空欄の場合は夢主になります。
第十一話 尾形負傷する
お名前をどうぞ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第十一話 尾形負傷する
ある日、尾形さんが任務に出るところに会った。
はて、何か急な任務だろうか。
たまたま後ろ姿が見えたので玄関まで駆け寄ってお見送りをした。
「尾形さん、おでかけですか?お気をつけて。」
尾形さんは一瞬驚いた様子だったが、こちらに視線をやると、ぼそりと言った。
「刺青を探し回っている男の情報を掴んだ。」
「え?なら私も……。」
「お前はここで待て。日が暮れる前には戻る。」
彼はいつもこんな感じなので、特に気にしてはいなかった。
しかし、この日は待てど暮らせど尾形さんが帰ってこない。
兵舎の皆へ夕飯を配り終えると、片づけを今日の当番だった谷垣さんにお願いして私は一旦自分の部屋に戻った。
そして箪笥の引き出しから外套を出す。
尾形さんがいつもしているように深くフードを被ると、訓練用にいつも自室に置いている銃と弾を持ってそのまま窓からそっと出た。
初めはこの窓から出入りしてきた尾形さんを驚いたが、鯉登さんや月島さんに訓練をつけてもらってからはなんていうことはなく、すんなりと出入りできるようになってしまった。
私もなかなか人間離れしてきたな、と独りごちた。
北海道の雪深い森はとにかく寒い。
まだ日は暮れていなかったが、早めにマッチで簡易的なたいまつを作って歩いた。
するとその光を見たのか向こうから大柄な男性と小さなアイヌの女の子が歩いてきた。
「お姉さん、どうしたのこんな森の中で。」
男の人の顔が見える。
大きな傷があるが、それすらも力強く見えてしまうようなキリッとした顔立ちの男性だった。
彼も軍帽を被っているが、うちの第七師団では見ない顔だ。ほかの軍の所属なのかもしれない。
「杉元、この女、さっきの兵士と同じ格好をしているぞ。」
「え?ああ。ほんとだ。女の人も兵に入れるのは知らなかったな。」
「さっきの!?尾形さんを見ましたか!?えっと、こう、眉毛がカクッてなってる感じの!」
二人が疑わしそうにこちらを見てくるが私はそれどころではない。
慌てて尾形さんのことを聞くと、杉元と呼ばれた男の人が急に怖い顔になる。
「……お姉さんさっきの人の仲間なの?」
私はそっと銃に手を伸ばす。
杉元さんもおそらく同じように武器を触っているはずだ。
「私、彼のことを探しているんです。森ではぐれてしまって。」
「へえ、なんでまた?」
「……熊が出ると噂になって見回りを兼ねて彼と任務に出たのですが、単独で動かれちゃいまして。」
咄嗟に嘘をついた。
杉元さんは私の嘘をあっけなく信じたようだ。
しかし、次の言葉は私を不安にさせた。
「……それは申し訳ないことをしたな。」
「えっ?」
私が二人を見ると、杉元さんと少女は顔を見合わせていた。
やっぱり尾形さんの身に何かあったのだろうか。
「ちょっと、事情があって……」
杉元さんは言いづらそうにしていた。
私は焦れていた。
「教えてください、彼はどこに行ったのですか?」
「杉元、言う必要はない。」
「アシリパさん……でも。」
杉元さんが何かを言いたそうにしているのを見たアシリパというアイヌの少女は、小さくため息をついた。
そして私をチラりと見ると、自分たちが来た方向を指さした。
「変な眉毛の兵士は私たちを襲ってきた。だから抵抗したら、向こうの崖から落ちた。……助かるかどうか……。」
「……!」
私は一気に体温が冷えるのを感じた。
私の顔はきっと青ざめているだろう。
「杉元さん、アシリパさん、私の仲間が人を襲うなんて……ご迷惑をおかけしました。ありがとうございます。」
「待て、ここからでは危険だ!……行ってしまった。」
アシリパさんが声をかけていたが気にする間もなかった。
二人を無視して雪道を走り抜けて、私は崖のぎりぎりまできた。
下では川が流れている。
この気温で低体温症になったら助からない。
私は崖にある木に登り、枝を掴んで隣の木へと飛び移る。
猿のように移動して最短ルートで崖から下りていく。
最後は我慢できずに相当な高さから飛び降りたが、不思議と足に痛みはなかった。
川沿いを走って下ると、尾形さんがうつぶせになって川岸にいるのが見えた。
「尾形さんっ!!」
私は無我夢中で自分が濡れることも気にせずざぶざぶと川に入る。
まずは尾形さんを川から出す。
自分でも水を吸い込んだ服をまとった男性一人を引っ張れた力に驚いたが、必死だったので簡単に引き上げられた。
「やだ、いやだよ、死なないで。」
パニックになりながらも応急処置をとる。
心臓が動いているか確かめると、次いで息を確かめる。
大分水を飲んでいるようだったので胃の上、みぞおちの辺りを押して水を吐かせる。
顔を見ればひどく腫れあがっている。顎をぶつけたのか割れているようだ……。
医学を多少学んでおいて良かったが、雪山の中で手当できそうなものなど何もない。
この人を助けられないのなら医学を学んだ意味がないと絶望する。
「お願い死なないで尾形さん、一人にしないで。」
涙が止まらないが、泣いて止まっている暇はない。
できることをやるんだ。
少しでも暖をとるために急いで彼の濡れた服を脱がして私の軍服と外套を被せる。
その時に彼の肩が外れていることに気付き、かなり無理矢理だったが元の位置に戻す。
激痛が走るはずだが彼は反応がなくて、やはり意識がないままだと絶望する。
あとは暖をとれるように火をつけなくては、銃弾を使って乱暴に火種を作る。
焚き火程度はできたけれど、これが一晩中ついているとも思えない。
どうしよう、ここから兵舎まで一人ではさすがに運べない。
私は覚悟を決め、銃を取り出すと上の方に向けて撃った。何発も。弾がなくなるまで。
第七師団の誰かがこの銃の音で気づいてくれるだろうか。
それとも杉元さんたちが戻ってきてしまって、二人ともここでとどめをさされるのではないか。
そんな不安があったものの、薄着で無茶をしたせいか、今度は私が低体温症で倒れる番だった。
私は彼の体の上に倒れこんで意識を失った。
その頃兵舎では、月島軍曹と鯉登少尉がこの銃声に気付いた。
「む。」
「今の銃声は森の方からでしょうか。」
「鶴見中尉に報告するべきか?」
二人はしばし顔を見合わせる。
そして何も言わなかったが、ハッとお互い気づいた様子で辺りを見渡す。
「「夢主(さん)がいない!!」」
その後鶴見中尉とその部下を何人か引き連れた部隊が、夢主と尾形を発見する。
「夢主……なぜ君が尾形上等兵といる?」
ソリの上に夢主を寝かせ、優しく上体を抱きかかえながら鶴見中尉は夢主の顔を覗き込む。
夢主は低体温症になりかけているのか、いつもより肌が青白く、唇は紫色だ。
鶴見中尉は部下に指示を出し、尾形と夢主を持ち帰った。
【あとがき:駆け落ちだと思われている。】
ある日、尾形さんが任務に出るところに会った。
はて、何か急な任務だろうか。
たまたま後ろ姿が見えたので玄関まで駆け寄ってお見送りをした。
「尾形さん、おでかけですか?お気をつけて。」
尾形さんは一瞬驚いた様子だったが、こちらに視線をやると、ぼそりと言った。
「刺青を探し回っている男の情報を掴んだ。」
「え?なら私も……。」
「お前はここで待て。日が暮れる前には戻る。」
彼はいつもこんな感じなので、特に気にしてはいなかった。
しかし、この日は待てど暮らせど尾形さんが帰ってこない。
兵舎の皆へ夕飯を配り終えると、片づけを今日の当番だった谷垣さんにお願いして私は一旦自分の部屋に戻った。
そして箪笥の引き出しから外套を出す。
尾形さんがいつもしているように深くフードを被ると、訓練用にいつも自室に置いている銃と弾を持ってそのまま窓からそっと出た。
初めはこの窓から出入りしてきた尾形さんを驚いたが、鯉登さんや月島さんに訓練をつけてもらってからはなんていうことはなく、すんなりと出入りできるようになってしまった。
私もなかなか人間離れしてきたな、と独りごちた。
北海道の雪深い森はとにかく寒い。
まだ日は暮れていなかったが、早めにマッチで簡易的なたいまつを作って歩いた。
するとその光を見たのか向こうから大柄な男性と小さなアイヌの女の子が歩いてきた。
「お姉さん、どうしたのこんな森の中で。」
男の人の顔が見える。
大きな傷があるが、それすらも力強く見えてしまうようなキリッとした顔立ちの男性だった。
彼も軍帽を被っているが、うちの第七師団では見ない顔だ。ほかの軍の所属なのかもしれない。
「杉元、この女、さっきの兵士と同じ格好をしているぞ。」
「え?ああ。ほんとだ。女の人も兵に入れるのは知らなかったな。」
「さっきの!?尾形さんを見ましたか!?えっと、こう、眉毛がカクッてなってる感じの!」
二人が疑わしそうにこちらを見てくるが私はそれどころではない。
慌てて尾形さんのことを聞くと、杉元と呼ばれた男の人が急に怖い顔になる。
「……お姉さんさっきの人の仲間なの?」
私はそっと銃に手を伸ばす。
杉元さんもおそらく同じように武器を触っているはずだ。
「私、彼のことを探しているんです。森ではぐれてしまって。」
「へえ、なんでまた?」
「……熊が出ると噂になって見回りを兼ねて彼と任務に出たのですが、単独で動かれちゃいまして。」
咄嗟に嘘をついた。
杉元さんは私の嘘をあっけなく信じたようだ。
しかし、次の言葉は私を不安にさせた。
「……それは申し訳ないことをしたな。」
「えっ?」
私が二人を見ると、杉元さんと少女は顔を見合わせていた。
やっぱり尾形さんの身に何かあったのだろうか。
「ちょっと、事情があって……」
杉元さんは言いづらそうにしていた。
私は焦れていた。
「教えてください、彼はどこに行ったのですか?」
「杉元、言う必要はない。」
「アシリパさん……でも。」
杉元さんが何かを言いたそうにしているのを見たアシリパというアイヌの少女は、小さくため息をついた。
そして私をチラりと見ると、自分たちが来た方向を指さした。
「変な眉毛の兵士は私たちを襲ってきた。だから抵抗したら、向こうの崖から落ちた。……助かるかどうか……。」
「……!」
私は一気に体温が冷えるのを感じた。
私の顔はきっと青ざめているだろう。
「杉元さん、アシリパさん、私の仲間が人を襲うなんて……ご迷惑をおかけしました。ありがとうございます。」
「待て、ここからでは危険だ!……行ってしまった。」
アシリパさんが声をかけていたが気にする間もなかった。
二人を無視して雪道を走り抜けて、私は崖のぎりぎりまできた。
下では川が流れている。
この気温で低体温症になったら助からない。
私は崖にある木に登り、枝を掴んで隣の木へと飛び移る。
猿のように移動して最短ルートで崖から下りていく。
最後は我慢できずに相当な高さから飛び降りたが、不思議と足に痛みはなかった。
川沿いを走って下ると、尾形さんがうつぶせになって川岸にいるのが見えた。
「尾形さんっ!!」
私は無我夢中で自分が濡れることも気にせずざぶざぶと川に入る。
まずは尾形さんを川から出す。
自分でも水を吸い込んだ服をまとった男性一人を引っ張れた力に驚いたが、必死だったので簡単に引き上げられた。
「やだ、いやだよ、死なないで。」
パニックになりながらも応急処置をとる。
心臓が動いているか確かめると、次いで息を確かめる。
大分水を飲んでいるようだったので胃の上、みぞおちの辺りを押して水を吐かせる。
顔を見ればひどく腫れあがっている。顎をぶつけたのか割れているようだ……。
医学を多少学んでおいて良かったが、雪山の中で手当できそうなものなど何もない。
この人を助けられないのなら医学を学んだ意味がないと絶望する。
「お願い死なないで尾形さん、一人にしないで。」
涙が止まらないが、泣いて止まっている暇はない。
できることをやるんだ。
少しでも暖をとるために急いで彼の濡れた服を脱がして私の軍服と外套を被せる。
その時に彼の肩が外れていることに気付き、かなり無理矢理だったが元の位置に戻す。
激痛が走るはずだが彼は反応がなくて、やはり意識がないままだと絶望する。
あとは暖をとれるように火をつけなくては、銃弾を使って乱暴に火種を作る。
焚き火程度はできたけれど、これが一晩中ついているとも思えない。
どうしよう、ここから兵舎まで一人ではさすがに運べない。
私は覚悟を決め、銃を取り出すと上の方に向けて撃った。何発も。弾がなくなるまで。
第七師団の誰かがこの銃の音で気づいてくれるだろうか。
それとも杉元さんたちが戻ってきてしまって、二人ともここでとどめをさされるのではないか。
そんな不安があったものの、薄着で無茶をしたせいか、今度は私が低体温症で倒れる番だった。
私は彼の体の上に倒れこんで意識を失った。
その頃兵舎では、月島軍曹と鯉登少尉がこの銃声に気付いた。
「む。」
「今の銃声は森の方からでしょうか。」
「鶴見中尉に報告するべきか?」
二人はしばし顔を見合わせる。
そして何も言わなかったが、ハッとお互い気づいた様子で辺りを見渡す。
「「夢主(さん)がいない!!」」
その後鶴見中尉とその部下を何人か引き連れた部隊が、夢主と尾形を発見する。
「夢主……なぜ君が尾形上等兵といる?」
ソリの上に夢主を寝かせ、優しく上体を抱きかかえながら鶴見中尉は夢主の顔を覗き込む。
夢主は低体温症になりかけているのか、いつもより肌が青白く、唇は紫色だ。
鶴見中尉は部下に指示を出し、尾形と夢主を持ち帰った。
【あとがき:駆け落ちだと思われている。】