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「リドル先輩!私に、首輪つけてください!!」
「「!?」」
すべてはエースの一言から始まった。
今朝、私がグリムといつもどおりの時間に教室につくと、何度か見慣れた状態のエースがいた。リドル先輩の固有魔法である金属の首輪をつけていたのだ。大方、懲りずにつまみ食いでもしたのだろうと思っていたら案の定。明日のお茶会で使うフルーツをつまんだらしい。
「ほんの一つチェリーをつまんただけだぜ?それでこの仕打ちとかうちの寮長厳しすぎ」
「そんなのバレるほうがわりーんだぞ」
「あ、言ったな。お前だってこの前寮長に茶会前にケーキ摘まもうとして叱られてたくせに」
「あれはあいつが急に出てきたんだぞ!エースに比べたらオレ様は……」
くだらない言い争いに発展しそうだったのでグリムを宥め、会話に割り込んだ。
「まあいいじゃん。首輪くらいで許してくれたんだから」
反省文とかハリネズミ小屋掃除一週間とかノルマ追加されなかったのだからラッキーじゃん。と、私は軽い気持ちで言ったのだけれどエースはカチンと来たらしい。ムッとしたように口を尖らす。
「はー?魔法士にとって魔法使えないのは超デメリットなんですけど?しかもすげー重たいし寝るとき邪魔だし!」
「ならつまみ食いするなよ」
デュースの言うことに最もだと私は頷く。何度も懲りずにつまみ食いするエースが悪い。ただでさえ、サボりやらルール違反で何度も首を跳ねられてるのにさらに自分で可能性を上げているのだから。
そうすると、一瞬つまったものの若干悔し紛れっぽくエースは私に言い放った。
「ま、魔法使えねーお前にはこの厄介さが分かるわけねーもんな」
「……何その言い方」
「おいエース!」
「何だよ、ほんとのことだろ。監督生がつまみ食いしたところでぜってーこの首輪なんかつけられねーじゃん」
そりゃそうだ。魔法が使えない私にあの首輪をつけられたところで意味はないのだから、リドル先輩だってかけようとも思わないだろう。正解ではあるのだけれど、ちょっとカチンと来た。
「自分がそうならないクセに首輪くらいとか言われてもこっちも納得いかねーっていうか?」
「エース!お前言いすぎだ!監督生に謝、」
「良いよ、デュース。エースの言うとおりだから」
「えっ……」
「子分……?」
こちらを見る彼らに私は淡々と続ける。
「私が魔法使えないのは事実だし、ルール違反したところでリドル先輩はユニーク魔法を使わないよね。私にその首輪の煩わしさを知る日は来ない」
「わ……わかってるじゃん。じゃあもう」
「だからリドル先輩にユニーク魔法をかけてくれるよう頼んでくる」
「「は!?」」
「ふなっ!?」
驚く二人と一匹をよそに私は立ち上がる。授業が始まるまでまだ20分もある。リドル先輩の教室はここから近いから、行っても余裕で戻ってこられるだろう。
「ちょ、嘘でしょ。待てって!何でそうなんの!?」
腕を掴んできたエースに首を傾げる。
「だって先輩の前で違反するだけじゃかけてくれないでしょ?」
「監督生!お前が寮長のユニーク魔法にかかる必要なんてないだろ!?エースの言うことなんか無視して良いから」
「そ、そうだぞ子分!あんな恐ろしい魔法わざわざかかりにいくなんてあり得ねーんだぞ!」
必死に引き留めてくる二人と一匹に私はニッコリと笑った。
「やっぱり何でも自分で体験しなきゃダメだと私も思ったんだよ」
結局、邪魔され続けたので授業が始まる前にリドル先輩の元へ行くことは叶わなかった。
何だかんだ時間が経ってしまい放課後。リドル先輩のところへ行くと言った私に、別に良いと言ったのに二人とグリムはついてきた。くぐりなれた鏡を通り、ハーツラビュルへと向かう。さっきから後ろでヒソヒソと彼らは話しているが聞こえない振りをする。私にやめさせようとしてるのだろうけどこの決心は固いのだ。運の良いことに、リドル先輩はトレイ先輩とケイト先輩と一緒に談話室にいた。
目が合うと、彼らはいつものように微笑み歓迎してくれる。私も後輩らしく挨拶を返すとリドル先輩に近づいた。
「先輩にお願いしたいことがあるんですけれど、いいですか?」
「お願いしたいこと?ボクにできることなら構わないけれど……。」
「良かった、ありがとうございます」
怪訝そうな顔になりつつも了承してくれたリドル先輩に私はよく聞こえるようはっきりと言った。
「リドル先輩!私に、首輪つけてください!!」
「「ブッ…!」」
隣に腰かけていたトレイ先輩とケイト先輩がお茶を吹いた。後ろではあーあ……と言う声が聞こえてくる。あいつ本当に言いやがった…とかなんとか。
私が頼みごとをした本人はというと、理解できないと言いたげに目を大きく見開いたまま固まっていた。少しして、恐る恐るリドル先輩が聞き返してくる
「……今、何とお言いだい。ボクの耳が間違っていなければ君は首輪をつけて欲しいと頼んだように聞こえたのだけれど」
「間違えてないです。そう頼みました」
「なっ……」
「監督生ちゃん!?急にどうしたの!?あまりの衝撃にリドルくん固まっちゃってるけど!」
「そうだぞ、というか何で首輪……?」
「エースのおかげで何事も経験しなくてはいけないって気づいたんです」
「!エース!!監督生に何を言ったんだい!?」
「げ!いやその」
「エース、正直に言ったほうがいいぞ」
言い淀むエースの代わりに私が答えようとしたのだけれど、先にデュースが答えた。
「僕が説明します。こいつが監督生は魔法を使えないから首輪をつけられる可能性なんてないくせに、ごちゃごちゃ口出しするなって言ったんですよ」
「エースちゃん、それは言っちゃダメなやつ……」
「俺そこまできつくは言ってないすよ!?ただ……監督生がつまみ食いの罰に首輪くらい良いじゃんって言うからつい」
「それでこうなったのか」
「オレ様たちかなり止めたけどこいつ聞かなかったんだぞ」
「全く……」
私がこの状況をつくった張本人なのだけれども、気まずそうにしているエースを見ていると気の毒になってきた。彼がムキになって言いすぎるのはたまにあることだ。単に貶めたかったわけじゃないのは最初からわかっていた。エースの言葉に腹は立ったけど、そもそも最初に特に考えもせずに口出しをしてしまった私も悪かった。はい、と手を挙げる。
「あの、やっぱり撤回します」
「え?」
「魔法士にとって魔法が使えないって状況を甘く考えてしまったのは本当ですから。ごめんね、エース」
謝るとエースはため息をついてその場にしゃがみこんだ。手で押さえているせいで顔が見えないが、そのまま呻くように喋る。
「お前さあ……先謝るとか何なの。ほんとそういうとこ……」
「ダメだった?」
「……いや。俺も悪かった。今朝は言いすぎた。もうああいうこと言わねえ」
「うん、ありがとう」
顔を上げた彼と目が合い、笑うとあっちもちょっと困ったように笑う。リドル先輩がやれやれとため息をついた。
「解決したようだね。良かったよ。ボクも首を無理矢理跳ねさせられる羽目にならなくて」
「あ、それは続行でお願いします」
「は!?」
「実は前から先輩のユニーク魔法の首輪に興味あったんです。どのくらい重いのかなとか付け心地とか。ちょうどいいのでこの機会にお願いします」
私としては真剣にお願いしたつもりだったのだけれど、リドル先輩には馬鹿なことを言うんじゃないよと一蹴された。トレイ先輩やエースたちにもそうだそうだと反対される
「そんな理由で首輪つけられるとかどう考えてもバカだって!」
「エース」
早速軽い失言をしたエースを咎めるも、リドル先輩は小さい子に言い聞かせるようにゆっくりと話す。
「良いかい。あれはルール違反をした者に科す罰であって何もしてない君に僕は使う気はないよ」
「リドル先輩……じゃあ、私もつまみ食いとかしてきます」
「おやめ!罰欲しさにルール違反するんじゃない!」
「だって先輩に首輪をつけて欲しいんです。私だけつけてくれないなんてずるいです。そんなに私じゃダメなんですか」
「…、…妙な言い方はしないでくれるかい。とにかく、君の申し出を受けるわけにはいかない。お分かりだね?」
「……はい」
結構粘ったのに断られてしまった。渋々返事をすると、ようやく皆安心したように頷いた。……私の決心は結構固いのだけれど、意外と誰も気づいていないらしかった。
考えれば簡単なことで、機会はいくらでもあるのだ。だって、悪さの数ならば1日に余裕で十は越えるグリムだもの。後日、グリムは悪さをしリドル先輩を怒らせていた。私はたっまたまタイミング悪くそんなグリムとリドル先輩の間に走り込んでしまった。そう、それだけなんだから
「(わー首輪がついちゃった)」
グリムは逃げるのに必死で私には気づかなかったようだ。自分の首をぐるりと囲んでいる金属を撫でてみる。確かに結構重たい。これは寝るとき肩が凝りそうだ。感動していると、横からひんやりとした空気を感じた。リドル先輩だ
「……監督生。今わざとグリムと僕の間に入ってきただろう」
あのよく見る顔を真っ赤にしたお怒りモードではない。けど、怒ってるのはわかる。
偶然路線を突き通そうかと思ったけれど、無駄そうなのでやめた。
「すみません。ずっとタイミングを狙ってました。どうしてもこれ、つけてみたかったんです」
「全く……君って子は」
頭が痛いと言いたげに首を振り、彼は不満げな顔のまま私に尋ねてきた。
「……それで、つけてみた感想は?」
「皆の言うとおり1日つけていたら首や肩が凝りそうです」
「だろうね。それは心地良いようにつくられていないんだから」
「でもリドル先輩のユニーク魔法を体験できて嬉しいです!」
「……!」
「ありがとうございます、先輩」
お礼を述べると、リドル先輩は呆気にとられたように瞬きをしてから、ふいとそっぽを向いてしまった。
「君は本当におかしな子だね。……別に悪いとは言わないけど」
「褒め言葉ですか?」
「褒めてはない」
即答するも、再び私を見たリドル先輩の表情は柔らかなものだった。スッとこちらに腕を伸ばし、私に嵌められた首輪へと触れる。すると、溶けるようにそれは消えた。ちょっぴり名残惜しいけれど、いつまでもつけているわけにもいかない。魔法を解いた先輩は、さて、と話を切り出す。
「今日はトレイがお茶の時間に苺タルトを焼いてくれる約束なんだ。だから僕たちもそろそろ行こう。もちろんさっき逃げていった食いしん坊の獣もね」
誘うまでもなく行くのが当然のように言うリドル先輩にこくりと頷くと、ハーツラビュル寮へと足を向けた。