田、……あとは谷垣か。」
尾形さんはそう呟くと案内されるがままに家の中へあがった。
「第七師団の人ですかね?」
確かに、軍の人間がいるようだ。
見たことがある武器が立てかけてある。
私はその銃のボルトを引き抜いて尾形さんに渡す。
「手癖の悪い女だなァ?」
「うるさいですよ、尾形さん。」
「ちょっと、イチャつくのやめてもらえます?」
尾形さんは私が少しでも役に立とうと思って色々やると、馬鹿にしたように言ってくる。二人の時はもっとストレートに褒めてくれたのに。
それを二階堂さんがツッコミを入れて終わる。
道中こんなやりとりを何度もやった。
二階堂さんがおばあちゃんの肩を揉んでいる。
私は銃を抱えて猫背になって顔に影を落とす尾形さんの隣で正座をして、怪我人だという軍人を待った。
「シンナキサラ」と入口から聞こえてきた。
村の子の声だろう。
私は思わず姿勢を正す。
帰ってきたのは、なんと谷垣さんだった。
「谷垣源次郎一等卒……」
尾形さんはゆらりと動く。
その顔には笑みが浮かんでいた。
驚いた様子の谷垣さん。
仕掛け弓にかかって負傷して、村の人たちに助けてもらっていたという。
しかし、尾形さんは谷垣さんを信じない。
玉井伍長、野間さん、岡田さん、彼らを殺したのではないかと問いかける。
谷垣さんが銃をチラりと見る。
「いま……自分の銃を見たのか?」
谷垣さんの表情がこわばる。
私が抜いて手渡したボルトを、コンコン、と額に打ち付けて見せる尾形さん。
谷垣さんは殺されると思っているらしく「アイヌの人たちだけは……」と言いかけたところで、尾形さんが冗談だとパッと表情を明るくした。
冗談……?あの尾形さんが、こんな冗談を言うだろうか?どういうつもりだろうか。
私は努めて冷静な顔を保った。
尾形さんが出て行こうとするので、後を追う。
すれ違いざまに尾形さんは不死身の杉元を見たかと問いかける。
答えはNOだった。
それをすんなりと受け入れる尾形さん。
しかし、私は尾形さんの表情に不安を覚えた。
目を見て確信した。……谷垣さんの話信じてないな。
「尾形さん、谷垣さんを殺すんですか?」
「当然だろ。おそらく玉井伍長が谷垣の勧誘に失敗したんだ。」
私は少し気乗りしなかった。
勧誘に失敗したからといって谷垣さんが簡単に人を殺すだろうか?ちょっと疑問だったからだ。
でも、谷垣さんがもしもこちらの動きについて何か知っているなら、私たちに危険が及ぶのは確かだ。
それでも殺す以外の方法があるんじゃないか、と抵抗したくなってしまった。
そのあとすぐに、尾形さんは村が見える高所を取って、谷垣さんを撃った。
「外れたようです。」
二階堂さんが冷静に伝える。
「手っ取り早くあの場で殺してしまえば良かったのでは?」
二階堂さんが問いかける。
尾形さんは表情を変えない。
「あの場でやれば目撃者も殺さなければならん。バアチャン子の俺にそんなことをさせるな。」
「へえ、おばあちゃん子なんですね。知らなかった。」
私の言葉を尾形さんは完璧にスルー。
プライベートを踏み荒らされたくないのだろう。
「夢主、奴をおびき出せ。」
「おびき出せたとして、仕留められますか?」
谷垣さんのために少し時間稼ぎをしてあげよう、と思って尾形さんに質問をする。
尾形さんは銃を構えたまま、こちらに言う。
「この三十年式歩兵銃。ロシア兵の小銃より弾が小さく、2・3発当てても死なんので不殺銃などと言われたが、射程距離と命中率においてはこちらが上だった。」
私も一応銃を構える。
尾形さんは話をつづけた。
「優秀な銃だが、並みの兵士では百メートル先となると相手に致命傷を与えるのは難しい。でも俺は三百メートル以内なら確実に相手の頭を撃ち抜ける。俺と相性が合うというわけだ。」
「それは……凄いですね。」
まぁまぁ時間を稼げたはず。
大丈夫だろうか?
尾形さんはそんな私に気が付いているのかいないのか、不敵に笑みを漏らした。
「そういうわけだからおびき出せ。それともなんだ?谷垣の胸毛にでも惚れたか?」
「そんなわけないでしょ。」
私はムッとしつつ入口付近と窓際を何発か撃つ。
そうすることで出口が限られるからだ。
そろそろ言うことに従わなくては。これ以上尾形さんを待たせるのは危険だ。
「二階堂、しっかり監視しておけ。あの家は出入り口が一か所、窓が三か所、谷垣はそのどれかから逃走するかもしれん。」
私も持っていた双眼鏡で状況を見る。
窓をかぎ針のようなもので塞いでいる様子。
「双眼鏡が反射するぞ」と尾形さんが言いかけたとき、「家の中から双眼鏡でこちらを見ている」と二階堂さんが叫ぶ。
私が撃つまでもなく、尾形さんは谷垣さんの双眼鏡を粉砕した。
しかし悲鳴もないくらいに反応が薄い。
嘘くさいな……と尾形さんはつぶやいた。
次に何か煙の出るものがいくつか投げ捨てられた。
「罠じゃないですか?」
「……やられたな。おそらく死角から逃げた。」
家の反対側が見えるところへ回ると、確かに家に不自然な穴が開いている。
そこから逃げたのだろう。
はぁ、良かった……。
一応表面上だけでも「あーあ」と呟いていると、尾形さんがフードの上から私の頭の上に手を置く。
見上げると、ニヤリと笑みを浮かべていた。
「谷垣狩りだぜ。」
【あとがき:一応原作通りに話を区切ってみた。】