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夜明けの彼女が終わる頃

サンダー家でメイドをしながら、メイド長は私に魔法の使い方や野菜の仕入れ、包丁の扱い方、裁縫の極意、気配の消し方、掃除洗濯の基本など、もちろん一般常識なども教えてくれた。

そんな忙しい日々の中で、私は同じサンダー家で働いていた執事見習いの彼と出会い、喧嘩や言い合いもしつつ、やがて、恋になり愛し合い、結婚をした。


幸せだった、とても。


メイド長は、私の二人目の母親だ。
愛情を注いでくれて、私は一人の人間となれた。

彼は私に、人として愛する事を教えてくれた。

友達だって出来た。あの場所は確かに、私の宝物だ。


結婚生活は順調だった。
愛し愛され、永遠の愛で、運命で、ずっと続いていくもので


そう、ずっと続いていくものだと、思ってた。


だけど、私のほうが限界になってしまった。

だから、別れた。結婚して36年で、幸せを手放した。


一方的に別れを告げ、逃げ出した。
だから、バチが当たったんだ。


彼と別れて5年で、流行り病にかかり、死の淵に追いやられていた。

(まぁしょうがない。私もだいぶ歳取ったからなぁ)

痰のからむ咳をしながら、熱に浮かされぼんやりとした思考になっていた。


自分の死期を悟り、体は鉛のようで動かない。
熱のせいか、幻覚まで見えるようだ。
ベッドの横に、別れた旦那の幻だなんて。

(最期に見えたものが元旦那だんて、私ってばまだ愛していたのかしらね)

ぼんやりとした思考と、霞む彼の姿に、やはりあれは幻なんだな、と悲しくなった。
彼は出会った時の姿のまま、若くてかっこ良くて、私が惚れた執事服の姿だった。

(会いたかった、忘れられなかった)

(貴方の子供がほしかった。家族を作りたかった)

(貴方に愛想尽かしたなんて、嘘。本当はずっとそばにいたかった)

(こんな私でごめんなさい、愛してる、ずっと)


幻の彼に、懺悔をするなんて、本当に馬鹿げてる。
だけど、幻だからこそ、最期に彼を見れて本音を言えたの。

きっと、本物の彼ならこう言うわね。
「いいよ、全部受け止めるよ」ってね

幻の彼もそう言ってくれた気がして、私は嬉しくて涙を流し、深呼吸をすると、深くゆったりとした二度と目覚めぬ眠へと落ちて行った。


「・・・ーーーーっっぁー!」

かすかに聞こえた声が、ひどく心を締め付けたような、気がした。









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