遊戯王DM(城表SS)

「う〜ん……」

城之内くんの誕生日が近づいていた。
嬉しいことなのに、ボクには心配ごとがふたつあった。

ひとつ、ボクは思い立って手作りのプレゼントを用意している。
なのに喜んでもらえるかどうか、完成に近付くにつれてボクはどんどん不安になっていた。

そしてもうひとつ。

「……これって……普通の『友情』じゃないのかな」

最近気付き始めた、自分自身の気持ち。
城之内くんのことを考えると、胸が騒がしくなる。
城之内くんは、大切な親友。なのに、いつしかそれだけではない感情が芽生えていた。
複雑な想いを抱えながらも、ボクは誕生日に向けて手を動かす。

***

誕生日当日、童実野町にある河原。
冬の冷たい風が川沿いを吹き抜けるけれど、その分空気は澄んでいて、遠くの景色までくっきり見えた。
天気が良くて助かったな、と城之内くんが明るい声で笑う。

「「「城之内、誕生日おめでとー!」」」

いつものみんなで集まって、誕生日を祝う。
いつも通り明るく、笑顔の眩しい城之内くん。
気の置けない仲間たちとの、和やかな時間。
そんな中、ボクだけが落ち着かずにポケットの中の小さな箱を気にしていた。

「遊戯、どうしたの?具合でも悪い?」

「ううん、大丈夫。このケーキ美味しいね」

杏子に心配そうな視線を向けられて、咄嗟に言葉を返したけれど、ずっと胸の中がざわめいている。
城之内くんの気さくな笑顔を見るたびに、友達としての嬉しさと同時に、別種の「愛しさ」が浮き彫りにされるようで。

「杏子が選んできてくれたんだぜー」

「女子って甘いものに強いよなー」

「フフーン、近所のスウィーツ情報は杏子さんに任せなさい」

「アハハ」

「それにしても、城之内くんって本当によく食べるよね」

「おう、男は腹が減っちゃ戦えねえからよ」

「今、何と戦うってんだよ〜」

正直今のボクに甘味を味わう心の余裕はないのだけれど、適当に誤魔化したら思いのほか話が弾んでよかった。

それから、各々が用意していたプレゼントを渡した。
手袋に、バンダナ。キーリングに、謎のドクロの置物。
この時渡せばよかったのかもしれないけど、まだなんとなく勇気が出なくて。

「みんなー!記念写真とるよー!」

杏子の声に促されて、みんなでワイワイと並ぶ。

「おい、城之内!隣座れよ!」

本田くんが城之内くんの腕を引っ張り、みんなで笑い合いながら並ぶ。
ボクも、自然と城之内くんの隣に座った。
少しだけ肩が触れる距離で、普段なら気にしないことなのに、どきどきしてしまう。
杏子がセルフタイマーを設定した。

「ハイ、チーズ!」

シャッター音が響いた。

デジカメに写ったみんなの笑顔は、なんでもない日常の延長のようで、こんな時間がずっと続けばいいのになと願ってしまう。

***

「さて、片付けも終わったし私そろそろ帰らなきゃ」

「えっ、もうこんな時間かよー」

「それじゃーまた明日なー」

各々帰っていって、夕空の中にボクと城之内くんだけ残された。

「なあ遊戯、今日なんかあったのか?」

何か見抜かれているんだろうか。
その言葉にドキッとしながらも、チャンスだと思った。

「……その、少しだけキミとふたりで話がしたいんだ」

「おう、いくらでも付き合うぜ」

グッと親指を立てて、城之内くんは何の屈託もなく無邪気に笑いかけてくれる。
やっぱり、ボクは城之内くんのことが──

「これ……渡したくって」

震える手でポケットから小さな箱を取り出す。
城之内くんは一瞬驚いたような顔をして、箱を受け取る。

「用意してくれてたんだな……ありがとな」

そして箱を開けた瞬間、彼の目が大きく見開かれた。
真紅眼の黒竜をモチーフにしたキーホルダー。
手先には自信があったけど、思っていたとおりには作れなくって、少しいびつになってしまった。

「おい、遊戯。これ、お前が作ったのかよ……?凄ぇじゃねぇか!」

そう言って城之内くんが笑ってくれた瞬間、ボクの想いも報われた気がした。

「……気に入ってくれたんだ、よかった」

「当たり前だろ!こんな凄ぇの、世界中どこ探してもねぇよ!」

はしゃぐ城之内くんを見てると、思わず涙ぐんでしまいそうになる。

「そうだ!実は、オレもお前に渡したいもんがあったんだよ」

城之内くんが鞄をごそごそと探って、箱を取り出す。

「開けてみろよ」

言われるがまま箱を開けると、中にはカードケースが入っていた。黒と紫の色が特徴的だ。

「前に、こういうの欲しいって言ってただろ?」

確かに、「丈夫な良いケースが欲しい」と話したことがある。
覚えていてくれたんだ。

「ありがとう、城之内くん……これ、本当に嬉しいよ……」

「おいおい、泣くなよ」

そう言われても、嬉しすぎて。
どうしても涙が滲んできてしまう。

「でも、どうして急にプレゼントしてくれたの?」

「……お前がいなければ、今のオレなんていなかったからよ」

その言葉に、ボクは息を呑んだ。
彼の目はいつもよりも真剣で、それがボクの心に強く響いた。

「誕生日ってのは、生んでくれた人に感謝する日でもあるって言うだろ?まあ、そんなとこだ」

城之内くんがいつもの柔らかい笑みに戻る。
ボクも釣られて笑う。
今ボクは幸せに満ちている。

「……なぁ、遊戯。お前ってホント凄ぇよな。オレなんかのためにこんなに頑張ってくれてさ……」

ボクの渡したキーホルダーを改めて眺めて、城之内くんが呟く。
また城之内くんの目が、真剣な色を帯びていく。

「オレのこと大事に思ってくれてんだなって、分かるんだよ」

照れ臭そうに笑いながら、沈んでいく夕日に照らされた頬が少しだけ赤くて、ボクにはとても眩しく見える。

「ボクは、キミの笑顔が大好きだよ……だから、傍に居て守りたいと思う」

それが、友情ではない感情だとしても、今はただ伝えたかった。
城之内くんはハッとした顔をして、一瞬だけ空気が止まったかのように静寂が訪れる。
もしこれで、今までの関係が壊れてしまったら。
どうしよう、親友のままでも充分だったはずなのに、この気持ちが抑えられない。

「お前にはいつも助けられてばっかりだな……遊戯」

城之内くんの瞳が真っすぐボクを見つめる。その瞳は、まるでボクの心の奥を見透かしているようだった。
胸が高鳴り、言葉を失う。
けれど、不思議と怖さはなく、城之内くんのとてつもない優しさを感じた。

「けどな、オレだってそうだぜ。同じ気持ちだ。これからも、オレの傍に居てくれよな」

「……うん、ずっと傍に居るよ」

ふたりで夜空を見上げながら、ボクたちはこれからの話をした。
どんな困難があっても、この絆があれば乗り越えられる。

──ふたつの心配ごとは、この日、大切な思い出になった。

彼がくれたカードケースを見るたびに、ボクはこのことを思い出すだろう。
そして、ボクの作ったキーホルダーが彼にとって同じ存在であればいいなと、心から願う。
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