遊戯王GX(十万SS)

「お〜い、万丈目〜!」

俺を呼ぶ声に振り返ると、十代のやつが片手をブンブン振りながらやって来る。
忙しないやつだ。

「万丈目さんだ。どうした?」

「これ、お前に渡したくって!」

そう言って十代は、やたらとでかい包みを差し出してきた。
……待てよ、この流れは。

「あっ、遊城くんと万丈目くんだ」

「ああ、そういえば今日って……」

案の定、周囲の視線が集まり始める。ひそひそと交わされる声に、好奇心に満ちた目線。
またあの時みたいに騒がれてはかなわん。

「おい、部屋に行くぞ」

そう十代に声をかけて、俺はさっさと歩き出す。

「ん?おう!」

十代はきょとんとした顔をしながらも、素直についてくる。
俺たちは足早に自室へと向かった。

***

寮の自室に付いて、茶を淹れてひと息ついて、十代に貰った包みを開ける。
中には、白くて……もこもこした……なんだ?
何かがぎっしり詰まっていた。

「……なんだこのバカでかい……わた?にしては重いのは?」

「わたじゃねえよ〜、マシュマロ!」

得意げに十代が笑ってみせる。

「ホワイトデーは3倍返しって聞いたからな!」

面積は文句無しに3倍以上あるだろうな。

「こんなにたくさんどうするんだ」

「パンに乗っけて焼くといいぜ!」

まあ、また十代と分けて食べてもいいだろう。
机に置いた袋入りマシュマロの上の方をひと口大にちぎってみる。

「しかし、こんなのよく売ってたな」

「んーん、作った!」

「なに?」

「なんかさ、卵の白身と、固めるやつ……ゼラチン?とか混ぜてさ──」

なんだと?
そうか。
手づくり菓子か。
そうか。

「そうか………………」

「どした?感激してる?」

「……なんだ、お前の作ったものだと思うと出来が心配でな」

認めると何かに負けたような気がして、つい憎まれ口が出る。
十代のやつはいつも通りヘラヘラしていて。
……こういう時のこいつの態度が、癪なこともあるが、嫌いではないところでもある。

「大丈夫だと思うぜ?お菓子作りが趣味らしい女子に見てもらいながら作ったから」

「なにぃ!?一体何処のどいつだ!?」

思わず力が入り、手の中のちぎりマシュマロが潰れる。そんなことはいい。

「え〜っと『ゆま』ってやつ。E・HEROに興味あるらしくってさ」

ゆま……?あの能天気そうな小娘か……!
カードを口実に近づくなんて、見かけによらずしたたかなヤツ……!
十代のやつのことだから、どうかなるとは思えんが……しかし……だが……

「それでさー『初心者はレシピ通りやりましょ!』ってめっちゃ言われたんだよな〜」

話を聞いていると「美味いもん片っ端から入れたかったんだけどさ〜」だの「火って強ければいいわけじゃないんだな〜」だの。
こいつ、家庭科の授業は……遊んでたんだろうな……
ゆま……ご苦労だったな……

「で、代わりに今度デッキの構築の話とかする約束した」

「待て、ふたりでか?」

十代が迷惑はかけたかもしれないが、それとこれとは話が別だ。
自然な流れで約束を取り付けられているのが、とても気に食わない。

十代にとっては、本当にただカードの話をするだけのつもりなのだろう。
だが、それを口実にふたりっきりになることに、ゆまが何の下心も抱いていないとは限らん。

「んー?他には誘ってないからなー……」

十代のやつは誰にでも気安いし、こいつ自身に自覚はなくとも、そういう態度が勘違いを生むことだってある。
カードの話ならば、他の誰かを交えても問題ないはずだろう。
やはり他意があるということか?許さんぞ。

「……あー、そうだそうだ」

十代が思い出したように手を叩く。

「『彼女さんがやきもち妬くといけないから、連れてきてもいいですよ!』って言ってた」

「なっ……」

思わず言葉を失う。

「気にしてたのか?」

「してない!」

断じて妬いていない。十代のような唐変木に気があるんだとしたら、憐れだと思っただけだ。
十代の目が、面白がるように細められる。

「てかさ、ホワイトデーのお返し作るって話なんだからゆまも分かってるだろ」

「お前は甘い。恋にそんなことは関係ない」

恋だなんて、時に本人の気持ちなど無視して転がり落ちるものだ。
そうでなきゃこいつと付き合ってない。

「ほへー……」

他人事のように十代が相槌を打つ。当事者としての自覚は無さそうだ。
どちらにせよ放っては置けん。

「とにかく俺も行く」

「……でもさ、万丈目が来たら恋人ってバレるよな?話の流れ的にさ」

「………………」

それは……行きたくない。でも、ふたりっきりにもしたくない。十代がかけさせた手間を思うと、行くなとも言い難い。

「うぐぐ……」

「まあ一旦置いといてさ、万丈目からのお返しってあんの?」

期待が抑えきれない様子で十代が尋ねてくる。
その顔に免じて一旦脇に置いてやる。
懐から箱を取り出して、十代に放る。

「わー、なにかななにかな〜……?」

早速箱を開けた十代は、何やら不思議なものを見るように首を傾げている。

「ブレスレットだ。左手にでも着けろ」

十代はキョトンとした顔でブレスレットを眺めて、何か納得したように小さく頷いた。

「……そうか、お返しって食べ物じゃなくてもよかったのか〜」

十代は背中から床に倒れ込んで「俺ももっと色々考えれば良かった〜」とか言いながらゴロゴロしている。

先ほど握り潰してひしゃげたちぎりマシュマロを口に運ぶ。
ほんのりと甘い。

「……まあ、なんだ。悪くないぞ」

「ほんと!?よかった!」

ガバっと十代が起き上がる。騒がしいやつだ。
十代が改めてブレスレットを確かめる。

「かっこいいけど、デュエルの時に気になっちまうかもな」

「……まあ、邪魔になるなら外しておけ」

なるべく邪魔にならないように軽くて飾り気の少ないものを選んだつもりだが、それでも気になるやつはなるだろう。

「いや、そういうんじゃなくてさ、目に入るたびにお前のこと思い出しちゃいそうで」

「だったら勝ってこい」

「おう。そうだ、これお前の手で付けてみてくれよ」

十代がブレスレットを差し出してくる。

「付け方もわからんのか?」

「流石にわかるけどさ〜」

意図はわからんが、問答を続けるよりやってやった方が早そうなので付けてやる。
「へへ〜」と十代がやけに嬉しそうに笑う。

「なんなんだ、いったい……」

「ん〜?そうだなぁ……」

よいしょ、と十代がマシュマロを少しちぎり。
俺の口に押し付ける。唇に、ふわっと柔っこい感触。

「口開けて?」

その視線に抵抗できないものを感じて、仕方なく口を開く。
口内にマシュマロが転がり込み、ふわりとした口溶けが甘く広がる。

「ほら、なんか良くね?」

十代がニッと笑う。
そりゃあさっきのマシュマロは握り潰してたからな、と返したかったが、なんだか先ほどブレスレットを付けてやった行為もやけに照れくさく思えてきて、言葉に詰まった。

***

「あ、そうそう!手作り菓子って店で売ってるやつより保たないから、明日には食べ切ってくれよな!」

「こんなに食えるか!」
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