先輩後輩 軍ポン

「あんた何やってんだよ」

ポンこと本城俊明は酔い潰れて路上に座り込んでいた。
いつもの集まりだが一部成人になった何人かは飲み会になっていた。
盛り上がる中様子は伺っていたが軍司は念の為追って正解だと思った。

「酒に飲まれて情けねー」

「うるへー!」

「‥」

「ぐんじー、も一軒行かねーか?」

「バカっスか?立てもしねーでよ」

「気分すげーイーんだわ!まだ帰りたくね〜〜」

軍司は抱えて本城を受け止めるように肩に腕を回す。

「軍司おまえ‥渋くなったなぁ!坊主だったおまえがよ、ハッハハハハ!似合ってンぜー」

「大丈夫スか全く‥」

軍司は髪と髭を伸ばしていた。
笑い上戸な本城に髪を雑に撫でられる。

「‥‥どうも。よっと、」

本城をお姫様抱っこした。

「っ‥んー?‥どーなってんだ‥?」

本城は酔いすぎて分からないらしいから家まで連れて帰ろうと思った。
自分の家にだが。
本城の自宅場所は分かるが今日はとことん面倒を見てやろうと決めた。

「あっ、てめー!なにやってんらバカっ」

「‥暴れないでください。もう少しで着きますから」

「っ‥信じらんねー!軍司!」

自宅に着いてようやく本城はソファに乗せられ解放される。

「フラフラじゃねースか。いま水持ってくるんで、んな睨まないで」

「‥おまえせめておぶれよー‥抱え方考えろよなぁ‥」

「はいはい、水どうぞ」

「ハイは1回だばかやろー‥んっ」

本城は水を勢いよく飲むから首筋に流れる。
ほのかにピンク色の皮膚をした本城の首筋、唇、頬を眺めていた。

「ふぅ‥うめー」

「寝ちゃダメですよ、シャワーしてください」

「ダル、、やだぜ〜〜、オレキレーだし」

「せめて服脱いでください。洗濯するんで」

「んー」

路上に座り込んでいたし酒くさいから風呂場で服を全部置いといてと指示をした。
渋々シャワー室に入った本城。
脱ぎ捨てられた服や下着を掴み、本城の下着に少し気を取られて手が止まった。
赤のボクサーパンツか‥なんて頭に残して洗濯機に放り込んだ。

「風呂ごちそーさん」

「あ、俺の服着てください」

自分の下着が本城の身に纏っているだなんてと19にもなっていまだに欲情したが、もう19だ。成人になった本城と2年しか変わらないのだから大人にならないとと抑えた。
密かに小さなパンチをくらうのがこそばゆい。

「んーだよ、軍司?」

「いや‥」

服だって俺のを着てる。新鮮過ぎて貴重な本城だった。

「今度はハメ外し過ぎないでくださいよ」

「おう。心配すんなって」

まだ目眩がするのか、フラフラしていた。

「良くねーってのは分かってるけど、あんたがハメ外すのは成人になった今日くらいだ。その上俺ん家に一晩いるなんてきっとこの先そうねー‥。だから今しか無いと思うから、勘弁してくださいよ、センパイ」

「‥んー?」

「舎弟にはしてくれなかったが大人になったあんたを今でも尊敬してる。あんたの隣の席はまだ空いたままだって聞いたぜ」

「?さっきからなにが言いてーんだ、軍司‥」

「オレ立候補していいスか」

「バカ!」

即頭を叩かれる。

「おめーはしつこいな」

「‥いーじゃねーッスか」

「んっと渋くなりやがって‥ガキっぽさが無くなっちまったじゃねーか」

本城は慕ってくれる後輩を思い出し、今の迫力に満ちた軍司にやや押されそうになる。

舎弟にしてくれなんて周りを飛び回って、いっちょまえにエビ中制覇して、鈴蘭の一年でもやっきになって失敗はしたが俺に向かってきて、そこでようやくまともに話せるようになったな。
卒業してから集まりで会ってない訳ではなかったが、二人きりで対話したのはあの時のタイマン以来かなと本城は思い起こす。

「弟分になることまだ諦めてねーのか」

「違うぜ」

「ん?」

「あんたの隣の席だって言ったろ」

「‥‥」

帰すつもりはないが、逃げられてしまいそうだなと軍司は少し懸念した。水を飲んでシャワーをしてから本城は酔いがさっきよりは冷めている気がする。

「‥」

本城の視線、その何もかも分かってるってセンパイヅラはあまり好きじゃない。
どうあがいても俺はあんたの年下だが、いつまでも子供扱いしないで欲しい。
いつでもあんたを食ってかかりてーって思ってる。
好きじゃないが、興奮する視線ではある。
その睨みや、例え引かれる目をされたとしてもあんたから食らう瞳はどれも心を奪われた。

「いつからおまえはオレと肩を並べられる位になったんだぁ〜?証明してみろよ、軍司」

「‥!」

「かかってこいよ」

「酔っぱらいにケンカするかよ」

「酔い覚めたぜ、おまえのおかげで。いいから来いよ」

軍司は本城に手加減したが、わりと良いパンチを食らって本気になった。
だがよろめいて倒れてしまう本城を見て止める。

「ぐっ‥星が舞ってる‥」

「言わんこっちゃねー」

「ハハッ‥強えーよ、おまえは」

「‥で、選んでくれる気になりました?」

「‥‥」

本城は口をすぼめていた。癖でたまにやっているのを見たことがある。

「こんなカッコいいのに彼女出来なくておまえみたいなムサイ男しか寄ってこねーなんて、オレは認めねーぞ‥!」

悔しそうに嘆く本城。鈴蘭出身の定めか?とも思ったが身近に彼女がいやがる奴は一人いる。後輩にも彼女がいる奴もいたらしい。世の中分からないとつくづく嘆いた。

「別におまえの事は嫌いじゃねーよ」

「それはつまり好きって事ですよね、痛っ!」

本城のチョップが飛び、彼は黙り込んだ。

「‥」

「本城さん?」

同じ先輩後輩のヒロミは阪東と共にしてるから、大人になっても男同士でつるむのを否定する訳じゃない。彼女がいなくて寂しかったら会えばいい。けどこいつの軍司の言う隣の席っていうのはきっとダチや兄弟分とは違う。

「おまえオレと恋人みたいな事してーの?」

「‥」

軍司は黙るから肯定したと受け止め、本城は盛大にため息をつきしゃがみ込んだ。

「やめろよ〜‥‥意識しちまうだろ」

「っ‥それって、」

「/////」

本城の目線から目が離せなかった。でも逸らされて彼は悩んでいるようだった。
拒否されてる反応ではない為、軍司は吐露した。


「13の時から、あんたの事好きですよ」

「‥‥」


ついには体育座りをして本城は顔を隠してしまった。

「本城」

やっと本城の目を捉えた。

「はぁ‥‥そりゃあ〜〜‥‥長い片想いだな」

「えぇ」

「7年もか」

「気付いたのはあんたが卒業してからだ。寂しかった」

「‥」

「今だってたまにしか会えねー‥。また、会ってくれませんか?本城さん」

「‥さっき呼び捨てにしたくせに、急にしおらしくなンじゃねー!‥おまえが素直に会いたいってーんなら、いつでも会ってやるけどよ」

「!‥‥‥それは、センパイとしての会うって事ですか?それとも、」


本城は詰め寄ってくる軍司に喉を鳴らして一歩下がった。


「これから狙っていいってお許しが出たって事ですか?」

「‥ねら、狙ってって‥」

「‥付き合ってくれませんか?本城さん」

「ダ、ダメだ」

「そこをなんとか‥好きですよ」

「っ‥!よくそんな"好‥"なんて言葉ペラペラと口に出来んな?!」

「あんたは出来ねーのかよ?だから彼女作れねーんじゃねーのか?」

「うるせー!この」

腹パンをされるが、痛みなんて皆無だった。
ラチがあかない。軍司は壁に追いやった本城に想いを何度でも告げた。


「本当に好きなんだ」

「‥!!」

「逃したらいつまでも逃げるだろ?いま答えを聞かせてくれ」

「だからダメだって言って‥!」

「そんな顔に見えねーンだよ!あんた、真っ赤じゃねーか!酔いは覚めたって言ってたよな?」

「っ‥!ダ、ダメなもんはダメだ!」

「なにがダメなんだ!?教えてくれよ!」

「‥軍司‥」


これは本気だなとようやく本城は思い知る。



軍司はすいませんとだけ言って頭を下げていた。

「オレも酔ってました。人の事言えねーな‥」

「びっくりさせんなよ」

それでも本城の方が酔いは強く寝てしまっていた。
軍司は酒のせいに出来たが、少しはあった酔いに任せて眠れる気はしなくて濃い一日となった。


***


「よろしくお願いします」

職場に一輪の花。
女性がバイトで入ってきたというビッグニュースがあり本城は舞い上がっていた。

女性とは店員以外と話した事がなかった為話しかけられたり説明するとどうしても上がってしまい同職の後輩に突っ込まれる始末だ。

たまに店で会いに来てくれる軍司に知らせたら良かったッスねとだけ。
話しかけていた軍司は初対面で緊張せず彼女と喋っていて正直驚いた。
なんせバイトの◯◯ちゃんが入ってきたお陰で意味もなく店に寄る輩が増えたくらい可愛いのだ。
みんなが敵に見えるくらいだ。

「本城さん、ちょっといいスか?」

「なんだよ、ここで話せない事か?」

軍司に店を出た裏まで行き、辺りを見渡してこう告げてきた。

「彼女好きな人いるみたいッスよ」

「!!?‥‥◯◯ちゃんがそう言ってたのか!?」

「う〜んと、」

「俺が接客してる内になに聞いてんだよ」

「彼氏は居るのか聞いて、」

「そりゃ居ないのはとっくに周知されてんだよ」

「好きな人いるでしょって突っ込んだら居そうな感じでしたよ」

本城は肩の力が抜けた。

「おまえの見た感じかよ。アホらし。もう戻んぞ」

「本城さんの為に言ってんスけど」

「‥本人の口から聞くまで信用しねー」

ムスッとした顔をして店へ歩いて行くのを後ろに着いていく。

「あの人だったりして、藤代拓海。彼イケメンスよね」

咄嗟に本城は振り向いて凄まれる。

「怒らせてーのか!?」

「いや‥もしかしたらって」

「おまえの"もしか"はいらねーの!もう帰れっ」

本城は信じなかった。諦めさせるつもりかとも思った。

「周りが言わねーと気付かないもんなんスって。って聞いてねえな‥」


片方がお熱でもフラレる前にと良かれと思ってやった事だった。
本人同士が本気なら邪魔なんてしない。


「それってもしかして本城さん‥?」


あの時小声で聞いたら違う感じだった。
なるべく早めに言ってダメージを最小限に抑えてやらないとと余計な世話が働いてしまう。
オレは実は告ったあの日に涙を流していて、結構応えたのだった。

本城さんがこの先幸せになるなら是非とも協力したいし、出来るならこれからも変わらず長く付き合いが続いて欲しい。
その先の出来るならは叶わないだろうが、一番は憧れの先輩の幸せを祝いたい気持ちだ。

一方、店に戻った本城は好きな人って自分も有りなのではと僅かな期待が大きく膨らみ機嫌がすっかり良くなっていた。



***



情け無い姿は後輩に見せたくないものである。
あれから彼女に彼氏が出来てしまいフラれたのも知らずに彼女目当ての来客は来る。もはやファンだ。
相手は同職にいないだけマシだった。

そもそも出会いが少ないと感じてはいるが働いていて彼女が出来たなどの耳寄り情報は入って来ない。
鈴蘭では最初から居た奴らで変動は無かった。

「最初からいるのも納得いかねー‥」

軍司には言えないがいずれバレてしまうだろうなと思う。
ほら言った通りでしょなんて言ってきたらとちょっと苛々してきた。
モテる後輩の方は女を紹介してくれないし。

そういやあいつは彼女に"可愛いですね"って言っておきながらオレが好きというのはどういう事なのか。
卒業してもいまだに大好きされては軍司もだいぶ大人びてきたが心配になった。

ヒロミは忙しそうだしマコはずっと彼女がいる。春道は神出鬼没。ヤスたちや職場の人でもいいが愚痴りたい気持ちだ。仕事中に愚痴ってはいるが。溜まった気持ちは出していかないとやっていけない性質だ。

「‥‥‥」

あいつの職場に行っていなかった。
頑張ってるだろうが塗ってるとこ見に行くのもなと、用事が無くともたまに向こうから来てくれるし、こちらから会いに行くと期待を持たせてしまうだろうか。
あいつとの酔っ払った一夜のせいで、いやあいつのせいか?後輩に会うだけなのに考えさせる様になった。
そもそも好きって気持ちが分からなくなってきて本城は迷走した。

「‥‥‥‥」

違うな、きっと励ましてくれんだろーな。
なんだかんだで気が利くっつーか‥会いたくなってきてる自分を押し殺した。

「どーしてくれんだ‥」
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