6、開始
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いよいよ月曜日。今日からテニス部のマネージャーの仕事が始まる
「朝早いわねえ。これからずっとこの時間?」
「うん。朝練の集合時間7時だから」
母の声に答え靴を履こうとして屈むと、顔にかかった髪が少し気になった。ロングヘアーじゃないから今まではくくらなかったけれど、動くなら邪魔かもしれない。手早く一つにくくり玄関の鏡を覗く。これなら大丈夫そう
「いってきます」
「いってらっしゃい」
立海への通学路は意外と多くの生徒が歩いていた。他の部活も朝練があるらしい。テニスコートに行くと人がまばらだった。とはいえ、男子テニス部しか使っていないところだから当然女子生徒が一人いると目立つ。ちらちら感じる視線に
「おはよう雨宮さん。早いね」
「!おはようございます、幸村先輩……あ!」
「四日ぶりだな」
図書室で会ったあの背の高い柳先輩
部室に入った第一印象。どこか男臭い。とはいえ、部屋はきちんと片付けられていた。掃除は交代でしていると言っていたっけ。並んでいるロッカーも何かがはみ出しているわけでもなく綺麗に整頓されている。棚に並べられたトロフィーの数々は圧巻の一言に尽きた。体育会系の部活が活躍している立海の中でも、テニス部が群を抜いているだけある、何せ去年は全国優勝だもの。
「さっそく仕事の説明をしよう」
「よろしくお願いします」
柳先輩はデータテニスを得意とするらしい。よくわからないが、データを分析しテニスの試合をするらしい。そのため立海の選手ならず他校の選手のデータも揃えているのだとか
………幸村先輩は濁していたけれど私の情報は絶対この人からだ
「やっべえ!遅刻……って雨宮、さん!?」
「おはよう、切原くん」
「なんで雨宮……さんがここに?」
「……呼びにくいなら呼び捨てでいいよ。私今日からマネージャーになったの」
「は、マジで!?確かにマネージャーが来るって言ってたけど」
「あの、切原くん。後ろ……」
「え?」
「赤也……遅刻した上にお喋りとは……」
「うわっ!真田副部長!!」
「たるんどる!!」
「ひっ……」
ビンタなんて初めて見た。私がされたわけじゃないのに痛そうで思わず身を竦める。テニス部に怪我人が出るのこれのせいなのでは……。でも頬に手形をつけたまま切原くんは部室に駆け込んでいったのでそう大ダメージでもないらしい……強い
「マネージャー」
「は、はいっ!!」
「……そう怯えなくていい。俺も理由なくはやらん」
きまり悪そうな表情でそう言われたが……理由があれば私も喰らわされるんだろうか。切原くんみたいにすぐ立ち上がれる自信が全然ない。ふっとんで気絶しそう
「あちらのコートにボールの補充を頼む」
「わかりました!」
朝練を経て授業が終わった放課後。本格的な部活の始まりだ。が、二時間後私は机にぐったりと伏せていた。
「(あー……しんどい)」
ドリンク作りにデータ処理、ボール磨き、予備のラケットのガットの張り直し、怪我した人の手当て………一つ一つ挙げていたらキリがない。どれだけ要領よくやっても予定どおりに終わる気がしない。どれも初めてやることなので慣れていないのもあるけれど、体力が追いつかなさそうだ。ひとまずボール磨きは一年が分担してやってくれることになった。
さっき練習メニューを見たら一週間ぎっちり詰まっていたんだけれど、初日からこんなフラフラで務まるだろうか。もんもんとしながら部日誌を書いていると、ガチャリと部室のドアが開いた。
「お、マネージャーじゃん」
ド派手な髪色、赤色に目がチカチカする。私も人のことはいえないけど。彼の後ろからもう一人、日本人離れした顔立ちの人も顔を覗かせた。
「丸井先輩、桑原先輩……」
「あれ、俺らの名前知ってんの?」
「名簿をもらいましたので」
赤い髪もハーフの先輩もそれぞれ一人しかいない。すぐ覚えた。二人とも今年からのレギュラーらしい。
「ま、一応自己紹介しとこーぜ。俺は立海2年丸井ブン太、シクヨロ」
「俺はジャッカル桑原。同じ2年だ」
「雨宮リンゴです。よろしくお願いします」
「ところで、その髪校則違反じゃね?」
赤髪の先輩に言われたくない。これは地毛だと伝えると、あーやっぱり?と言われた。分かってて聞いたらしい。二人はそれからいくつか会話を交わし出ていった。次に入ってきたのは真面目そうなメガネをかけた人だ。
「おや、マネージャーさん。こんにちは。私は柳生比呂士です」
「こんにちは。雨宮リンゴです」
この人も確かレギュラーの人だ。彼は何故か申し訳なさそうな顔をして私に近寄ってきた。
「先日は仁王くんが失礼したようで。どうもすみません」
「仁王……?」
「ええ。保健室で会ったでしょう。いきなり腕をつかんだとか」
「!あの人、仁王さんって方なんですか」
名簿に載っていた名前を思い出す。仁王雅治。珍しい名字なので覚えていた。彼もテニス部のレギュラー……。……じゃあテニス部の先輩だったんだ。そうとは知らずに顔にバインダー叩きつけてしまった。どうしよう。
「雨宮さん?」
「あ、あの私。あの人に謝らないといけないことがあって……。今日は部活にいらっしゃるんでしょうか」
「ええ、いますよ。ちょうどさっき会いましたので呼んできましょう。ここで待っていてください」
そう言い彼が出ていって数分後、仁王さんが現れた。あの保健室の銀髪の人だ。やはり幽霊ではなかった。よかった……
「あの、仁王先輩この前はごめんなさい!」
「……別に気にしちょらん」
「わざとじゃないんです。急に話しかけられてびっくりして……」
「わかっとうよ」
「あの……私、マネージャーになりました雨宮リンゴです。よろしくお願いします」
……返事がない。顔を上げるとじーっと彼はこちらを見ていた。私の顔に何かついてるのだろうか。怪訝に思っていると、ちょいちょいと手招きされ近寄る。
「あんときのお詫びじゃ」
四角くて細長いもの。それはガムだった。立海はお菓子の持ち込みは禁じられていない。差し出しているところを見るとくれるらしい。躊躇ったが断るのも失礼かと思い、素直に手に取る。と、指にパチンっと衝撃が走った。
「った!?え、え?」
状況が飲み込めず仁王先輩を見ると笑いをこらえるように口元を押さえてる。まさか……自分の指先へ視線を戻す。爪に細い針金が当たっている。さっきの衝撃はこれだ。
「お前さん、そんな素直じゃこれから先苦労するぜよ」
「……何ですかこれ」
「パッチンガムじゃ。知らん?」
知らないが、とりあえず悪戯されたことは理解した。彼はじゃあと言って部室から出ていく。呆気に取られて扉が閉まったあともそのまま突っ立っていると、柳生先輩が戻ってきた。
「仁王くんはどうでしたか?」
「あの、ガムで悪戯されました……」
顔叩かれたことやっぱり根に持っていたんだろうか。柳生先輩に起こったことそのまま話すと彼はまた申し訳なさそうに眉を下げた。
「それは申し訳ない。あれも仁王くんなりのコミュニケーションの取り方なんです」
「……はぁ」
「お詫びにこちらを差し上げます」
「(……またガム……)」
黄色いパッケージの四角いそれを見つめる。一度痛い目に合ったのだ。さすがに用心する。ちらりと顔を上げると、メガネ越しに目が合いにこりと微笑まれた。この人はすごく真面目そうだしあんなことはしなさそう。そう思い指を伸ばすと、あのパチンとした痛みが再び指を襲った
…………人間不信になりそうだ
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