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第十二話 ヒロイン目を覚ます
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第十二話 ヒロイン目を覚ます
「う……。」
なんだか体が動きにくい。
それに久々にぐっすり寝た気がする。
でも変な夢も見た気がした……。
なんか尾形さんが……たおれて……。
「尾形さんッ……!」
ガバッと起き上がるとそこは見慣れない部屋。
ああ、現代ではない。
でも兵舎の自分の部屋でもなくて、あたりを見渡してやっとここが医務室だと分かった。
隣のベッドを見ると尾形さんのような面影のある包帯男が寝ている。
ズキズキと頭痛がするのは、寝すぎたからだろうか。
いや、それだけではなく、腕や足も筋肉痛のような、びりびりとした痛みがあった。
確か、山の中で、杉元さんとアシリパさんという不思議な二人に会って……尾形さんが落ちて行ったって聞いて……。
私が記憶を振り返っていると、医務室のドアが開いた。
そこにいたのは鯉登さんで、私を見るなり手に持っていた花を花瓶ごと落とした。
「あ!」
「夢主……!」
ガシャンッと大きな音をたてて花瓶が割れてしまった。
しかし彼は落とした花瓶など目もくれず、むしろそれらの破片を踏みつけてこちらへ駆け寄る。
「夢主気が付いたんか!!三日も寝ちょったんだぞ!どこか具合が悪かところはなかか!?」
私の両肩をガッと強くつかんで鯉登さんは早口で喋る。
一応聞き取れたが、私は三日も寝ていたのか……。
「す、すみませんでした。勝手なことをして……ご迷惑をおかけしました。」
思わず私はしょぼん、としてしまう。
尾形さんが心配だったからと言って、誰にも言わず出て行ったのは完全に私が悪い。
しかも助けられてしまった。
その後遅れて入ってきた月島さんが、入口の花瓶を片付けるわけでもなく、むしろ私が起きていることが相当嬉しかったのか鯉登さんと同じように花瓶を踏みつけてまでこちらへ駆け寄ってきた。
「夢主さん!気が付きましたか……!ご気分はどうですか?」
「……月島さんも、すみません。皆に迷惑をかけて……。」
鯉登さんも月島さんも私が落ち込む必要はない、と励ましてくれた。
仕事をサボってしまったと急いで立ち上がろうとすると、まだ本調子ではないだろうから、何日かは安静にしているようにと言われる。
本調子ではない?
不思議に思い首を傾げ、大丈夫ですよ答えてベッドから降りようとしたとき、体にピキッと電気が流れたかのような感覚があって急に動かなくなって倒れ込んだ。
鯉登さんが咄嗟に体を支えてくれた。
「……っ」
「夢主……!」
「ああほら、大丈夫ですか?夢主さん、今あなたは腕や足のあちこちの筋が切れたり骨にヒビも入ったりしています。一体何をしたのですか。」
月島さんが優しい口調で問いかけながら私を再度ベッドに寝かせる。
その表情は言葉の柔らかさに反して険しかった。
「ええと、尾形さんが、崖から落ちたって聞いて……。崖のまわりの木を飛び移ったりして、最後は木から飛び降りて、あとは尾形さんを川から引っ張り出したり……。」
記憶をゆっくりと辿っていく。
あのときは無我夢中だったけど、確かに今思えばかなり無茶な動きしてたな……と思い出してきた。
「そんなことしたんですか。しばらくちゃんと休んでくださいね。」
「なんで尾形上等兵をそんなに追ったんだ……。」
二人があきれたように私を見下ろす。
恥ずかしい……穴があったら入りたいくらいだ。
「あの、実はあの日……尾形さんは刺青のことを探し回っている人がいると言ってでかけたのです。夕方までに戻るとのことでお見送りしましたが、帰ってこなかったので……心配になって。」
これくらいは話しても大丈夫だろう。
上層部も含めて、今やアイヌの金塊の話は内緒にすることではない。
ただ、尾形さんも含めて私たちが鶴見中尉側についていると思ってもらわなくてはいけないので、嘘は言わずに上手く話を進めたかった。
二人の表情は少し険しくなった。
私と尾形さんの勝手な行動も、刺青が関係するならば話は別なのだろう。
二人はそれは鶴見中尉に伝えておくから、しばらく安静にしていなさいと私に言いつけると、割ったうえに踏みつけにした花瓶を片付けて、持ってきた花を別の花瓶に活けて私のそばの小さい棚の上に置いてくれた。
静かになった病室で、大人しくベッドに横になる。
二人には迷惑をかけっぱなしだ。
ふう、とため息をついて、隣の尾形さんをチラりと見る。
包帯でぐるぐる巻きだし、顔はパンパンに腫れているし、おそらく顎は割れてしまっているから重症だ。
もう少し早く行っていれば……出かける尾形さんを止めれば……私がもう少し強かったら……
いろんなことを考えて泣きそうになりながら尾形さんを見つめて、その後は寝たり起きたりを繰り返した。
大分体が動くようになったある日。
私は松葉杖があればできる範囲の仕事をしながら、尾形さんの看病もしていた。
顔の傷は痛むだろうか。
心配でつい何度も尾形さんの傍に行ってしまう。
彼のベッドの横にイスを置いて、彼の手をきゅっと握る。
うん……あたたかい。大丈夫、生きている。
それを一日に何度も確かめないと、あの日のボロボロになった尾形さんの冷え切った身体の感覚を思い出してしまいそうで、不安だった。
いつもならそのまま手を離して何か言葉をかけてから仕事に戻るのだが、その日は私が手を離そうとしても離れない。
「え……?おがたさ…」
驚いて顔を見ると、尾形さんの目がうっすらと開いていた。
意識が戻った!
嬉しくて急いで報告しにいこうとするが、手を掴まれる。
「……尾形さん?」
尾形さんはかろうじて動く指先で、私の手のひらに文字を書いた。
「ふ」「じ」「み」
「不死身……?」
そう聞き返すと、尾形さんは小さく頷いてまた意識を失った。
これを報告しなくては。
急いで松葉杖をついて兵舎を歩いていると、鶴見中尉に呼ばれた。
ちょうどよかった。
「やあ夢主、足の具合はどうだね?」
「鶴見中尉!……その節は大変ご迷惑をおかけしました。」
いやいや、と鶴見中尉はそう笑って、私の頭を撫でる。
そして少し顔を近づけて聞いてきた。
鶴見中尉のお顔は見慣れたとはいえ、迫力がある。
「何かあったようだね、有益な情報はつかめたかね……?」
なんと鋭いことだろう。
この嗅覚があるから、鶴見中尉はここまで上り詰めているのだろう。
私は焦った様子で切り出した。
「はい、たった今、尾形さんが一瞬だけ目を覚ましたのです。」
「なんと!?やはり頑丈な男だな。それは良かった。」
鶴見中尉は喜んでいるようなリアクションを取るが、内心は尾形さんが意識を取り戻したこと自体に興味がないようだ。
ただ尾形さんの掴んだ情報が知りたいだけのご様子。
「まだ話せないみたいで、指で私に「ふじみ」と書いてすぐにまた意識を失ってしまいました。」
「不死身……ほう。何かの暗号か?いや、そんな言葉遊びをするような男ではないな。」
鶴見中尉はブツブツと考え込んでいる。
私が心配そうに見ていることに気付いたのか、また鶴見中尉は私の頭を優しく撫でた。
「でかしたぞ夢主くん。この情報を大事に覚えておくよ。」
「お役に立てて嬉しいです。」
やはり誰かの役に立てるのは嬉しいことだ。
私は安心してつい顔が綻んだ。
鶴見中尉にまだ本調子ではないのだから仕事はほどほどにしなさいと言われ、早めに仕事を切り上げて、自室で勉強をしたり時々尾形さんの様子を見たりして過ごした。
結局尾形さんは全然意識を取り戻すことはなくて、もうしばらくかかるようだと判断した私は、その間に少しでもできることをやろうと勉強や訓練を続けた。
【あとがき:意外と頑丈なヒロイン】
「う……。」
なんだか体が動きにくい。
それに久々にぐっすり寝た気がする。
でも変な夢も見た気がした……。
なんか尾形さんが……たおれて……。
「尾形さんッ……!」
ガバッと起き上がるとそこは見慣れない部屋。
ああ、現代ではない。
でも兵舎の自分の部屋でもなくて、あたりを見渡してやっとここが医務室だと分かった。
隣のベッドを見ると尾形さんのような面影のある包帯男が寝ている。
ズキズキと頭痛がするのは、寝すぎたからだろうか。
いや、それだけではなく、腕や足も筋肉痛のような、びりびりとした痛みがあった。
確か、山の中で、杉元さんとアシリパさんという不思議な二人に会って……尾形さんが落ちて行ったって聞いて……。
私が記憶を振り返っていると、医務室のドアが開いた。
そこにいたのは鯉登さんで、私を見るなり手に持っていた花を花瓶ごと落とした。
「あ!」
「夢主……!」
ガシャンッと大きな音をたてて花瓶が割れてしまった。
しかし彼は落とした花瓶など目もくれず、むしろそれらの破片を踏みつけてこちらへ駆け寄る。
「夢主気が付いたんか!!三日も寝ちょったんだぞ!どこか具合が悪かところはなかか!?」
私の両肩をガッと強くつかんで鯉登さんは早口で喋る。
一応聞き取れたが、私は三日も寝ていたのか……。
「す、すみませんでした。勝手なことをして……ご迷惑をおかけしました。」
思わず私はしょぼん、としてしまう。
尾形さんが心配だったからと言って、誰にも言わず出て行ったのは完全に私が悪い。
しかも助けられてしまった。
その後遅れて入ってきた月島さんが、入口の花瓶を片付けるわけでもなく、むしろ私が起きていることが相当嬉しかったのか鯉登さんと同じように花瓶を踏みつけてまでこちらへ駆け寄ってきた。
「夢主さん!気が付きましたか……!ご気分はどうですか?」
「……月島さんも、すみません。皆に迷惑をかけて……。」
鯉登さんも月島さんも私が落ち込む必要はない、と励ましてくれた。
仕事をサボってしまったと急いで立ち上がろうとすると、まだ本調子ではないだろうから、何日かは安静にしているようにと言われる。
本調子ではない?
不思議に思い首を傾げ、大丈夫ですよ答えてベッドから降りようとしたとき、体にピキッと電気が流れたかのような感覚があって急に動かなくなって倒れ込んだ。
鯉登さんが咄嗟に体を支えてくれた。
「……っ」
「夢主……!」
「ああほら、大丈夫ですか?夢主さん、今あなたは腕や足のあちこちの筋が切れたり骨にヒビも入ったりしています。一体何をしたのですか。」
月島さんが優しい口調で問いかけながら私を再度ベッドに寝かせる。
その表情は言葉の柔らかさに反して険しかった。
「ええと、尾形さんが、崖から落ちたって聞いて……。崖のまわりの木を飛び移ったりして、最後は木から飛び降りて、あとは尾形さんを川から引っ張り出したり……。」
記憶をゆっくりと辿っていく。
あのときは無我夢中だったけど、確かに今思えばかなり無茶な動きしてたな……と思い出してきた。
「そんなことしたんですか。しばらくちゃんと休んでくださいね。」
「なんで尾形上等兵をそんなに追ったんだ……。」
二人があきれたように私を見下ろす。
恥ずかしい……穴があったら入りたいくらいだ。
「あの、実はあの日……尾形さんは刺青のことを探し回っている人がいると言ってでかけたのです。夕方までに戻るとのことでお見送りしましたが、帰ってこなかったので……心配になって。」
これくらいは話しても大丈夫だろう。
上層部も含めて、今やアイヌの金塊の話は内緒にすることではない。
ただ、尾形さんも含めて私たちが鶴見中尉側についていると思ってもらわなくてはいけないので、嘘は言わずに上手く話を進めたかった。
二人の表情は少し険しくなった。
私と尾形さんの勝手な行動も、刺青が関係するならば話は別なのだろう。
二人はそれは鶴見中尉に伝えておくから、しばらく安静にしていなさいと私に言いつけると、割ったうえに踏みつけにした花瓶を片付けて、持ってきた花を別の花瓶に活けて私のそばの小さい棚の上に置いてくれた。
静かになった病室で、大人しくベッドに横になる。
二人には迷惑をかけっぱなしだ。
ふう、とため息をついて、隣の尾形さんをチラりと見る。
包帯でぐるぐる巻きだし、顔はパンパンに腫れているし、おそらく顎は割れてしまっているから重症だ。
もう少し早く行っていれば……出かける尾形さんを止めれば……私がもう少し強かったら……
いろんなことを考えて泣きそうになりながら尾形さんを見つめて、その後は寝たり起きたりを繰り返した。
大分体が動くようになったある日。
私は松葉杖があればできる範囲の仕事をしながら、尾形さんの看病もしていた。
顔の傷は痛むだろうか。
心配でつい何度も尾形さんの傍に行ってしまう。
彼のベッドの横にイスを置いて、彼の手をきゅっと握る。
うん……あたたかい。大丈夫、生きている。
それを一日に何度も確かめないと、あの日のボロボロになった尾形さんの冷え切った身体の感覚を思い出してしまいそうで、不安だった。
いつもならそのまま手を離して何か言葉をかけてから仕事に戻るのだが、その日は私が手を離そうとしても離れない。
「え……?おがたさ…」
驚いて顔を見ると、尾形さんの目がうっすらと開いていた。
意識が戻った!
嬉しくて急いで報告しにいこうとするが、手を掴まれる。
「……尾形さん?」
尾形さんはかろうじて動く指先で、私の手のひらに文字を書いた。
「ふ」「じ」「み」
「不死身……?」
そう聞き返すと、尾形さんは小さく頷いてまた意識を失った。
これを報告しなくては。
急いで松葉杖をついて兵舎を歩いていると、鶴見中尉に呼ばれた。
ちょうどよかった。
「やあ夢主、足の具合はどうだね?」
「鶴見中尉!……その節は大変ご迷惑をおかけしました。」
いやいや、と鶴見中尉はそう笑って、私の頭を撫でる。
そして少し顔を近づけて聞いてきた。
鶴見中尉のお顔は見慣れたとはいえ、迫力がある。
「何かあったようだね、有益な情報はつかめたかね……?」
なんと鋭いことだろう。
この嗅覚があるから、鶴見中尉はここまで上り詰めているのだろう。
私は焦った様子で切り出した。
「はい、たった今、尾形さんが一瞬だけ目を覚ましたのです。」
「なんと!?やはり頑丈な男だな。それは良かった。」
鶴見中尉は喜んでいるようなリアクションを取るが、内心は尾形さんが意識を取り戻したこと自体に興味がないようだ。
ただ尾形さんの掴んだ情報が知りたいだけのご様子。
「まだ話せないみたいで、指で私に「ふじみ」と書いてすぐにまた意識を失ってしまいました。」
「不死身……ほう。何かの暗号か?いや、そんな言葉遊びをするような男ではないな。」
鶴見中尉はブツブツと考え込んでいる。
私が心配そうに見ていることに気付いたのか、また鶴見中尉は私の頭を優しく撫でた。
「でかしたぞ夢主くん。この情報を大事に覚えておくよ。」
「お役に立てて嬉しいです。」
やはり誰かの役に立てるのは嬉しいことだ。
私は安心してつい顔が綻んだ。
鶴見中尉にまだ本調子ではないのだから仕事はほどほどにしなさいと言われ、早めに仕事を切り上げて、自室で勉強をしたり時々尾形さんの様子を見たりして過ごした。
結局尾形さんは全然意識を取り戻すことはなくて、もうしばらくかかるようだと判断した私は、その間に少しでもできることをやろうと勉強や訓練を続けた。
【あとがき:意外と頑丈なヒロイン】