萩原研二
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今日の友人の結婚式は、その人となりが反映されたような、ちょっと奇抜なパーティーの様なものだった。社交ダンスを嗜んでいる友人夫婦たっての希望で、お色直し後の式場はダンスホールへと変貌したのである。
艶やかなルンバや激しいジャイブ、華やかなサンバなど、様々な曲に合わせて友人夫婦が式場の中央で踊る。参列者もその周りで楽しげに体を揺らしていたり、見様見真似で踊っているカップルもいた。
「ねえ、次の曲は俺たちも踊ろうよ」
隣で楽しげにしている研二が、ふと声を掛けてきた。
「えぇ…私踊れないよ?足踏んじゃうかも。」
「大丈夫。俺がリードするし、足踏まれても問題ないよ。」
随分と上機嫌でそう言われてしまえば、もう断る事は出来なかった。ちょうど曲も終わり、次に流れてきたのは緩やかなワルツ。これなら私でも踊れるかな、なんて軽口を叩いてみたり。周りの友人達やカップルも、それぞれ曲に合わせて踊り始めたのを皮切りに、研二が手を差し出してきた。
「お手をどうぞ、お姫様。」
「…お姫様なんて柄でもないけど、喜んで。」
すっと手を引いて私を抱き寄せ、ワルツに乗ってステップを踏む研二。さっきは柄じゃないなんて言ったけど、本当はちょっとだけ憧れてた。綺麗なドレスを着て好きな人と踊るなんて、物語のプリンセスみたいで、幸せな気持ちになるじゃない。
「こんな機会滅多に無いんだから、楽しまなきゃ損だろ?」
心地よいワルツのリズムと研二のリードに身を委ねていると、耳元で甘い声が響く。ハッとして顔を上げると、僅かに熱を帯びた彼の菫色の瞳に射抜かれた。
「…そうだね。」
私の答えに満足気に微笑んだ研二は、私の腰をぐっと引き寄せて、軽やかに式場の床を滑っていく。今この瞬間だけは、誰にも邪魔されない、私達だけの夜。
美しいワルツの音色と、プロジェクションマッピングで天井に映し出された、偽物の月と星空だけが、踊る私達を見つめていた。
けたたましく鳴り響くアラームの音に、現実に引き戻された。確か昨夜は友人夫婦の結婚式に参列し、帰宅後そのままベッドに倒れ込んだんだっけ。着たままだったドレスは後でクリーニングに出すとして、とりあえずシャワー浴びよう。それから適当に朝食を摂って、さっと家事を済ませて…。
あ、その前に。
「おはよ、研二。昨日は友人夫婦の結婚式でさ、お色直し後は結婚式じゃなくて、まるでダンスパーティーだったよ。」
写真の中で、眩しい笑顔を浮かべる研二と私。もう四年も前に撮ったそれは、未だ写真立ての中で私を見守ってくれている。遊園地に遊びに行った時の一コマを切り取った物で、他人から見ればなんて事無い一枚。それでも、私にとってはどれも忘れられない、大切な思い出なんだ。
「夢の中で、研二と踊ってたよ。朝まで踊る位の勢いでさ、笑っちゃった。」
きっと、参列していた友人と一緒にじゃれ合いながら踊ったから、あんな夢を見たんだと思う。恐らく、もう二度と叶うことは無いだろう、とても幸せな夢。もしもまた夢で逢えたら、今度はどんな曲で踊ろうか。そんな事を考えながら、少し冷えるリビングからシャワールームに向かう。
カレンダー付きの安いデジタル時計は、十一月七日の朝を告げていた。