遊戯王GX(十万SS)

「お〜い、万丈目〜!やっと見つけた〜」

息を切らして、騒がしいのが走ってくる。
駆け寄ってきた十代は、いつもの調子で能天気そうに笑っている。

「万丈目さんだ!で、何だ?」

「これ、渡したくってさ」

差し出されたのは、袋に入った何の変哲もないドローパン。

「昼飯は食べたが」

もう昼過ぎだから、当然ではある。
問い返してみるが、十代は変わらぬ調子で笑いかけてきた。

「そっか!でもショコラパンだしイケるんじゃねえかな?」

ショコラパン。
確かに好きではあるし甘いものは別腹とも言うが、惣菜パンと並べられているだけあって結構なボリュームがある。
それと、ひとつの疑問。

「未開封に見えるぞ」

ドローパンはその中身が分からないというのがウリだ。

「おう、けど俺が選んで赤帽子が確認したから間違いないぜ」

なるほど、赤帽子が判断したのなら間違いないだろう。
アイツの謎の特技だ。
しかし、何故わざわざショコラパンを?

「どうせなら黄金のタマゴパンをよこせばいいものを」

「それは俺が食っちった」

「貴様ぁ……煽りたいのか労いたいのかどっちなんだ?」

「いや、労うとかじゃなくってさぁ……今日ってそういう日だろ?」

そういう日?………………もしや?
十代の言葉と、妙に満足げな表情を見て、考えが繋がる。

「……まさかお前がこういうイベントを意識しているとは思わなかった」

驚きの混じった声が出る。多少の感動すらあるかもしれない。
期待しなさすぎて、頭から抜けていた。

「へへっ、惚れ直した?」

「やかましい」

「にしても、お前の方がこーゆーの好きそうだけど、忘れてたんだなー」

「別に忘れちゃあいない」

ポケットに入れていた箱を取り出して、無造作に投げ渡す。

「これって……」

「取り寄せてきた品だ、有り難く受け取れ」

どうせ赤が好きだろうとおもって、ベリー風味の鮮やかな赤色のチョコレートを頼んでいた。
──あまりにも意識してないようだったら、渡す気もなかったが。

「わー、すっげーオシャレ〜!ありがとな!」

もう箱を空けている。
わあきゃあ騒いでいるところを見て、悪い気はしない。
思わずこちらの顔も綻びそうになるが、表に出すのも癪なので堪えた。

「なな、一緒に食わねぇ?」

「何……?」

「すげー高そーだけど、俺細かい味の違いとか分かんないし、お前こういうの好きじゃん?」

食い物を分けるだなんて……本当に十代か?
こいつもイベントの空気に当てられているんだろうか。

「……ならこのパンも半分わけてやる。そんなに食えんしな」

「やったー、じゃあもうちょい静かなとこ行こうぜ!」

……そういえば、ここは廊下。
特段人通りが多いわけではなかったはずだが、気が付くと周りにちょっとした人集りが出来ていた。

「あれって、万丈目さんと遊城くんよね?」

「わー、ほんとだー。仲良いんだあそこ」

「えっ、あのふたりって良い雰囲気なの?」

「せっかくだから写真撮っとこっか?」

きゃあきゃあとした声は、一度耳に入るとどうして気づかなかったのかと。
額に青筋が浮かんでくる。

「貴様らぁ!見世物じゃないぞ!」

「いーから早く行こーぜー?」

十代に手を引かれる。
後ろでギャラリーがワッと沸いた気がするが、早く離れたくて、足早にその場を後にした。

──繋がれた手に悪い気はしていない辺り、どうやら俺も毒されているらしい。
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