遊戯王GX(十万SS)

「そろそろ起きたらどうだ、十代?」

誰かの声が頭の上から落ちてきた。ぼんやりと、それが知っている声だと気づく。

「んあ……?三沢……?」

目を開けると、いつもの教室。窓から差す光の角度からして、午後もだいぶ過ぎてるっぽい。
オレはいつも通り机で寝ていたんだけど、三沢に起こされるのはちょっと珍しいなあ。

「何時まで寝てるのかと、逆に気になってしまったよ」

淡々としつつも、呆れたような顔をされている。授業はとっくに終わっているらしく、周りはがらんとしていた。

……そういえば三沢に用があるんだった!オレは慌てて顔を上げた。

「あっ、丁度よかった!なぁ三沢、聞きたいことがあんだけどさ!」

「なんだ、十代。俺に分かることならいいが」

謙遜しなくても、三沢なら大体のこと答えてくれそうだけどなぁ。

「キスで子どもってできないのか?」

「……?」

目の前の三沢が、ピタリと動きを止めて、不思議そうな顔をする。言われたことがピンと来てない顔だ。

「ちゃんと授業受けてればわかるらしいからさー、お前に聞こうと思って!」

「……まあ、結論から言えば出来ないな」

「あー、やっぱそうなんだ!」

なんか変だなあとは思ってたんだよなあ。

「一体突然どうしたんだ?」

「だってさー、昔そう聞いたんだぜ?抱き締めてキスするとできたりするって」

なんでそんな嘘つくんだろうな〜。

「……それ聞いた時、幼かったろ?」

「おー、よく分かるなぁ」

三沢すごいなあ。お見通しだもん。

「はぁ……所で、何があって気付いたんだ?」

「いやさ、万丈目にキレられちゃってさ」

「万丈目に?」

「『このバカ!遊城一桁からやり直してこい!』ってさ〜。顔真っ赤にして、もう怒る怒る」

「ふむ……」

三沢はアゴに手を当てて考え込み始めた。どうしたんだろう。

「それで、教えてくれる?」

「まあいいだろう、恋は理屈じゃないが、性教育は理屈だ」

「おー、よろしく先生!」

「ただ、解せないところがある」

「お?」

三沢の目が、まっすぐこっちを射抜く。ちょっと怖いぐらいに。

「どうしてそれで万丈目が怒るんだ?」

「え?」

……三沢、そこに気づくとは。やるな。

「話を聞く限り、万丈目が馬鹿にしたり、呆れたりするなら分かるが『怒る』理由は無いように思える」

「……あー、うーん。オレもまあ……よくわかってないけど……うーん」

目をそらして、適当にごまかすしかなかった。だって、それを言っちゃったら……

「何か言い辛い事があるんだな?」

「言いづらいというか……うーん」

(万丈目とキスしたから……なんだろうけど、それ言ったらもっと怒られるよな〜)

「ははっ、いいさ。聞いて悪かったな」

三沢は、ふっとほほ笑んで肩をすくめた。その動きが、どこか優しくて、なんとなく救われた気がする。

「気になる事は突き詰めたくなる性分だが、それで友人の隠し事まで暴く気はないよ」

「三沢……」

いいヤツだなあ……

「……藪蛇を突く事になりそうだしね」

「ん?なんか言ったか?」

「いや、何も。ノートはあるか?」

「えっ、そんな本格的にやんの?」

「当たり前だろう、将来困る事になるぞ」

「うぇー、わかったよ……」

カバンをごそごそとあさって、ろくに使われていないノートとペンを取り出す。

(まあ今困ってるし……)

ため息混じりに思いながら、オレは三沢の方に体を向け直した。

「で、まず何から教えてくれんの?」

「そうだな……人が生まれた歴史からかな」

「なんか遠くねえかな!?」

「一見して遠回りに見えるものにこそ、学びの本質があるんだ」

……万丈目に怒られてる方がマシだったかなあ?
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