花束 軍ポン


花束をくれたのを思い出した。
貰ったっていっても、おまえが貰ったものを何故か渡された事がある。

これはオレに似合う色だからって。
入学も卒業もちゃんと挨拶しに来てくれて。
律儀でかわいー奴だと思っていた。


「‥軍司かよ‥」

「???なんか、分かんねーけど、オレですいません」

「‥‥。‥あいつら」

「?」

春道も、ヒロミも、マコも
幸せそうだと。
嬉しいはずなのに、とても憎らしく本城さんはオレに言っていた。


「マコは元から彼女とラブラブだしよー
ヒロミはもう泊まりじゃなくて横浜方面に住むかもってすげー嬉しそーだし、
春道はあいつ‥隠れて女と上手くいってる自慢話前にされたしよー」

「マジっスか?春道さんに女が?」

「取り残された感じ?オレだけワクワクするよーな春が来ねーよ‥」

「‥‥」


いつの間にか情けねー姿も見せてくれて、
本城さんは胸の内を話してくれた。


「◯年前もそんな事言ってませんでした?」

「‥もー◯年も経ったのか!?やめろよー!嫌なこと思い出させんなよ」

「‥‥」


なんでこの人は悲劇のヒロインみたいに地べたに手を付いているんだろう。
手を差し出したら、ムスッとしていた。

オレだって人のこと言えねー。
彼女ができたことはない。
そこまで同じにならなくていーのに。


「オレ一日空いてるんで‥どこか行きませんか?」

言いませんが、あんたが誘ってくれるなら、
なるべくムリしてでも空けますけど。

「‥どこへー?」

「バイクでブラブラと」

「‥遠出してー気分だな。付き合ってくれるか?」

「もちろん!喜んで」

「‥!ハハ、なんだよそれ」

「どこへでも行きますよ」

「ほんとかー?明日仕事だろ」

「そースけど、あんたもだろ?」

「オレは休みー」

「いいなー‥。なら泊まり行けますね」

「おいおい‥おまえは仕事だろ?」

「いースよ。午後からでも出勤できるんで」

「融通きーていーなァ〜?実家だもんなー」


本当に泊まりになって、楽しくて。
帰りたくなかった。実家に。


「‥さ、帰ろーぜ」

「また行きましょーよ。行きたいとこいっぱいあるって言ってただろ」

「‥いーぜ」

「やった‥!」

「おまえその顔でヤッタって‥七三分けのちょび髭がよ」

「‥う」

「‥‥。安心した」

「え?」

「安心したぜ、おまえ変わってなくて。オレだけ取り残されたのかと思ったぜー‥」

「‥オレ少しくらい変わったでしょ?大人になっただろ」

「‥‥。オレァガキのまんまなんだけど」

そこはもうかわいースよって怒りそーだから言えねーけど。

「‥いーじゃねースか別に。変わったとか変わってないとか」

「変わりてーの!‥変わりてーんだよ」

「‥そのままでいース。そのままでいて下さい、本城さん」

「‥どーーいうイミだこら?」


オレは初めて取り残されるって焦ってる本城さんの気持ちが分かった。

たぶん、この人に良い人がいたらオレは卒業みたいな感じかな。
次へ前へ進めるのかもしれない。

もはや慈しむような感情が溢れてきた。


「いまの変わってねーあんたがだいすきですよ。自信持ってください」


聞こえたのか聞こえてないのか、
走行中周りのエンジン音やらでうるさかった。


「変わっても、そのままでいろよー?」

「ん?」

「オレが変わっても、おまえはそのままでいろよ?数少ねーファンだから」

「‥そのままでいろよって、具体的にどーいう?」

「?そのまま、だいすきなままでいろよー?」

「‥そりゃー憧れっスから。そこはずっと、この先も、変わんないっスよ」

「マジか。もっと奢ってやりゃあ良かったー‥!」

「次にお願いします」

「おー‥!休みしばらく取れねーけどな〜」

「一泊でも、日帰りでもいースから。いつでも誘ってください」

「ん!おけー」

「‥これから仕事なのに、気の抜ける声出すなよな‥」

「‥実家まで送っから。ヒマなんで見てっていー?」

「!‥もちろん」

「あ、軍司家見学ツアー1人ですっから、お構いなくな」


本城さんは本当に職場や家ん中を見学していた。


「‥次会えるのだいぶ先になりそースね」


少しの休憩時に居間のカレンダーを見やる。
この人はたぶん誘うの忘れそうで、また久しぶりの再会になってしまうだろう。

もうまたいつに会えるか分からないのはきつい。

冷蔵庫からたくさん贈答品で頂いた高そうな果物やらをテーブルに並べた。


「ドーゾ」
「食っていーの?やったー!」


あんたがやったーって言うとそのまんま幼く見えた。

しばらく会えないのはきついなと改めて思ったら、正座して頭を下げていた。


「どうか、宜しければこんな家で良ければ、長々と居座ってください」

「ん、んん?どした急に。居座るけど?」

「‥オレん家からでも会社に通える距離ですし、
一人暮らししたいって聞きましたが寂しい想いさせたくないですし、
良かったら我が家に来てください!」

「‥え?住めってことか?」

「‥‥」


なんて言ったらいいんだ。
この人にはストレートに言うしか伝わらないと思った。


「夫婦別姓で構いませんので、どうか!お願い申し上げます!」

「フッ‥!フ?!」

「詳しい事はオレも分からないので追々。
誰よりもお慕い申しております!この想いだけは今後誰にも負けません!」


食べていたスイカを口から少し吹いていた。


「‥は!?‥はぁ〜〜〜ッ!?!???/////」


たしかに昨日同じ布団で一緒に寝たけど、
部屋に付いてる温泉へ一緒に入ったけど、
距離が今までで一番近くてくっついたりしたけど。
付き合ってないのに、おもくそ飛び越えてきたな。


「デカイ声出すから、みんな来ちゃったじゃねーか‥!!!/////」


ベランダが開きっぱなしなので、なんだ何だと人が覗きに来た。


「本城さん。お返事は頂けますか?」


本城さんも震えている。
オレは玉砕覚悟で言っていて、
一回では諦めずまた誘うつもりだ。


「‥おまえと女の話もしたじゃん?アレなんだったんだよ‥?」

「‥‥あんたと比べたら、要らないかなって。
オレにとっては一番大事なんですよ。本城俊明が」


今度は言葉を失っていた。


「‥‥。‥本城さんは、誰を想ってるんですか?」


スイカがもう原型をとどめず手から流れていた。

赤が溢れていた。
赤が似合うと、明るい暖色が似合うと思って花を渡した事があるが、
この人は寒色も、黒も、白も、なんだって似合うんだよな。

この人となにを置いてもすきなんだろうなって思う。
ストレスなく生きられそうな、ずっと居たいなって想像がいくらでも膨らんだんだ。


「良かったら教えてください」

「‥‥‥」


本城さんは好きなタイプを全部教えてくれた。
コロコロ好みが変わるというか、どこが好きで、
なにきっかけで、全部一から順に言っていた。
ミーハーな人だなと思いながら聞いて覚えていたら。


「‥おまえだってすきだよ、オレだって‥」

「‥‥すみません、本城さん。
そんな顔しないで‥‥困らせたい訳じゃないンスよ‥」


本城は軍司を見たら、睫毛が濡れていた。


「‥困らせてすいません‥‥少しでもいいんで考えてください」


軍司の顔を見たらもらい泣きしてしまった。


「自信持てって言ってくれたのもすげー嬉しかったしよ」

「はい‥」


「寂しくねーよーにって、ずっと昨日から気にしてくれんのも嬉しかったんだよ‥」

「はい‥」


気付いたら、人に見られてるのを忘れて二人でボロ泣きしていた。


「だから‥おまえのことキライな要素ねーな?って思ったぜ‥思い返したらな」

「はい‥‥っ」

「‥泣きすぎだよ」

「あんたも‥」

「もらい泣きだからな‥」


「‥改めて‥お願いします」


また頭を下げられた。深々と。

これはいったん待ってくれとか言えない空気だな。
周りの視線にもようやく気付いた。
とりあえず涙を拭く。

プロポーズだもんな。
夫婦別姓とか言ってたし。

イエス、ノー、イエス、ノーで応えるのか。



「YES」

「‥‥」

「イエスだ。‥とりあえずな。詳細は追々聞くし考えるからな」

「!」


軍司にこの上ないほどの力で抱きしめられて苦しかった。


「苦しいっ!軍司‥!」

「すいません‥!‥」


昨日より近いなって思いながら二人で笑ってたら軍司に口付けられた。大勢の前で。


「‥!?」


なぜか拍手喝采されてるなか、つい強く押しのけてしまった。


「わ、わりィ!大丈夫か?頭ぶつけたろ?」

「‥大丈夫に決まってんぜ‥っ‥こんくれー‥どーって事ねー‥」

「アドレナリン出てんだろ‥普通にいてーよな‥テーブルにぶつけちまったらよ」


軍司は憧れの先輩に膝枕をされていて、
余計アドレナリンというかなにかが出ていたのは確かだ。脳汁かなにかだ。


「‥軍司ー‥。おめーがわりーんだからなァ。急にすっから‥」

「‥‥なにを?」

「‥なにをって‥分かってンだろ‥言わせる気かてめーは。センパイによ。元気じゃねーか‥っ」

「‥フッ‥」

「ほんとに大丈夫か?‥おまえ記憶とか無くすなよ〜〜‥今日のこと、なかった事にすんなよ」

頭を撫でられて、軍司は惚けそうになる。

「‥無くなるわけねーだろ‥ずっとあった想いなんだからよ」

「!よ、よくそんな事‥恥ずかしげもなく‥簡単に言えんな‥っ」

「‥簡単じゃねー‥何年越しだと思ってんだ‥」

「‥もーいー‥喋んな/////わぁったから‥!」

赤くなっている彼を見て思わず声に出ていた。

「‥‥かわいー‥」

「軍司‥‥オレからしたらな、おめーのがカワイーんだよ」

「‥おれが‥かわいー‥?‥言われたことねーよ」

「‥オレがあんま言ってやらなかったからだな。ごめんな?こんなセンパイでよ」

「‥あやまんないでくれ‥‥本城‥さん‥」

「軍司!?‥ど、どーしよ!きゅ、救急車!」


誰かが呼んでくれたみたいで軍司が頭を診てもらってる間もずっと本城は見るからに慌てていた。
頭から血を流してる姿なんて、高校生のときいくらでも見てたのにだ。

その様を見たら、オレは冷静になっていて、
どうやってこの人からキスしてもらおうかとかずっと考えていた。


「‥本城さん‥」

「こんな大事になるとはなー‥。‥なんともねーってよ、コノ石頭」

「‥ボーっとするけどな‥」

「意識ハッキリさせてやろーか?」

「‥お願いします‥」


向こうからしてくれて、軍司はようやく彼を手に入れて感極まった。


「‥軍司‥っ////」

「‥はい‥?っ‥なんでそんな‥えっちな顔するんすか‥」

「えっちなのはオメーだよ!バカ!!なに考えてんだッ/////」

「あぁ‥勃っちまってた‥不可抗力す‥」

「き、キスしただけなのによ‥どんだけ溜まってンだよ‥っ」

「こっち見て‥本城さん」

「やだ」

「‥溜まってるぜそりゃ。パートナー居なかったしな。あんたはいつ抜いたんだ?」

「‥ばか、おめーと一緒にすんな////答える義務なーし」

ずっと赤い。言ったら怒るだろーな。

「あるだろ。今日からパートナーだろ」

「っ‥/////」


本城はようやくすきを自覚した。
遅すぎるすき。
軍司のことは当たり前だがだいすきだ。
言ってやった事はない。


「‥早く元気なれよ?」

「もう戻りますよ」

「ムリすんなよ」

「‥してません。あんたにキスされて、元気出たぜ」

「待てよ、オレァまだ慣れてねーの!浴びせ過ぎだろ!ついてけねーだろっ」

「‥すいません、本城さん」

「はぁ‥‥オレもキスしててびっくりしたぜ‥」


その後、軍司にマイホームは時間かかるんで待ってて下さいって言われて、
これマジな話だったんだなとようやく自覚した。
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