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第十四話 杉元が逃げたあと
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第十四話 杉元が逃げたあと
その後、杉元さんが脱走した。
兵舎で火事があった日だ。おそらく杉元さんの仲間が助けに来たのだろう。
詳しいことはどうやったのか分からなかったが、鶴見中尉が言うには、腸を盗んだということだった。
誰の腸が盗まれたのだろうか……と考えていたがすぐに分かった。
二階堂兄弟の洋平さんが、亡くなったのだ。
残された浩平さんは、杉元さんへの復讐心で怒り狂っていた。
ああ、なんて惨いことを。
しかし話を聞けば、見張りが手薄になったときに二階堂兄弟が再度忍び込んで杉元さんを襲い、返り討ちに遭ったとのこと。
あれだけ私が強く二階堂兄弟を追い払ったのに、と悔しく思う。
その後はしばらく仕事三昧だった。
相変わらず兵舎での仕事はあったが、なんだか最近は鶴見中尉の傍で働くことが増えた。
鶴見中尉は私が杉元さんへ治療をした件から特に、私への束縛や視線が強くなった気がする。
どうやら私を思い通りにしたいらしい。
一応大人しくなったふりをしているのだが、そんな気持ちも見透かされているような気がして落ち着かない。
杉元さんを勧誘するときも思ったが、力でねじ伏せるのは逆効果な相手がいるってこと、わかっていないのだろうか。
鶴見中尉には北風と太陽のお話をしてあげたが、「北風が太陽より強ければ勝てたはずだ」と宣ったので、もうお手上げだ。
しかし実際には鶴見中尉は紳士的な部分を持ち合わせているので、何か突っかかられても私がうまいこと往なせれば彼は満足してそれ以上は踏み込んでこなかった。
「尾形さん、夢主です。お食事をお持ちしました。失礼します。」
コンコン、とノックしてから医務室に入る。
あれ以来尾形さんは基本的には私の前以外では寝たふりをしている。
ほかの人にもし起きているところを見られても、文字が書けないように腕を包帯巻きでぐるぐるにしている上に、更に顎の傷を見せつけて喋れないフリをする。
でも実際は腕は動くし顎の傷も問題はない。痛むかどうかは本人にしかわからないが。
「あの……そろそろご自分で食べられますよね?」
「うるせえな、誰か来たらどうすんだよ。」
そう言って彼は毎回私に食事を食べさせる。
なんだよ、食べさせてほしいならそう言えばいいじゃない。
甘えたい年頃かしら。
私はご飯を食べさせてあげながら、金塊と関係があるかわからない話も含めて一応尾形さんにすべてを教える。
尾形さんはどの話も薄いリアクションで聞いていた。
表情からは分かりにくいが、杉元さんのお話が一番興味があるようだ。
私も杉元さんが逃げてからの話は掴めないでいるので、実際に自分で調べる必要があると思っている。
食後に、尾形さんの隣でりんごを剥いてあげながら問いかける。
「……尾形さん、いつ頃抜け出しますか?」
「なんだ、そこまで勘付いていたのか。やはりお前はしたたかな女だな。」
「それって褒めてます?……なんとなくわかりますよ。武器の手入れもしておきました。」
「ははっ、やるじゃねえか。」
尾形さんは普段は口が悪いが私がきちんと仕事をすれば褒めてくれる人だ。
良い上司を持ったもんだ、と少し彼を誉める。馬鹿にされるから絶対口では言わないけれど。
杉元さんが刺青人皮を持っていて、アイヌの子供といたことから、尾形さんは以前自分が倒れた場所から一番近いアイヌの村に行こうと言ってきた。
ついにここを裏切る時がきた。
陸軍からすれば、鶴見中尉こそが反乱分子ではあるが、更にその中で造反を企てるとなると結果的に敵に回すのが鶴見中尉になるだけに少し怖い。
そして兵の皆には助けてもらったし、仲良くなったため罪悪感が強い。
「ここに残りたいか。」
医務室に武器を運び入れて、用意した鞄に荷物を詰めて身支度をしていると尾形さんが問いかけてくる。
「意地悪な人。私がついて行くと決めたんです。どうせ、行かないって言っても無理矢理攫うでしょ……?」
尾形さんは、ははっと笑って髪を撫でつけた。
その後、少し頭を押さえて考え込むと、髪を切ってくれと言ってくる。
「え。せっかく撫でつける前髪ができたのに?」
私がそう問いかけると、彼は後頭部と側面を刈ってくれと言う。
ああ、今でいうツーブロックか……と納得して、カミソリで手探り状態ではあったがそれっぽく刈り上げていく。
上手くできたか自信がないが、彼は満足そうに鏡を見ていた。
そしてついでに髭のお手入れもする。
今から抜け出すっていうのに、身だしなみを気にするんだから余裕があるなあと呆れた。
「手紙とか、書いたら怒ります?」
そう問いかけると、彼は馬鹿にしたように笑う。
「はは、そんなもんなくても連中は追いかけてくるだろうよ。」
「追いかけてきてほしいわけでは……。」
「じゃあいらないだろそんなもん。」
そう言い捨てられて少し寂しくなる。
でも仕方がない。謝罪の手紙を書いても、私が裏切ることの罪悪感を軽くしたいだけだから意味はない。
諦めて自分の荷物を背負って外套を羽織る。
その時、医務室の扉が開いた。
ぎょっとしてそちらを見ると、二階堂兄弟の生き残り、浩平さんだった。
彼は武器を持っていかにも出かける様子の私たちを見ても、銃を構える素振りすらなかった。
むしろ彼の方も出掛ける姿をしている。
「え、二階堂さん……?」
驚いて尾形さんと二階堂さんを交互に見ていると、二階堂さんは尾形さんに近づいた。
「杉元を探しに行くんだろ。俺も行く。」
そう言うと彼は強い眼差しでこちらを見る。
洋平さんの敵討ちをするつもりか。
尾形さんはフン、と笑うと勝手にしろ、と言って窓から降りた。
私もそれに続いた。
【あとがき:祝★脱走】
その後、杉元さんが脱走した。
兵舎で火事があった日だ。おそらく杉元さんの仲間が助けに来たのだろう。
詳しいことはどうやったのか分からなかったが、鶴見中尉が言うには、腸を盗んだということだった。
誰の腸が盗まれたのだろうか……と考えていたがすぐに分かった。
二階堂兄弟の洋平さんが、亡くなったのだ。
残された浩平さんは、杉元さんへの復讐心で怒り狂っていた。
ああ、なんて惨いことを。
しかし話を聞けば、見張りが手薄になったときに二階堂兄弟が再度忍び込んで杉元さんを襲い、返り討ちに遭ったとのこと。
あれだけ私が強く二階堂兄弟を追い払ったのに、と悔しく思う。
その後はしばらく仕事三昧だった。
相変わらず兵舎での仕事はあったが、なんだか最近は鶴見中尉の傍で働くことが増えた。
鶴見中尉は私が杉元さんへ治療をした件から特に、私への束縛や視線が強くなった気がする。
どうやら私を思い通りにしたいらしい。
一応大人しくなったふりをしているのだが、そんな気持ちも見透かされているような気がして落ち着かない。
杉元さんを勧誘するときも思ったが、力でねじ伏せるのは逆効果な相手がいるってこと、わかっていないのだろうか。
鶴見中尉には北風と太陽のお話をしてあげたが、「北風が太陽より強ければ勝てたはずだ」と宣ったので、もうお手上げだ。
しかし実際には鶴見中尉は紳士的な部分を持ち合わせているので、何か突っかかられても私がうまいこと往なせれば彼は満足してそれ以上は踏み込んでこなかった。
「尾形さん、夢主です。お食事をお持ちしました。失礼します。」
コンコン、とノックしてから医務室に入る。
あれ以来尾形さんは基本的には私の前以外では寝たふりをしている。
ほかの人にもし起きているところを見られても、文字が書けないように腕を包帯巻きでぐるぐるにしている上に、更に顎の傷を見せつけて喋れないフリをする。
でも実際は腕は動くし顎の傷も問題はない。痛むかどうかは本人にしかわからないが。
「あの……そろそろご自分で食べられますよね?」
「うるせえな、誰か来たらどうすんだよ。」
そう言って彼は毎回私に食事を食べさせる。
なんだよ、食べさせてほしいならそう言えばいいじゃない。
甘えたい年頃かしら。
私はご飯を食べさせてあげながら、金塊と関係があるかわからない話も含めて一応尾形さんにすべてを教える。
尾形さんはどの話も薄いリアクションで聞いていた。
表情からは分かりにくいが、杉元さんのお話が一番興味があるようだ。
私も杉元さんが逃げてからの話は掴めないでいるので、実際に自分で調べる必要があると思っている。
食後に、尾形さんの隣でりんごを剥いてあげながら問いかける。
「……尾形さん、いつ頃抜け出しますか?」
「なんだ、そこまで勘付いていたのか。やはりお前はしたたかな女だな。」
「それって褒めてます?……なんとなくわかりますよ。武器の手入れもしておきました。」
「ははっ、やるじゃねえか。」
尾形さんは普段は口が悪いが私がきちんと仕事をすれば褒めてくれる人だ。
良い上司を持ったもんだ、と少し彼を誉める。馬鹿にされるから絶対口では言わないけれど。
杉元さんが刺青人皮を持っていて、アイヌの子供といたことから、尾形さんは以前自分が倒れた場所から一番近いアイヌの村に行こうと言ってきた。
ついにここを裏切る時がきた。
陸軍からすれば、鶴見中尉こそが反乱分子ではあるが、更にその中で造反を企てるとなると結果的に敵に回すのが鶴見中尉になるだけに少し怖い。
そして兵の皆には助けてもらったし、仲良くなったため罪悪感が強い。
「ここに残りたいか。」
医務室に武器を運び入れて、用意した鞄に荷物を詰めて身支度をしていると尾形さんが問いかけてくる。
「意地悪な人。私がついて行くと決めたんです。どうせ、行かないって言っても無理矢理攫うでしょ……?」
尾形さんは、ははっと笑って髪を撫でつけた。
その後、少し頭を押さえて考え込むと、髪を切ってくれと言ってくる。
「え。せっかく撫でつける前髪ができたのに?」
私がそう問いかけると、彼は後頭部と側面を刈ってくれと言う。
ああ、今でいうツーブロックか……と納得して、カミソリで手探り状態ではあったがそれっぽく刈り上げていく。
上手くできたか自信がないが、彼は満足そうに鏡を見ていた。
そしてついでに髭のお手入れもする。
今から抜け出すっていうのに、身だしなみを気にするんだから余裕があるなあと呆れた。
「手紙とか、書いたら怒ります?」
そう問いかけると、彼は馬鹿にしたように笑う。
「はは、そんなもんなくても連中は追いかけてくるだろうよ。」
「追いかけてきてほしいわけでは……。」
「じゃあいらないだろそんなもん。」
そう言い捨てられて少し寂しくなる。
でも仕方がない。謝罪の手紙を書いても、私が裏切ることの罪悪感を軽くしたいだけだから意味はない。
諦めて自分の荷物を背負って外套を羽織る。
その時、医務室の扉が開いた。
ぎょっとしてそちらを見ると、二階堂兄弟の生き残り、浩平さんだった。
彼は武器を持っていかにも出かける様子の私たちを見ても、銃を構える素振りすらなかった。
むしろ彼の方も出掛ける姿をしている。
「え、二階堂さん……?」
驚いて尾形さんと二階堂さんを交互に見ていると、二階堂さんは尾形さんに近づいた。
「杉元を探しに行くんだろ。俺も行く。」
そう言うと彼は強い眼差しでこちらを見る。
洋平さんの敵討ちをするつもりか。
尾形さんはフン、と笑うと勝手にしろ、と言って窓から降りた。
私もそれに続いた。
【あとがき:祝★脱走】